光線が発射されるときのオノマトペが草
頭空っぽの方が、夢詰め込めるなぁー
「す、すごいです!」
大きな声が上がった。
ギルドの受付嬢のもので、クウゴの実力を目の当たりにして感激しているらしい。
野次馬たちも、もうクウゴに対して疑いの目を向けるものはない。
「クーゴさん! ライセンスステータスを作りましょう!」
「作れるんか?」
ライセンスステータスはギルドが発行する、冒険者許可証のようなものだと説明されていた。
それを持つことで自分の能力を他人に確認してもらいやすくなるようだし、冒険者はみんなもっているのが当たり前だそうだ。
(持ってないと不審がられるんなら、作ったほうがいいかな?)
要するに、現代でいう名刺みたいなものだろうし、これから必要になるだろう。
幸い、このドマドーリの町のギルドでも発行可能だというので、作っておくに越したことはない。
結局、受付嬢に手を引かれてギルドの奥まで連れて来られて、登録のされるがままになった。
「これが、人の能力を確認できるアイテムです」
ギルドの奥の小部屋に通され、椅子に座らされると、目の前に小さな水晶玉みたいなものを用意された。
まるで電子機器みたいに、光を放っていて、マジックアイテムという雰囲気がありありと伝わってくる。
「これに手をかざしてください」
「こうか?」
光る水晶玉に掌を向けてみると、光が更に強まり、明滅を繰り返し始めた。
ギルドの受付嬢は、その水晶玉を覗き込みながら、クウゴのステータスを確認していく――はずだった。
「LV17……、技能【気】……? えっ……!? な、なにこれっ!?」
ピピピピピ……!
水晶玉からステータスを測定するような音が響き、光の点滅が更に早まる。
音が徐々に高くなり、水晶玉が熱を持って、激しく輝きだした。
「う……うそ!? HPが……一〇〇……三〇〇……、七〇〇……! まだあがるっ!?」
バチッ、バチチッ!
水晶玉の魔力が暴走でもしたのか、漏電するような音を放ちだし、スパークしはじめる。
「な、なんかやばくねえか?」
「うそっ! HP九九九……! 一〇〇〇を超えるっ!?」
ボンッ!
「きゃあっ!」
途端、水晶玉が爆裂した。
プシュー、と空気でも抜けるような音を出して、光っていたその魔法道具は完全に沈黙した。
「壊れちまったぞ?」
「測定不可能なんて……」
受付嬢は驚きのあまり、あんぐりと口を開いて、壊れてしまった水晶玉を見つめていた。
「あ、あなたは……一体……」
「い、いや、多分その道具が故障してただけだぞ」
とっさにそんな言い訳をして誤魔化してみたが、受付嬢はまだ驚愕の表情でクウゴを見ていた。
「測定珠が壊れる前に、クーゴ様の技能を確認出来ました。【気】という特殊な技能をもっているみたいですけど……」
「と、特殊なんか?」
「ええ、私は初めて見ました……」
「やっぱ、壊れてたんだよ、このアイテム! だから爆発しちまったんだな! あははー!」
下手糞な笑顔を作って、クウゴは慌てて立ち上がった。
これ以上詮索されると、自分の特異性を怪しまれて、この世界で生きにくくなってしまうかもしれない。
せっかくこんな健康体の身体を手に入れて人生をもう一度謳歌できるのだから、ごく普通の生活を楽しみたい。
そう考えて、クウゴはこの町から立ち去ることに決めた。
「じゃ、じゃあオラ、もう行くから」
「ま、待ってください!」
慌てて個室から出ようとするクウゴに、抱き着く勢いで受付嬢が縋り付いた。
「確かに、クーゴ様のおっしゃる通り、この測定珠は随分旧式で、そろそろ壊れてしまってもおかしくはなかったです」
「だ、だろ! だから、オラのせいじゃねえんだ!」
「はい! ですから、きちんとステータスを測定できる、王都のギルドに行くべきですよ!」
「へっ……?」
「王都なら、もっと最新式の魔法アイテムがそろっていますから、クーゴさんの能力をきちんと測定できます。それに、ドラゴン退治の斡旋もやってますから、是非とも行くべきです!」
「で、でもオラ、普通の……」
「クーゴさんは、世界を救うことができる救世主です!!」
受付嬢は、涙で瞳を滲ませて、必死な様子で抱き着いた。
可愛らしい少女に抱き着かれ、こんなに必死な声を出されると、クウゴも振り払ったり断ったりができない。
確かに、クウゴの実力なら、ドラゴンを倒せるだろうし、この世界の人々は危機的状況にあるみたいだった。
クウゴが王都で、邪竜退治に参加すれば、より多くの人を救うことも出来るだろう――。
「……お願いします、クーゴ様……。世界を救ってください……」
「わ、分かったから、離れてくれ。王都に、行ってみるからっ!」
少女がしっかりとクウゴに抱き着いてくるから、彼女の身体の膨らみが密着して、体温と共に弾力ある柔らかいものが押し付けられてくる。
クウゴは女性経験がないので、これには参ってしまった。
受付嬢は、自分が必死になりすぎていたことに気が付いて、はっとすると、静かにその身を退いてくれた。
「すみません……でも、本当にクーゴ様なら英雄になれると思います」
「え、英雄、ねぇ……。あんまり興味はねぇんだけど、困ってる人がいるってんなら、オラにできることをやってみるさ」
「ありがとうございます!」
そういうことで、クウゴは王都へと向かうことが決定した。
ギルドの面々が、旅をするならということで、色々な支度をしてくれた。
王都までの道のりが書かれた地図や、野宿のための道具、食料などなど。
このドマドーリの町から、王都までは歩きで、十日以上はかかるという話だった。
馬を用意するから、それなら一週間もかからないはずだと言われた。
が、クウゴは乗馬の経験などないので、馬で旅をすることにピンとこず、馬は断った。
それに、この世界は自由自在に空を飛べるじゃないか、飛べばすぐに王都にいけるはずだと考えた。
が、それは口に出さなかった。
この町の人々の会話と様子から、『空を飛べる』ことも自分にしかできないと察したのだ。
そうじゃないと、歩きで数日だかとか、馬を用意するなんて言わないはずだ。
自分が空を飛べると伝えたら、もっと怪しまれてしまうに違いない。
そんな風に考えて、クウゴはドマドーリの町から、徒歩で王都を目指すように見せかけて、暫く道を歩いて、この町から出るのだった。
町の景色が完全に見えなくなって、クウゴはほっと一息ついた。
「めぇったな、オラめちゃんこつええ見てぇだぞ」
ある人が言った言葉がふと脳裏に過った。
真の強さとは圧倒的な力を持っている者のことではない。
その圧倒的な力を制御できることである、と。
「……そうか……。分かったぞ、オラのレベル17の半端さが……!」
このレベルの数値は、自分の能力を高めるための指数ではない。
自分の圧倒的な力をどこまで制御できるのかを示す数字なんだろう。
「オラはこの圧倒的な力を自分自身で制御できねぇと、むしろ危ねぇかもしれねぇぞ……」
例えば――。
クウゴは、道の傍にあった大岩を見付けた。
あの岩を砕くことも、おそらく可能だ。
だが、もし、手加減をせずに、あれを砕こうとしたらどうなるだろう……?
スッ――。
何気なく、クウゴは右手を突き出し、掌を岩のほうへと向けた。
「……」
そして、自分の中のエネルギーをイメージし、掌に集めるように精神を統一させる。
「波ッ!!」
ポーヒ――ッ!
黄金色の力の塊が、光線となって、掌から発射された。
その光線は、岩に直撃すると、大爆発し、一瞬で大岩を、砂塵にしてしまったではないか。
ズゴゴゴ……。と地響きを立てて、岩が崩れるのを見ながら、クウゴは確信した。
自分の力は強力過ぎる。この力を制御しなければ、この星そのものも粉々にしてしまう可能性がある。
「オラのレベルアップは……ステータスを上げるためのもんじゃねえ」
ぐ、と光線が発射された右手を握りしめた。
じんわりと、暖かい。
「真の力を制御するためのブレーキなんだ」
このまま、王都へと行き、また強大な力をそのままにして測定珠を破壊したら、今度こそ言い逃れはできない。
せめて、自分のエネルギー、【気】のコントロールを自在に制御できるようにしないと、核爆弾を抱えて歩いているようなものだろう。
「修行しなくちゃなんねぇ!」
クウゴは決意した。
これから、王都へと向かうまでの十日間、自分の力を自在に制御できるまで修業しながら歩いていく。
これが、自分の異世界レベルアップのルールだと、決めた。
修行の仕方はこうしよう。
恐らく、この世界にはまだまだ多くのモンスターがいるはずだ。
きっと、この王都までの旅路の途中でも何度か出くわすことになると思う。
そのモンスターを、『丁度良く』倒すのだ。
圧倒的な力で仕留めるのではなく、適度な一撃で、仕留め切る。
この修行を行いながら、王都へと向かうことにしよう。
クウゴはそう決意すると、妙に気持ちが晴れやかだった。
「目標を持って進むってのは、結構いい気分だな」
やりがいを見付けるというのは、こういうことだろうか。
これまでずっと心臓病でやりたいこともできなかったクウゴは、諦めてばかりの人生だったから、目標を持てたことが嬉しかった。
それが自分のモチベーションになり、王都までの旅路、モンスターに出くわす度に、クウゴはキメ台詞めいて、こう言った。
「オラ、ワクワクすっぞ!!」