第31話「決死の脱出」4/4
「かがふ! あいふばひはふいへふ! ほもままびゃあばいっぺ!(鴉! アイツが近付いてる! このままじゃヤバいって!)」
「そぉら、出荷前の鶏になった気分で走れ。捕まったら手羽先にされっぞ」
「ふげぇぇぇぇぇ〜!!」
モール内がドミノ倒しのように壁と天井が崩れていく中、織芽を嘴に咥えながら死に物狂いで駆ける麟鴉と、淡々と手持ちの銃に弾を装填する鴉。
「さぁ……いよいよ大詰めだな」
目指す終着点は、筋書き通りの結末。失敗すれば待っているのは確実な死。
だが鴉は創伍と違い、感情任せに行動はしない。絶対の自信の下、導き出した計算に従い実行するのみ。
「ハアァッハハハハハァァァァァッ!! この首を獲ってみろよ斬羽鴉ぅぅっ! 弾はまだ余らしてんだろうがああああっ!!」
メインフロアまであと数十メートル。しかし後方からは朱雷電が迫り、鴉との距離を縮めて来ている。
「はびゃふなんほはひへふへぇ! おべばおっひいまほまんばぱら!!(早く何とかしてくれぇ! 俺が大っきい的なんだから!!)」
「はいはい、わーってるよ」
鴉は疾走する麟鴉の上で体を捻り、逆向きのまま跨り直す。そして迫り来る朱雷電を正面に捉え、迎え撃つ。
「100%OFF――在庫一掃セール開始だっ!」
まずは懐から二丁のサブマシンガンを抜き取っての一斉掃射。無数の火花を銃口から炸裂させ、舞い上がる粉塵に覆われる朱雷電に弾幕の雨を浴びせる。
弾切れになると即座に投げ捨て、今度はリボルバー式二丁拳銃を取り出し、容赦なく追撃を撃ち込んでいく。
その手応えたるや……
「――っ!!」
全く通じていない。濛々と立ち昇る煙の中からは閃光が閃き、粉塵を飛散させる程の凄まじい赤光波で反撃してきた。
「伏せぇっ!」
鴉の一声で咄嗟に麟鴉が体勢を低くし、四つん這いに屈みながらのスライディング。鴉も跨ったまま上体だけ仰け反らし、真っ直ぐ飛んできた電撃を紙一重で躱す――
「――ツメが甘ぇんだよぉ!!」
直後、朱雷電が煙の中から現れる。仰向けで無防備となった鴉の一瞬の隙を狙い、手刀を突き立て一気に間合いを詰めてきたのだ。
「どうかなぁ!」
だが鴉は狼狽えるどころか、待っていたと言わんばかりに両手を伸ばし、麟鴉の翼に掛けてあったガンホルスターからショットガンを抜き取って素早く発砲。
致命傷にはならなかったが、零距離での威力により朱雷電をノックバックさせた。
「死いイイィッ――!!」
「っぶね……!」
だが、銃の反動でまた隙が生じてしまう。弾き飛ばされながらも朱雷電がまた一手速く、振りかぶった片腕から赤光を放つ。
そこへ鴉は、一発だけ打ったショットガンを惜しげもなく捨てると、小型式拳銃を再び取り出し、特殊弾で電撃を無力化。
何とか麟鴉の足を止めることなく、朱雷電との距離を引き離すことに成功した。
「ツメが甘い? こんなチャチな小道具相手に手こずってる奴がよく言うわ」
「舐めんなよ……!! 闘気も極めてない下級異品が、銃だけで俺と渡り合おうなどぉっ!!」
「まぁ気持ちは分かるぜ。こんなハンデ持ちの格下なんぞに負けたら赤っ恥だもんなぁ! せいぜい頑張ってみろよ!!」
次に鴉が懐から取り出したのは一本のワイヤー。改造されたゴルフボールサイズの手榴弾が十個束ねられており、鞭のように強く振るうことでピンが外れ、弾は壁や床の上を四方八方と乱れ飛ぶ。
爆弾と察知した朱雷電は、すぐにそれらを撃ち落とし、鴉を爆風に飲み込ませようと反射的に両手を伸ばす。それぞれの指から放った赤光で十個の弾を正確に貫いた――
「――っ!!」
しかし、甲高い破裂音と共に飛び出したのは爆炎ではなく……視界を覆い尽くす強烈な白光。
手榴弾と思われたそれらは、見た目を偽っただけの閃光弾であった。
(フフ、馬鹿が……九闇雄に目眩ましが通じるかっ!!)
視力を封じられても、朱雷電ほどの実力者なら気配を頼りに敵の位置を探れる。瞼を閉じたまま走り出し、前方の標的に今一度赤光を見舞おうとするが……
次も鴉の方が一手速かった。既に彼は前方へと体を向き直しており、左手に小さな発煙筒が握られていた。
(視界を塞いでからの煙幕だと……)
火花を上げて撒き散らした白煙が通路全体に充満する。
その非合理性に気付く頃には、朱雷電はまたも鴉の術中に陥っていた。
(……ッ! この異臭、金属と火薬……!)
放電寸前の手を引っ込ませた朱雷電。その理由は、嗅覚で発煙剤の成分を読み取り、危機を察知したのだ。
もしこの一方通行の狭い通路内で赤光を撃ったとしても、空気中の金属粉末により乱反射を起こして標的に命中しにくい。更に発煙筒の酸化剤に直撃すれば、熱分解反応によって誘爆しかねない。
鴉も死を覚悟している以上、規格外な火薬量や特殊な爆薬を使っている可能性を考慮すれば、迂闊には撃てないというもの。
ところが……
「――ぐっ!?」
的確な判断をしたはずの朱雷電に鋭い痛みが走る。
突如、クナイやナイフといった親指サイズの凶器が矢継ぎ早に飛来してきたのだ。刃は朱雷電の肩や首筋、足首など、死角になる箇所や急所を次々と襲う。いずれも掠るだけに留まるが、彼の身体の至る所から少量の血を滴らせていく……。
「刃の気配までは探れねぇだろ!?」
それも鴉が仕掛けた罠――発煙筒で煙を上げていた合間に、もう片手で改造ボウガンを引き抜いて壁や天井へ無数の矢を撃ち込んでいた。矢が命中すると、矢筈に仕込まれた細いワイヤーが射出され、瞬く間に一つのワイヤートラップの完成。視界と攻撃を封じてる間に何本も踏み抜かせたことで、矢に付随している小さな凶器が一斉に襲うという仕組みだ。
「その赤い闘気で耐えられるのは銃火器に限る――良いこと知っちゃったな」
「……貴っ…………様アアアアぁぁっ!!」
創伍に続き、またも自分より格下の存在に傷を付けられたという事実に、朱雷電は怒りの余り我を忘れていた。
しかも彼にはまだ聴覚が残っている。発射音と空気の流れを本能で先読んで、飛び交う刃の中を紙一重で躱していきながら、殺意を一層強く増して再び鴉達との距離を一気に詰めてきた。
「殺す……テメェは!! テメェはどんな手を使ってでも、必ずっ! 誰よりも真っ先に焼き殺してやるるぁぁぁぁああああっ!!!」
「だったら早く殺ってみせろよ! 出来るもんならな!」
発煙筒の煙も出が悪くなり残り僅か……対赤光の秘策が失くなれば絶体絶命に変わりはないというのに、それでも鴉にはまだ挑発する余裕があった。
「はばふ! もうふぶぬへぶお!!(鴉! もうすぐ抜けるぞ!!) 」
「よし、そのまま一気に突っ走れっ!」
いよいよ通路を抜け、メインフロアへ再び舞い戻る一行。吹き抜けを囲う手摺りを足場にして麟鴉が高らかに跳び、地上階の床へと着地。
握っていた発煙筒の煙も丁度打ち止めとなり、最後に曲線を描きながらフロア内を少し霞ませる。
「――ッハハハハァ! 此処が終点だ!! 一発! 一発で、仕留めるっ!!」
そこへ数秒遅れで朱雷電も追い付いた。
これ以上の悪足掻きはさせない。彼らの後に続いて跳び上がり、赤光を全身に帯電させると、まるで一本の矢のように直線状に滑降。標的は当然、斬羽鴉だ。
この広い空間では煙幕やワイヤートラップなどは効力が薄い。接近戦となれば実力が遥かに上の朱雷電には到底太刀打ちできない。
いよいよ鴉達の手の内が尽きたかに思われた。
「あぁ確かに此処が終点だ……オメェのな」
それでも鴉は――振り向くことなく、発煙筒の次に懐からリモコンを取り出し、ただボタンを押すだけ。
「――むっ?!」
朱雷電の真横からボンッと爆音が割り込む。予期せぬ音に気を取られた彼を襲ったのは爆炎の熱ではない……
水だ。
横合いから勢いよく飛び出た水飛沫が、朱雷電の頭に被さった。
「ぬあぁっ!!」
銃火器でも刃物でもない、まさかの水――思いもよらぬ罠に朱雷電の視界は回転し、重力が反転したような感覚のまま頭から床へと落下。
「形勢逆転、作戦大成功ってなもんだ」
「ぶひゃひゃひゃ! ふぁっふぁべはばふ!!(やったぜ鴉!)」
振り向いた鴉が、思い描いていた通りの光景を目にして勝ち誇る。
「しっかし……この噴水がこんな形で役に立つとは。まさに救いの女神さまさまだ」
朱雷電を転倒させた水の種明かし――それはこのメインフロアの中央に立つ女神像の噴水だ。
鴉はこのフロアへの到着時、最初にこの噴水に目を付け、小型爆弾を仕掛けていたのだ。
「斬羽鴉……テ、メェ……!!」
「イイ格好だぜ朱雷電。この瞬間を拝むために遠回りしたってだけでも、実に有意義な追いかけっこだった」
「なんだと……!」
水道管が破壊され、止めどなく溢れる水が朱雷電の身体を容赦なく打ち続ける。全身に纏っていた赤光は水を浴びるごとに破裂音を立てながら途切れ途切れに明滅を繰り返し、徐々に霧散していた。立ち上がろうにも力がみるみる抜けているのか、床に這いつくばるのが精一杯のようであった。
「ぬ……おおおお……! おぁあっ……!!」
「命が惜しけりゃ逃げ切れたさ。だが九闇雄から逃げたところで、伸びる寿命なんて大差も無ぇ。地獄の果てまで追われていつか殺されちまうくらいなら、こっちが殺してやる――その来るべき時までに確認したかったんだ」
「確認だぁ……!?」
「そっ。オメェの弱点に俺は一つの仮説を立てた。それが読み通りかの答え合わせよ。いつ襲われても身を守れるように用意していた小道具や特殊弾……いざ使ってみたら、ここまで命を繋げられるとは思わなかった。内心ドッキドキだったんだぜ? まさか天下の九闇雄様が、こんな下級異品が作った武器なんかに手こずるとは思えねぇしな」
「ぐく……っ!!」
「だからこのフロアに辿り着いた時に仮説を検証すべく、どうせ殺されるくらいならの半分博打で勝負に出た。そして確信したぜ……オメェの弱点をな」
水はあくまで足止めの為の最後の切り札。だが過度に警戒されては、いざ使おうにも失敗も有り得る。
故に閃光弾、発煙筒などを用いることによって、視覚的に噴水の存在を伏せるだけでなく、視界が晴れる頃には最早鴉を殺すことに一点集中――彼への殺意を極端に強くさせ、確実に不意を突く隙を作りたかったのだ。
「いいぜ。狐の姉ちゃん。もう出てこいよ――」
無論、彼一人では成功しなかった。鴉の声に応じて、その協力者の足音が静かに響く。
最上階から一気に飛び降り、颯爽と現れる一人の少女。その背中に創伍をおぶったまましなやかに地上階へと着地した。
「ほら、いつまで咥えてんだよクソっ鳥。さっさとその子寄越しな!」
「おぁ……んぅん! 俺ぁ命の恩人だぜぇ!? もう少し堪能させてくれたっていいじゃんか……」
「さぁ、鴉! 早く出口に案内しなよ。あんたと一緒にこんな地獄に居たら、他にどんな無茶な命令されるか分かったもんじゃないからね!」
「うるっせぇな、本物さんは楽してた癖に。俺の言った通りになったんだからガタガタ抜かしてんじゃねぇ」
麟鴉の嘴から織芽を引っ剥がす彼女こそが、本物の乱狐だ。
朱雷電と激闘を繰り広げていた乱狐達の分身は、全て鴉の指示通りに動かされていた。
その間、本物の乱狐はというと、創伍を匿ってひたすら息を潜めていたのだ。
重傷である織芽と創伍――この二人を連れたまま朱雷電の足を止めるのは至難。分身の乱狐に創伍達のダミーを運ばせ、遠ざける手も考えていたが、乱狐曰くダミーの生成にも多量の闘気が伴うという。複数体の用意には到底時間は足りず、囮役の分身とダミーがすぐ潰されてこちらの手の内が読まれれば、もう時間稼ぎにもならない。
朱雷電を確実に罠に嵌め、その隙に怪我人を連れて一気に脱出――という流れを組んだ鴉は、まず本物の創伍を乱狐本人に匿わせて待機を命じた。そして本物の織芽とダミーの創伍は分身に運ばせ、朱雷電の注意を引かせた後、自らは先頭に立って追われる者を演じてみせる。
織芽を放り投げるなどの危険な綱渡りも、彼女を敢えて危険に晒すことで、鴉達にもう後がないと思わせる為の演技。それが見事に朱雷電を優勢に立っていると錯覚させた。そして通路での折り返し地点で欺かれたと気付く頃には、鴉の敷いたレールの上を進まざるを得ない状況にまで追い込んでいたのだ。
水で頭を冷やされた朱雷電も、ここに来てようやく最初から鴉の掌で踊らされていたと悟る。
「と、まぁ……こうしてオメェに一泡吹かせただけでやっと胸がすいたかな。トドメ刺してやりたいとこだが、時間も無ぇし、実弾もゼロ。だから親切な俺は代わりのモノを用意しといた。上を見てみそ――」
鴉が指差したのは、この広大なフロアの天井にスチールケーブルで吊るされていた――天使像。
「……あれは……!?」
このフロアで繰り広げていた乱狐との空中戦にて、乱狐の分身達が放った拳の連撃。あれは朱雷電目掛けて打ち込んでいたのではなく、彼が背にしていた天井を砕く為だったのだ。
無作為に撃ち込まれた拳によって天井は亀裂まみれ。金具はひしゃげ、支えていたケーブルも次々と解けていき、天使像はまさに落下寸前。
「九闇雄の最期に花ぁ添えてやる。天使様のお迎えさ――」
「ぐっ……!! ク、ソぉ……があぁぁぁぁぁ……!!!!」
九闇雄が――今日まで闘いだけでのし上がってきた朱雷電が、何者にも手を下されずに無機物に潰されて死す。そのあまりに不名誉な最期を到底受け入れられるはずもなく……
「づっ……ぬぉああああああああっ!!」
鴉への憎悪か、はたまた生への執念か、腹の底から声を絞り出し、覚束ない手足に無理やり力を込めて立ち上がろうとしていた。
「やめとけ見苦しい。潔く死んだ方が九闇雄の名を汚さずに済むってもんだぜ」
「……にが、さねぇっ……」
「馬鹿が……今更何を言って――」
「――逃がさねえぇぇっ!!」
そして、水に濡れて霧消したはずの赤光が、なんと彼の腕から指先へと再び滾り、迸ったのだ。
「チッ!」
鴉も全くの無警戒ではない。護身用の特殊弾入りの銃を抜き取り、赤光を打ち消した。
先程までのより威力は若干落ちており、軌道も蛇の様に揺らいで弱々しくも見える。
とはいえ、今の朱雷電にまだ放電できる体力が残っていたとは思わず、鴉は面食らっていた。
「ヤロウ、まだこんな力を残してたか……!」
「鴉! 早くしないとっ!!」
「分かってる!」
走ってきた通路の崩落が追い付き、いよいよこのメインフロア内も崩れ始めた。最上階から柱が崩れ落ち、欄干やエスカレーターを粉砕して、ガラス片が激しく飛び散る。
そして天井に吊るされた天使像が、鴉の計算通りのタイミングで――
(どうした……ラグが有りすぎるぞ)
…………落ちてこない。
どうしたことかと鴉が朱雷電に警戒しつつ天井に目を向ける。
なんと最悪なことに、先の乱狐の分身に天井を砕かせたつもりが、打ち込みが足りない箇所が残っていた。金具の一部が天井にまだ食い付いており、そこからスチールケーブル一本だけが解けることなく天使像を吊るしてしまっていたのだ。
「乱狐……テメェしくじりやがって……!」
「えぇ!? ちゃ、ちゃんと打ち込んだつもりだよ! やったのはあたしじゃないけどさ!」
まさかの致命的なミス。朱雷電に悟られまいと闘いの中で仕掛けた細工が、分身に任せきっていたために天使像を落とし損ね、九闇雄を倒す決定的なチャンスを逃してしまう。
「……ふうんぬぅあああっ!!!!」
計算が狂い、狼狽える二人の隙に付け込んだ朱雷電が二発目の赤光を放つ。
それも鴉が反射的に撃ち返したが、彼らの命綱であった特殊弾も遂に弾が尽きてしまった。
「っ……!!」
「……弾切れだろ……!? 眉間の皺ぁ見てすぐ読めたぜっ……!」
「クソ野郎が……!」
朱雷電の腕はわなないても、まだ赤光を撃てる闘気が残っており、その放電量と熱量は依然として殺傷に足る。誰に当たっても確実に死ぬだろう。
対する鴉達にはもう身を守る手段がない。崩れゆくモール内の足場は悪く、怪我人まで連れているのだ。無防備のまま躱し切って逃げるなど至難極まる……。
「「…………!!」」
最早これまでか……声に出さずとも、乱狐も鴉も共に諦めかけていた――
「くたばんのは…………テメェらの方だあああああぁっ!!」
その時――
破裂音の直後、咄嗟に腕で顔を覆っていた鴉と、目を瞑っていた乱狐達の前に信じられない光景が映った。
「え……?」
「なっ……!!」
視界に舞い上がったのは血……だけでなく黒い羽。
赤光を受けたのは、なんと大量のカラス。斬羽鴉が、創伍達を急襲した際に従えていたあのカラスの軍勢が割り込んできたのだ。
「お、お前ら何やってんだっ!!」
数十羽分の血と羽が床に舞い散る。主の動揺ぶりからして、このカラス達は自らの命を顧みずに彼らをこの窮地から脱出させるべく、独断でやってきたのだ。
そして出口へ続く崩れかけの通路の奥からは、次々と後続の羽音が雪崩れ込んでくる。中には、そのまま果敢に朱雷電へと特攻を仕掛ける者まで居た。
「んだと……!? この畜生めらがああっ!!」
全く予想だにしなかった横槍に思わず叫び出す朱雷電。目の前の邪魔なカラスを手刀で薙ぎ払い、体内に残った闘気を使い切る勢いで赤光を放つ。
しかし軍勢が密集して盾の様に赤光を受け止めると、幸いにも創伍達にまでは届かなかった。
「鴉! 早く逃げないと、このままじゃあたし達まで埋もれ死ぬって!!」
「やめろっ! お前らが束になろうと敵う相手じゃねぇ!! 勝手な行動すんなっ!!」
だが一方で、鴉にとっては身が張り裂けそうな惨状だ。自分の命令に背いて身代わりになっている同胞達の儚い死を、ただ見ることしか出来ない無力感に押し潰されそうで、乱狐の呼び掛けなど耳にも入っていなかった。
その混乱に乗じて――
「はっ!? バカ、やめろ……! 返せっ!!」
一羽が、鴉の腰のポーチに忍ばせてあったある物を器用に足と嘴で奪い取る。
それは、万が一に備えてあった自爆用の真火飛鴉とその起爆リモコン。朱雷電に勝てないと見るや、道連れにするつもりで使おうとしていたものだ。
だが、一羽のカラスはリモコンを嘴に咥え、両足で爆弾を抱えたまま一直線に天井に向かって飛んで行くではないか。
……そう、ここで使う目的はただ一つ。
我が身を犠牲にそれらを天井で爆破させ、吊るされたままの天使像を朱雷電に落とそうというのだ。
「やめろぉっ――!!」
主の叫びも虚しく……一羽が咥えた爆弾は天井にて、凄まじい衝撃と光を放つ。
既に崩壊寸前だった天井は爆撃が後押しとなって容易く崩れ落ち、支えを失った天使像も落下。
フロア全体を支える柱やエスカレーターも瓦礫に巻き込まれ、一つの塊となりフロアの中央へと落ちて行く。
「っ!! こんなものっ……!」
その真下で、頭上に迫る光景に大きく目を見開く朱雷電。
両手を伸ばし、残された赤光を放って天使像の破壊を試みるが……
「認めるかっ……この俺がこんな所で死ぬなんざっ!!」
闘気が尽き、赤光が彼の全身から消え失せる。そして彼のけたたましい叫び声と姿も……
「俺がああああああっ――!!」
天使像と、大量の瓦礫に飲まれて掻き消えた。
「鴉ってば!!」
「鴉! 気の毒だが……出すぜっ!」
「…………っ!!」
朱雷電の追走を振り切った以上留まる理由はない。
織芽と創伍を連れ、乱狐が走り出す。仲間を見殺しにした罪悪感に苛まれる鴉を乗せ、麟鴉も駆け出す。
積み木を抜かれた砂上の楼閣の如く、柱の崩落から均衡を失ったメインフロアは、上階から床と壁の区別なく押し潰され、完全に崩壊する。
二組はその轟音に背を押されるように一心不乱に走り抜け、ようやく目的地としていた地下駐車場へと辿り着くのであった。
* * *




