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訓練後、ケイは自室でピアディと向き合っていた。
そのピアディはケイの手の中にちょこんと座り、じっと彼を見上げる。
内心ではとても張り切っていた。
(こやつと兄の誤解が解けるよう、我が上手くフォローしなきゃなのだ)
「お前、訓練中、何か気づいたのだろ?」
「ああ。兄の剣が、やはり前世と違っていた」
ケイは、ピアディを乗せているのとは反対側の拳を握りしめながら答えた。
「それに、兄は俺を本気で倒しにきてなかった。もう間違いない」
ピアディは「やはりなのだ」と頷く。
「我もそう思ったのだ。あの兄、めちゃくちゃ手加減してたのだ」
「……やっぱりか」
ケイはベッドの上に座り、静かに考え込んだ。
兄は本当に俺を試しているのか?
それとも――兄もまた、回帰しているのか?
「回帰者が自分だけではない可能性」を疑い始めたケイは、兄の目的を探ることを決意する。
そんなケイを見て、ピアディは内心感心していた。
(こやつ、なかなか勘がいいのだ。兄とのすれ違いも意外と早く解消されるかも?)
翌朝、ケイは別邸の庭で木剣を振るっていた。
昨日の兄との模擬戦を反芻しながら、何度も何度も。
(兄の剣は、明らかに前世と違った)
伯爵家の剣術「アルトレイ流」の基本は変わらない。
アルトレイは古の勇者が持っていた家名だ。
ケイたちは世界を救った勇者の末裔とされている。
その勇者が使っていた剣術が現在『アルトレイ流剣術』と呼ばれて、代々受け継がれてきている。
アルトレイ流は攻撃力はそこそこ。
だが、攻守一体で、防御力に優れること他の追随を許さぬと謳われる、守りの剣術でもあった。
だが、昨日の兄の動きには、それとは異なる技術が織り交ぜられていた。
(アルトレイ流だけより洗練されていた)
だが、それはおかしい。
兄はアルトレイ伯爵家の正統な後継者だ。
家の剣術以外を学ぶ必要などないはず。
(やはり兄も回帰していて、別の生き方をしていた記憶があるのか? 別の流派も学んだ記憶があるなら、あの動きになるだろうし)
もしそうなら、今の兄の違和感すべてに説明がつく。
しかし、確証はまだない。
「考えてもわからぬのだ」
ピアディがケイの肩で頬を膨らませた。
「お前は探りすぎなのだ。今は強くなることを考えるべきなのだ」
「……それはそうなんだけどな」
木剣を構え直しながら、ケイは小さく息を吐いた。
今日も伯爵家は正妻セオドラがお茶会に出かけると聞いた。
午後になればまた兄が来そうだ。
昼過ぎ、予想通り、兄テオドールがケイの部屋を訪れた。
「ケイ、今暇か?」
兄は何でもない顔で話しかけてくる。
だが、ケイはすでに警戒モードだ。
「暇ではないけど、何か用?」
「昨日の剣術訓練、楽しかっただろ?」
「……まあ。ようやく勝てたし」
兄は微笑んだ。
「じゃあ、明日はお兄ちゃまと二人だけで手合わせしないか?」
ケイの目がわずかに細まる。
「それは、俺の実力を試したいってこと?」
兄は「ん?」と小首をかしげる。
「単純に楽しかったからだよ。お前も楽しかったんだろ?」
「………………」
その言葉に、ケイは一瞬返答に詰まる。
確かに、昨日の剣の感触は悪くなかった。
兄と戦うのは、今は嫌いではなかった。
(でも。兄は、本当にそれだけのつもりなのか?)
ケイは探るように兄を見た。
「……わかった。剣を交えよう」
「本当か!?」
「ただし、俺も手加減しないぞ」
「ははっ、望むところだ!」
兄は嬉しそうに笑った。
――だが、ケイの警戒心は解けなかった。
(兄の目的。今度こそ見極めてやる)
夜、ケイはいつものようにベッドの上でピアディと向き合っていた。
「ピアディ、お前はどう思う?」
ピアディはいつものように、ちょこんとケイの手の中に座り、じっと考え込んでいる。
「兄が何か知っているのは間違いないのだ」
「やっぱり。お前もそう思うよな?」
(あの兄はなかなかの曲者ぞ。われが問い詰めても正直には話さなかったのだ。なまいき!)
「だが、それが『回帰している』からなのか、それ以外からなのかはわからぬのだ」
ケイは思案げにピアディを見つめた。
「前世の兄とは違いすぎる。でも、どうやって確かめたらいいのか」
「ならば、直接聞いてみるのだ!」
「……そんな簡単に話してくれると思うか?」
兄が回帰者なら、隠す理由があるはずだ。
自分を「お兄ちゃまだぞ」などと親しげに呼ばせようとするぐらいなのに、ケイとの間に一線を引くところもある。
そうでないなら、なおさら下手に動けばケイのほうが疑われる。
(今は、兄の出方を見るしかない)
「とにかく、明日の手合わせのときに兄の動きをよく見る。そこから探るしかない」
ケイは静かに決意を固めた。
――兄の目的を知るために。
だが、このときケイは忘れていた。
回帰後のケイには、兄より警戒すべき人物がいたことを。




