プロローグ
美少女というにはまだ少し幼いが、確実に美少女になることが約束された顔立ちだ。満面の笑みも上品で、少しふっくらした頬も愛らしい。きっと名の通り、バラのように美しくなることだろう。
そうだ、この女の子はローズだ。ミツハルの妹。……いや、厳密には妹ではないのだが。
「ユーリ兄様?」
急に黙り込んだミツハルに呼びかけるローズ。その声まで鈴を転がしたようにかわいらしい。
ユーリ。そう、ミツハルはミツハルであって、ミツハルではなかった。この体の何もかも、ユーリのものだ。裏返っていたトランプがパタパタと表を向くように自分の状況が見えてくる。
ユーリ・フロリエ。分家筋で庶民に近いが、一応貴族である。ローズはユーリの妹だ。一つ年下でお人形のようにかわいらしい。まだ幼いというのに、すでにお見合いの申し込みがたくさん積まれているという。蝶よ花よと育てられ、少し、いやだいぶ、わがままなところがある。今も口から垂れ流されていたのは、特にミツハルにとって聞くもおぞましい言葉だった。
言葉が汚いわけではない。言葉遣いは十分上品だ。繰り返すが、声もとてもかわいらしい。つまり、何が悪いのかといえば、その内容なのである。
「ローズ、いけないよ。それはだめだ」
思わず出した声が震える。
「ユーリ兄様?」
「お前の兄は、今、いなくなった。僕も兄だけど、別の兄だ」
「何を、言っているのですか?」
「ローズ、君は賢いからわかるはずだ。人をいじめたり嫌がらせをして楽しく思うなんて、性格が悪いからやめなさい。淑女がすることじゃない」
そう言うと、ローズは呆然とした顔をした。そしてすぐに、くしゃりと顔がゆがませた。何か言おうとかすかに口が動いたが、漏れたのはひきつった声だった。
ポロポロと涙がこぼれる。悲鳴のような泣き声に、少し離れて待機していたメイドが飛んできた。
佐野光晴、三十三歳。何かよくわからないまま、ユーリ・フロリエとしてローズの兄になった。
彼が異世界転生という概念を知るのは、まだ先のことである。




