ラブコメの気がでっかくなっていきやがる!
「エリ、オラはこれから王都に向かうことにしてたけど、おめぇはどうしたい?」
クウゴは救い出した少女、エリのこれからのことを気遣うように訊ねた。
どこからか誘拐されてきた様子のエリとしては、王都へいくことに賛成するかも分からないからだ。
だが、エリはにっこりと笑顔を浮かべた。
「クーゴと一緒に、王都にいきたいな」
「もしかして、おめぇ、王都で暮らしてたんか?」
「ううん。私の暮らしてた里はもっと遠く。でも里に戻る気はないし、王都に行きたいと思ってたから」
「そうだったんか? なら、一緒に王都に行くってことで問題ねぇかな」
「うん、よろしくねクーゴ」
とりあえず、進む方角を変更することにならないようだ。
クーゴは複雑に考えず、エリと一緒に王都に行くということで意見が合ったことに頷いて、改めて旅路を進めて行こうと思った。
心なしか、エリの警戒心も薄れ、クーゴに心を開いてくれている様子だ。
何の問題もなく、旅をして行けるだろうと考えていた。
「あ……、でも少し待って欲しいの。そこの川で水浴びしてもいいかな?」
エリは随分汚れた姿だった。
無理もない。あんな牢獄に囚われていたのだから。
年頃の少女らしく、身なりを気にしたエリは、川を見て、申し訳なさそうに言った。
別段、急ぐ旅でもないし、クウゴは素直に了承した。
「じゃあ、オラはあっちのほうで待ってるから」
女性が水浴びをするのをまじまじと見るわけにはいかない。だから、そう申し出たが、エリは離れようとするクーゴの袖をつまみ、首を横に振った。
「まって、行かないで……」
「へ?」
「ここに居て……」
「でもよ……」
「お願い……。私、あいつらに攫われた時、一人の時を狙われたの……。だから……独りぼっちは、怖い……」
エリは心底怖がっているようだった。
どうも、爆裂団の連中に誘拐された時のことが、トラウマになっている様子だ。
まるで、ホラー映画を見た幼子が、夜トイレに行けなくなった時みたいに怯えている。
気持ちは分かるが、ハッキリ言ってエリは可愛らしく、魅力的だ。
そんな少女の水浴びを傍で見守っていろというのは、クウゴにとって、色々とまずい気持ちになってしまいそうだ。
「クーゴになら、見られてもいい、し……」
少し恥ずかしそうに頬を染めて、潤む瞳で袖をつまむエリの破壊力は、半端なかった。
もう、ここまで言われてNOとは言えない。
クウゴは、カクカクと頷き、エリの水浴びを見守ると約束した。
(や、やべえ……考えてみたらオラ……女の子とまともに付き合ったこともねえんだ)
目の前にいるエリは、美少女で間違いない。そんなエリから、お願いをされて胸がバクバク言ってしまっていた。
「ありがとう、クーゴ。すぐに済ませるから」
「お、おう」
結局、流されるように話が進み、エリは小川まで行って、服を脱ぎ始めた。
(ま、マジかよぉっ)
あられもなく晒される乙女の白い肌に、クウゴは生唾を飲んだ。
クウゴからはエリの背中が見える。その背中も銀色のストレートヘアで半分くらいは隠れていた。
銀色の髪の隙間から、エリの肌が覗く。細くて白く、信じられないほど綺麗に見えた。
川の深さはエリの膝上ほどだ。
一糸まとわぬ姿になったエリは、その水の中に座り込むようにして、水浴びを始めた。
背中を向けたままだったから、まだ良かったかもしれない。
「クーゴ! ちゃんといる?」
「お、おう、いっぞ!」
エリが不安げな顔をこっちに向けて声を上げた。
慌ててクウゴは返事したが、エリのお尻の形が頭に焼き付いてしまって真っ赤になっていた。
(お、女の子って……あんなに綺麗なんか……)
ぱしゃ、ぱしゃと水しぶきの音がする。エリは水を浴びながら、身体の汚れを落としていた。
その姿が神秘的にさえ見える。
まるで女神みたいだとクウゴは少し見惚れていた。
(……ちょっと待て……。オラ、これから王都まであの子と一緒に旅するんか?)
そして、クウゴは気が付いた。
これがどれほどの状況なのかを。
うら若い乙女、それも美少女と二人きりでこれから王都までの数日間を旅するのだ。
それを意識すると、妙に心臓が早鐘を打ち出す。
心臓病だった時のことを思い出して、煩くなる鼓動に、色々と混乱してしまいそうになった。
ぶんぶん、と首を横に振って、自分の中の気持ちを落ち着けようとするが、水浴びするエリが目に入ると、クウゴは顔が真っ赤になってしまう。
エリは多分、そんなにクウゴと歳は離れてないだろう。
何かあってもおかしくない、そんなことを考えてしまう思春期の男の子の部分が、クウゴをあらぬ妄想に掻きたてていった。
健康な男子高校生ならば当然ではあるが、エリは悪漢に襲われて怖がっているんだから、しっかりとしなくちゃならない。
クウゴは自分の責任感を積み上げて、紳士であろうと密かに誓った。
――水浴びを終えたエリは、本来の美しさを取り戻した銀髪を、キラキラと輝かせ、クウゴに笑顔を向けていた。
二人は一緒に王都への道を進みながら、会話をしていた。
「クーゴはどうして王都に行くの?」
「オラ、冒険者としてライセンスを取るために王都へ行くことにしてるんだ」
「そうなんだ。私と一緒だったんだね」
「エリも冒険者志望だったのか?」
「そうだよ。里がドラゴンに襲われて、みんな大変だったの。だから私も冒険者になって、ドラゴン退治に加わろうと思って」
でも、その道すがらであの悪漢どもに襲われたのだそうだ。
エリの話に頷きながら、クウゴはやはりドラゴンの脅威をどうにかしないと、この世界の人々は大変なんだなと実感もした。
さっきの悪漢たちだって、ドラゴンがいなければ、犯罪に手を染めずに生活していたかもしれないからだ。
「よし、オラ決めた。ドラゴン退治、本気でやるぞ」
「クーゴも戦うんだね。嬉しい。クーゴみたいな強い人が居てくれたら、きっと世界は救われるよ」
ドマドーリの町を出たときは、まだどこかドラゴン退治のことを本気で考えていなかったが、エリの話に感化され、クウゴはドラゴンを倒すことを誓った。
「エリはどんなステータスなんだ?」
「えへへ、気になる?」
エリは恥ずかしそうにだが、嬉しそうな顔して、クウゴを覗き込んだ。
もう、その仕草がすでに『童貞殺し』の技能でもあるのではないかというほど、可憐だった。
「私、魔力が高めなの。技能も【魔術素養】があるから、魔法使いとしての資質があるって言われてたんだ」
「魔法かぁ! すっげえな! オラMPがゼロで、てんで魔法はつかえねえんだ。いっぺんで良いから魔法を見てみてぇなぁ」
「魔法、みたことないの?」
「ああ、ずっと一人で山で暮らしてた(多分)からなぁ」
エリは、クウゴがエリの魔法の素養に対して、無邪気なほどに感心をもったことが嬉しかったのか、愛らしい瞳をキラキラさせていた。
「ね、クーゴ。よかったら、冒険者ギルドの登録が済んだら、私と一緒にパーティーを組まない?」
「パーティー?」
「冒険の仲間。大抵、四~五人くらいで仲間を作ってドラゴン退治に行くのが主流なんだって」
「そうなんか。オラ、全然この世界のことわかってねえから、一緒に組んでくれるなら、めちゃくちゃ頼もしいぞ」
「ほ、ほんとっ……?」
ぱあっと少女の表情が嬉しそうになる。
エリのその顔を見ているだけで、またクウゴはドキンと心臓が鳴った。
また心臓病が発病したのか?
でも、病気だった時の苦しさはまったくない。
寧ろなぜだか、嬉しいのだ。よく分からない期待感が、ぷっくりと膨らんでいくような感じだった。
「私、クーゴの力になれるように、頑張るよ」
気恥ずかしそうに、自分の指を弄びながら、エリは「てへへ」と笑った。
一人旅も悪くなかったが、二人旅は最高に楽しくなりそうだなと思った。
王都まであと一週間ほどの道のり……。少なくとも退屈は絶対にしないことだろう。




