最終話 二人の夜
約束通り、日付が変わる前に二人はエリー王女の私室に戻ってきていた。
「凄く楽しかったね」
「はい、このように幸せで楽しいクリスマスは初めてです」
手を繋ぎ、唇を重ねる。
「今日のこのドレス、とても似合っていて凄く可愛かったよ」
「あ、ありがとうございます。セイン様に……褒めて頂けるのは一番嬉しいです」
「そう? あはは、それは俺も嬉しいや」
今にも唇が触れ合いそうな距離で会話が進み、最後にそう伝えるともう一度口付けを交わす。まだ部屋に入ってすぐの場所で、二人は抑えていた欲望を解き放ち、執拗に舌を絡めあった。
そんな中、エリー王女は今朝アルバートから貰ったものを思い出す。セイン王子の胸を僅かに押し、唇を離した。
「あ、あの……。お風呂に……」
「そうだね。じゃ、入ろうか」
当たり前のように手を引くセイン王子に、エリー王女は手を引っ張ってそれを止める。
「えっと……今日は別々に……セイン様からどうぞ」
普段なら断ることなく一緒に入ってくれるエリー王女に疑問を感じたが、何かあるのだろうと何も聞かないでおくことにした。
「……うん、わかった。じゃ、先に入るね」
セイン王子は頬に口付けをしてから浴室へ向う。エリー王女は赤くなる頬を両手で押さえ、落ち着かない様子でセイン王子が出るのを待った。
それほど時間もかからず、髪を濡らしたセイン王子が出てくると、エリー王女はそそくさと浴室に入っていった。そして、ゆっくり湯に浸かることなく、髪と体を丁寧に洗う。
いつも以上に緊張するのは、この後あれに着替えるからだろう。いよいよ着替えをするという時、やはりワンピースを掲げて躊躇する。
「変に思われないのでしょうか……」
でも、アルバートが言うのだからと、意を決して足と腕を通す。思っていた通り、スカートの丈は短い。ぎゅっと、下に引っ張り伸ばそうと試みるが長さが変わるわけもなく、やはり少し丈を長くしておいて貰えばよかったなと思った。
小さく息を吐き、鏡の前で耳と角を付けてみる。セイン様は本当に動物に扮した格好が好きなのだろうか? 自分の姿を見て疑問に思う。
そっとリビングを覗いてみると、セイン王子は真剣に本を読んでいる。どうやって出て行けば? エリー王女はその一歩を踏み出すことが出来ずに、入り口の手前でオロオロと立ち尽くす。こんなことでは、いつまでも側に行けない。そう思ったエリー王女はやっぱり違う服に着替えようと踵を返した。その時だった。
「エリー、どうしたの?」
「……っ! セイン様……」
セイン王子の声に驚き、振り返るといつの間にか後ろにいたセイン王子と目が合った。その瞬間、カッと顔に熱が集中して恥じらいの色に染まる。
「あー、俺のために……そういう格好を?」
エリー王女の熱が移ったかのように、セイン王子もまた顔を赤く染めた。口元を手で覆い、下から上へとまじまじとエリー王女を眺める。
両足を内側に重ね、心許ないようにそわそわと動き、今にも見えそうで見えない内腿がそそられる。
身に付けている格好は、白いふわふわしたボタンが前に付いているワンピース。首にはベルと赤いリボンの付いた首輪。茶色の耳と角。
「トナカイ……?」
「は、はい……。変でしょうか? あ、あの……。セイン様が動物が好きだから、こういった格好をすると喜ばれると聞きまして……」
「いや、うん。あー、えっと……。そうだね、凄く……可愛くてヤバいかも……」
エリー王女はパッと瞳を輝かせる。
「良かった……安心致しました。ですが、この角があると少し危ないですよね? これだけでも外しますか?」
「んー、いや、折角だしそのままでいいよ。じゃ、可愛いトナカイさん。俺が可愛がってあげるからこっちにおいで」
イタズラっぽく笑うセイン王子に翻弄されながら、エリー王女はクリスマスの長い夜を迎えた―――。
―――恋するプリンセス ~エリー王女のクリスマス~ 完