愛と勇気と誇りをもって闘うよ
「しゅ、瞬間移動だと……」
「へへへ、この技は人の顔を思い浮かべねぇと使えねえんだ。今回は、キロルの前に瞬間移動したってわけだ」
吐き気から回復し、クウゴは驚愕しているレッド・ドラゴンに対して構えた。
今、二人はエリの寝室にいる。目の前には、超巨大に見えるキロル。
クウゴたちが小さすぎるだけではあるし、キロルも、自分の眼のまえにクウゴたちがワープしてきたことを気が付いていない。
キロルは、じっと眠っているエリを見つめて、心配そうな顔をしていた。
「どうだ……。おめぇは人の体内でしか長い間活動できねぇ、そうじゃねぇのか?」
「だったら、どうだというんだ?」
「もう、エリの中には入らせねぇ。この勝負、オラの勝ちだ!」
クウゴの宣言に、レッド・ドラゴンは八つの頭にある口で、ニタリと笑みを浮かべた。
「バカめッ! もうその女には入る必要などないわ! 今度はこのガキの中に入り、心臓を潰してやる!」
ゴウッ!
言うが早いか、レッド・ドラゴンは超速で飛びあがり、キロルの口の中に飛び込んでいく。
「ッ――!」
クウゴは、そのレッド・ドラゴンの不意打ちめいた動きに対応できず、それを見送るようになってしまう。
だが――。
レッド・ドラゴンはどういうわけか、キロルの口からUターンするように戻って来た。
「ど、どういうことだ……っ!? こ、このガキ……! 体の中がないッ」
「ふぅ……、焦ったぜ……。残念だったな、キロルは人間じゃねえ。おめえの逃げ場所はもうねぇんだ!」
キロルの肉体はミミックが化けている姿に過ぎない。表面上だけしか模倣していないためだろう。
その内部に入ろうとしても、体内構造がないので、行き止まりになっているのだ。
「く……!」
悔しげな声を漏らし、レッド・ドラゴンは観念したように、クウゴの正面にゆっくりと降り立ってきた。
「観念したか?」
「……まったく、我をここまで追い込む奴がいるとは、予想外だったぞ」
レッド・ドラゴンは観念などしていないようだった。
その気配から明確な殺気が膨れ上がっているのが分かる。
「人間の体外では動けないとでも、思っているようだが……残念だったな……。我は『変身』できるのだ!」
「へ、変身だと……?」
「光栄に思うんだな……! この姿を見せるのはお前が初めてだ!!」
グゴゴゴゴっ……!
バチッ、バチチッ! ゴウゥウウウッ!
レッド・ドラゴンに強力な【気】が集中し始めていた。いや、気ではなく魔力だろう。
今まで多くの人々から奪った魔力を使い、レッド・ドラゴンは変身しようしているのだ。
「す、すげえ気が集まっていく……!」
ヒドラの全身に魔力のオーラが立ち上り、激しいスパークを放ちだした。
すると、八つあった首触手が纏まり合うように重なって、ビュクビュクと奇妙な痙攣をし始める。
「かぁああぁ……っ!!」
ボコンッ! ドクンッ!
「げげっ!?」
なんと、纏まり合った触手たちが、それぞれ人の腕そっくりになり、脚になっていく。
そして、激しい閃光と共に、ヒドラの姿は変貌していた。
「待たせたな……。これが真のレッド・ドラゴンだ!」
二つの脚、二本の腕、長い尻尾、そして、恐竜のような頭部……。
その全身は真っ赤なウロコに覆われていて、まさにレッド・ドラゴンという風貌だった。
しかし、爬虫類のようなシルエットではなく、人間に近い造形をしている。
脚と腕は長いし、リザードマンという感覚に近いだろう。二足で床に立ち、不敵にも相手は腕組みまでしている。
サイズは、クウゴよりも一回り大きいほどだが、それもクウゴとの戦闘を考慮した結果が生んだ最も戦いやすい大きさに変身したに過ぎないだろう。
「一気に【気】が膨れ上がった……!」
クウゴは不味いかもしれないと一瞬考えた。
相手の力量に焦ったのではなく、タイムリミットのほうだ。
【ミニマム】が切れてしまったら、レッド・ドラゴンをまた逃がしてしまう。
早期決着しなければならないが、相手はかなりの力を獲得したようだ。簡単に倒せる相手ではないかもしれない。
「この姿ならば、体外であろうと、無関係だ。お前を殺してから、またじっくりと娘の魔力を搾り取ってやろう」
「だったら、オラも……本気で相手してやる!」
ドウッ!
クウゴは気を入れ、凄まじいオーラを燃えがらせた。ここからが本当の勝負だ。
「つぁっ!」
雷撃のように一瞬で飛び掛かったクウゴは、レッド・ドラゴンに殴り掛かる。
それを右腕で防ぐドラゴンは、左足で思い切りクウゴを蹴りあげた。
バキイッ!
重い一撃ではあったが、クウゴは吹っ飛ばされる勢いを殺すため、空中で回転をして、後方に着地する。
「はぁっ!」
着地と同時に右手を突き出し、気功波を発射する。
「!?」
素早く発射されたエネルギー光線にレッド・ドラゴンも目を剥いて咄嗟にガードをする。
ドウウンッ!
着弾と共に爆発する。
「! ク、クーゴ!?」
流石にミクロレベルの戦いであろうと、激震する超レベルの反響にキロルも気が付いたらしい。
とても目では追えない微粒子レベルの戦闘にキロルは表情を固めた。
「キサマ……その力、いったい何者なのだ……!? 魔法ではないな」
爆発が収まり、大したダメージを受けていない様子のレッド・ドラゴンが、仁王立ちで威圧感を放つ。
「オラ、地球育ちの転生者……だと思うぜ」
「地球? 転生者だと……?」
「オラからも聞きてえ。おめえたち、ドラゴンってのはなんなんだ? この世界にいきなり現れて人間を襲ってんだろ?」
ス……。
と、二人は静かにもう一度体勢を整えた。
そして、また二人の肉体がぶつかり合う。
超スピードで繰り出される攻防は、とても目では追えない。
シュババッ! ガッ! ビシュッ! ドゴッ!!
そんな音だけは聞こえる。キロルは、その場を動けず、周囲に目を凝らすのだが、クウゴの姿は見付けられない。
「な……ん……ご……く……!」
クウゴは両手を組み、気をそこに溜める。
「おぉ――――――っ!」
ズァボッ!
気合の雄たけびと共に、クウゴの手から、極太のエネルギー砲が発射された。
「赤竜殺法――ッ!」
ギャルルルルッ――!
レッド・ドラゴンも、自分の二本の指先から、殺人光線を発射し、クウゴの【南国王】とぶつかり合う。
ドゴオオオオッ!!
大爆発と共に、エネルギーの塊たちは飛び散って、空気を揺らす。
「な、何が起こってるの……。私の目が付いていけないよ……。ヤ〇チャポジションにしないで!」
キロルの悲痛な嘆きを無視し、二人は壮絶なバトルを繰り広げていく。
「クックック……。はっはっはっは!」
「……? な、なにがおかしいんだ?」
突如笑い出したレッド・ドラゴンに、クウゴはギョッとして動きを止める。
「なるほど、地球人……。『転生者』か。それで分かったぞ」
「何が分かったんだ?」
「我々ドラゴンが、ここに召喚された原因がだ」
レッド・ドラゴンは、突如自分の腹部に手を当てると、何やら妖しい光を放ちだす。真っ赤な光があふれ出て眩しいくらいだった。
すると、ドラゴンの腹部から、なにやら掌にのるくらいの光る玉が出現した。
それが真っ赤に光っているのだ。
「キサマら地球人は、これが狙いなんだろう?」
「ま、まさかそれが……七竜玉か!?」
七つ集めると願いが叶う、七色のボール。その一つ、赤い竜玉。
「これは我が命……。くれてやるわけにはいかん」
そういうと、また光る玉を自分の腹の中に押し込んでいく。
ぐぐっ……。
不意に、クウゴの身体が膨れるのを感じた。
(ま、まずい……。もう【ミニマム】が切れ始めてるぞ……! 体がデカくなりはじめた!)
早く決着を付けなければならない。
「ほんとはもっと話してえこともあったが……。ゆっくりしてられねぇようだ……!」
「勝てんさ、お前は。さっきの技を見た限り、我が赤竜殺法で完封できる」
「へへへ、南国王で倒せねぇのは原作リスペクトだ」
パロディ元でも、例の技で決着を付けた展開は、実はほとんどないのだ。
「おめえは、素手で倒す!」
「ほざけっ!」
クウゴは自分の右腕に全ての【気】を集める。
レッド・ドラゴンもクウゴの心臓を貫く勢いで、鋭いツメを光らせ手刀を突き出した。
両者がぶつかり合う――ッ!
ドズンッ!
「か……かか……っ」
腹を貫かれていたのは――レッド・ドラゴンだった。
クウゴの右の手には、真っ赤な竜の玉が握られていた。
レッド・ドラゴンの突き出した手刀は、紙一重で回避されていたのだ。
「ばか……なぁ……」
ずぅん……。
レッド・ドラゴンは絶命し、その場で倒れ込む。
決着がついたのだ。
「……」
クウゴは複雑な思いを抱えていた。
右手に光る赤い玉。それがドラゴンの命なのだろう。とても熱く、強い光を放ち続けている。
「おめえの敗因は、オラの大きくなり始めた身体のせいだ……。オラの身体の距離感が狂って、リーチを見誤ったな……」
【ミニマム】が切れ始めたことによる、クウゴの肉体の変化が、レッド・ドラゴンの認識を狂わせてしまった。
先ほどまでの距離感で回避できていたリーチが、膨らんでいたのだ。
まさか、クウゴの身体が大きくなっているとは思わなかったのだろう。
その僅かな差が、勝敗を決めてしまった。
クウゴは赤い竜玉を持ったまま、その身体を徐々に大きくしていく。
そして、元の身体の大きさになったとき、キロルが飛びついてきた。
「クーゴ!! 勝ったの!?」
「ああ、レッド・ドラゴンは死んだ……」
すると、レッド・ドラゴンの躯から大量の魔力が飛び散っていく……。
おそらく、これまで奪って来た魔法使いたちのところに戻っていくのだろう。
エリが、うっすらと目を開けた。
クウゴは、その顔を覗き込んで、優しく声をかけた。
ウルトラZの笑顔で「おはよう、エリ」――と。




