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ケイが絶望に囚われている一方、テオドールも闇の幻影に襲われていた。
現れた幻影は、母セオドラの姿をしていた。
しかし、その顔は苦悶に歪み、赤い目は闇に染まっていた。
「母上……?」
テオドールは驚愕し、一歩後ずさった。
幻影のセオドラが冷たく笑った。
『テオドール。わたくしの可愛い息子よ』
『お前は思いやりのある優しい子。わたくしの最愛そっくりに産まれた素晴らしいこの』
『でも。お前は私を救えなかった』
『回帰までしたのに。やはりあの妾の子に、お前は及ばないのね』
テオドールの顔色が青ざめた。
一番痛いところを突かれたからだ。
誰にも言ったことはなかったが、回帰前のテオドールには弟ケイへの劣等感があった。
母セオドラの威光を借りて弟を虐げながらも、決して心を折ることのないケイにテオドールは圧倒されていた。
秘薬で能力をテオドールに奪われたにも関わらず、ケイは剣術を修めたし、学園にも通って成績も毒薬の影響で上位にこそ入れなかったが決して悪くはなかった。
それどころか、貴公子と呼ばれるほどの人格者として、周りは弟を見ていた……
「そうだ……私はケイが羨ましかった。嫉妬していたんだ。私の母はあんな人なのに、お前には優しいポーラ様までいる! 悔しかった!」
幻影のセオドラが嘲笑う。
『駄目な子ね』
『王家の血を引くのに、妾の子なんかに負けて』
『お前は、無力だ』
テオドールは唇を噛み締めた。
「私は……私は、母上を救いたかった……だから回帰したと知って嬉しかった。二度と母上に過ちを犯させまいと誓ったんだ。でも……」
幻影のセオドラは冷たく言い放った。
『お前は、ただの無力な子供よ。お前に勇者の資格など、なかったのよ』
テオドールの体が震えた。
(私は……無力なのか……時を巻き戻り、繰り返しても、母上を救えないまま終わるのか……?)
テオドールの心が絶望に囚われていく。
ケイとテオドールはそれぞれの絶望に囚われていた。
闇が二人を包み込み、異次元空間がさらに歪みを増していく。
ロットヴェインの嘲笑が館中に響き渡った。
「愚かなる勇者の末裔たちよ、絶望に堕ちるがいい。勇者の光など、どこにある? 幻想に過ぎぬ」
ケイは膝をつき、頭を抱えた。
「俺は……俺は、母様を守れなかった。俺には、勇者の資格なんて……」
テオドールも絶望に沈み、目を伏せた。
「私は……回帰しても、母上を救えなかった……私は、無力な存在なのか……」
ロットヴェインは狂気の笑みを浮かべて二人を見下ろした。
「そうだ。お前たちは無力だ。お前たちの光は、この闇の中で消えていくだろう」
闇が二人を飲み込み、次元の歪みが激しさを増した。
ケイとテオドールは絶体絶命の危機に陥った。
そのとき、ピアディの幼い子供の声が響いた。
「相棒! 兄よ! 邪悪なる者の声に耳を貸してはならーん!」
声はケイの上着のポケットの中から聞こえる。
ぷにっと掴んで取り出すと、ピアディは小さな前脚を振り回して怒っている。
「そなたたちの勇者の光を信じるのだ!」
ケイはハッと顔を上げた。
ピアディの声は力強く続けた。
「勇者とは、救いをもたらす者の別名ぞ。絶望してる暇なんてないのだ。だって、闇すら救える者こそが勇者に目覚めるのだから。
――われの友が、そうであった」
ピアディの語る勇者像を想像すると、不思議とケイの、闇に侵されかけていた胸がスッと涼しくなり、光が差し込んだ。
ケイは立ち上がった。その黒い目にもう迷いはない。
「そうか。どんな悲劇があっても、絶望を感じても……全部受け入れて、それでも俺は……やっぱりお母様を助けたいんだ。そのために回帰したのだから」
ケイの身体が金色の光に包まれ、勇者の力が覚醒しかけた。
「これが……勇者の光……?」
テオドールもケイの光に呼応し、心の闇が晴れていった。
(私は……無力だ。今はそれが事実だ。だが! 母上の心を救うため、必ず強くなってみせる!)
テオドールも立ち上がり、決意を固めた。
「私は、母を救う! 母だけじゃない。ケイやポーラ様も、家族を守りたいんだ!」
テオドールの身体も金色の光に包まれ、勇者の力が覚醒しかけた。
兄弟は互いの身体を覆う美しい光に驚いていた。
「これが、勇者の力……」
「すごいな。頭の中や全身に清冽な風が吹き抜けているようだ。今ならどんな闇や邪悪にも負ける気がしない」
「うむ! この光さえ出せれば後は勝ったも同然! さあ、剣に光をまとわせて空間をぶった斬るのだー!」
ピアディに言われるままに、ケイとテオドール、二人の勇者の光が闇を打ち払い、幻影の館が揺らいだ。
「行くぞ、兄さん!」
「ああ、ケイ!」




