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君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


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28.首のかけどき

「デニスは、エレインのように生まれた家や場所、両親を無意味で無価値なものとはしないのですね。」

辺境伯家の実子様には、ご領主の実子でいらっしゃるご自覚もおありだ。辺境伯家の実子様が雄弁になられている理由も、僕には推察できる。


エレイン自身の振る舞いの図々しさと、領地に生まれた領民のエレインの隠しきれない領地への無関心さと、他の領民を自分以下にしか考えないエレイン自身の了見の狭さは、エレイン自身の言動によりエレインを養女に迎えざるをえなかった辺境伯家の実子様にとって、苦痛であり続けたということを話せる人が、辺境伯家の実子様の周りにはいらっしゃらなかったからだ。


僕のことは、エレインにかけられた苦労を分かってくれる人としてじゃなく、苦労話を信用して話せる人を見ておられる。僕と話をされたいのは、風穴をあけようとされているから?


辺境伯家の実子様があけたがっていらっしゃる風穴は、どこ?

エレインについて言及されてこられた中で、エレインに困らされた話よりも、僕がどう考えていたかに興味を示されている。


「村長になるために生きてきた時間も、村長としてある時間も、私を今の私にしてきました。」

辺境伯家の実子様との結婚を望んでおいでの王太子様の領分をおかすことなく、辺境伯家の実子様のお求めになる答えを探してお出しする。辺境伯家の実子様が嫌うことは口にしていない。王太子様が僕に期待しておいでの筋道と同じではないけれど、マルク様からの制止はまだない。ひとまず、このまま喋ってみる。


「わたくしは、村長として生きているデニスに確認したいことがあります。デニスの住んでいる端っこの村の村長は、何を知っているのですか?」

辺境伯家の実子様は、僕とご統治のお話をされたいんだ。まだおっしゃっていないお話とともに。


辺境伯家の実子様が僕に統治の話を持ちかけることをソロアは予想していた?

僕は、予想していなかったよ。僕は、ソロアに好きと伝えるために走ってきたんだ。ソロアに好きと伝える前には死ねないよ。伝えた後も、僕はソロアと長生きしたい。


辺境伯家の実子様から目をそらしてソロアの様子を確かめたい。ソロアは静かに控えている。物音を立てずに主人のために控えている姿は、ソロアが侍女として辺境伯家の実子様の後ろに立っていた時間を伝えてくる。


今も、ソロアは主人を大事にしているんだ。主人を一人にしないために、主人のためにひかえている凛としたソロアは綺麗だよ。目で追えなくても、主人のためにある姿勢。


僕は、ソロアの大事にしているものも一緒に守るよ。

僕とソロア僕は、一緒に僕の夢に向かって力を合わせて進んできた。僕は二本の手に、ソロアの手と息子の手を握るから、ソロアは息子の手と主人の手を握って。


「お答えすることは、私が経験したものに限らず、伝聞により知った内容も混ざった、私の中で真実としているものを含めても構いませんでしょうか?」

これから話すことは、笑い話で済まない。首を賭けてする話になる。


「構いません。デニスの関心は、自分が住んでいる家の周りだけにとどまっていません。集めた情報のうち、自分の内に置くだけの理由があるものをそのように扱っているとみなします。」

「ご質問の何を知っているか、でございますが、そのお話をさせていただく前に、一つお知り置きください。」

「言ってみなさい。」


「辺境伯領の端っこの村と基本的に辺境伯家の文官との関わりは税の徴収のみです。税を上げる余地もないので、文官から村々へのお達しはまずございません。端っこの村の村長には、ご領主様のご意向を文官を通じて知る機会がございません。村長が何も知らない状態でいては、村を捨てる決断さえ間に合わなくなります。私どもは、辺境伯領の端っこの村とそこに住む村人の暮らしを守るために必要な情報を集める中に、辺境伯家からの下知はございません。」


僕がお話した事実について、マルク様からの反応はない。マルク様を部下に持つ王太子様は、辺境伯家の実子様が辺境伯領の統治についての事実をお知りになることを許しておられるから?


辺境伯領内にいる村を捨てた村人と話をされているマルク様は、端っこの村と端っこじゃない村や町の両方に足を運ばれている。


王太子様の部下で辺境伯領の領民じゃないマルク様の方が、辺境伯家の実子様よりも領内の歴史や実情に通じていらっしゃる。


ご領主の実子様でありながら、辺境伯領の端っこの村々の文官を務められてきたという話が、辺境伯家の中で、端っこの村々を任されている文官は、中央に縁を繋げられない左遷された人がなるものだという話を聞いた後では、ひどく不安定な話に受け取れる。


エレインについてだけでなく、統治についても、僕と話をされたいと望まれた理由。


「辺境伯領の端っこの村は、辺境伯領であったにもかかわらず、税の徴収以外の統治は及んでいなかったのですね。」

僕のよく知る話題なので、辺境伯家の実子様のご質問に間を置かなくても済む。

「辺境伯家が手を引いても、村として機能している村が辺境伯領の端っこに残ってさえいれば、形は整います。」


「デニス。領主家のわたくしにそこまで言えるのは、何かを聞いて知っているからですか?」

大きく一歩、踏み込んでこられた。

「誰からも何も聞いておりませんが、辺境伯領の端っこの村の村長として、辺境伯領が変化していることは感じ取っています。」


「いつからですか?エレインが村を出てからですか?」

どう掘り下げていくかを考えあぐねていらっしゃる。


「変化はエレインが生まれてからの話ではございません。もう何十年以上も前からです。何もなければ、私が村長を務めております村に、ご領主一族にお仕えする平民の一族の娘を嫁に迎えたいなどと畏れ多いことは申し出ませんでした。」


「何十年以上も前に何があったのですか?デニスの祖父が村長だったときよりも前の話ですか?」

辺境伯家の実子様のご質問を待っていては、掘り下げるところまで、話をおろせない。

「辺境伯領の端っこの村々の様子は、いつごろお知りになりましたか?」


「記録に残る話ではないということですか?」

辺境伯領の実情について、今日、初めて知れたのが、辺境伯家の実子様ご自身のご意思によるものか、家の判断かは分からないけれど、否定されずにお聞きいただける機会だ。


「私の村の話をします。父の代には、先行きの明るい話題は出なくなっておりました。」

迷わず、話す。

「デニスの祖父の代に起きた、文官によるいくつかの村の村長の処分が原因ですか?」


マルク様もソロアも何も言わない。止められないなら、僕は話す。


「処分された事実は今日初めて知ったことですが、端っこの村にとって、一部の代表が処分されただけで終わり、何もなかったことが、村長としては問題です。」

辺境伯家の実子様は、重々しくお尋ねになった。

「もっと重い処罰が必要でしたか?」


辺境伯家の実子様に会話をお任せしなかったことに安堵しながら、ご説明する。

「代表全員が騒乱罪で処罰されることと引き換えに、ご領主様に村の状態が伝わり、ご領主様から援助をという覚悟で訴え出た結果を端っこの村の村長の立場で申し上げますと、訴えそのものなかったことにされたと伝えるように命じられて何人かの代表が生きて村へ帰されることほどの絶望はございません。」


僕の意見の中身を想像されていなかったからか、ハッとされてから、姿勢を立て直される。

「村長達は、援助の訴えをすることに死を覚悟していたのですか?」

「国策で集められた端っこの村に住む村人と辺境伯家の関係は、辺境伯領の領民といえども、近い関係ではありませんでした。」


辺境伯家の実子様は、文官になってから見てきた資料を思い返してみました、とおっしゃって続けられる。

「端っこの村々から税を徴収しても、その税収では何もまかなえません。統治するための人を出す費用をかけないために統治はしない、援助するだけの成果を見込めないから援助もしない代わりに、村人が暮らしていく分には手を付けないということだったのですね。」

「代表を出した村に援助がいくときは、その代表の首がとんだ後という覚悟がない村は訴えにいきません。」


「村長のデニスは、そう解釈するのですね。」

辺境伯家の実子様は、既に衝撃を受けておられた。僕がこれさら話すことは、さらなる衝撃となるだろうけれど、耐えて事実としておさまるところにおさめるようにしながら、お聞きいただきたい。

「村に生きて帰ってきた村長がいたことは、終わりに向かう村の未来に手を出さないという意思表示を見せられたのと同義です。」


辺境伯家の実子様は耐えられた。

「絶望の中で、端っこの村々はどうしたのですか?」

「父の代は村人の団結を強め、私が村長になるまでもちこたえてきました。」

「デニスの父親も、村長として危機を乗り切ってきたのですね。」


「開拓民が村を捨てたのは、祖父が村長をしていた代で初めて起きたのではありません。」

事実に耐えていただいたなら、実情もお伝えする。

「村人が村を捨てるようになったのは、いつからですか?」

「最初からです。国策で開拓民を置いたものの税の徴収が見込めない村なので、捨てられた村の記録は残らず、村を捨てた村人がおいかけられることもありません。」


「領地の管理方法が村人の間に広がっているのですか?統治の上で問題です。」

「開拓が始まったときからの話です。伏せていた話が村人の間で広まったのではなく、そのようなありさまが当たり前になっていました。」

「国策で広げた土地を放棄するのは、最初から当たり前だったのですね。」

最初から当たり前にしたから、餓死者と浮浪者が増えて、村人が盗賊化することはなく、辺境伯家が辺境伯領の統治に手こずることもなかった。これは、あくまで僕の見解。僕が僕の見解を口に出さないのは、さらに掘り下げることが別にあるから。


「ご領主の実子様。辺境伯の端っこの村の村人は、村を捨てても国境を越えません。村を捨てても国を出ない理由を推察されませんか?」

「我が国、ザンバーグ王国の民は、村を捨てても国まで捨てません。」

貴族様との違いを村人が実感するお言葉だ。矜持は、暮らしていけない現実に勝るの?


「ご領主の実子様。村人が誰も国境を越えていかなかった理由は、隣国との国境を越えたところで豊かな実りを期待できない土地が続いているからです。」

僕の矜持は、暮らしを守るためにある。

「豊かな実りが約束された土地なら国境を越えていたのですか?」


「仮定の話には返答しかねます。事実として、誰も国境を越えたがりませんでした。隣国とは地続きですが、隣国は国境近くを耕作地にはしていません。隣国との国境を超えてくる人の中にそのへんにいそうな村人はいません。隣国から国境を越えて入ってくるのは、国にいられなくなった人か野盗です。」

「国境の領地に開拓民を置いて、辺境伯領の拡大と安全を目指した国策は、最初から破綻していたのですね。」

辺境伯領の実情がなぜそうなったかについて納得いただけた。


「初代のご領主様は、辺境伯領の拡大の際に自領の民を一人も入れませんでした。」

辺境伯家が、開拓民の開拓村を作る国策を持ってきた王家に反発していたか、抵抗の証しとして、手を出さないと決めていてもおかしくない。領地の拡大、ひいては領土の拡大を掲げた国策だけど、辺境伯家の負担にしかならない国策だ。王家と辺境伯家の間で揉めていて、王家が辺境伯家の力をそごうとしたように見れないこともない。


「開拓が負担にしかならないと知っていた辺境伯家は手を出さず、国策として進めた王家が、辺境伯領の外から国境の端っこの村へ人を集めたのですね。」

王太子様の友で部下のマルク様が同席されている状況で、当時の王家と辺境伯家が仲違いしていたのでは、なんてことは言わない。


「端っこの村は辺境伯領ですから、領地の管理は辺境伯家に任されています。」

「当家は、端っこの村の村人が村を捨てて逃げ出すのを最初から黙認してきたのですね。」

辺境伯家の実子様のご理解が追いつかれた。


「村人が逃げ出す先も辺境伯領内です。開拓民の村の村人は辺境伯領内での移動だけを黙認されています。」

辺境伯家の実子様は、安心したように微笑まれた。

「デニス。わたくしよりも詳しいのですね。」


「私が詳しくなったのは、辺境伯領の端っこの村の村長として生きていくためです。」

辺境伯家の実子様から、僕を確かめようとするご様子が消えた。

「では、デニス。今日からは、わたくしのために働きなさい。」

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