襲来と戦闘。
「――きゃああッ!」
翌朝、僕の目覚ましはシレーナの悲鳴だった。頭の中に直接響く悲鳴は僕の眠気を吹っ飛ばした。テントから飛び出ると、そこにはシレーナを連れ出そうとしている腰に婉曲した剣を差し、頭には手ぬぐいを巻いている盗賊のような格好をした男10人がシレーナの豊満な身体を舐めるように見る姿が確認できた。
「グヘヘっ、嬢ちゃん良い体してんじゃん」
「おいおい、最初は俺だろ? 指でも咥えて待ってろよって」
「てめぇらうるせぇよ。ここから移動するのが先だ!」
(しまったッ! 敵意感知の発動が確認できなかった……それより早く助けないとッ!)
「おいッ! 何やってんだッ!」
僕は一瞬だけこちらに意識を向かせるよう大声を出す。
「何だッ!?」
盗賊共の意識がそれた僅かな隙に高速で盗賊の間をすり抜け、奴らに捕まっているシレーナを確保する。シレーナはいきなり抱きかかえられ、ビクッと身体を震わすが、目線を上げると見慣れた真紅の鎧に安心したのか目尻に涙を浮かべる。
「オリジンっ! 怖かったっ……怖かったよ……ッ!」
「申し訳ない。今は少し我慢していて下さい。」
「うん……早くして、ね?」
「おいおい、俺様の獲物を横取りってのは良い度胸、だ、な……」
「――喋るな、下衆が。」
僕らが会話をしている所に割り込み、おちゃらけた様子で盗賊の頭領が言外に邪魔するな、と伝えてくるがその言動に、そしてマスターを攫おうとしたことに怒りを覚えた僕は無意識に常人には出せないほど濃密な殺気を放つ。
濃密な殺気に当てられた盗賊達はドサッと地面に腰を落としてしまう。僕はシレーナを連れて頭領の前まで歩くと、奴の襟を力任せに掴みあげる。
「ひ……ッ!」
「おい。このまま去るか、俺に殺されるか。選ばせてやる」
「……おい、お前らッ! とっとと逃げるぞッ!」
真紅の鎧の僅かな隙間から見える僕の双眸に明確な殺意が浮かんでいることに気づいた頭領。僕は襟を離すと、真っ青な顔をした頭領とその仲間は直ぐに森の奥へと走って行った。
僕は彼らの気配が離れると未だ胸で震えるシレーナを抱き締める。
「マスター、すいません。僕がいながら、このような事になってしまって……」
「……ううん、直ぐに助けてくれてありがと……でももう少しこのままでいさせて?」
「はい」
シレーナの震えが止まるまで胸を貸している僕は改めてステータスを確認する。
(ちょっと申し訳ないけど……なんでスキルが発動しなかったんだ?)
ステータス
名前:オリジン(ロアノス)
種族:人族(使い魔)
職業 :神装騎士
レベル:1
体力:2400
魔力:800
筋力:100
耐久:101
敏捷:120
知力:130
【魔法適正】
火 水 土 風 光 闇 無 雷 氷 時空 聖
【固有スキル】
・剣技透写(強制発動)
・――――(任意発動)
【スキル】
[戦闘時強制発動]
・魔法攻撃強化
・物理攻撃強化
・被ダメージ軽減 etc...
[常時発動](任意選択)
・異世界言語習得 on
・身体能力上昇 off
・魔力感知 off
・敵意感知 off etc...
【装備】
武具:魔装剣・オルタナティブ
(うっわ……よく見たらオフになっとるやんけ……おいおい、しっかりしてくれよ。それに盗賊達が簡単に退いてくれて助かった。)
僕はありきたりなミスを犯しながら昨日の自分を思い返す。
そんな事を思っていると、シレーナの身体が不意に動いたので自分の胸の方を見ると上目遣いに見てくるシレーナと目が合った。
潤んだ瞳で見つめられる僕は石化したように固まるが、僕の頬は真っ赤になってるのがなんとなく分かる。この時ばかりは兜を被っていて良かったと思う。
「な、なんでしょう?」
「いや、その……お腹すいた。」
「ぷ、ふふ……あははっ!」
「わ、笑うことないでしょっ!?」
顔を真っ赤にして叫ぶシレーナ。いつも通りに戻ったことに安心した僕は昨日の晩と同じようにアイテムボックスを開いて食べ物を出した。
昨夜食べた量を思い出して、3人分を出したのだが……
「ちょ、ちょっとマスター、その華奢な身体のどこにそんな量が入るんですか?」
「もぐもぐ……ん? 私も分からないわ、でもオリジンの料理が美味しいのは確かよ」
「それは、嬉しいですが……」
軽く3人分は平らげているシレーナを見て僕は呆れた声を出す。シレーナがさり気なく僕の料理を褒めてくれるので、食べ過ぎとは言えず僕は何とも言えない気分になる。
それからは食後の紅茶を出し、シレーナは食休みを僕は先程の考察を始める。
(どうしてここに盗賊が……もしかしてクロウディア家の家出が民間までバレたとか?)
「ねえ、オリジン? そろそろ森から出ない?」
「いいですね、そうしましょう」
僕は考え事をやめ、直ぐに夜営の片付けを行う。そのときにシレーナの格好は目立つと思い、『魔術師のローブ』というアイテムを取り出す。真っ黒なローブが実体化すると、それシレーナの肩に乗せ、胸の前のボタンを留めると徐々にシレーナの身長に合うように調節される。
「オリジン? これは?」
「『魔術師のローブ』というアイテムです。効果は魔力の操作の補助と長さの自動調整ですね」
「魔力操作の補助っ!?」
いきなり驚愕の声を上げたかと思うと、キラキラした瞳で僕を見つめてくる。
「はい……ど、どうしたんですか?」
「これ、くれるのっ?」
「勿論です、それに今の格好では怪しまれそうです」
「あ……あはは……そういうことね……」
明らかに落胆した声音で、項垂れるシレーナ。
僕はどうして項垂れているか分からず困惑するが、立ち直ったのようでシレーナはずかずかと無言で獣道を歩いて行く。僕はシレーナがどこへ行くのか、そしてこの辺りの地理も分からないのでついて行く。
少し歩くと、明かりが強くなり、正面からは森の外が見えてきたので、シレーナは行き当たりばったりで歩いたわけではなかった。
僕はシレーナと共に森から出た。
そこには、広大な草原と美しい青い大海に挟まれる白銀に輝く城壁がそびえ立っていた。
「すげぇ……」
「えっとね、あれが城塞都市アウストラリスよ。海を挟んだ向こう側にあるレイザル魔法帝国との防衛地点として王都よりも頑丈で堅強な城壁が築かれているの」
「なるほど……あそこが街道ですね。行きましょうか」
少し先には舗装された道があり、馬車や剣や杖を持つ男女の歩く姿を見つけると僕はフードに顔を隠したシレーナを連れて歩いて行こうとした。
その時、森の奥から激怒を孕む怒濤の咆哮と、森に似合わない荒れ狂う風が僕らの体を叩くように吹き付ける。
「きゃっ!」
「む……何かが迫ってきてますね……」
僕は先程ステータスを確認したときに【スキル】の[常時発動]欄を全てオンにしておいたおかげで中々強大な魔力を保有するナニカが僕ら目掛けて飛翔してきているのが分かる。
僕はこの気配が危険だと思い、シレーナと森から離れ、街道まで来ている。僕らのちょうど近くにいた剣を持つ人達の会話を耳に挟んだ。
「この咆哮は……インフェルノドラゴンか!?」
「やべぇな……天災害級指定モンスター、か……」
「早く、アウストラリスの冒険者ギルドに伝えに行けッ!」
「分かってるッ! この時間って王族が来るんじゃなかったか!?」
「マジかよ! やばすぎるだろッ!」
「「インフェルノドラゴン?」」
彼らの会話に僕とシレーナは聞き慣れない言葉に頭の中に疑問が生じる。僕らの呟きを聞いていたのか、偶々隣にいた二振りの短剣を腰に装備し、最低限の防具を着る赤い髪の女性が話しかけてきた。
「もしかして、知らないのかしら?」
「はい、知らないですね」
「珍しいわね、貴方みたいな鎧を着ていれば知ってそうだけど?」
「いやいや田舎生まれでして、都会には疎いんですよ」
「……ふぅん、そういうことにしとくわ。」
兜に隠れた双眸を見つめる彼女の赤い瞳は僕自身を見透かし、値踏みしていた。見知らぬ人をいきなり不躾に見ることに躊躇しない点で彼女は物怖じしない性格なのだろうと僕は思う。
(深く追求されたら僕も弁明できないから……彼女が折れてくれて助かった。)
「さっきの咆哮の正体は恐らくインフェルノドラゴン。天災害級指定モンスター、要するに都市を壊滅させる事が出来る力を秘めるモンスターね。それに真紅の鱗、血走る眼、そして名前から分かるように爪と尾に炎を纏ってるわ」
「なるほど…僕でも倒せそうですか?」
僕はなんとなく興味をそそられたので聞いたが、予想していた答えを超える答えが返ってきた。
「無理ね。断言できるわ。貴方が冒険者じゃ無いなら尚更よ。Aランク冒険者を掻き集めて多大な犠牲を払って漸く撃退できるモンスター――」
「ギャアアアアッ!」
彼女の言葉を遮るように巨大な真紅の龍が森の奥から滑空し、この広大な草原に姿を現した。
この広大な草原に紅一点と言えるほどの圧倒的な存在感を誇り、この場にいる全員は龍の放つ圧力を受け、気絶する者までいる。
真紅の双眸がある1つの馬車に向く。装飾が凝っており、全方向に護衛の騎士を配置している馬車、恐らく王族の馬車だろう。
インフェルノドラゴンはそれを獲物に見定めたのか、翼をはためかせ飛翔していく。
そこら中から悲鳴が上がるが、赤髪の女性はいち早く馬車に向かって走っている。
「マ、マスター! 召喚獣の扱い方は知っていますか!?」
「知ってるけど……まさかっ!」
「急いで下さいッ!」
「う、うんッ! インフェルノドラゴンを撃退しなさい!」
「了解ッ!」
僕は召喚士の命令を受けると、体内の血流が激しくそして多量に流れるようになる。
僕の視界がモノクロになる。
周囲の音がかき消える。
僕の目には幾重にも重なる魔法陣が浮かび上がった。
次の瞬間、僕は地面を蹴る。一瞬にして掻き消え、僕は赤髪の女性を抜かしインフェルノドラゴンと併走する。ふと見上げるとそこには今すぐにでも口から炎を吐く態勢に移っているインフェルノドラゴンを見た僕は魔法を放つ。
「『我が魔力に呼応し水の精霊。万象を斬り伏せる刃となれ。』【水刃】」
僕がそう紡ぐと僕の頭の位置から太刀のように巨大な水で出来た湾曲した刃が3本生成させると同時にインフェルノドラゴンの今にも炎を吐こうとしている口に向かって飛んでいく。
ガキィィンと鱗に弾かれた音がなるが……
「グルァァ!?」
間隔を遅らせた最後の水刃が傷つけられた鱗を貫き、肉を僅かながら斬り裂いた。その衝撃に気を取られた影響で口に生成していた炎が暴発し、ダメージを受けたインフェルノドラゴンは墜落した。
「インフェルノドラゴンを傷つけた!?」
「す、凄い! でも見た事ない魔術……あれって中級魔術……なの、かな?」
そんな周囲の声に僕は答えずに追撃を仕掛ける。
『魔法もゲームのままにしてあります。』
そんな女神様の言葉が脳裏に浮かんだ瞬間に僕は直ぐに口を開いた。
「『我は紡ぐ――」
僕は詠唱を開始した。僕の足元には三十の翡翠色の魔法陣が虚空より出現する。
「――大地を育む叡智なる土の精霊よ、繁栄と生命を司る全能なる神々よ。今ここに新たな生命を創り出す息吹を上げ給え。』――」
三十の魔法陣が天に向けて光を放つ。
「――【土兵創生】」
光が消えるとその場所には業物の剣を装備し、金属製の鎧を着る土で出来た兵士が地に片膝をつき、僕に頭を下げ、片膝をついて跪いている。
そのうちの一体が僕を見上げると、流暢な言葉遣いで口を開く。
「……我ガ主人、ドウゾゴ命令ヲ。」
「毎回済まないな。後で説明するから、今はあのドラゴンの相手をする俺のサポートと俺のマスターの護衛を頼む。後はあそこにいる赤髪の女性と協力して馬車の乗員を救ってくれ。」
「「「我ガ剣ハ主人ノ為ニ。」」」
僕が創り出した土兵達は3つに分かれ、1つはシレーナの護衛に、1つは襲撃された馬車の救助、そして最後の1つは僕の援護、とそれぞれが僕の命令に従って動き始める。
僕は墜落したインフェルノドラゴンがようやく起き上がり、のっそり立ち上がると翼をはためかせ、空へと上昇する。それを見た僕は、僕の援護をする土兵に指示を出しながら駆け出す。
「ソルジャー1と2は僕と正面から攻撃だ、3と4は背後から魔法を使え!5と6はそれぞれ側面から攻勢をかけろ!」
「「「了解ッ!」」」
僕が命令を下すとそれぞれが行動に移る。
土兵とは思えないスピードで駆ける姿は見慣れない者からしたら脅威だろう。
土兵に感情は無いが、心はある。
「ソルジャー1! 俺を魔法で吹っ飛ばせ!」
「風属性上級魔法デヨロシイカ?」
「お前に任せる、上空に飛べるなら何でもいい。お前の技量なら不可能は無いだろう?」
「ハハハッ、信頼サレテイルノナラ行動デ示メサナケレバイケマセンナ……。
『求メルハ、地ヲ揺ルガス風、嵐ノヨウニ猛ル風、台風ノヨウニ渦巻ク風。万物ヲ穿ツ風ナリ。』【嵐風迅】」
僕の足元丁度に生成される1つの魔法陣。
刹那、一筋の風が吹いた時。僕の体を、視界を揺らし、いつの間にか僕はインフェルノドラゴンの留まる空よりも高い位置にいた。
「喰らえ!」
僕は背の《《通常モード》》の『魔装剣・オルタナティブ』を引き抜くと、上段に構え重力に従い落下する勢いを利用してインフェルノドラゴンの双眸、いや右目目掛けて振り抜いた。
サクッ、という斬れる軽い音が鳴るとインフェルノドラゴンは怒りと痛みの咆哮を上げ、直ぐに空中の無防備な状態の僕目掛けて突進してきた。
「がッ……!」
真っ正面からの突進を喰らった僕は地面に向かって高速で墜落していくが、地面とぶつかる前にソルジャー1と2が衝撃を受けてくれたおかげで僕はダメージは無いが2体の土兵は魔力を失い、地面へと還っていった。
まだ突進の衝撃が残っているのか、軽い脳震盪が起こっているがそんなの気にしてられないと『魔装剣・オルタナティブ』を握り直すとインフェルノドラゴンに向かって走り出す。
インフェルノドラゴンが炎の息吹を僕目掛けて放ってくるが僕は紙一重で右前方に転がり込んで避ける。
僕がさっきまでいた場所は轟音と共に爆発した。
(おお……やっば……でもやらないと死ぬ!)
再び立ち上がり駆け出そうとしたその瞬間、
『――私が言ったとおりに動け』
脳内に直接響く女性の声が聞こえてきた。自信満々の声に僕は笑みをこぼす。
(お願いするしかないだろッ!)
「――ッ! 分かった。指示を頼む!」
『任せろ。先ずはインフェルノドラゴンの背後をとれ、それまでに剣に魔力を纏わせておけ。』
「おうッ!」
僕は【スキル】の身体能力上昇をフルに活用し、速攻でインフェルノドラゴンの四肢の間をすり抜け、背後へ移動をした。勿論魔力も纏わせてある。
『上出来だ。私が言わずとも気配を消しておくとは。翼の付け根目掛けてこの剣を投擲しろ。その時にこう言え――』
「『変幻自在の飛翔剣』ッ!」
僕はオルタナティブを投擲した。




