表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/7

第1話 プロローグ

 セシル・テオドールはどこにでもいる少年だった。


 伯爵家の生まれであるものの、先祖代々引き継がれた借金があり決して裕福ではなかった。かと言って悲劇的と言えるほど困窮してはいなかった。


 セシル・テオドールはさみしい少年だった。


 父や年の離れた兄たちは借金返済に奔走し、母も最低限の使用人と家のことで手一杯。誰も彼のことを見る余裕がなかった。


 そんな彼が変わったのは、高熱に魘されて数日間生死を彷徨った後だった。



 どうやら、俺はモブキャラに転生したらしい。

 そう悟ったのは、前世の記憶を取り戻して二年が経過したくらいの頃だった。


 前世の俺は、日本で会社員をやっていたようだ。取り戻せた記憶はまばらだし、死に際も思い出せない。名前すら覚えていない。一番新しい記憶が三十代くらいだったので、三十代の日本人男性と自認している。

 これが果たして転生と呼べるものなのかはわからなかったが、不完全とは言え前世の記憶がある状態で日本ではない、いや、地球ではない異世界に辿りついたのは事実だ。


 今世の俺であるところのセシル・テオドールは十歳のときに高熱を出して寝込んだ。数日経って熱が下がり、目覚めた頃には脳はすっかり前世の俺の記憶に浸食されていた。意識が戻った直後は混乱して色々変なことを口走って家族を心配させたが、落ち着くにつれ自分の状態を理解した。

 

――これはいわゆる異世界転生というもので、なんらかの能力によってこの世界で無双していくのではないか?


 俺はいい歳こいて浮かれた。しかし、現実は非情だった。


 この世界には魔法もなければ、自分が特別な能力に目覚めることもなかった。見た目もどこにでもいる平凡そのものだったので、ラブコメやハーレム方面の期待もできない。前世の知識で無双して、成り上がったりするのかと思ったが、一番上の兄が優秀過ぎて俺の出る幕もなく、家の経済状況は順調に良くなっていった。


 そこで、俺はようやく理解したのだ。自分がこの世界でも別に主人公になれるような存在ではない、と。


 それでも諦めきれず、ここは自分が知っている小説やらゲームの世界ではないか、という線も追った。もしそうならば、未来の展開が読めることを活かして何かしら活躍できるのではないかと思ったのだ。


 重要そうな固有名詞や、特徴的な文化や社会システムなどをノートに書き起こしてみたが、自分が今まで触れてきた作品の設定と共通するようなものは見当たらなかった。残念ながら、未来予知による無双もできそうにない。


 ただ、元々暮らしていた世界との共通項はいくつか見つかった。文字は違うのに数字や度量衡は同じだった。一年は十二カ月で区切られているし、一日は二十四時間だ。近代ヨーロッパっぽい雰囲気なのに食文化は現代日本くらい発展している。

 また、異性愛が多数派の世界のくせに教会に行って祈ると同性同士でも子供を授かれるようになるなど謎の技術も存在したため、俺が知らないだけで創作物の世界である可能性は充分考えられた。


 それに、今はまだ物語開始前で核になる情報が手に入らないだけかもしれない。この世界では十五歳になると貴族の多くは王都の学園に三年間通うという、いかにもな設定がある。物語が始まるなら、ここだろう。例え知らなくても創作物の世界ならメタ視点が有利に働くこともあるかもしれない。

 忙しい家族たちの隙を見つけては学園のことについて聞き出し、情報を書き留めていった。


 いつかこのノートが攻略本になるのを願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ