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22. 帰郷

「父さん!」

「おー、アーク。久しぶりだな」



学園の馬車に乗り、王都の街並みを眺めながら、手紙に書いてあった約束の場所に降りた私は、六年ぶりの父さんを見つけた。

その後ろには、懐かしい面々が連なっている。

再会の喜びに胸を一杯にし、地面を蹴り、駆け寄り、そして父さん目掛けて飛び上がり……



「こぉの……っ!バカ親父ーーーー!!

 学園に置いていくなら、事前に一言くらい言えーーー!!!!」



――飛び蹴りをした。

この六年間、ずっと溜めていた怒りを込めて。



「あ、やっぱりそうなる?」



父さんは笑顔のままで、「ドラスニール族の女はそうじゃないとなあ」と呑気なことを言いながら、私の蹴りを片腕で受け流した。そのまま私は身体を捻り反対の足で追撃をするが、今度は受け流されるだけではなく足を掴まれ、宙づり状態となった。



「でも、街中だからやめような?魔法騎士団に通報されちまうから」

「くっそぉ……!せめて蹴られてよ!」

「一族で一番弱いお前に、族長の俺が一撃食らったなんて名折れだろ」



分かっている。敵うはずはない。

それでも、一発お見舞いしなくては気が済まなかった。

背後で一族の皆がゲラゲラと笑っているのも、また腹立たしい。


私の怒りなんて微塵も気にしていない様子で、父さんは私を抱え直すと、地面に降ろした。


私の負けだ。


力が正義のドラスニール族、私の訴えは棄却されたのだった。







そのまま国境近くにある野営地へと移動することになった。


ドラスニール族はただでさえ圧が強い。街を歩けば、ほとんどの人が道を開ける。



「相変わらず、皆で歩くと避けられるね……」

「身体中傷だらけ、中には身体のどっかが欠けてるような連中が外歩いてたら、関わりたくないと思うのが当然だ」

「おかげで、宿屋に嫌われるしね」

「俺らが泊まれば、他の客がビビって逃げ出す」

「営業妨害……。ま、野営は好きだから問題ないけど」



焚き火の音や、空の下で食べる食事は好きだし、朝起きて、天幕から出て一番に吸い込む空気もたまらない。



「えっ、ズァルクルトとネルセイ……あの二人、夫婦になったの?」



久々に会った懐かしい顔ぶれは、六年も経てばどこか雰囲気も違う。


ズァルクルトとネルセイは、私と同じ年に産まれた幼なじみだ。

記憶の中の二人は性格が正反対で、互いにあまり関心がなかったはずなのに。



「そ、ネルセイは子どもを身ごもってるから、大ばあ様たちと野営地で待ってる。お前もすぐに成人の儀をして、誰かと結婚すれば?」

「……魔法有りなら、百年級の竜を倒せるかな、たぶん」

「さすが一族最弱!」

「うるさいな!素手だけで倒すなんて、この風習がおかしいの!!」

「だって俺たちは力が正義だし」

「それ、ただの脳筋だから」



同世代の兄弟のように育ってきた幼なじみ達から背中を叩かれたり、兄姉と慕ってきた歳上たちからは一族の近況を聞かせてもらい、皆と昔のように軽口を叩き合った。



「アーク!手繋いで!」

「俺はおんぶ!」

「コルト!あんたはもうおんぶの歳じゃないでしょ!」



入学前に弟や妹のように可愛がっていた子たちも、六年経てばすっかり大きくはなったけれど、以前と変わらず私に懐いて手を繋いでくれたり、学園での話をしてとねだった。


野営地につくと、おばさんやおじさん達が待っていて、すぐにわっと囲まれた。



「あらぁ、こんなに大きくなって!」

「驚いた、嫁に来た時のアーティリアに瓜二つだな!」

「でも待って、まだ肉付きが足りないわね……」

「学園は貴族もいたから、どうせ飯もお上品だったんだろ?うちの飯をいっぱい食わせればいい!」

「よぉし、久々に遊んでやるか、アーク!」

「いや、ちょっと!私もうそんな歳じゃないのに、待っ、あーーっ!ちょっと、グラヴルトおじさーん!!!」



頬をむにむにと掴まれ、肉付きを確認されたり、頭を撫でくりまわされ、最後には私の制止の声は無視して、脇に手を入れられ、ぽーいと上に放り投げられたり、そのままぐるぐると回転した。


やっと地面に降ろされた頃には、目が回っていた。



「ほらっ、大ばあ様!アークが帰ってきたよ!」



休む暇なく、今度は幼なじみのトゥアンティが大ばあ様の手を取り、天幕から出てきた。

大ばあ様は六年前の私の記憶より、皺が深く刻まれ、さらに小さくなったように感じられた。



「あぁ、この匂い、この声、この足音……アルクセイ。顔を触らせておくれ」



大ばあ様の前でしゃがむと、そのしわくちゃな手が、私の顔を確かめるように額から眉、瞼、鼻、頬、顎とゆっくりと辿りながら、形を確かめるように触れる。



「……ん、大ばあ様、帰ったよ」



大ばあ様の両瞼はしっかりと閉じられ、そこに獣の爪痕が深く刻まれている。私が産まれるずっと前に、大ばあ様は千年級の竜と対峙して両目を失い、視力を失った。

ドラスニール族は嗅覚、聴覚、そして気配に敏感だ。視力を失った代わりに、大ばあ様は他の感覚が皆よりも鋭くなったらしい。



「うん、うん……アーティにまたよく似てきて……ああ、この感じ……息災だったようじゃな、良かった、良かった」

「大ばあ様も元気そうで良かった」



温かい手のひらに、少しだけ甘えるように頬を寄せると、大ばあ様は私の頭頂部から顎までをくるりと一周撫で、私の顔を包んだ。子どもの頃もよくこうして可愛がってくれたのを思い出した。



「おん、元気じゃぞ、この前も百年級の魔獣を倒したばかりじゃ」

「それは元気すぎる」



鼻を鳴らして言うものだから、思わず吹き出してしまった。



「あぁ……寂しい思いをさせて悪かったなあ」



大ばあ様の手が、私の頭を撫でる。



「アレがお前を学園にいれるなんて話をしたら、お前は嫌がるだろうからと言って、大人たちは黙っとったんじゃ。皆、一族で唯一魔力を持つお前が、ワシらといるより、一度しかるべき場所で学ぶべきだと思ってのことだったんじゃ。許しておくれ」



一族から離れたあの日。

まるで私が産まれた日を祝うかのような大人たちの様子を、今でも覚えている。おばさん達は私の好きなものをたくさん作り、おじさん達は代わる代わるに遊んでくれた。去り際も、みんなが私を抱き締めてくれた。


ドラスニール族は、魔法に頼る者を軟弱者だと思っている。

だから魔導具の類も使わない。

でもこれは、あくまで一族内の話だ。


魔力を持つ者を羨むのではなく、与えられた武器を鍛えるべきだという考えが根底にある。


だから、一族の中で唯一魔力を持つ私は、皆から疎まれることは無かった。

学園に入れられたのも、私の将来を考えてのことなのだろうと、自然とその結論に至れた。

捨てられたと思ったことは、一度もなかった。


唯一怒っているとすれば、私に何も言ってくれなかったことだけど、学園生活を存分に楽しんだ私に、怒る権利はもうずっと前からない。



「……大ばあ様、アークは大丈夫。それに、学園の生活はとても楽しかったんだ。ありがとう」



大ばあ様に抱きつくと、シワシワの顔を更にしわくちゃにして、安心したように笑った。「お前の為に服を誂えたから着替えておいで」と促され、トゥアンティに手を引かれて天幕で着替えた。



その日の夜は火を囲んで、たくさんの料理とお酒、歌い踊りと、盛大に私の卒業と、護政官として働くことを祝ってくれた。



「こら、アーク!あんたはまだ成人の儀を終えてないでしょう!酒はまだ早い!」

「えぇ〜〜……トランディアでは成人してるんだからいいじゃん〜!」

「関係なし!」



盃を傾けようとしたら、見事ミザレイおばさんに酒瓶ごと取り上げられてしまった。

取り上げられてしまっては仕方がない。大人しくお酒は飲まず、皆とたくさん騒いだ。


一通り騒ぎ疲れると、上座で皆を見ながらちびちびとお酒を飲んでる父さんが視界に映ったので、父さんの好きなつまみであるカナラの実を持って隣に座った。



「お、気が利くじゃん」

「こんな癖のある毒を食べるの、父さんしかいないしね」

「ガキの頃から慣らしてたからな。ここまで食えるようになれば、大抵の毒は効かなくなる。

……お前、この六年間、毒なんて食ってないだろ。ここにいる間は慣らしとけ」

「そうする」



ドラスニール族は外側の痛みに強いが、内側の痛み……病気や毒の痛みに弱い。

その為、弱い毒から始めて身体を慣らし、徐々に毒に耐性をつけるのだ。


父さんは木の皿に乗ったカナラの実を一粒摘むと、口の中に放り込む。



「……ねぇ」



気が利くなんて、とんでもない。私には立派な下心がある。



「母さんって、護政官だったんだ?」



隣に座ったのは、父さんから母さんの話を聞くためだ。今まで何度も母さんの話を聞きたくて強請ったけど、『死んだ人間の話をすると魂がそこに留まって生まれ変われない』と言い、話してくれたことは無かった。



(でも!この雰囲気ならイケるんじゃ……!)



――なんてったって六年ぶりの娘の帰郷!宴の雰囲気!そしてお酒も入っている!


焦らないよう慎重に話を進めようと、私は父さんの横顔を盗み見た。



「言わなかったっけ?」

「うん。母さんのこと、聞きたいなあ〜……。ほらっ仕事の参考になると思うし!」



我ながら、何て自然な理由だろう。これなら娘の為に少しくらい……と考えてくれるはずだ。



「やだ」



即答。



「〜〜〜っ!なぁんでぇ〜〜〜!!??」



少しくらい悩む素振りでもしてくれるなら、諦めもついたのに。

父さんはカナラの実をポリポリと食べながら、酒が入った盃に口をつけた。



「母さんが亡くなって十八年経ってるよ!?流石にもう生まれ変わってるって〜〜!!」

「母さんは来世で父さんとまた結婚するので、まだ生まれ変わっていません。言ったろ?俺が母さんのことを話してこの世に縛り付けたら、俺が死んだ時に一緒に生まれ変われないだろ」

「父さんが死ぬまでって……あと何十年掛かるの!母さんだって、そんなに待ってられないよ〜!」



父さんは私を横目で一瞬ちらりと見たあと、盃を更に傾けた。



「いーや、母さんは父さんを待ってくれてます」

「この愛妻家が!!」

「ありがとう、ちなみにお前はその結晶です」

「やめて、その言い方。鳥肌が立った」



一体どうやったら、そんな確信を持って言えるのか。

さらには真顔で言うものだから、肌が粟立ってしまい、両方の二の腕を摩った。



「仕事を知りたいと思うのは殊勝だけどな、十八年も経ってれば参考になんてならねぇさ。古地図を持っていったら鼻で笑われんぞ」

「あー……まあ、そうだけどぉ……」

「アーク。お前、交渉はまだまだガキだな」

「う……」



族長として、ギルドや他国を相手にしている父さんに交渉技術について言われると、何も反論できない。しかも私の思惑なんて、全てお見通しだ。思わず口篭る。



「はーぁ……、もういい、諦める。母さんのことは自分で調べますよぅだ」

「そうしろ。それよりお前は、成人の儀をどうやって乗り越えるか考えろ」

「う……」



痛い所を突かれてしまった。



「そもそも!おかしくない!?うちの考えは『生まれ持った武器を鍛えよ』でしょ!?私の武器は魔法でもあるんだから、儀式で使ったって……」

「それはそれ、伝統は伝統。昔からの決まり事だ」

「柔軟に対応をしてよ〜……」



胡座をかき肘をついて、私はふんとそっぽを向いた。



(少しくらい別にいいじゃん!)



なんて、こんな子供じみた態度を取ってしまうのは、やっぱり一族に帰って気が緩んだからだろうか。



「ティルファリエン」



突然呼ばれた私のもうひとつの名前に、思わず全身が固まる。



――ティルファリエン。



それが私の真名のうちの一つだ。



父さんが言うに、人はみんな神様の子どもで、元は聖霊だったと言われている。

俗名であるアルクセイは親から貰う名前に対して、真名は神様からもらった名前だ。



(真名で呼ばれるの、苦手なんだよなあ……首根っこを掴まれたような気分になる)



今では自分の真名を知る人なんて、ほとんどいない。

うちはまつろわぬ民だから、文化が残っているだけ。


この名前を知っているのは、父さんと大ばあ様しかいない。

そしてこの名前を呼ばれる時……それは本気で怒る時と、昔から決まっていた。



(私、何かした……?)



「……なに」と恐る恐る父さんに振り向いた。


視線の先、そこには飲んでいた盃を傍らに置いて、私をまっすぐ見つめる父さんがいた。

私と同じ青い目が、暗闇の中で焚き火を映し、ゆらゆらと揺れる。



「ニルスには気を付けろ」



――ぱちっ。


焚き火が爆ぜた。

喧騒が遠く感じる。


宗教国家ニルス。

かつて巨大瘴気孔が大量に瘴気をにじませていた時代、三王の一人、聖霊王がそこに国を造り、瘴気が漏れないよう、周りを高い擁壁でぐるりと囲んだ、まるで要塞のような国だ。

今では各国の神殿を管理し、瘴気だけではなく神々の加護についても広く関わっている。

護政官ともなれば、神殿と距離を置くことは難しい。


どうして父さんが、そんなことを言うのだろう。



「……なに?戦争が始まるの?」



ドラスニール族は、戦争が起こった時にどの国にも加担してはいけない。だからこそ、父さんは世界の国々の情勢に、いつも気を掛けているのだ。


父さんの僅かな表情の変化も見逃したくなくて、私は身を乗り出した。



「……お前は知らなくていいことだ」

「なんで?」

「当然だろ、お前はこれからトランディアの政官さまだ。……それも下っ端のな?そんな奴が知らなくていいことを知ってたら……分かるだろ?」



ニヤリと父さんが意地悪く笑みを浮かべる。

思わず嫌な想像が頭の中を駆け巡り、嫌な汗が滲んだ。



「いやいやいや……そんな大袈裟な」

「分からんぞー。トランディアには創世神が眠っているからな。争い事なんて起きれば創世神が刺激され、瘴気が増す。上の人間はすぐに芽を潰そうと考えるだろうよ」



創世神は、自分によく似た姿の始祖王を作った。

そして始祖王に、聖霊王が魂を、魔女王が魔力を与え、始祖王は人間となった。

そこからどんどん人間は増えていったんだけど、それに伴い争い事も増えたのだ。

創世神は地上が荒らされ、悲しみで泣き、その涙の跡が瘴気孔となった。


父さんの言うことは、私をからかう為の冗談なんかではない。



「……もう聞かない」

「おう、それが一番いい身の守り方だ」



父さんは傍らに置いていた盃を再び手に取ると、まるで明日の天気を話した後のように、何事も無かった様子で再びお酒を飲み始めた。



(平和に穏やかに暮らすのって……案外難しいのかも)



私は大きくため息を吐きながら、夜空を仰いだ。

夜空には白い月が一際光を滲ませ、浮かんでいた。



(ティルファリエン……意味は『沈まぬ月』)



月は白き階から呼ばれ、上から自身の姿を見つめる

獣は月が欠けると、その姿を現す

月は沈まないが、雨は過ぎない

獣は牙を研ぐが、鼓は鳴りやまない

やがて赤子が泣き出し、揺籃から親を呼ぶ



メニュエル先生の占いを思い出す。オルヴァッキは気にすることはないと言ったけれど、私にはできなかった。

月とは……もしかしたら私のことを指しているのかもしれない。



(……ううん、あれはただの占いだ)



気にしすぎても仕方ない。

私は両手を空に伸ばし、大きく伸びをした。






「あっははは!アークってほんっとに馬鹿だよね〜〜!!」



腹を抱えて床敷の上を転げまわりながら笑うのは、私と同じ年に産まれた子どもの一人、トゥアンティ。

子どもと言っても、彼女は既に成人の儀を終えているので大人である。

……私と違って。


一族の織紋様が刻まれた衣類を着て、組紐が編み込まれた髪先を揺らしながら、トゥアンティは私の瘡蓋になりかけている傷口を人差し指で悪戯に突いた。無神経な奴だけど、明るくてさっぱりしていて気の良い奴でもある。



「うるさい」

「一度目は順当に負けたのは良いとしても、二度目に魔法をこっそり使って、三度目もまた使ったんでしょ?族長の目を盗めるはずないのに〜〜!!」



数日前、父さんに連れられたのは小高い山だった。

そこには大きな巣に鎮座する鳥竜ガルーダ。

そう、突然の成人の儀が始まったのだ。


一度目の挑戦で地面に転がりながら、魔法抜きは無理だと、より確信をした。

二度目、それでも魔法は使わず、頭を使った結果、強襲するしかないとして背後を狙ったが、バレて地面に転がった。

三度目、魔力香が出ないよう更に魔力錬成を重ねたが、父さんを誤魔化せず強制終了。

四度目を挑もうとしたら卵は孵ったようで、ガルーダたちは去ってしまっていた。


何度でも言う。

魔法があれば勝てた。


ふん、と鼻を鳴らしながら、私はお気に入りの本を鞄に詰めた。


滞在としては二十日。あっという間だった。

久しぶりに馬で国境付近を駆け回り、トゥアンティを始め同世代と騒ぎ、先代の族長の娘であるミザレイおばさんから仕事を引き継いだり、ネルセイのお産を手伝ったり……。



(……もっとのんびりするつもりだったんだけどな)



思い返せば後半から、それはもう大変だった。

本当はもっとゆっくり過ごせるかと思えば、あっちへこっちへとバタバタと動き回っていた。


私は大きくため息をしながら、鞄を閉めた。



「荷造り終わった?」

「うん」



膝に手をついて、私はトゥアンティと共に天幕を出た。



「アーク、行かないでぇ!」



出るやいなや、途端に子ども達に囲まれてしまった。

滞在中、散々遊んだからか、子どもたちがなかなか放してくれなくて参ってしまった。

幼なじみ達からは、



「結局、成人の儀に失敗したな!」

「早く俺等と酒が呑めるようになってくれよ!」



と、鳥竜ガルーダに何度も失敗したのを笑われ、その一方でおじさんたちに「次は恋人も連れてこいよ」とからかわれた。そんな予定はないし余計なお世話なので、これは無視をした。



どんっ!



「はい!これまとめておいたから!」

「まとめたって……これで!?」



おばさんたちが目の前に置いた荷物の量に、私は目を丸くした。


大ばあ様があつらえてくれた一族伝統の織紋様が入った普段着や寝巻、頭飾りや装飾品、トランディアでも食べられるようにと、私が好きな煮込み料理が作れるように獣の乾燥肉等の食材、お守りにナイフ、他多数。



(減らしたいけど……これ全部、大ばあ様とおばさんたちが用意してくれたんだよなあ……)



そう思うと、無碍にはできない。



「……ありがとう」

「素直でよろしい」



頭を下げる。

素直に持っていくことを決めると、おばさんたちがニカッと白い歯を出して笑ったので、少し嬉しくなった。



「気張ってやれよ」

「わかってる!」



父さんが私の頭をぐしゃりと撫でた。



「行ってきます!」



大きく手を振りながら、私は一族と別れた。


――十八歳。

春女神の季節。穏やかな風が私の頬を撫でる。

今度は自分で、トランディアに行く。




ブックマークありがとうございます!

読んで頂いて反応まで頂けるのは幸せなことだな~と感じます。



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