4 悪役令嬢に転生した干物女はジャージを着たい。 ☆挿絵あり
前回までのあらすじ
ウローンティーと串かつウメェですわ!!
「姉上、ロブソンに婚約破棄されたと聞きました!!」
他国に留学していた弟クロムが帰ってきた。
広間でダンスレッスンしていたところだったから、弟の声がよく響く。
家に飾られている絵で見ていたから弟の顔は知っていたけれど、私としての対面は初めて。
クリティアにすごくよく似てるわ。
「落ち着いてクロム。もう済んだことよ」
「……これが落ち着いていられ……って、なんなんです姉上、その珍妙な格好は!?」
「珍妙ではありません。これはマダム・ソアラに依頼して仕立ててもらったジャージですわ!」
ドレスはコルセットが苦しいから着たくないし、かと言ってメイド服は使用人たちがやめてくださいと言って泣く。
だからフローレンス家お抱えの仕立て屋に絵を渡して作ってもらった。
今着ているのは試作品第一号だ。
これなら一人で着替えられるし、締め付けられないし、動きやすいし、汚れるのも気にしなくて済む。
ジャージ最高!
「ロブソンに振られてそんなにショックなんですか、姉上。その格好は、なんというか、……奇抜、です」
「文明開化ですわ。日本に洋服が入ったときも奇妙、奇抜と言われていましたし。時代の変革とはそういうものです」
「…………そうですか。姉上が気に入っているのでしたら、俺はもう何も言いません」
クロムはあいまいな笑みで引き下がった。
「ところで、なぜ今ダンスレッスンを。姉上はもう完璧に踊れるはずなのに」
「腕が鈍ったので一からやり直しています」
実際のところ、鈍るどころか知識無し。
一般庶民がワルツを踊る機会なんてあるはずもなく。
さっきから先生の足を何度も踏んで泣かせていて、申し訳ない。
子爵家の名に泥を塗らないくらいにうまくならないと。
中高で体育の成績は5段階評価の2だったから、私の運動神経についてお察しでしょう。
「そうだわクロム。あなたちょっと手伝ってくれる? 実は男性用のジャージも試作してもらっているので、あなたもジャージを着て踊ってくださいな。マダム・ソアラに着心地と使い勝手を伝えて品質向上をはかるのです」
「こ、これを俺が着るんですか……」
クソダサいから着たくないと顔に書いてあるね、弟よ。
あえて口に出さないところは、さすが貴族の紳士。
姉に勝てない性格なようで、しぶしぶながらも着てくれた。
「とっても似合うわ。さすがクロム。何でも着こなせるのね」
「ありがとうございます」
全然嬉しくなさそうに答える。こんなに動きやすいのに。
「さぁ、レッツダンシング!」
クロムと組んでダンスレッスンを続ける。クロムが目を見張る。さっきまでタキシードだったから、動きの違いを実感しているようだ。
「ジャージとはこんなに伸縮性があるのか。どんな体勢でもきつくない」
「そうでしょうそうでしょう!」
これを国に広めて、ジャージを文化にすれば私がジャージでいても目立たない。よきかな。
「お嬢様、ミーティア伯爵令嬢がいらしています」
「通して」
今日もミラが遊びに来てくれた。
「ごきげんよう、お姉様、クロム様。わたくし、お姉様を見習って料理をしてみましたの。味見をしていただきたくて持ってきました」
「いらっしゃい、ミラ様。ちょうどよかったわ。休憩にしましょう」
テラスに出てテーブルにお茶が用意される。使用人の皆さんいい仕事してる。
ミラが堂々とバスケットから取り出したのは。
「わたくしが初めて作ったクッキーです。めしあがれ」
自称クッキー、形はきれいだけど80%くらい炭色になっている。
なんで初心者なのにクッキーなんていう難易度高いのに挑戦しちゃったんだミラーー!!
クロムも衝撃で凍りついている。
「きれいにできていますね、ミーティア様。味も、その、斬新で」
なんとか半解凍して褒め言葉を絞り出す。褒めるところが形しかない。ニオイは香ばしいを通り越して炭。
「そうでしょう? 爺やも婆やも褒めてくれたの」
使用人たちの気持ちは察するわ。
こんな可愛い子が自分のために作ってくれて、天使のような微笑みで感想を聞いてくるんだよ。
マズいって言えるか。
根性で食べて、口の中がジャリジャリする。
「お姉様、どうでしょう?」
「とても良いわ。次は私と一緒に作りましょう」
「楽しみですわ!」
焼き時間の指導をしないと、この子、また炭を錬成するわ。
クロムも苦味を消すためにお茶をがぶ飲みしている。
「お嬢様、ロブソン男爵からお手紙が届きました」
懲りないなアイツ。
「婚約解消になったのに、姉上になんの用なんだ」
クロムが横からかっさらって封を開いた。文面に目を走らせて顔をしかめ、ジーニャに渡す。
「ゴミだ。燃やせ」
「かしこまりました」
今日もまたロミオメールが燃えていく。





