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今でも思い出すのはセピアともモノクロとも取れる古い物語だ。


 始まりはいつも大きな木の下から。


 俺は膝を抱えてはちょこんと座り込んでいる。


 目の前に立ち騒めく木は体を揺らしまるで泣きじゃくる子供のようにも思える。


 左に目をやる。


 体は動かないから目だけを動かす。


 金縛りという奴だろうか。


 いつものことだ。


 俺の左方には気づけば男が立っている。


 そいつは見るからに新品の大きな太鼓を抱えて荒っぽく一定のリズムで太鼓をたたき始める。


 右に目をやる。


 体はもちろん動かない。


 俺の右方には気づくと女が立っていた。


 そいつは高価そうだがどこか使い古されたような金色の三味線を大事そうに抱え細かく弦を弾く。


 前に目をやる。


 体のことなど気づかぬほど反射的に。


 俺の前方には気づかぬうちに「誰か」が立っていた。


 こいつは銀色の小さな鈴を持ち、舞を踊る。


 そいつらは全員巫女装束を着こなして、いつも通りの所作をこなす。


 もちろん妙な狐の仮面をつけて。


 慣れるものだな、と自分に関心する。


 いつも思うが何故全員いつも面が欠けているのだ?


 そういう決まりなのだろうか。


 まあ意味などないか。と我に返る。


 もう何年間だろうか。


 気づけばこの物語を何度も繰り返している。


 これがループという奴だろうか。


 だとしたら俺はこんなつまらんループから脱出する主人公?


 そんな阿呆な質問を何年物の知り合いであるこいつらに問てみたいものだ。


 ま、口が動かせないのだから喋ることなどできないのだが。


 そんな妄想に更けていると気づけばあたりは夕暮れに染まってきた。


 目の前の木は先ほどまでのざわめきを止め眠りにつくように静かになった。


 さてそろそろ時間だ。


 あと20秒くらいでループは途切れる。


 特に何を思うわけもなく瞬きをする。


 目の前にはさっきまでそれぞれの配置で所作をしていた三人が立っている。


 三人は口を揃えて「何か」を詠うように口を開いた。


 「鏡が映すは我の破面」


 「欠片は奈落へと沈み」


 「また此処に写る。」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 暗転した眼前がいきなり広がる。


 先ほどまでの美しい自然たちは幻のように消え去っていた。


 いや、幻そのものだろ。と自分に突っ込みを入れる。


 目を開ければいつもの見慣れた天井だ。


 あの光景と同じくらい見慣れていることからあの夢も大概長いこと見すぎだな、とあきれるように思ってしまう。


 買ってくれた両親の嫌がらせだともとれるほど大きなツインサイズのベッドは寂しいほど体を好きなように伸ばせてしまう。


 グッと体を起こすと体を動かせることに少しの感動を覚える。


 ふと気づくと下の階からは何かの焼ける心地よい音が聞こえた。


 目をこすりながら足をしっかりと地面につける。


 が、まだ動くのに慣れない体は立ち眩みを起こした。


 千鳥足のようになりながらドアを開け、階段を下る。


 明るい照明に包まれた食卓には豪華な朝食がおいてあり、そこには愛すべき愛妹がいた。


 黒い髪にポニーテールのザ・少女という可憐な妹は自慢の愛妹だなぁと我ながら気持ちの悪いことを思う。


 「おはよう、サキにい。」


 「ああ、おはよう。シュン。」


 と朝の挨拶を交わす。


 目をテーブルにやると一人分の鮮やかな朝食が置いてある。


 うんうん。家の妹は料理すらもできるんだぞ!完璧だろ!と誰かに自慢したくなる気持ちがわいてくる。


 ん?


 待てよ?一人分?


 「な、なぁシュンちゃんよ。」


 「どうしたの?サキにい。」


 いつもは可愛い笑顔の妹の顔が目が笑っていないような気がした。


 「今日の朝食当番はシュンちゃんで間違いないよな?」


 カレンダーの下にある献立表と週替わりの当番表を確認する。


 「うん!今日は火曜日だから私だよ!」


 おっと、妹よ。何故目が笑っていないのだ。


 恐る恐る俺は口を開く。


 「お、おれの飯って……」


 ……沈黙が食卓に広がる。


 「サキにい。昨日さ何時に帰ってきたっけ。」


 サーッと昨日のことを思い出し血の気が引いていく。


 「21時っすね……。」


 そう。俺ら藤谷家には門限がある。


 必ず19時には帰ること。


 高校生の門限にてしては厳しいと友人に指摘もされるが別に自分は不満に思っているわけではない。


 そう問題はその門限をこの前妹が破った時に俺が強めに叱ってしまったのだ。


 というのもその日は母の誕生日であり、久しぶりにみんなで集まれる日だったから。出張の多い両親と少しでも長い時間四人でいたいと俺が気合いを入れすぎたから。


 しかしそのあとよくよく考えてみればその日は委員会で遅れると聞いていたのだった。


 もちろん気づいた後謝った。


 それはもう額がこすれるほど土下座して。


 その時は妹も謝ってくれて一件落着……と思った矢先……。


 俺は昨日図書館で仕事をしていたのだ。


 しかも伝えておらず、帰って来た時にはシュンは寝ていた。


 「あっあのヒジョ―におこがましいのですが。パンの切れ端でもいいので貰えると……。」


 そう言いかけた途端包丁でまな板を叩き切るほどの轟音が鳴り響く。


 「なんか、言った?」


 その瞬間愛おしい家族の立ち姿が歴戦の戦士かのようなオーラに包まれたように感じて「なんでもないです」と咄嗟に答える。


 こうなってしまった以上どれだけ真摯に謝罪をしても逆にオーラを強めてしまうだけだ。


 諦めて干してあったYシャツに腕を通す。


 朝飯は――購買の菓子パンかな。と朝から働いてくれている購買のパートさんに心の中で感謝をした。


 そうと決まればさっさと行くか。玄関に昨日から置きっぱなしだったスクールバッグを肩にかけて重たい玄関を開ける。


 ……一応言っておくか。


「行ってきまーす……。」


 呼応はなく俺は静かに玄関を閉じた。


 *


 田舎は嫌いじゃない。


 空気は澄んでるし、都会のような喧噪や忙しなさもない。


 強いて言えば、そう。坂を何とかしてほしい。


 傾斜10%超えてるんじゃないかと思うほどの絶壁っぷり。それこそ車で旅に来る人やテレビやSNSで見る分には美しい風景なんかに心打たれるかもしれない。


 要するに住めば都、なんて言葉は結局その人次第ってことだ。と陰湿な愚痴を唱えながらも必死で坂を自転車で登る。


 初夏の生ぬるい風に元気を消し飛ばされそうな朝。


 なんとか坂の頂上に着いて顔を上げる。


 眼前には巨大な海原。それをなんとか取り囲もうとたくさんの家々が連なって段々状になっている。


 ――この景色は確かに都級かな。一人微笑んでいると風に流れて遠くの音が聞こえた。


 予鈴のチャイムだった。


 焦って自転車を動かし結構急な坂を一気に駆けていく。


 ここから学校まで全速力で15分。朝予鈴から出席確認までは20分くらい。


 大丈夫。限界を超えれば何とか。そう完全に自分の世界に入っていると町中に響き渡るような甲高い警戒音が目の前から鳴っていた。


 ハッとして見ればそこには軽トラが!


 なんとか自転車を右にずらしてギリギリ回避する。


 心臓が破裂しそうなほど高鳴る。死、死ぬかと思った……。


 どうにか高鳴る鼓動を抑えてペダルに足を乗せようとすると足が何かに絡まった。


 グっと引っ張られるように俺は道の側方の林へと転がっていく。


 体が半回転したと思えば木にぶつかっては又転がる。


 どうやら自転車も一緒に転がっているようでガシャンガシャンと共に転がる音が聞こえる。


 真っ暗な視界に目を開けようと頭を腕で防いでいるといきなり瞼を貫通するほどの明るさに。それと同時に全身が水につかるような感覚に見舞われる。


 しばらく衝撃で身動きが取れないでいると自転車の転がる音が消えたことに気づいた。


 痛みに耐えながら体を起こして四つん這いの状態で目の前を確認する。


 そこには大きなトンネルの入り口が構えており、いたるところに嚙みついている苔や蔦からどれだけ放置されているのかが何となくわかる。


 石造りのそれの下には錆びだらけで使えそうにもない線路がバラバラになっている。


 その姿にあっけにとられているとふと頭上から新緑の葉が降っている。上を見ると自転車が木に挟まって身動きをとれずにいた。


 壊れると思い急いで手を伸ばすもちょうど手の届かない場所にあり、どうしようもないのでとりあえず上に行く方法を探すことに。


 俺は少し怖くなりながらもトンネルの先には出口が続いているかも、と背後の土砂崩れで通れなくなったのであろう小道を見ながら進むことを決意する。


 


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