WE GOTTA POWER
適当に時間を潰したことだし、もう戻っても良いのではないか。
そんな話になって、クウゴたちはシントーワに戻ることにした。
それでも、本来の予定よりは随分早いクリア速度ではあるのだが、クウゴの早く世界を平和にしたいという考えは正しいことだし、早くクエストが達成できた件に関しては、エマクオンがSランクの冒険者だからということで、話をつけてやると纏まった。
「ええと、そんじゃシントーワまで飛んで帰るんだが……」
「いいわよ」
「うん」
エリとエマクオンが、クウゴの身体に左右から密着していた。
その状態が、クウゴの体温を想像以上に上昇させた。
エリもエマクオンも、ハッキリ言って美少女だ。日本人離れした幻想的な姿も魅力だが、やはり、顔立ちが可愛いのだ。
そんな二人が、吐息が吹きかかるような距離感でくっついてきているのが、少年の熱情を刺激する。
「落ちないように、しっかり抱きしめてよ」
「ボクの身体、触っていいよ」
ぎゅ、と胸が押し付けられてくる。
エリはなかなか胸があるし、服装的に胸元が見えているのが扇情的だった。
エマクオンはあどけなさがある体をしているのだが、それが背徳的だった。
二人はなぜか、互いを睨み、バチバチと火花を散らすような視線を交わしていたが、間に挟まれているクウゴはおしくらまんじゅうみたいになっていた。
エリは、クウゴの首に腕を回して抱き着き、エマクオンは、クウゴの腰にしがみついている。
「な、なんか二人とも、様子が変じゃねえか?」
「全然、普通だよ」
「うん。おかしくない」
ぎゅう。
柔らかい身体が体温を伝えてくる。
美少女のサンドイッチだ。
(オラが普通じゃなくなりそうだ!)
「あ……歩いて、シントーワまで戻るのはどうかな?」
「早くドラゴン退治に行くんでしょ?」
「はやく」
少女たちはクウゴをじろりと睨む。たじたじになるも、クウゴは仕方なしと二人の腰を抱いた。
「んじゃ、飛ばして帰っから、しっかり掴まっとけよ!」
「べつにゆっくりでも良いよ」
「い、急げっていったり、ゆっくりだったり、なんなんだ……」
結局、二人を抱きながら、空中に飛びあがると、クウゴは真っすぐにシントーワ目指して飛ぶのだった。
行きのときは二人は驚き戸惑っていたが、帰りは寧ろ嬉しそうにしていた。
しかしながら、クウゴはもう二度と、こんな風に空を飛ぶのはやめようと思った。
自分の心臓病が再発しそうなくらい、ドキドキが止まらなかったからなのは、言うまでもないだろう。
王都付近まで来た時、着地の時に誰かに見られないようにと、少し外れたところで降りた。
そのまま歩きでシントーワまで戻ると、相変わらずに賑わった商業区が目に入ってくる。
その奥にあるギルドまで真っすぐ向かうと、クウゴたちは一斉に客たちの視線を集めた。
「も、戻って来た! 双刃のベルセルクたちが戻って来たぞ!!」
「ま、まさか本当にAランククエストをクリアして戻って来たのか!?」
「は、早すぎる……! ど、どうなってやがる……!」
騒めくギルド内を進み、受付カウンターまで行くと、あの時対応してくれた魅力的な受付嬢が、ぽかんとした口を開けてクウゴを待ち受けた。
「お、おかえりなさい」
「Aランククエスト、クリアしたぞ。山の砦ごとぶっ壊したから、もうパーフェクトオーガもいねえ」
「ほ、ほんとなの……?」
「ホントだよ。ボクのSランクのライセンスをかけても良い」
エマクオンが口添えをして、ついにクウゴたちは、初めてのクエストをクリアしたのである。
ドドン、とカウンターに置かれた報酬金の多さに、クウゴは「おおっ」と声を出していた。
「これで、オラたちのランクもあがるのか?」
「Aランクをクリアした実績があるから、Aランクとして認められるよ」
「よっしゃあ!」
クウゴはガッツポーズをして、自分の冒険者ライセンスを確認した。
だが、まだその表示は以前作ってもらった時のままだ。
エリも、レベル3の表示のままであった。
「クエストクリアしたし、ライセンスの更新チェックにいこう?」
「更新チェック?」
「うん、前回よりもレベルやステータスが変わってると、更新されるの。測定珠が今の私たちのこと、しっかりと調べてくれるわ」
なるほど、レベルがきちんと上がったかどうかは、ギルドに帰ってこないと分からないのだろう。
これでエリのレベルも上がっているのか、はっきりする。
エリは自分のレベルアップが気になっている様子で、足早に例の測定の個室に向かって行った。
クウゴは、これ以上測定で自分の実力がバレることを懸念したが、以前見せてもらったエマクオンのステータスを基に、それっぽい数値を出せるように【気】をコントロールすればいいか、とエリの後ろに続いた。
個室に入ると、測定珠の前に手をかざしているエリがいた。
もう早速測定を行ったらしい。
水晶玉が光を放ち、その内部に文字を浮かび上がらせる。
◆――――――――――――――――――――◆
名前:エリ
LV:22
HP:176
MP:329
力:68
守:89
魔:260
心:274
速:191
技能:【魔法資質】【歌唱】【継承〇】
◆――――――――――――――――――――◆
「やった! レベル22だよ!」
エリは水晶に表示された自分のステータスに、ぱぁっと笑顔を輝かせた。
前回レベル3だったというのに、一度のクエストをクリアしたばかりでこの成長は破格だと言える。
「MPと魔力がすげえな! ……【継承〇】ってなんだ?」
数字の大幅な増加に目を奪われがちだったが、エリの技能にひとつ新しいものが増えていた。
エリも首をかしげていた。【気】のラーニングをしたから、【気】が増えているのなら分かるのだが、【継承〇】というのは、ピンとこない。
「ボクも測らせて」
と、そこにエマクオンも顔を出した。
エリが場を譲り、エマクオンが手慣れた様子で測定珠に手をかざす。
◆――――――――――――――――――――◆
名前:エマクオン
レベル:70
HP:739
MP:470
力:840
守:751
魔:406
心:598
速:774
技能:【二刀流】【不意打ち無効】【先手】
【状態耐性〇】【二回攻撃】【超級】
【威圧】【精神統一】【反撃】
【継承〇】
◆――――――――――――――――――――◆
エマクオンのレベルとステータスは変化がなかった。
レベル70ともなれば、あの程度のクエストではレベルが上がらないのかもしれない。
それにエマクオンは、今回、ほとんどクエストに『いるだけ参加』みたいな立ち位置だったから、成長は見込めなかったのだろうか。
だが、エマクオンの技能にも【継承〇】が追加されていたのである。
「【気】じゃない……」
かくん、と肩を落としたエマクオンだったが、エリは怪訝な顔になった。
「私とエマクオンが【継承〇】を新しく取得してる……?」
「【継承〇】ってなんなんだ?」
クウゴは測定士のおじさんに質問をしてみた。
たしかこのおじさんは、測定士をして三十年とか言っていた。それなりに多くの測定結果や技能を見て来ただろうから、【継承〇】も知っているだろうと思った。
「ああ、これは……。自分自身には効果が出ない技能です」
「自分には効果がない?」
「そうです。これは、その人が子を宿した時、親の能力を強く引き継げる能力ですよ」
「はいっ!?」
エリが頭の先から出たのかいうほど、素っ頓狂な声を出していた。
「こ、子供って……! わ、私が!?」
「そうですな。まぁ言い換えれば、良いお母さんになれる特性があると思えば……」
「セ、セクハラです!」
「そ、そんな理不尽な……」
エリは恥ずかしさで真っ赤になっていた。しきりに、キョロキョロとクウゴの顔を窺ってくる。
「別に悪い能力じゃねえじゃねえか。良かったなぁ」
「~~~~っ」
クウゴの顔を見て、更に赤くなるエリは、思い当たることがあった。
あの丹田に【気】を送られた時の話だ。
あれによって、自分の身体に【継承〇】が付いたに違いない。
あれから数日の修行の間に、エマクオンもお腹の丹田に【気】を送ってもらっていたから、間違いないと思った。
要するに、クウゴによって、『母親になる』成長を促されたのだ。
もう、何も言葉が言えず、エリはトマトみたいな顔をして、後ろに引っ込んだ。
「ボク、子供埋めるんだ!」
「な、何言ってるのよ! エマクオンはまだ十四でしょ! け、結婚は十五歳から!」
「タルカジャの民は、強い子供が生めるなら、何歳でも大丈夫」
「色々アウトになるからやめてっ! ただでさえ設定ギリギリなのにぃ!」
エリは作者の言葉を代弁してくれる心優しい娘だった。ごめんなさい、集英社さま。鳥山先生。
「この世界って、十五歳から結婚できるんか?」
「そ、そんなことも知らないの? そうだよ、ちなみに私は十六歳だからね。できるよ、クーゴ」
「あ、うん……?」
エリがもじもじとしながら、教えてくれた。エマクオンは自分のライセンスステータスを、キラキラの目で嬉しそうに見つめ続けていた。
よほど【継承〇】が嬉しかったようだ。
「じゃあ……オラのも測定してみっかな」
クウゴは【気】を集中し、エマクオンのステータスを思い出す。
あれに倣って……、そして自分のステータスは魔力がまるでないことを考えて、それっぽい数字にする必要がある。
ピピピピ……!
測定珠が光を放ち、明滅を繰り返す。
光が落ち着き、やがてクウゴのステータスが水晶玉に表示された。
◆――――――――――――――――――――◆
名前:クーゴ
LV:36
HP:691
MP:0
力:679
守:710
魔:0
心:593
速:725
技能:【気】
◆――――――――――――――――――――◆
「ど、どうだ? 変じゃねえよな!?」
そんな第一声が出てしまうほどに、クウゴは緊張して自分のステータスを確認した。
MPと、魔力がゼロ。
矛盾はないし、レベルも上がっていたから、それっぽくステータスも上げた。
技能は好きには弄れないから、相変わらず、【気】のみしかないのが味気ないものの、及第点のステータスではないだろうか。
「す、すごいっ!? レベル36でこの数字は最早英雄レベルを確約されているぞ!!」
(や、やべえ、デカすぎたか!?)
測定士は目玉を大きく開いて、クウゴのステータスの大きさに感激している様子だ。
「や、やはりキミはどこか違う……! ひょっとすると、本当に英雄になれるかもしれんぞ!」
「え、英雄はだめっ!」
おじさんが感激のあまり、クウゴを褒め称えたが、エリがなぜかムキになって否定したので、おじさんもクウゴも、呆気にとられた。
「い、いやしかし、君の実力ならば、本当にドラゴン退治の斡旋を受けたほうがいいと思うのだ」
「おっ、マジでか! オラもそれを早く受けたかったんだ」
ついに、ドラゴンを倒すための準備が整った。
ここまでなんだか、妙に遠回りをしたような気もするが、クウゴの目的の第一歩が順調に進み始めているということだ。
「本気でドラゴン退治に参加するつもりがあるなら、こちらで紹介状を用意するが、どうかね?」
「おう、よろしく頼めっか?」
「分かった。では準備もあるので、後日またこちらに足を運んでもらえるかな?」
おじさんの言葉に甘え、クウゴはしっかりと頷いた。
いよいよドラゴン全滅のため、世界平和とスローライフのために動き出せる。
クウゴたちは、初めてのクエストをクリアし、ギルドを後にすると、宿に向かうことにするのだった。
クウゴはまだ分かっていなかった。
この時点で、自分がかなりの有名人になってしまっているということを。
翌日、クウゴたちの話に色々な尾ひれがついていて、とある事件に巻き込まれることになるなど、この時はまるで考えも及ばなかった……。




