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「相手のカウンターに即反応できない!$4,000はらうー!」

――ピッ!


 1点を返された六面山高校のキックオフ。


「インサイダー取引(カウンター)を狙います! あたしが投資してくる! 目指せ、ぎんこう城!」


 MF戴(いただき)道琉(みちる)が中央から一気にボールを駆り、八々花のゴールを目指して突進を始めた。

 キャプテンが《めちゃぶつけ》で沈むなら、自らの「大投資」で盤面をひっくり返さんとする、いたスト仕込みの貪欲なワンマンプレイである。


「なっ、何ですのあの貪欲なインサイドハーフは……! まるで空き地を買い占めるような強引さですわ!」 普段は優雅な青衣が、その物凄い形相の突撃に思わず息を呑む。


 【1-2】のヒリつく点差の中、ピッチの上で再びカオスなエリアの奪い合いが幕を開ける──。


「自分が食い止めたるっ! 小梅ェ、やるで!」


「うん、藤乃ちゃん、連携してコースを狭めるよ!」


 時鳥藤乃が戴道琉に猛然とアプローチをかけ、さらに鴬塚小梅が絶妙なカバーでブロックに入る。


「ここは分岐点を変えないとっ!」


 戴道琉は鋭角に軌道修正し、藤乃と小梅のプレスから逃れようとする。


 ――そこへ。


「5倍買いですっ!!」


 ボールが体躯から離れた一瞬(ディレイ)を狙い、幕ノ内桜が鋭く突っ込んでボールを強奪した。


「さんざんやり込みましたから! 友達もいっぱい無くしましたけど……っ!」


 ピッチ上で突然切ない独白を始めた隠れオタクの桜。その右足から放たれたパスが、一気にアタッキング・サードへと突き刺さる。


「……サクラちゃん、その悲しい黒歴史は今すぐやめるんよ。涙でノートPCの画面が見えないんよ……っ!」 ベンチでカスミが涙腺を崩壊させて嗚咽(おえつ)するなか――。


「私にお任せください!」


 そこへ、秋の夜の雁(かり)のようにするりと入り込んでいくのは、薄満月だった。


 完全にマークを外された六面山のディフェンスラインは、一瞬にして恐慌状態に陥る。


「開拓地で大収穫! $2,000もらうーっ!!」


 絶叫と共に、ボランチの人見弥生(人生ゲーム)が死に物狂いのバックランから猛然とスライディングを敢行。前半の残り香とも言える豪運のダイスで、満月の足元からボールを綺麗に捥ぎ取ってみせた。


 ――だが、人生の絶頂は一瞬で終わりを告げる。


 奪ったボールをキープし、顔を上げた弥生の視界に飛び込んできたのは、がっちりと周囲を包囲している八々花のアタッカー陣だった。


「相手のカウンターに即反応できない! $4,000はらうー!」


 まるで不条理なマイナスマスを直撃されたかのような絶望的な叫び声を上げる弥生。このままでは約束手形の嵐(大量失点)だと脳内パニックを起こした彼女は、一旦ボールをゴールキーパーへ戻して安全圏へ退避させるため、反転して強いグラウンダーのバックパスを供給した。


 ──だが、前半で強運を使い果たした六面山に、確率の神様は容赦のないファンブルを突きつける。


 そのバックパスの直線上のエリアへ、前線から必死に守備へ戻ろうと猛ダッシュしてきたキャプテン・黒鉄モモが、凄まじい勢いで走り込んできてしまったのだ。


「っ、相手のプレスやばいのねん! いったんパティに戻して、仕切り直しなのねん!」


 モモは焦るあまり、体勢が崩れたまま、咄嗟(とっさ)に利き足とは逆の左足でそのパスをさらにゴール方向へと押し出してしまう。


 しかし、その時。


「オゥ、弟のランディが応援に来てくれてマース! マンマミーア!」


 あろうことかこの勝負所で、観客席に向かって大きく手を振るパティ・毬尾。

 完全に集中力を切らし、スタンドの応援団の方を向いて暢気(のんき)に手拍子をしていた。


「って、パティィィィィ!? 前を見ろなのねん!!」


「へ? ──マンマミ、」


 モモの絶叫にパティが振り返った瞬間には、すべてが遅かった。


 モモが不器用な左足で放った仕切り直しのパスは、明後日の方向を向いていたパティの横を虚しく通り過ぎ、無人のゴールネットへと、本日一番綺麗な軌道で吸い込まれていった。


――コロコロ……チャプン。


――ピィィィッ!!!


『オウンゴール! 八々花女子、ついに同点! 【2-2】!』


「「「「う、動いてないのに、追いついちゃったのねん……!?」」」」


 八々花のベンチも、あまりにあんまりな得点の仕方に、ついつい黒鉄モモの口調が伝染ってしまう。

 それはまるで、貧乏神を押し付けられたかのようであった。


「もう後がないのねん! 《剛速球カード》なのねん!」


 二点ものオウンゴールに、焦りに焦った六面山高校のキャプテン、黒鉄モモ。センターサークルからのロングシュートを敢行する――!!


 ドムッ!!!


 凄まじい轟音を立てて放たれた一撃。しかし、確率の神様に見放されたその弾丸ライナーは、完全に軌道が浮き上がり、ただのカオスな暴暴球となって前線へとすっ飛んでいく。


 その不規則なボールの落下点に、優雅に跳躍する影があった。


 まるで神酒盃(みかづき)菊鞠(ひまり)の周囲だけ重力が消えたかのように、ボールは彼女の足元へ吸い付くように音もなく収まる。


 ボールを地上に落とすことなく、空中で綺麗にその勢いを殺すと、菊鞠の透明な双眸が、猛然とマークに突っ込んでくるモモの右足の動きを完璧に見切った。


(柳さん、いきますよ)


「ようっ」


 菊鞠が凛とした請い声を上げて放ったのは、あえてモモの右足を狙った、蹴鞠の如きクッションパス。モモの右足にポコンと当てて角度を変え、前線で完全にフリーになっている道風柳へと繋ぐ美しいパス――のはずだった。


 だが、脳内パニックの極みに達していたモモは、迫り来るボールに対してまたしても予測不能な動きを見せてしまう。


「ひゃあああ!? 足元にう〇ち(ボール)が落ちてきたのねん! 《目的地変更》なのん!!」


 モモは身をよじるように、ピッチの上で手足をバタつかせながら大ジャンプを敢行した。

 だが、運悪くその不器用な跳躍は、サッカーの物理法則を最悪の形でバグらせる。宙に浮いたモモの体は、図らずも美しいオーバーヘッドキックの体勢になってしまったのだ。


 ──スパーーーーンッ!!!


 無防備に天へと突き上げられたモモの右足のつま先に、ひまりの放ったパスがガチッとミリ単位でクリーンヒットしてしまう。


 それは、スタジアム中の誰もが息を呑むほどに華麗な、芸術的バイシクルシュートの放物線を描いた。


 ──ただし、飛んでいったのは自陣の六面山ゴールである。


「のねんッ!?!?(本日三度目)」


 背中から盛大にピッチへ激突するモモの悲鳴を置き去りにして、その右足から放たれた弾丸シュートは、まだ弟のランディに手を振り返していたパティ・毬尾の頭上を爆速でブチ抜き、本日一番綺麗な音を立ててネットを揺らした。


――ピィィィッ!!!


『オウンゴール! 八々花女子、ついに大逆転! 【3-2】!』


「お、オウンゴールでハットトリック達成しちゃったのねん……」


「い、いや……そうはならんやろ……」


 ベンチで見守っていた猪目萩子が、思わず時鳥藤乃の関西弁を真似てツッコむ。


「な、なっとるやろがい!」


 すかさずカスミが合いの手を入れる。


「いや、萩子先輩! あれ絶対にアッシのネイマールよりおかしいッス! 自陣へのパーフェクト・オーバーヘッドなんて、宇宙の法則が乱れてるッス!」


 未だに全身を芝だらけにした赤音が、ピッチの上で呆然(ぼうぜん)と叫んだ。


――ピッ!


 大逆転を許した直後、試合は残り時間わずかのアディショナルタイムへと突入する。


 六面山高校、正真正銘のラストターン。


「おお、社長よ、死んでしまう(オウンゴール)とは情けない。……会心の一撃で一気に攻めるわよ!《 ガンガンいこうぜ!》」


 戴道琉の絶叫を合図に、アイボリー色のユニフォームを纏(まと)った六面山のイレブンが、まるでバグったプログラムのように一斉に敵陣へと雪崩れ込んできた。


 ディフェンスの陣形も、戦術のセオリーも全てをドブに捨て、ただ「八々花のゴールへ突撃する」というコマンドだけを入力されたかのような、まさしく狂気の総力戦。

 サイコロの目が【1】だろうと【6】だろうと、残された全財産を賭けて最後のダイスを振るばくち打ちの執念が、スタジアムの空気を重く狂わせる。


「はわわ、メダ〇ニで混乱しちゃったんですか!? 《ガンガンいこうぜ》でくるなら、こちらは《いのちだいじに》!」


 幕ノ内桜が慌てふためきながらも、しっかりと守備のタクトを振るう。 この叫びを合図に、八々花のディフェンス陣が鉄壁のブロックを形成し、狂乱のアイボリーの波を真っ向から迎え撃つ──!


 アイボリーの狂乱の波が八々花陣内へと押し寄せる中、時鳥藤乃と鴬塚小梅が素早く連携して戴道琉の進路を狭め、外側へと追い込んでいく。


「全財産を賭けたラストダイスです――!!」


 死に物狂いで突っ込んでくる戴道琉の前に、凄まじい気迫を漲(みなぎ)らせた菖蒲田青衣が滑り込んだ。


「これが最後のチャンスですわ! 自分のお尻は、自分で拭きますっ」


 ガガァンッ!!!


 ピッチに激しい衝突音が響く。

 戴がヤケクソで放とうとしたラストパスを、青衣はその身を投げ出した執念のスライディングで完全に遮断した。


 ボールは青衣の足に当たって大きく跳ね上がり、タッチラインの外へと高く、高く舞い上がる。

 そして次の瞬間――。


――ピィッ! ピィッ! ピィィィッ!!!


 スタジアムに響き渡る、長く、重厚な試合終了のホイッスル。


 【3-2】。


 夏のインターハイ予選、第二試合。

 サッカーの歴史に悪名(・・)と伝説を刻むであろう前代未聞の『大迷戦』を制したのは、最後の最後までサイコロの出目に振り回されながらも、実力(・・)で己の負債を拭い去った、八々花女子サッカー部だった――!

 ここまでお読みくださり、ありがとうございました!


 前代未聞のオウンゴールのみのゲームとなりました。

 書いてるときは笑い転げてましたが、サッカーファンからは盛大に怒られそうでびくびくしてます。

 そして、六面山高校のキャプテンによる、オウンゴールによるハットトリック!

 そうはならんやろ!(なっとるやろがい)なんですが、サッカーの歴史上でも1試合だけ存在している記録なのがびっくりです。

 ちなみに1試合の最多オウンゴールの記録は【149ー0】だそうで。

 もっともこれは、主審の判定に対する抗議として故意に行ったものらしく、あまり参考にはならないですね。


 さて、2話前の後書きで「六面山高校のイレブンを全部公開するよ!」と豪語したので、ここで公開します。

 

1番:GK パティ・毬尾(まりお) 【マリオパーティ】

2番:DF 堀井(ほりい) 萌乃(もの) 【モノポリー】

3番:DF 勝担(かたん) 拓実(たくみ) 【カタンの開拓者たち】

4番:DF 四島(よとう) 八千代(やちよ) 【ヤッツィー】

5番:DF 帚木(ははきぎ) 魔美(まみ) 【ブルームサービス】

6番:MF 人見(ひとみ) 弥生(やよい) 【人生ゲーム】

7番:MF 戴(いただき) 道琉(みちる) 【いただきストリート】

8番:MF 双六(すごろく) 廻蓮(えれん) 【絵双六】

9番:FW 黒鉄(くろがね) モモ 【桃太郎電鉄】

10番:FW 洞内(どううち) 竜華(りゅうか) 【ダンジョンズ&ドラゴンズ】

11番:FW 千々和(ちぢわ) 凛(りん) 【丁半博打】


 このメンバー、洞内竜華とかめちゃくちゃ凄そうなのに、どうしてこうなった……どうしてこうなった……。


「オウンゴールだけでゲーム終わったwww」

「しかもオウンゴールでハットトリックwww」

「洞内竜華、名前は強そうなのに……」


 と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、次話以降の執筆への大きな励みになります!

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