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作戦2ークリス視点ー

遅くなってすみません

書きたいだけ書いたら本編並みに長くなりました

 ークリス視点ー


 最近、団長がおかしい。

 俺がそう感じたのは、一月前に団長が倒れた時からだ。


 俺の上司であるレイラ=シルヴェスター団長は、貴族出身だが権力を振りかざすことなど一切しない。誰もが認める実力を持ち、真面目に仕事に取り組む、貴族としては少し変わった人だ。

 むしろ手を抜くということを知らないようで、少し目を離すと無理をし過ぎる。

 そんな団長を尊敬している。そして、手伝えることがあれば何でも手助けをしたいと思っている。そんなこと、団長を見ている人なら誰だって思うようなことだろう。


 だが、ここのところ団長は俺を避けている。

 最初は気のせいだと思った。訓練で団長と当たることがなくなったのも、休憩中に話し掛けられなくなったのも、飯を食べる時間に会わなくなったのも、全部気のせいだと思いたかった。


 何がいけなかったのか、その理由が全くわからない。理由を聞こうにも、団長はすぐに話を切り上げるようになってしまったので聞けずじまい。

 更には、避けているのはどうやら俺だけだと気付き、団長が誰かに話しかけている所を見ると腹の底から黒いどろどろした感情が沸き上がってくる。

 その感情が何なのかわからずただがむしゃらに訓練をするが、気持ちは一向に晴れることはなかった。



「団長、サガスク地方のタルバン、ヘスベス、ホールヘルの資料をまとめ終わりました」

「ありがとう。ええっと……ヘスベスとホールヘルは黄色の箱に入れておいて。タルバンは預かるわ」


 団長は俺からタルバンの資料を受け取り文面を見ると険しい顔になった。


 ウィスター王国とベルヘルム帝国の国境より少し離れた場所に位置するサガスク地方タルバンは、ウィスター王国の王子アルスが率いる連合軍が通った中でも、特に被害が大きかった村だ。

 連合軍は『アルス王子は救世主だ』とか訳の分からない事を言って民の金品などを強奪。さらにはタルバンの近くを縄張りとしていた山賊との戦闘に村を巻き込んだらしい。

 軍の到着が遅れたことも重なり、死傷者がかなりでたと報告書に書いてあった。

 被害者のほとんどはウィスター王国の民だというのに、連合軍は何をやっていたのか。そんな怒りにも似た思いが募る。


「ゲームでは物貰えてラッキーくらいにしか思っていなかったわね……」

「何の話ですか?」

「あ、気にしないで。ただの独り言よ。……ふぁ…」


 最近、団長はよく欠伸をする。

 目もとに隈ができているから寝不足なのだろう。


 書類は、以前より不自然なほど量が減っている。

 団長は報告書をまとめることが人より上手なせいで、第二師団や文官の仕事まで押し付けられている時がある。

 俺が気付いたときには突き返すようにしていたが、団長も断るようになったのか?

 となると、書類処理の仕事は以前より減っているはずなのだが、何か他に理由があるのか。


「休憩したほうがいいですよ。紅茶でも持ってきましょうか?」

「このくらい大丈夫よ。それに私にはこれがあるし」


 そう言って団長が取り出したのは、白い液体が入った小さな小瓶。ここ最近よく飲んでいるそれは、団長いわく気付け薬らしい。

 城の薬師に作ってもらっている物らしいので変な物ではないのだろうが、それを常備しないといけないほど団長は忙しいのだろうか。俺はむしろ以前より仕事が減ったというのに。


 白い液体を一気に飲み干した団長は、タルバンの資料を新たに積んだ資料の山を持ち上げた。


「私はこれ届けてくるから、クリスは休憩しておいて」

「資料運びなら俺が…」

「持って行ったついでに直接話したいことがあるから私が行くわ」


 団長は有無を言わさない笑みを向け、山の様な資料をさっさと持っていってしまった。



 この時、無理矢理にでも付いて行っていたらよかった。

 そう後悔したのはその日から少し経った頃だった。



_____________


「そんな顔ずっとしてたら皺が取れなくなるぞー」

「………」

「わ、悪かった! 謝るから今にも殺しそうな眼光やめろ!」


 あまりにもカールが喚くので視線を手もとの報告書に落とすと、横から安堵した溜め息が聞こえてきた。


 今、俺を含む小団はサガスク地方の中でも帝国寄りに位置するメイベルに来ている。

 つい先日、ここでウィスター王国軍と第四師団管轄の小団が戦った。

 結果はウィスター王国軍の圧勝。此方の被害は壊滅的だったのに対し、相手の主力は誰一人落とすことができなかった。

 当然メイベルはウィスター王国軍に占領されていたのだが、敵の主力部隊が簡単には引き返せない程の距離まで離れた隙をついて奇襲を仕掛けるとあっさり制圧することができた。

 そうして今は、現状把握と捕らえられていた団員達の治療の為に奔走している。


「しっかし、奇襲は早く終わったけど後始末にかなり時間かかるなこりゃ。駐屯兵はあとどのくらいで動けるようになりそうなんだ?」

「最初に応急処置はされてるものの、その後放置されていたからな。化膿や炎症が酷い者が多いからあと三、四日はかかるだろうな」

「加えて、近隣の村もウィスター王国軍の被害があるし……帰れるのはあと五日後くらいかなー」


 ベルヘルムの王城からここまで飛竜で三日かかった。ということは、王城に帰るのは八日後か。


 思い浮かぶのは、王城に残ったシルヴェスター団長。

 人手が足りないからと今回の策に参加することになったが、まさかこんなに離れることになるとは思っていなかった。

 一応先輩に俺の代役を任せたが、それでも十一日間団長の負担が増えることに変わりはない。


 ここ最近の仕事量なら団長一人でもなんとかなる。

 だが、なんだ胸騒ぎは。何か、重要な何かを見落としている気がする。


「……カール。この仕事、三日で終わらせるぞ」

「ほーい……って、え? 三日? 冗談だろ?」

「本気だ」

「うわー……徹夜決定だー」


 早く帰って団長の顔を見たら、きっとこの胸騒ぎは収まる。

 そう思うと今まで以上に気が引き締まり、カールが白目をむいて空笑いしているのを横目に報告書作成に集中した。



 その結果、予定通り三日で全ての仕事を終わらした。

 さらに休憩を削って帰りの移動時間を減らし、王城には二日で帰ることができた。

 飛竜が地上に降りると団員達が転がり落ちて辺りが死屍累々となったが、俺はディアに礼を言って世話係に引き渡すとその場から離れた。


「クリス、一体どうしたんだよ? 何そんな焦ってんだ?」

「確かめたいことがあるだけだ」


 本当は駆け出したい気持ちだが、王城内で走ることができないので早足で進む。

 角を曲がりもう少しで第四師団の執務室に着くという所で、部屋から誰かが出てくるのが見えた。


「あれ、団長だよな。なんかすっごい量の書類持ってるし、ふらふらしてる……って、あ!」

「………っ!」


 団長の体勢がぐらりと傾く。

 それに気付いて駆け出し、書類が宙に舞う中間一髪のところで団長を抱き止めた。


 間に合ったことに安堵したのもつかの間、団長を見て血の気が引いた。

 手の先が塗料の様に白い。

 顔も青白くなっているが、それ以上に手の先の白さが異様であった。


「間一髪だったなクリス。団長はどう…」

「カール、今すぐロア殿を呼んで来てくれ。俺は団長を部屋まで運ぶ」

「ロア殿って、薬師きってのお色気美女ミリー=ロア殿か?」

「……たぶんそれだから早く行け」


 振動を与えないようにそっと団長を抱き上げる。

 あまりの軽さに動揺したが、その揺れは腕に伝わらないように気合いで止めた。

 そうでもしないと、白くなった団長の手が陶器のように砕けてしまうのではないかという気持ちから動けなくなりそうだからだ。



 そうして団長に伝わる振動は最小限に、できるだけ急いで団長の部屋までたどり着いたのだが、そこでまた目の前にある光景に絶句してしまった。


 前に来たことがある団長の部屋は、本が多いものの整理されていた。

 ところが、今の団長の部屋には書類の山があちこちに積み重なっている。特にテーブルとベッドの傍にはいくつもの書類の山があった。

 団長をゆっくりベッドに寝かせ、傍にあった書類を何枚か確認する。

 ……思った通り、それらは本来執務室にあるはずの書類ばかりであった。


「まさか最近書類が減っていたのは、団長が一人で処理していたから……!?」


 その考えに至ると、今までの団長の行動が思い起こされ後悔の念が押し寄せてきた。

 何故、不審に思った時に確認をしなかった!

 団長から直接聞けずとも、書類のやり取りをしていた仕官に問いただせば、書類の量がおかしいことに気付けたはずだろう!


「クリスくん? どうしたのそんな怖い顔して」


 近い距離から聞こえてきた声に気付き振り向くと、目の前にあったのは豊満な胸。

 邪魔なので身体をずらして見上げると、白い上着を着たオレンジ色の髪の女性がいた。薬師のミリー=ロア殿だ。


「ロア殿、早く団長を……!」

「もークリスくんってば、私の魅惑の身体に眉一つ動かさないんだから。ほらほら、そんな形相しなくてもちゃんと診るから、とりあえず座りなさい」


 笑顔だが威圧のあるその表情に圧され、近くにあった簡易の椅子二脚を持ってきて座る。

 ロア殿は大きい重そうな鞄をベッドの傍に置き、気を失っている団長の身体を触っていく。


「熱があるわね。呼吸は浅めで脈も速い。

そして……あら? これは…」


 ロア殿は白くなった団長の手を見つけると息を飲んだ。そして、少し手を触るとみるみる間に普段見ないような険しい表情になった。

 その後、持ってきていた鞄から帳簿のような物を取り出し、物凄い速さで捲りだした。

 そして、あるページを読むとロア殿は目を見開いて固まった。


「……ねぇ、クリスくん。もしかしてレイラ、白い液体とか飲んでいた?」

「はい。俺の知る限りでは、二日に一回は飲んでいたかと」

「あの薬を!? ……不味いわ!」


 俺の言葉を聞くや否や、ロア殿は普段のおどけた様子など微塵にも感じさせないような早さで動き出した。

 灰色の本を片手に床に陣を描いていくロア殿の姿に、ただ事ではないことはすぐにわかった。


「ロア殿! 一体団長に何が起こっているのですか!? 俺にできることは何か……!」

「なら、今すぐ清潔な水で身体をしっかり洗って着替えてきなさい。魔法で精製した水はダメよ」

「しかしそれは…」

「何もクリスくんを追いやろうとするわけじゃないわ。むしろこれから手伝ってもらう為の準備なんだから、できるだけ早く来なさいよ?」

「……了解しました」



 それからロア殿に言われた通り、指の先から足の先まで洗い着替えて部屋に戻ると、陣をまだ描いていたロア殿に何故か呆れられた。


「できるだけ早く来なさいとは言ったけど、早すぎよ。ちゃんと清潔にしてきたでしょうね?」

「言われた通り洗ってきました。あの、陣の中に入っても?」

「良いわよ。好きなだけレイラの傍にいなさい」


 ロア殿の許可が下りたので、陣を跨ぎベッドのすぐ傍に置いていた椅子に座る。

 周りでこうして動いている間も、団長は静かに眠ったままだ。


「ロア殿。団長の身体はどうなっているのですか?」

「今、レイラの身体は内側からボロボロになっていってるわ。今からその原因を全て出すようにするけれど……確実に助かるとは言えないわ」

「………っ!」


 団長が死ぬかもしれない。

 そんな考えが浮かぶと、目の前が真っ暗になりそうになった。


「原因はレイラが飲んでいた白い液体よ。アレは飛竜の鱗を使った物でね、飲めば三日三晩寝ずにいられるという気力薬の中でも最高位の効力を持つ物なの。でも、アレはクリスくんみたいな魔力を持たない者が一定量飲むと、三日三晩苦しんで死んでしまうような劇薬なのよ」

「団長はそんな薬を毎日……」

「いくら魔力を持っていたとしても、摂取し過ぎたら当然副作用も出てくる。大体の人は反動でショック死してしまうけど、今回はレイラの魔力が低くて助かったわ」


 陣を描き終えたロア殿は、俺に濁った緑色の液体が入った瓶を渡して陣の外に出る。

 普段戦闘や治療の時に聞くようなものより長い呪文を唱えるロア殿。ロア殿が唱え終わり手を付くと、陣が若葉のような薄い緑色の光を放った。

 特に変わったことはないが、ロア殿の様子からして成功はしたらしい。


「じゃあ、クリスくん。渡した薬をレイラに飲ませてちょうだい。全部飲ませるのよ」

「わかりました」


 眠ったままの団長に薬を飲ませることにかなり苦労したが、なんとか全部飲んでもらうことができた。

 あんなに不味そうな薬を飲んだ後でも、団長の表情はあまり変わらない。


「後は定期的に薬を飲ませて様子見ね。いつ容態が急変してもおかしくない状態だから、交代しながら付き添ってあげてね」

「交代は必要ありません。俺が看ておきます」

「レイラが目を覚ますまで最低三日はかかるわ。その間の仕事はどうする気?」

「……ロア殿。少しの間席を外しても宜しいですか?」

「昼までに帰ってきてくれたら大丈夫だけど、何する気なの?」

「少し話をしてきます」


 一旦ロア殿に団長を任せ、俺は城中を駆け回った。


 第四師団の団員達には、団長が倒れた事を伝え、国内外調査の仕事がない者は暫く自主訓練をしておくことを指示。

 ハイトラー団長には、団長の容態を伝え、団長にしかできない書類の処理を代わりにしてもらうように頼んだ。

 そして書類を押し付けてきていた第二師団と文官達には、自分達の仕事は自分達でするようにきっちり釘を刺した。


 そうして、できる限り俺が団長から離れなくても大丈夫な環境を整えた。

 そうしてでも、団長の看病を誰にも譲りたくなかった。

 しかし、それが何故かと問われるとわからない。


「呆れた。クリスくんがここまでするなんて」

「……自分でもわからないのです。本当は俺が仕事を全部すれば周りに迷惑がかからないことはわかっているのですが、それでも団長の傍は誰にも譲りたくない」

「そう。……時間はいっぱいあるわ。その間に考えなさい」

「ロア殿はこの答えを知っているのですか?」

「知ってるわ。けど教えない。だって、その気持ちは自分で認めないと意味ないもの」


 陣に入れないらしいロア殿に鞄を渡すと、ロア殿はよいしょとまた重い鞄を持ち上げる。


「じゃ、薬は私が持ってくるから、その間レイラをよろしくね。あ、そうそう。いくら悶々と考えているからって寝込みを襲っちゃダメよ?」

「そんなことしません」

「レイラが意識取り戻して同意したら、いくらでもしたらいいんだけどねー。クリスくんなら私も大歓迎よ」


 最後に何か訳のわからないことを言い、ロア殿は普段のようなおどけた表情で部屋から出ていった。



 団長に薬を飲ませるようになってから一日経つと、団長はうなされるようになった。

 ロア殿によると、気力薬によって麻痺していた痛みを感じるようになり、痛みと緑色の薬の副作用で悪夢をみるようになるらしい。


「おい…か……ない、で……クリス…」


 団長はうわ言で俺の名を呼び、何かを探すかのように手で空を掴む。

 その表情は見ている此方が苦しくなるほど辛そうで、時折涙を流している。


「俺はここにいます。絶対にどこにも行きません」


 そう言って手をしっかり握ると、団長は安心したようにまた眠るのだ。


 夢の中の俺は一体何をしているのだろうか。

 普段、絶対に人前で泣かないような団長に涙を流させるほどのことをしているのか。


 団長がうわ言を呟く度に申し訳なくなる一方で、団長が俺の名を呼ぶ度に何故か身体が痺れるほどの高揚感が沸き上がっていた。


 団長が他の誰でもない俺を求めている。

 その事に、自分でも驚くほど喜んでいた。



 しかし三日目になると、団長が呼ぶのは俺だけではなくなった。

 何故か、敵のアルス王子まで呼ぶようになったのだ。


 団長は前からやけにアルス王子の動向について気にしていた。

 確かに今となっては向こうの兵力は無視できないほどになったが、団長が気にしていたのはそれよりもずっと前。


 ……まさか、俺の知らない所で二人は知り合っていたのか?

 「行かないで」と泣いてすがるのは、アルス王子だから……?


 その考えに至ると、腹の底から黒い感情が吹き出してきた。

 これは……嫉妬、だ。

 団長とアルス王子が寄り添う。アルス王子は顔すら見たことはないが、そんな光景を想像するだけで嫉妬でどうにかなりそうだ。


 そうしてようやく気付いた。

 団長のことが好きなのだと。


 自覚すると、今までどうして気が付かなかったのかと思うほど目の前の団長が愛しく感じた。

 こうなると、愛しさと嫉妬から団長を襲ってしまいそうで、俺は書類を処理することでなんとか理性を保っていた。




 四日目にして、やっと団長は目を覚ました。

 すぐにロア殿を呼び、すぐさま魔法での治療が行われた。

 治療によって上半身だけ起き上がれるようになった団長から、これまでの生活を聞き出した。


 団長は詳しくは話さなかったが、どうやら俺が書類が減ったことを感じた頃から日の出直前から朝食をとるまでしか睡眠を取っていなかったらしい。しかも、俺が遠征に行ってからは全く寝ていなかったとか。

 さらに、飯を食べる時間も書類処理にあてていたようで、後半では団員達が無理矢理食べさせた物しか食べていなかったらしい。

 つまり、団長は二十日以上ろくに眠りも食事もしていなかったということだ。


 考えただけで気が遠くなりそうなものばかりで、ロア殿と二人で本気で怒った。

 団長が体調を崩したためにどれだけ多くの人が心配したかを言い聞かせるように説教。団長が言い訳をしようものなら、俺とロア殿の無言の圧力で閉じさせる。

 説教が終わった頃には、これから俺が食事等を監視するというロア殿の横暴な提案にも素直に頷くほど団長は疲弊しきっていた。



 散々言ってすっきり様子で出ていったロア殿を見送った団長は此方を向いた。

 眉を下げ様子を伺うように見てくるその表情はとても可愛らしく、身体が熱くなるのを感じた。


「クリスにはいっぱい迷惑をかけてしまったわね。……部下に迷惑かけるなんて団長失格ね」

「そんなことありません。団長がその務めを果たすためにどれだけ努力されているか、俺が一番よく知っています」

「クリス……」

「ただ、もっと俺に頼って下さい。仕事ならどんなものでも手伝いますから……お願いですから無茶をしないで下さい。団長が倒れてから今まで生きた心地がしませんでした」

「うっ、ごめんなさい」


 しょんぼりする団長の頭を触ろうと、無意識に伸びていた手を慌てて引っ込める。

 久し振りに聞いた団長の声は、恋情を自覚した今では甘く脳に響き、無意識に手に入れようとする身体を押さえるのに一苦労する。

 これがこの先毎日続くのだと考えると、自分の理性がもつか心配である。


 とりあえず、二人っきりのこの状況は不味いと判断し立ち上がった。


「この三日間寝ていましたし、何か食べないといけませんね。消化のいい物を作らせてきます」

「それなら私が…」

「団長は寝ていて下さい。もし部屋から出たらもう一度怒りますから」

「……はい」


 先ほどの説教を思い出したのか遠い目をする団長。

 この様子だとだいぶ効いているようなので、大人しく寝ていてくれるだろう。


 そう判断し行こうとすると、服の裾を掴まれた。

 振り向くと、団長が笑顔で俺を見ていた。


「クリスにはいっぱい看病してもらったし、今度何かお願い事があったら言ってね。私にできることなら何でもするから」


 団長の無垢な笑顔に欲望が這い出る。



 団長。何でもと言うのなら、他の男など見ずに俺だけを見てくれますか?


 そんな願いを言ったところで、団長を困らせるだけなので曖昧に笑って誤魔化した。

番外編は以上で終わりです

最後まで読んで下さりありがとうございました

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