1話「ノーパンしゃぶしゃぶを取り戻せっ!」
僕、吹寄 弓月は──────『変態』である。
おっと間違えた。
僕、吹寄 弓月には──────誰にも言えない『秘密』がある。
『秘密』と言うには少し大それたものではあるのだが、『秘密』と言うからには大っぴらには出来ない、そんなやむを得ない事情、理由がある。
それは僕自身のアイデンティティであり、同時に僕自身を揺るがすものでも有る。
或いは周りを、取り巻く環境そのものをも脅かす可能性すらも孕んでいる。
幼少期にその存在を知り、時折夢にまで見た想像、妄想の産物でしかないソレ。
とは言ったものの『秘密』と言うには少々烏滸がましい様な気がしてなんだか気恥しさもあり開幕早々、早くも訂正を試みさせてもらう。
これは決して『秘密』なんて崇高で甘美なものではなく、より良く相応しい言葉に言い換えるのであればまさにこれは──────『野望』
そう題する他にない。
さてと、退屈なモノローグを経て、主語を隠してまで、ここに集いし諸君らの想像力を掻き立てさせたのには一つ理由がある。
それは、──────受け入れる準備。
何もこの場この時だけでは無い。
僕はこうしている今も尚、同時並行であらゆる場面でそうしてまさに地を這う根っこの様に根回しをしている。
突飛だと、とんでもないと、理解しているから。
時代を席巻してしまうかもしれない。
世界をも揺るがしかねない。
『ソレ』を知った者は、例外なくそんな『野望』の展望を……前準備なしには到底受け入れられない。
だからこその、こんなにも胡乱で遠回り、反芻思考の長演説を思考の、そして諸君らの魂のクッション代わりにさせてもらっている。
さあ、──────準備はいいか?
『秘密』もとい『野望』を知り共有する覚悟は出来たか?
臆病風に吹かれたのなら、今ここで引き返すといい。
同志諸君!我らは決して上下の関係にあらずっ!
横並びの画一的、目指すは遠く遠くの地平線。
同じ志を胸にっ!今っ──────
──────声高々に宣言しよう!!
──────僕の
──────僕たちの...っ!!
『ノーパンしゃぶしゃぶを取り戻せっ!!』
「僕は、来る文化祭での出し物にノーパンしゃぶしゃぶを提案する!!!!」
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「ばっかじゃないの?」
「私も、それは少し無茶というか、蜀の犬日を吠えるというか…少々突飛な提案だと思います」
放課後の生徒会室。
宍色の夕日が窓間のカーテンから射し込み、光沢のあるリノリウムに反射する事で、キラキラと綺麗に、チンダル現象を引き起こしている。
余談ではあるが僕はこの、ちんだる現象という名前がきらいだ。
いや別に、特段理由は無いのだが。なんとなく。
それはさておき、チリや繊維の光るその様はその正体とは裏腹に、やけにノスタルジックな空間を作り上げている。
そんな空間がなんだか、まるで特別な空間の様に感じて、時折僕を強い解放感で包んでくれる。
一階に位置する生徒会。
辺りに人の気や、喧騒の一切は無い。
放課後という事もあり喧騒の並は早くも辺りで砕け始め、取り付けられたカーテンの隙間から覗く校門は部活動を終えた生徒たちが次々と校門から散り散りに帰路に着く姿が散見される。
だからこそのこのタイミング!
同志諸君に秘密を共有するに相応しいタイミング!
時は七月。九月に差し迫った文化祭はそろそろとスタート段階に入る頃合い。
だからこそ、我々生徒会、同じ志をもつ同士として今まさにこの時が好機!
思い立ったが吉日、それ以外は凶日!
明日やろうは馬鹿やろう!
ハードラックとダンスっちまう前に取り急ぎ取り掛からなければならない。
そんな意図もあり、今日このときを『共有』の場として設けたのである!!
すっかりと生徒の居なくなった学校。
鍵のかかった生徒会室。
この場には秘密もとい野望を共有する共犯者もとい同好の士の三人のみ。
なんら、問題は無い。
いやただ一つ、懸念材料があるとするならば...
ここが、生徒会室が『職員室』の真隣だという事位か。
「君たちは、僕の『野望』に付き従うんじゃあなかったの?」
「はぁ...私はねぇ?もっとこうこの学校をよりよくする為のマニフェストみたいな物を期待していたのっ!!」
「吹寄くんって勉強も運動も出来るし、男女問わず人気はあるし、なにより生徒会長だし、そんな事...その...えっちな事には興味の無い人だと思ってました...」
「ええいっ!うるさいうるさいうるさーいっ!!」
「これは既にして提案にあらずっ!決定事項だっ!」
「如何にしてこの現代のゼロリスク信仰を亡き者にしてパターナリズムを!そしてオーバーレギュレーションを打祓うかっ!ソレを今から話し合うのか...を──────!?」
「コンプライアンス的にも、学校側からすれば到底容認できないと思います...」
「コンプライアンス云々を追求するなら、こいつを生徒会長に据えた時点で既にしてアウトよね」
この、減らず口を得意とする赤毛の生意気女子は書記兼会計を勤める二年生 平八重 美里。
つり上がった猫目と彫りの深い造形美は些か日本人離れした風体を感じる。
一つ年下でありながら生徒会長である僕には既になぜかタメ口である。
世間体を人一倍気にし、普段の生活では猫をこれでもかと被っている彼女が僕にだけこんなツンケンとした態度なのは一重に...そう──────惚れているのだ、この生徒会長である僕に。単純明快。
──────ちなみに属性は貧乳だ。
「──────だっ!誰がよっ///!!」
と言うのは冗談で、まぁ端的に言えばそう──────舐められているのだ、猫だけに。
「そういう冗談はあんまり関心しないかなぁ...あやまろっ?ねっ?弓月くん」
この清楚を板につけた様な彼女は白石 穂乃美。
僕、吹寄 弓月とは三年で同学年同クラス。
生徒会の副会長を務める通称おっとり巨乳ちゃんだ。
その恵体に付属された双丘はいつ見ても目を見張る物があり機会があったのなら是非日の出を見に登頂したいものだ。
もちろんとして顔も童顔で可愛らしいのだが、やはりどうにも、男の性がそうさせるのか、或いは幼さを残した容姿とその恵体によるギャップによるモノなのか視線は不随意にもその二つのまるまるとした肉塊に...──────いでっ!?
「もうっ!私だって怒るんだからっ!」
「わぁ...あんたって本当留まる所を知らないわよね...」
「なっ何も殴る事はないだろぉ〜...」
「いつも言ってるじゃないか、暴力ってやつは最も品性下劣で愚かな行為で……」
「そんな時だけ常識人ぶらないでよねっ!」
「そんな時だけ常識人ぶるなっ!」
寸分違わない二重唱が耳をつんざくと自らの言葉は飲み込んだ唾諸共に消えていく。
それにしても、彼女達からの叱咤激励にも似た雑言はやはりいつ如何なる心理状態であってもなんとも聞き心地が良い。
ある種新しい門出となるやもとワクワクするものがある。
その為、これはある種のご褒美であると認識している。これも生徒会の醍醐味である。
「きっも...人としての尊厳とか教示ってないのかな?穂乃美ちゃんもそう思うよね?」
「う〜ん、やる時はやる、その力はあるはずな
のだけれど、どうにも力の使い方を知らないみたいで...私から謝るよ、ごめんね」
「酷い言われようだが、生憎と生徒会長はこの僕!すなわちこの学校を牛耳っているのはこの吹寄 弓月に他ならないのだっ!!」
「なればこの学校を日本一のノーパンしゃぶしゃぶ強豪校ならぬ先進校にしなければ、失礼と言うもの……」
「はいはい...あんたがどうしようもない万年発情期野郎だってのはよーくわかったけど」
「具体的には?...てゆうか、ほんとに出来ると思ってるの?」
「出来るっ!!」いや──────...「やるっ!!」
「...多分具体的な事は決まってない顔だよ美里ちゃん...またしても、ごめんね」
「事を始める前に、君たちには『ノーパンしゃぶしゃぶ』の何たるか!その魅力を説明しなければならないっ!」
「胸に手を当て傾聴に徹し...──────心して聞くがいいさっ!」
「はいかいさーんっ!もういっそ生徒会ごと解散しちゃおっか?」
「弓月くん...私達もうすぐ成人だよ?大人になろっ?ねっ?」
「ぐっ...ぐぬぬぬっ──────うがあァァ!!」




