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紅い桜  作者: 道豚
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彼女、妊娠したわ

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します。


 ナイトウェアーに着替え、もう寝る準備も終わっているサクラは、ベッドの上でスマホに向かって話していた。

『ねえイロナ、高が体のサイズを測るのにハンガリーに行かなくちゃいけない、ってのはおかしくない?』

 そう……アンナから聞いた話が、納得いかなかったのだ。

『……そうでもないわ。 貴方の体を模したトルソーやマネキンを用意するには、普通の計り方じゃダメなのよ』

 遅延があるのか、少し遅れてイロナの返事が聞こえた。

『私のトルソー? そんな物が在るの?』

 そんな物が在るなんて……サクラは初耳だった。

『……在るわよ。 でないと、フィットした衣装が作れないじゃない。 ずっと前から……2次性徴が始まった頃から……最初のうちは三ヶ月ごとに、落ち着いた頃でも1年ごとに作ってるわ。 って、そういうことは……少し作るのが遅れてるわね』

『そんなに頻繁に作ってる、って……勿体無くない?』

 幾らなんでも、成人になったなら体型はそこまで変化しないだろう。

『……そうでもないわよ。 意外と体は変化する物だから。 それに今は3Dプリンターで作るから、安いわよ』

『へー 3Dプリンターで……んじゃ、データはデジタルで?』

 当然、そうなるだろう。

『……その通りよ。 ツェツィルが開発した、ボディースキャナーが在るの』

『えーー ツェツィル~~ なんかヤダ』

『……そう言っても、彼は天才だから……何とかと紙一重、と言うかその紙を突き破ってる所もあるけど……取りあえず私達が見張ってるから、今まで問題にはなってないわ』

 何だか、随分な言われ方である。

『そうかー それじゃ、そちらに行かなくちゃいけないんだね? 夏休みなら良かったのに、この先長い休みはお正月まで無いよ?』

『……その辺は、大丈夫よ。 コンパクトな装置を作ったみたいだから』

『ん? という事は……それを日本に持ってくるの?』

『……ええ。 小型ジェット機に積んで行くわ』

『んじゃ、その時にニコレットも来るのかな?』

 そう……イロナと入れ替わりに来るはずのニコレットは、まだ日本に来ていない。

『……それなんだけど……ニコレットは、当分動けないわ』

『え! どうしたの? 何か仕事が有る? まさか具合が悪いんじゃないよね?』

『……そうねー ふぅ……言ってもいいかしら……』

 イロナは、小さく溜息を吐いた。

『……彼女、妊娠したわ』

『ええ?! に、妊娠? 赤ちゃん出来たの? え!え!え!!!!』

 サクラが慌てて立ち上がった所為で、ベッドの上のスマホが飛んでいった。




『それで……相手は誰?。 私の知ってる人かな?』

 床に落ちたスマホを拾って、サクラはベッドの上に戻った。

『……ダニエルよ』

『ダニエルかー うん、確かにカッコいいね。 二人は結婚するのかな? という事は……ニコレットと私は、義理の姉妹になるのかな』

 そう……ダニエルはサクラの異母兄弟なのだから。

『……結婚はしないわ。 流石に庶子とはいえ、ダニエルはヴェレシュ家の長男だから……格が違いすぎるもの』

『それじゃ、ニコレットは……好きな人と結婚できないの? 可哀想だよ』

『……その辺はニコレットも理解してるはずよ。 それでも子供が欲しかったんでしょう』

『う~~ん……いいのかなー ふぅ……本人が納得してるなら、こちらが「どうこう」言えないけど……』

 溜息と共に、サクラはベッドの上に倒れた。

『……まあ、そんな訳でニコレットは動けないから、私がボディースキャナーを持っていくわね。 ただ、直ぐには無理だから……そうねー 一ヶ月ぐらい待ってくれる?』

『ん、了解。 それじゃ、用意が出来たら連絡して』

『……はい、分かったわ。 じゃね』

「(……ニコレットとダニエルの子供かー きっと可愛い子が生まれるな……)」

 通話の切れたスマホを枕の横に置いて、サクラは目を瞑った。




 「♪~~♪~~♪~~」

 枕の横に置いたスマホが、音楽をかなで始めた。

「(……ん?……)」

 それは、サクラを夢の中から呼び覚ました。

「(……ん~~ なんだよー まだ暗いじゃないかー……)」

 そう……夏ならば、既に明るくなっているだろうが……秋も深まって、日の出は遅くなっていた。

『……Igenはい……』

「おっとー ハンガリー語かな? サクラちゃんだよね? 室伏だ」

 通話ボタンを押して聞こえてきたのは、アメリカに行っているはずの室伏だった。

「あ! 室伏さん? おはようございます……」

 サクラは飛び起きて、ベッドの上に座った。

「……えっとー 今はアメリカですよね?」

「ああ、今はカリフォルニアに居る。 でだ……明日の便で帰るから」

「明日ですか? 随分急ですが……それは、そちらの時間で?」

「ああ、そうだな……ややこしいね。 えーっと、今から17時間後に飛行機に乗る。 成田までのフライト時間は12時間だから……」

 「がさがさ」と音がした。

「……成田には、そちらでの明後日の8時頃に着く」

「分かりました。 そのまま直ぐに高知まで来ますか?」

「いや……流石に家族に合ってから行こうと思う。 良いかな?」

「もちろん構いません。 十分家族サービスしてください」

「ありがとう、そうさせてもらうよ。 それと、サクラちゃんには良い情報が出てきてる」

 室伏の声が、少し「弾んで」聞こえた。

「何ですか? 情報って」

「まだ本決まりではないんだが……中断しているレース、再開の動きが始まっているようだ」

「ええ!? レースが始まる? 本当? 本当ですか?!!!」

 ベッドの上でサクラが飛び上がった所為で……スマホが飛んでいった。




「……おーー ビックリしたー」

 拾い上げたスマホから、室伏の声がする。

「すみません。 スマホを落としてしまいました……」

 サクラは、それをテーブルに置いた。

「……もう、起きる時間なので……着替えますね」

「おお、そうか。 それじゃ、切った方が良いかな?」

「いえ、このままスピーカーで話せますから……」

 サクラは、パジャマの上着を頭から抜いた。

 ナイトブラに包まれた胸が現れる。

「……レースの件、詳しく教えてください」

「ああ、良いぜ。 えーっと……レースのメインスポンサーであり、主催者でもあったメーカーは知ってるか?」

「はい、確か清涼飲料水のメーカーですよね。 いろんなスポーツのスポンサーをしている……」

 サクラは、ナイトブラを外した。

「……アメリカの企業でしたっけ?」

「そう、そのメーカーだが……スポンサーから降りたがってるんだ。 やはり事故のイメージが悪かったらしい」

「そ、そうですか……」

 サクラは、今日使うつもりで用意していたブラに腕を通した。

「……仕方がないですね」

「そう言う訳で、長い事レースが中断しているんだが……レースを作り上げた、といっても良い連中……初回から出てるベテラン達だな……その連中が、自分たちでスポンサーを探し始めた」

「それで……見つかりそうなんですか?……」

 サクラは前に屈んで、カップに乳房を納めた。

「……かなりの金額を集めなきゃならないと思うんですが」

「頑張ってるんだが……正直、苦労してる。 それでも少額でいいから、と世界中の企業に話をしてるらしい」

「そうですか……」

 サクラは体を起こして、脇から肉をカップに引っ張り込んだ。

「……その話……ヴェレシュにもしてるんでしょうか?」

「それって、サクラちゃんの実家だろ? どうだろうか……すまん、分からない」

「室伏さんのスポンサーですよ。 その方達に教えてあげてください……」

 サクラは、軽く跳ねて胸の納まりを確かめた。

「……よしっ!……私も聞いてみますから」

「何が「よし」なんだい?」

「うまくブラが付けられたな、って……あ!……」

 サクラは、慌てて胸を腕で隠した。

「……ち、違う、違う」

「なるほどなー サクラちゃんほど大きいと、そんな事も大変なんだな」

「い、今のは失言です! 忘れてください」

 サクラは、スマホに手を伸ばして通話を切った。




 学校から帰って、サクラは再びベッドの上のスマホに向かって話していた。

『久しぶり、ガスパル。 元気だった?』

『……お久しぶりで御座います、サクラ様。 勿論「ぴんぴん」しております……』

 スマホのスピーカーから、少し遅れて元気の良い声が聞こえてきた。

『……して、私に何の用事で御座いましょうか?』

『うん……調べて欲しいんだけど。 レースの関係者から、スポンサーの話は来てないかしら?』

『……レースで御座いますか? あの飛行機で行う……今は中断していると思いますが……』

 スマホの向こうで、何か動きがあった。

『……申し訳御座いません。 少しお時間を頂けないでしょうか?』

『あら、珍しい。 貴方が即答できない事があるなんて』

『……それは買いかぶりすぎで御座います。 そうで御座いますね……15分ほどでお調べいたします』

『分かったわ。 それじゃ、お願いね』

 静かになったスマホを、サクラは机の上に置いた。




 **********




『旦那様、ガスパルで御座います』

 サクラからの電話を切って、ガスパルはアルトゥールの執務室にやって来た。

『……入れ』

 室内から威厳のある声が返ってくる。

 ガスパルはドアノブを回し、静かに部屋に入った。




『何用だ?』

 重厚なデスクの向こう側に、ガスパルの主人であるアルトゥールが座っていた。

『たった今、サクラ様から連絡が御座いました』

『ん? サクラだと……』

 アルトゥールの顔が、僅かに喜色を帯びた。

『……何か用が有るのか?』

『はい。 飛行機のレースの関係者から、スポンサーの話が来てないか? と尋ねられました』

『レースだと? サクラを「あのようにした」興行ではないか……』

 アルトゥールは、顔を顰めた。

『……中断するように工作させたはずだな?』

『はい。 その工作によって、メインスポンサーは熱意を失っております』

『宜しい……』

 アルトゥールは、満足げに頷いた。

『……それで、サクラは何と言っておるのだ?』

『いえ、ただ「話があったのか調べろ」と言うことでした』

『ふむ……サクラは、何をしたいのだ?……』

 アルトゥールは机の上で指を組んだ。

『……そのスポンサーの話、というのは有ったのか?』

『御座いました』

『それで如何した?』

『小額でも、ということでございましたが……断りました』

『うむ、宜しい……』

 再びアルトゥールは頷いた。

『……しかし……サクラは、その事を知って如何すると言うのか?』

『これは、私の個人的な予想で御座いますが……サクラ様は、レースに出場されたいのでは?』

『何故そう思う?』

『日本に派遣している調査員の報告では、サクラ様は積極的に飛行機の操縦を練習されているそうで御座います。 その中には、レースの練習と思われる物も含まれていると……そう書かれておりました』

 メモも見ずに、ガスパルは即答した。

『そうか……』

 アルトゥールは、右手で目を塞いだ。

『……あ奴は、レースに出たいのか……あんな目にあった、と言うのに』

『何と返答いたしましょうか?』

『そのままを伝えてよい……』

 手を下げ、アルトゥールはガスパルを見た。

『……それによって、サクラが動くのを見ることにする』

『分かりました』

 礼をすると、ガスパルはドアに向かった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。 祝、ニコレット、懐妊。 サクラさん、失言&二度の携帯飛ばし。テレビ電話モードになっていなくて良かった。 実家は…
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