表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/43

クウゴのCVはアイデンティティの田島が良いと思ってる

 エリと共に旅を始め、最初の夜がやって来ていた。

 夜営できそうな場所を見付けて、火を起こすと、寝袋をエリに貸し、クウゴは固い岩の上に腰かけた。


「寝袋……私が使っていいの?」

「かまわねぇよ。オラ、頑丈にできてっからな」

「……クーゴの匂い、する」

「く、臭かったか!?」

「ううん……あったかいよ」


 臭いのことを訊いたのに、寝袋の温かさを伝えられたので、クウゴは虚を突かれて押し黙った。

 しかし、エリはなぜだか幸せそうに寝袋の中できゅっと身体を丸めたので、まぁいいかと夜空を見上げた。


「夜空は、オラのいた世界となんにも変わんねぇのになぁ」

「クーゴの……? クーゴってどこから来たの?」

「あ、いや、ええと、あっちの山だ。山から見てもここから見てもあんまり変わらねえなって思っただけだ」

 慌てて誤魔化し、クウゴはエリに手を振った。

 そんなクウゴを見て、くすくす笑うエリの声は、愛らしくてくすぐったい。


「クーゴって変わってるね」

「そっか? まあ、世間知らずなのは認めっぞ」

「山から出たことないんだっけ?」

「お、おう。そうだ、いい機会だから、色々教えてくれねぇか? ドラゴンのこととか」

「私が知ってる範囲のことなら、何でも応えるよ」


 エリはクウゴに、この世界を襲うドラゴンの話を語り始めた。

 ドラゴンは、急にこの世界出現した、高次元のモンスターであり、高い戦闘力と知能を有した存在だそうだ。

 初めてドラゴンが確認されたのは、二十年ほど前で、それから人間とドラゴンの戦いが世界各地で勃発するようになった。

 突如、どこからともなく飛来するドラゴンは凶悪な力で町を襲い、人々を苦しめてきた。

 それに対し、立ち上がったのが凄腕の勇者たちだ。

 冒険者ランクの上位者は、その実力でドラゴンを狩れることを示すと、国もドラゴン退治に積極的な支援を出すようになった。


「いきなり、ドラゴンが現れるってのか。そいつぁ厄介だな」

「そうなの、それで私の里も壊滅したんだ」

「ドラゴンって何匹くらい居るんだ?」

「分からない。でも、年間に十匹くらいは狩られているわ」


 一年間で、十匹。それが多いのか少ないのかは分からないが、未だにドラゴンの脅威に怯えている人々がいることから、焼け石に水なのではないかと思った。

 一匹見たら三十はいるという、現代の厄介者のことを思い出し、少しぞわっとした。


「じゃあ、ドラゴン退治のパーティーってのは、どんな感じで活躍してるんだ?」

「冒険者登録されたパーティーは、ドラゴン退治の斡旋を受けて、色んな地域に割り当てられるんだって。そこで自分の地域を担当して、襲って来たドラゴンを撃退してるの」

「ジリ貧だな」


 つまり後手に回っているということなのだろう。

 ドラゴンを駆逐するためには動けていないとなれば、このドラゴン問題はいつまでたっても解決できないのではないか。


「じゃあ、オラたちが王都でパーティーを作ったとして、ドラゴン退治に参加するって言ったら、どこかの土地の防衛みたいな感じで割り振られるってことか」

「多分、そうなるはず」

「もっと、こっちから先手を打ってドラゴンを倒せりゃいいんだけどな」


 クウゴの展望としては、この世界で普通に生活をしたいというものでしかない。

 ずっとドラゴンを警戒して防衛の仕事をするというのは、なんというかもどかしいと思った。

 さっさとドラゴンを全滅させて、あとはのんびりこの異世界で、美味しいものでも食べて暮らしたいものだ。


「王都に行けばもっとドラゴンのことを知ってる人もいると思うよ。もしかしたら、ドラゴンに対して攻勢にでるような作戦だって考えてるかも」

 エリは希望的観測を述べたものの、クウゴもそうだったらいいなと頷いた。


「ねえクーゴ?」

「なんだ?」

「本当に……ありがとね。おやすみなさい」

「おう、気にすんな。おやすみ」


 エリはクウゴの顔を窺いながら、いじらしくお礼を述べた。

 クウゴはお休みの挨拶をして、ふう、と一息つく。


 自分が今、【気】のコントロールの修行を兼ねて、テリトリーの網を張っていることを、エリは気が付かなかったようだ。

 【気】は、身体の『丹田』と呼ばれるところに意識を集中することで、コントロールを行いやすくなると分かって来た。

 丹田とは、ヘソの少し下あたりだ。ここにぐっと力を込めるように集中すると、自分の中のエネルギーの巡りを実感しやすくなる。

 これを自在に扱うことで、掌から光弾を発射したり、オーラのバリアを張ったり、敵の位置を探れたりできるようになって来たのだ。


(よし、オラの【気】は野獣なんかに対して、威圧できるみてぇだ。ここにオラがいるぞって【気】を発散していると、弱いモンスターは近寄って来ねえみたいだな)


 野生の勘というものに影響を与えるのかもしれないが、クウゴがここは自分のテリトリーだぞ、と意識を発散させていると、自分の半径五十メートルあたりまで野生動物は近寄ることをしないようだ。

 これを利用すれば、安全に夜を過ごすことができるだろう。

 逆に、この自分の気配を察知して襲い掛かってくるものがいるとしたら、自分の実力に自信がある者か、クウゴの威圧感すら感じ取れない雑魚のどちらかだ。


 エリは、平気そうな顔をしているが、救助されたばかりだし、色々と気を揉んでいることだろう。

 今夜はせめてぐっすりと休ませてあげたくなった。

 やはりと言うか、エリはあっという間に、寝息を立て始めた。

 クウゴは、ふと、彼女の寝顔を見つめた。


「……!」


 寝顔は誰でも天使だと言うが、このエリという美少女に於いては、その寝顔の愛らしさは息を呑むものだった。

 長いまつ毛、整った鼻すじ、柔らかそうな頬と、甘そうな唇。


 すう、すうと寝息が零れるその唇は、ぷるりとして艶やかだった。

 思わず、ゴクリと生唾を飲んでしまったクウゴは、ドギマギする胸を押さえて、エリから目を外す。


(な、何考えてんだオラは!)


 少しだけ、キスのことを想像してしまった。

 そんな自分を殴りたくなったので、クウゴは一人で静かに頭を抱えた。


 今夜、眠るつもりなどなかったが、仮に眠れと言われても、絶対に無理だなと思った。

 エリの眠る寝袋がもぞもぞと動き、時折、寝言を「ううん」と零す彼女に、いちいちドキドキしていたクウゴは、自分が女の子慣れしていないことを、改めて思い知るのだった。


 ――それからエリの二人旅は続いた。

 二人の旅は、時折ドキンとするような瞬間もあったが、どうにかこうにかこなしていけた。

 そして一週間後……。

 クウゴとエリの二人は、ついに王都シントーワへとたどり着けた。


「ここが王都、シントーワかぁ。でっけえ町だなぁ」

 シントーワは、中心に大きな城がある。それから円状に広がるみたいに町が出来ていて、いくつかの区画に別れている様子だ。


「それじゃあ、早速冒険者ギルドに行こうか」

 エリがクウゴの前を歩き、冒険者ギルドへと向かう。

 色々な店が並ぶ商業区を歩くと、目移りするものばかりでクウゴはエリを見失いかける程だった。

 異世界の店で売られる色々な道具は見ただけでは何のアイテムかまるで分からず、何を見てもクウゴは感激の声を上げる。


「もう、クーゴ。迷子になっちゃうよ」


 そう言うと、エリが小さな手をクウゴの指に絡めるようにして、手を繋いできた。


「わ、わりぃ。色々珍しくて……」

「う、うん……。いいよ……、きっかけにできたし……」

「え? なんて言った?」


 ぎゅ、と右手が握られた。

 柔らかく細いエリの指は、綺麗で可愛いと思った。

 赤い顔でうつむきかげんにエリが呟いた言葉は小さくて、クーゴの耳には拾えなかった。

 ただ、返事の代わりみたいに、彼女の手は熱くて、クウゴの手を離そうとしなかった。


 結局二人は、手を繋いだまま、色んな道具屋に目移りしては、面白そうなものをみて、はしゃぎ合うのだった。

 その時ばかりは、ここが異世界だとか、ドラゴンの脅威がどうとか、そういうのはどうでも良くて、クウゴとエリは純粋に子供みたいに楽しんだ。


 調子に乗り過ぎて、ギルドにつくころには、夕方になってしまっていた。


「もうすぐ日が暮れそうだけど」

「ちょっと遊びすぎちゃったね」


 二人で反省して、ギルドに入る。

 いよいよここからが、クウゴの冒険者としての第一歩となるのである――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ