この主人公キレると金髪になりそう
ほとんど冗談みたいなノリで書いてるので、あんまり本気になって読まないでねw
作者も息抜きで書いてますので。
ドマドーリの町の入り口で、ぼうっとしていても仕方ないと考え、クウゴは町の中へと足を踏み入れた。
ドラゴンの躯をずりずりと引きずりながら歩くのは少し面倒だったが、これをどこに持って行って良いか分からないので、手放すこともできず、仕方なく引っ張りまわすしかなかった。
町のメインストリートらしき場所を歩いているのだが、まったく人が歩いていないので、クウゴは余計にどこへ行けばいいかもわからず、町並みを眺めながら進んでいたが――。
「お、おいアンタ……!」
「お?」
不意に声をかけられ、クウゴは声のした方に振り返った。
そこには、住居の窓から怯えたような顔をしてこちらを覗く中年がいた。
「あ、アンタが引きずってるのは……まさか……」
「こいつか? さっき襲われたから倒したんだ。おめぇ、どうしたらいいか分かるか?」
「た、倒した!? アンタが!?」
「お、おう……まずかったか? 天然記念動物だったとか?」
勢いに任せて倒してしまったが、もしかしたら倒したらいけない生物だったのかもしれないと、今頃になって慌てた。
それくらい、相手の中年が驚いていたからだ。
もしや法に引っかかって、投獄されてしまうかもしれない。
そうなると、呑気に異世界冒険なんかできなくなってしまう。
「み、みんなー! 出てこい!! エンダードラゴンは倒されたぞぉぉぉーっ!!」
中年の男性は、大きな声を上げて、町中に報せた。
クウゴはギョッとしながら、メインストリートの中央で、ドラゴンを掴んだまま、ぞろぞろと顔を出し始めた町人たちに取り囲まれていく。
「ほ、本当だ……! こ、こいつはエンダードラゴンだ!」
「し、死んでるっ! あのエンダードラゴンが!?」
「すげえっ……、あの巨体を片手で引きずって来たのか!?」
ざわざわと騒ぐ群衆にあっという間に取り囲まれて、クウゴはどう反応していいのか分からず、汗を垂らしていた。
やがて、一人の男が群衆をかき分け、クウゴの前に姿を現した。
「あ、あなたが、エンダードラゴンを倒したのですか?」
「お、おう……。まずかったか?」
「なんと言うことだ……! この町は救われた……! 救われたんだ! ありがとう、あなたは命の恩人だ!!」
感激のあまりに涙を零して、男はクウゴに何度も感謝を述べ始めた。
クウゴはぽかんとしながら、群衆が熱狂して喜ぶのを見ているばかりだった。
◆◇◆◇◆
「申し遅れました、私は町長のパパンと申します」
群衆を宥めて、連れて来られた屋敷で、もてなしを受けたクウゴは、町長のパパンにお辞儀をした。
大量のご馳走をふるまわれ、クウゴはそれをモリモリと味わった。
病院で寝ていた時には食べられなかったご馳走だったし、健康な体はいくら食べ物を食べても不調にならない。
純粋に、美味しくものを食べることができる感動を味わってもいた。
「オラ、クウゴ。いきなり、こんなうめぇご馳走頂いちまってわりぃな!」
「いえいえ、あなたが来なければこのドマドーリの町は、あのドラゴンに全滅させられていたでしょう」
「……あいつ、そんなにやべぇヤツだったのか?」
「エンダードラゴンと言えば、この世界で最も邪悪なドラゴンとして有名ではありませんか!」
驚きながら、町長は大げさな声を出すが、クウゴはきょとんとしてしまう。
ハッキリ言って、まったく歯ごたえのないモンスターだったからだ。
クウゴのキック一撃で倒せてしまったので、雑魚モンスターだと思ったが、かなりの大物だったらしい。
「いま世界は邪竜たちに襲われ、いつドラゴンに滅ぼされるか怯えながら暮らしているような状態なのですよ?」
「へ、へえ、そうだったのか。オラ、ずっと山奥で一人で暮らしてたから全然知らなかったぞ」
と、適当なウソで誤魔化した。事実、山小屋で目覚めたし、まるっきりウソでもないだろう。
よもや、この世界がそんな危険な状況におかれているとは思っていなかった。
「王都では、腕に自信のある冒険者や戦士を募集し、対ドラゴン用のパーティーを結成支援しておりますが、ドラゴンどもは強大で、歴戦の勇者でも、一匹相手に苦戦するため、救援も絶望的だったのですが……」
実に分かりやすい説明口調で、町長は、訊いてもいないことを語ってくれた。
クウゴとしては助かったが、町長はドラゴンから救われたことと、エンダードラゴンを倒せる実力の持ち主を目の前にして、興奮しているようだ。
ぺらぺらと良く口が動いた。
「クーゴ様、あなたはこの町の英雄です」
「そういや、オラが運んできたドラゴンの死体はどうしたんだ?」
「ああ、町のギルドが引き取っていきました。モンスターの素材は解体して、色々な武具に加工できますからな。そうそう、クーゴ様にエンダードラゴン討伐の報酬ということで、ギルドから報奨金が渡されることになっております。あとで伺ってみるといいかと」
「おお、そいつは助かるぞ。オラ、無一文だったからな」
どうやら、所持金ゼロからは抜け出せそうだ。
この世界でこれからどうやって生きていくか、まったく分からないし、行き当たりばったりだったので、報酬が貰えるということで一安心した。
町長からのご馳走を平らげ、満腹になったクウゴは、早速この町のギルドに行くことにした。
町長からは、何度も礼を言いながら、クウゴを見送った。
のんびり町並みを見学しながら、ギルドへ向かうと、町を歩く人々から次々に感謝の言葉を投げかけられて、クウゴは少しばかり照れ臭くなった。
生前の病人だった頃は、誰からも褒められたことがなかった。心臓病で何もできず、闘病生活で家族を苦しめてばかりだったからだ。
町並みは、ゲームで見たようなファンタジーの様子そのままで、なぜか見なれた感覚があったのが面白い。
よくある、中世ヨーロッパ風の町並みながら、幻想的なパーツが所々に散りばめられている。
まさに、剣と魔法の世界。RPGの空間だ。
「お、ここだな! 冒険者ギルド」
そこはギルドというより、酒場みたいに見えた。
扉を開いて中に入ると、酒をかっ喰らう人々が目につく。奥にはカウンターがあって、受付嬢が可愛らしい笑顔を浮かべていた。
みんな楽しそうに騒いでいる。
どうやらエンダードラゴンから救われたことを喜び宴会しているみたいだ。
「あっ、あなたは!」
クウゴがギルドに足を踏み入れると、カウンターの受付嬢が嬉々とした声を上げた。
それでギルド中の客の視線が、クウゴに集まる。
「おおっ! 主役の登場だ!」
「ありがとう、ありがとう!」
クウゴに殺到してくる酔っぱらった客たちは大喜びだったが、クウゴは酒臭いその集団から逃れたくて、かいくぐるようにして受付カウンターまでやってきた。
「おっす! オラ、クウゴ。町長がここで報酬が貰えるって聞いてきたぞ」
カウンターの少女は愛らしく、笑顔を向けてクウゴを歓迎してくれた。
「クーゴ様ですね! この度は本当にありがとうございます! こちらが、報酬金です!」
カウンターの下から、金貨袋を取り出し、どん、とクウゴの前に置いた。
その音からかなり重量があって、かなり大量の報奨金が入っていると思った。
「あの、あの、クーゴ様はどうやってあのドラゴンを退治したのですかっ? 見たところ、武器も持っていないようですけど」
受付嬢は可愛らしい目をキラキラさせて、クウゴに興味津々という様子だ。
「あー、キックで……」
「キック!?」
そのクウゴの回答にざわついたのは、受付嬢だけでなく、酒を飲んでいた客みんなだった。
どうやら、クウゴの会話にみな、耳を傾けていたようだ。
あの強大な力を持つ邪竜、エンダードラゴンを蹴りだけで倒したというクウゴの言葉に、信じられないという様子だ。
「あ、あの、クウゴ様のライセンスステータスを見せてもらうことはできませんかっ?」
「ライセンスステータスってなんだ?」
「冒険者ギルドで発行する、身分証明ですよ。それで冒険者ランクが分かったり、能力を見ることができるはずですけど……」
「あ……、もってねぇ」
ぽりぽりと頬をかき、クウゴは苦笑いを浮かべた。
自分が特殊な状態だというのがバレると、大騒ぎになってしまうかもしれない。
エンダードラゴンを何気なく倒してしまった結果、今、この持て囃されようであるものの、不審な人物だと分かると、どうなってしまうか分からない。
あまり、大きく目立たない方がいいかも、とクウゴは少し気を付けることにした。
「なぁ、お前本当にエンダードラゴンを倒したのか?」
と、後ろから声がかけられた。
ごつい体躯をしているスキンヘッドの男だった。
クウゴに疑いの眼差しを向けている。早速疑われてしまったようだ。
「倒したぞ?」
「キックで?」
「おう」
「ホラこくんじゃねえよ、怪しいぞお前」
どうやら、手放しで喜んでいる人間もいないらしい。
中にはクウゴを疑う者もいるみたいだ。
それはある意味当然だろう。邪竜と呼ばれるエンダードラゴンを、一人で蹴りだけで倒したという話は信じられるはずもない。
どこか違うパーティーがエンダードラゴンを倒したのを、漁夫の利で死体だけもってきたのではないか? と邪推してしまうのは頷ける。
「どうやって証明したらいいかな?」
「キックだけでオレを倒せたら、信じても良いぜ」
「なんだ、そんなことでいいのか」
「な……なんだと?」
男は筋骨隆々の見た目だ。きっとこの町の中では一番の腕っぷしなのではないだろうか。
それでもエンダードラゴンが襲ってくる状況で、何もできず引っ込んでいたのだから、大したものではないのかもしれないが。
対して、クウゴは身長も百六十五センチ程度の日本人の高校生程度の外見でしかない。
どう見ても、キックだけでエンダードラゴンを倒せるような体躯ではない。
「よおし、良いだろう。表に出ろ」
男は太々しい笑みを浮かべた。あわよくば詐欺師を締め上げて、報酬を横取りできるかもしれないくらいに考えていたのかもしれない。
ギルド内は騒然として、表にでた男と、クウゴを追って、ギルド前で野次馬が集まることになった。
メインストリートの中央でクウゴと男は向かい合う。
「へっ、ひょろっとしやがって。そんな足で何を倒せるってんだ?」
「じゃあ……蹴りで倒せばいいんだよな」
「できるもんなら、なぁっ!」
男が飛び掛かって来た。巨漢から繰り出されるパンチはリーチもクウゴよりある。
――が。
(……手に取るように、動きが見える。加減しねえと、また目立っちまうかもしれねえ)
男の動きは、緩慢に見えた。
さっきのドラゴンよりももっと弱そうだと感じ取れた。まさに、ハエが止まるような、という表現が合う気がした。
(力を弱めて……)
シュッ――。
相手の動きに合わせ、突き出された相手の拳をくぐり抜けるように身体を低くし、軽く、右足を突き出した。
クウゴのイメージとしては「ちょん」とつつくくらいの感覚だった、……のだが。
「うげえっ」
ドヒューーーーン!
クウゴの足先が男の腹に当たると、男はぶっ飛んだ。
不自然な程に、五十メートルは軽く後方に吹っ飛び、悲鳴をあげていた。
「い゛っ!?」
それを見ていた野次馬たちは、眼玉を飛び出さんばかりに驚愕し、吹っ飛んだ男を凝視していた。
「やべえ……、やり過ぎちまったか?」
クウゴは、メインストリートの向こうまで飛んでいき、気絶している男を見て、冷や汗を垂らした。
しかし、もうクウゴに対して疑いの目を向けるものは一人もいなかった。




