ep.18「日常の延長線」
蓮也のスマホでゲームをしながら、ふと昨日のアイリーンからの手紙を思い出す。
(……鍛えておきなさい、か)
あの二人は“素質”としては十分だ。
だが──
(やり方を知らない)
それが問題だ。
視線を上げる。
蓮也はノートパソコンと呼ばれる物を操作している。
嶺二は無言でコーヒーを飲んでいた。
小さく息を吐く。
そして。
「少し外に出るぞ」
ゲームが一段落ついてから口を開いた。
「は?」
蓮也が顔を上げる。
「急ね」
「必要だからな」
「何がよ」
少しだけ間を置く。
「鍛える」
沈黙。
「……は?」
同時に声が重なった。
「いや待って」
蓮也が手を上げる。
「急に何言ってんの?」
「お前たちが勇者だ」
「異質とは聞いてたけど……はぁ? 」
「勇者って一人じゃねぇのか」
「異例だが二人揃って、だ」
「そもそも、どうして勇者探しなんてしてたのよ」
「……話さなかったか?」
「聞いてねぇな」
「俺の元居た世界──クリスタリア王国の魔導師棟に設置されている魔鏡が“世界に仇なす者”の誕生を予知した。つまり魔王だ。そして単純思考の陛下が勇者が必要だ探して来い、と」
「魔王なんて……本当にファンタジーだわね」
「昨日のアイリーンからの手紙では魔王はまだ誕生してはいないと。だが、準備は早い方がいい」
「いや、それは分かるけど」
眉を寄せる。
「場所とかあるでしょ普通」
「外でいい」
「雑すぎない?」
「問題ない」
嶺二がグラスを置いた。
「……どこ行く」
短い問い。
「人の少ない場所だ」
「……分かった」
◇
辿り着いたのは、公園だった。
広い。
人もまばらだ。
障害物も少ない。
(十分だな)
そう判断する。
「で?」
蓮也が腕を組んで俺を見た。
「何すんの?」
「簡単な確認だ」
嶺二を見る。
「動け」
「は?」
「何でもいい」
短く告げる。
「攻撃でも、防御でも」
数秒の沈黙。
そして──
「全く……指示が適当だな」
小さく呟きながら、一歩踏み出す。
その瞬間。
空気が、わずかに変わる。
(……やはりな)
視線を向ける。
動きは速い。
無駄がない。
だが、制御出来ていない。
ただ“動いている”だけ。
「次」
視線を蓮也へ向ける。
「俺も?」
「ああ」
「やだ面倒」
「動け」
「はぁ……」
ため息を吐きながら、一歩。
その瞬間。
再び、空気が揺れる。
重なる。
わずかに。
(……共鳴)
やはり、起きている。
だが──
(薄いな)
安定していない。
偶発的だ。
「どう?」
蓮也が聞く。
「何か分かった?」
「十分だ」
短く答える。
「お前たちは既に“触れている”」
「何に?」
「力だ」
沈黙。
理解は追いついていないが、否定もできないだろう。
「……実感ないんだけど」
「当然だ」
視線を向ける。
「今まで使ってこなかったんだからな」
「じゃあどうすんのよ」
「慣れる」
それだけだ。
「雑」
「本質だ」
嶺二が小さく笑った。
「……間違ってはねぇな」
蓮也が肩をすくめる。
「まあいいけど」
そのまま空を見上げる。
「で?これ続けんの?」
「気が向いた時でいい」
「適当すぎるでしょ」
「問題ない」
そう判断する。
魔王はまだ誕生していない。
ならば、急ぐ必要もない。
風が吹く。
静かな空間。
特別なことは何も起きていない。
だが。
確かに。
少しだけ──
変わっている。
(……まあいい)
小さく息を吐く。
これもまた。
日常の延長線に過ぎないのだから。




