世界でいっとー スリルな秘密
深夜、クウゴとウモナは、宿屋の一室で待っていたエリとエマクオンのところへと戻って来た。
二人は緊迫した顔を安堵に変えて、クウゴとウモナを招き入れた。
「ど、どうだったの? 本当に王様がドラゴンを呼び出してるの?」
「はっきりとした証拠は見付けられなかった」
「地下に異様な程厳重に管理されている宝物庫があることと、クーゴが塔で見付けてきた、コレね」
ウモナが魔石を取り出し、二人に見せた。
「魔石……、もう使い捨てられたものね」
「そう。それが大量に隠されてた。使い終わった魔石なんて、捨ててしまえばいいのに、それをせずに塔に隠してたなんて変だと思わない?」
「……捨てるに捨てられなかった。用途不明の廃棄物が大量に出てくると、勘繰る人がいるから……ってこと?」
エリの鋭い意見に、ウモナは静かに頷いた。
確かに、大量の魔石が城から廃棄されていると分かれば、何に使ったのだろうと訝しむ人が出てくるだろう。
例えば、ウモナの姉のように――。
「王様が怪しいのかどうかは、分かんねぇけど、陰謀が渦巻いてるかもしれねぇって予感になるのは、分からなくもねぇ」
「じゃあ、ドラゴン退治の斡旋はやめるの?」
「いいや、寧ろ参加して懐から探るのもいいんじゃないかって思ってる。どっちにしてもドラゴンは倒さねえと、みんなが苦しむからな」
クウゴの言葉に、エリは俯き、考え込んだ。
エマクオンは、言葉なく頷くのみだった。
「もし、王様が……国ぐるみでドラゴンを呼び出してるとしたら、どうするの?」
エリは神妙な顔で訊ねてきた。
つまり、国を敵に回すつもりがあるのかどうか、確認したいのだろう。
それはある意味、ドラゴン退治よりもリスクの高いものだ。
国家反逆罪として、指名手配されて逮捕されたら、最悪処刑されるかもしれない。
いや、ドラゴン召喚が事実なら、口封じのために、必ず殺される。
ウモナも、クウゴの言葉を興味深そうに待っていた。
クウゴは、いちど瞼を下ろし、自分の中で一つ覚悟を決めて言った。
「知らんぷりはできねぇ。オラ、のんびり暮らしていくのが夢だけど、無責任にはなれねぇもん。誰かが苦しむのを分かってんのに、昼寝したら夢見が悪ィかんな」
「クーゴ……」
「でも、国と戦う可能性も出てくるから、オラはエリとエマクオンに無理強いはしねぇ。嫌だったら、ここでパーティーは解散しよう」
「そんな……!」
クウゴの出した結論に、エリは飛び上がった。
クウゴとのパーティーを解散するのは嫌だったし、クウゴの言う通り、知ってしまった以上、自分にももう見て見ぬふりはできない。
「私、クーゴについていくわ。もう、こうなったら一蓮托生だよ」
ドラゴンを退治することが、冒険者になった理由だし、そのドラゴンを際限なく呼び出している黒幕が王様なら、王様だって倒さなくちゃならない相手になるのは仕方ない。
それが原因で、投獄されて処刑されようとも、そこから逃げてしまったら、一生後悔して生きていくことになりそうだ。
「ボクも、クーゴのパーティーから抜ける気はないよ」
「いいのか、二人とも」
「うん」
単純な正義感からではない、エリもエマクオンも、自分の中の気持ちに向き合って、答えを出したようで、力強く頷いた。
「ねえ? もちろん、アタシも仲間に加えてくれるわよね」
ウモナが三人に眼差しを向けていた。
今回の事件に巻きこんだのはウモナだったし、ウモナはウモナで、七竜玉が欲しかった。そのためには、クウゴの力が絶対に必要だと思った。
不敵な笑みを浮かべる魅惑の女怪盗に、クウゴは頷いた。
「だったら、改めて自己紹介。これ、アタシのライセンスステータス」
◆――――――――――――――――――――◆
名前:ウモナ
LV:41
HP:397
MP:285
力:402
守:365
魔:261
心:197
速:579
技能:【盗賊技術】【隠密】【トラップ】
【軽業】【話術】【魅惑】
◆――――――――――――――――――――◆
ウモナのステータスが表示され、彼女が非常にバランスの取れたシーフであることが分かった。
十分な能力を持った仲間であることは間違いない。
話術や魅力的な外見から、交渉することにも長けているようだし、クウゴたちにはないものを持っているのも、有難いところだ。
◆――――――――――――――――――――◆
装備:シーブスナイフ
軽業士の服
通話のピアス
◆――――――――――――――――――――◆
装備もシンプルで、戦闘をするよりも、逃げることを重視したスタイルだと分かった。
四人目の仲間が欲しいとは思っていたが、まさかこんな形で仲間になるとは想像していなかった。
スタイル抜群の大人な女性、ウモナ。それは妖しい魅力にあふれていて、クウゴはまたもや目のやり場に困ることを予想するのであった。
「クーゴ、今日は本当にありがと❤ これからも、よろしく、ネ」
色目をつかって、クウゴに豊満な身体をくっつけてくるウモナ。
それを見て、エリがねじ込む様に間に入り、クウゴとウモナをひっぺがした。
「くっつきすぎなんですけど!」
「ウフフ、可愛いわね、お嬢ちゃん」
「……クーゴ。ボクもう眠い。一緒に寝よう」
「お、おう」
「ちょ、ちょっとまって! もうっ!」
その夜、宿屋の部屋で四人はもみくちゃになりながら眠るのだった……。
――翌朝、クウゴたち四人は、パーティーとしてギルドに赴いた。
そして、ついに城からの使者が来て、ドラゴン退治のミッションを受領するために城へ向かうことになったのである。
幸い、昨夜の城であった亡霊騒ぎは外に広まっておらず、兵士たちの間だけで語られているようだ。
夜中に幽霊を見て、怯えていたとはなかなか報告しにくかったのだろう。
城までやってきたクウゴたちは、多少なりとも警戒したが、城の使者である兵士は特にこちらを疑うような素振りもなく、すんなりと城の中までやってこれた。
通されたのは謁見の間などではなく、兵士の詰め所のような場所だった。
使者の話では、ドラゴン退治の司令部であるそうだ。
四人を迎えたのは、その司令部でドラゴン退治を指揮している騎士だった。
「私は、この国でドラゴン退治の指揮を執るヤーコブだ」
ヤーコブと名乗ったその騎士は、立派な鎧と剣を装備している大男だった。
身長も二メートルはあるのではないだろうか。逞しい腕は太く、丸太のようだ。
外見からするに、おそらく三十代だろう。野心家のようなギラつく目をしているのが特徴的だった。
「オラ、クウゴ。よろしくな」
「フン。冒険者というのはどいつもこいつも、品性がないな」
クウゴたちを見下ろすヤーコブは、横柄な態度を見せ、鼻を鳴らした。
「知っていると思うが、我が国はドラゴンに対し、軍隊を組織し、各地で戦っている。腕っぷしのある冒険者は、その義勇兵として任務に参加し、担当した地区の防衛に当たるのだ」
その話は、以前にエリがしてくれた通りだった。
「オラたちは、どこの担当に回されるんだ?」
「まぁまて……。ギルドからの紹介状を見たが、お前たち、随分と奇妙な経歴をしているな」
じろりとクウゴを睨み、ヤーコブはギルドから送られた紹介状と見比べている。
「パーフェクトオーガの砦を攻略したときのスピードが尋常ではないが、どんなトリックをつかった」
「別に運が良かっただけさ」
「運だとぉ?」
ヤーコブはギロリとクウゴを威圧してくるが、クウゴは普段通りの顔で、真っ直ぐ向き合った。
「魔法の翼を使用したんですわ。ヤーコブさま」
口添えしたのは、後ろにいたウモナだった。
魔法の翼は、マジックアイテムの一つで、瞬時にして遠い場所まで移動できる貴重な品だった。
クウゴにはそんな知識がなかったが、ウモナの【話術】と【魅惑】のスキルが活きたのか、ヤーコブはそれ以上追及しなかった。
「まぁいい。今回お前たちが採用に至ったのは、このスピードを買われたからだと認識しておけ」
「スピード?」
「そうだ。お前たちは、防衛隊としてではなく、偵察隊として動いてもらう」
クウゴたちのスピードを買ったというヤーコブは、今回の任務を語り始めた。
それは、世界各地に出現するドラゴンたちの中にいる、レアモノを見付けてこい、というものだった。
「お前のようなぽっと出の冒険者が、ドラゴンと戦えるとは思っておらぬ。だが、スピードだけは一流とみてやった。その足を使い、我らが捜しているドラゴンを発見してこい」
「ドラゴンを見付けてこいって? どんなドラゴンだ?」
「……ドラゴンの中には、極まれに鮮やかな色を纏った強力なヤツがいる。我らは過去にそう言ったドラゴンを発見し、倒したこともあるのだ」
「っ……」
七竜のことだとすぐに気が付いた。
「過去に倒したドラゴンは何色なんだ?」
「橙、藍、緑……三色を撃破している」
(もう三匹は倒してんのか……)
だとしたら、この城に三つの竜玉が隠されているのかもしれない。
残りは四つだが、その事実をヤーコブは知っているのか、それとも彼も所詮ただのコマでしかないのかは判断できない。
「こういった、特に強力なドラゴンを我らは探している。城のドラゴン研究をしている魔術師からは、赤のドラゴンの襲来を予知しているのだ」
「赤……。そのドラゴンを見付けてこいってことか?」
「その通りだ。倒してこいとはいわん。どうせ無理だからな。討伐部隊は別に編制している。お前たちは赤いドラゴンを見付けることが任務だ」
「その赤の竜はどのあたりに出現するかの情報はあるんですか?」
エリが緊張した顔をしてヤーコブに確認した。
ヤーコブはじろりとエリを見て、それから後方のドアに向かって「おい!」と荒々しい声を上げた。
エリはビクっと身をすぼめたが、扉から人形のように血の通っていない顔をした、男が姿を見せた。
「こいつらに、ドラゴンの話をしてやれ」
「分かりました」
冷淡な声色をしたその男は、見た目から判断すると魔術師のように見えた。
「ワタクシ、ドラゴン研究をしている魔術師のウォーレンと申します」
仰々しくお辞儀をしたウォーレンだったが、うすら笑いを浮かべていて、不気味な印象がぬぐえない。
その時だ。クウゴの後ろにいたウモナが、ピクリと反応しているのが分かった。
何かに気が付いたような反応だったが、ウモナは何も言わず、その後じっとしていた。
クウゴは気になったが、ウォーレンの話の続きに耳を傾けた。
「ドラゴンはどこからともなく突如出現し、人々を襲います。しかし、長年の研究の末、ドラゴンが出現する予兆は分かるようになったのです」
「……そいつぁすげぇじゃねえか」
「これが、その予兆場を示す魔法道具、竜魔力警戒機です」
ウォーレンはその懐から、鏡のようなものを取り出した。
そこに魔力を込めると、鏡がぼんやりと光り、いくつかの煌々とした小さな点を浮かび上がらせる。
(まるで、レーダーだ!)
クウゴはそう直感したが、それはドンピシャの表現だった。
ウォーレンは、これがドラゴンの出現位置を示す魔力探査装置なのだと説明した。
手鏡くらいのサイズの鏡面の周囲にいくつか点が明滅している。
あの光っているものがドラゴンなのだろう。
「いま、映っている白い光の点が、ドラゴンの居場所です」
「ドラゴンの居場所が分かってるの!?」
「おおよそですがね。そのため、我らは防衛隊を各地に派遣しているのですよ……ホホホ」
女のように笑うウォーレンは、薄気味悪い眼光をぎょろりとさせていた。
「この探査装置に、赤い光がたまにチラつきだしたのです。これが赤のドラゴンが出現する兆候です」
鏡の中には白い点がいくつかあるが、赤い点は見当たらない。
「この城からでは正確な場所が掴み切れておりません。そこであなた方冒険者にこの鏡を与えます。ここから北西の方角に向かい、赤い竜を見付けてくるのです」
ドラゴンを見付けるためのレーダーを受け取り、クウゴはそれをアイテム袋にしまい込んだ。
「他の白い点のドラゴンはどうするんだ?」
「あなた方は偵察隊です。退治は防衛隊に任せると良いでしょう。ではワタクシはこれにて」
ウォーレンはそう言うと、また後ろの扉を開き、そこに消えて行った。
「そういうわけだ。いいか。お前たちはドラゴン退治をする必要はない。竜殺しは別のものが担当することを忘れるな?」
「倒しちまっても良いんだろ?」
「フン、できるものか! 調子に乗るなガキめ」
ヤーコブはクウゴを見下して、吐き捨てるように言った。
四人はそれぞれ、ドラゴン退治ミッションを受けた冒険者と分かる勲章を受け取り、城から出てきた。
任務はこれで受けることができた。
これから、赤いドラゴンを見付けるために旅立つことになるのだ。
城から離れ、一度宿屋に戻って作戦会議をしようと決めた時、ウモナがやっと口を開いた。
「……あのウォーレンって魔術師……」
「どうしたんだ、ウモナ?」
「あの魔術師が出てきた扉の奥、みたかしら?」
「いや、悪いそこまで気が回らなかった」
エリもエマクオンも首を横に振っていた。
扉が開いている隙間だって、ほんの僅かだったから、よほど注意して見ていないと気が付けないはずだ。
「あの扉の向こうにチラっとだけ、杖が見えた」
「杖?」
エリはふと、自分が装備している杖をまじまじと見つめた。
あのウォーレンも魔術師のようだから、杖くらいはもっていてもおかしくないだろう。
「……あの杖、お姉ちゃんが使っていた杖とそっくりだった!」
「……まさか」
「分からないけど……、アタシのお姉ちゃんは、城でミッションを受けた後、何かに気が付いて、消息不明になってる。そして、最後に残したアタシへのメッセージ……」
――『お し ろ の な か』――。
嫌な想像が廻るが、それはどれも根拠のないものだった。
もしかしたら、ウモナの姉クロムは、あの城で、重大なヒミツを見付けてしまったのかもしれない。
その結果、口封じされた――。その一端にあの不気味な魔術師が関わっている可能性がないとは言い切れない。
あのクロムのダイイングメッセージの意味は、『お城の中に囚われている』だったとしたら――。
ウモナはそんな想像をして、歯噛みした。
「どうするクーゴ。ボクたち、赤いドラゴンを探しに行くの?」
「ああ、そうだな。でも、見付けるだけじゃ帰らねえ。オラが……レッドドラゴンを倒してやる!」




