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≪18≫乾杯、商業連合国の酒場にての巻

 商業連合と言うからには、この国の成り立ちも中心も商いである。したがってこの連合国には特定の王都のような物はなく、「アズール」「ビブード」「セレナーダ」の巨大な3町から選出される貴族議員たちによって国が動いていた。

 そして今回俺たちがたどり着いたのは、3つ目の町であるセレナーダ。この町は主に魔法による加工品や金物が名産で、人口は3都市で一番少ない。つまり東京とはいかないまでも、日本の地方都市くらいの人口はいるかもしれないという事らしい。


「取り敢えずこういう店に入ったはいいが、これからどうするかを話し合うにはちょっとうるさ過ぎないか?」


 俺たち三人が今いるこの場所は、セレナーダの外延部にある旅行者用の酒場だった。この町に着いたのが夜だっため、こういう店しか空いていなかったのだ。隣近所ではこの時間になっても酒盛りをする仕事帰りの鍛冶屋、商談に花を咲かせる商人など、この町の活気を表すかのように賑やかだった。


「いいや、こういう場所ならば大きな声で話さなければ話が漏れる事も無い。それに今の私達は小金持ちだ。メルラ、好きな物を好きなだけ頼むと良い。ただし、カモだと侮られたら値段を吊り上げられるから、一気に高い物ばかり頼んだりする馬鹿はしないでくれよ」


 そう言ってエリザは自分の前にあるエールのジョッキをエールを一気に飲み干す。どうやらボルゾイの研究所までたどり着くまでの道のりで、随分と勉強代を払ったらしい。


「私を田舎者扱いしないで。私だって町に来たことぐらいあるのよ?」

「じゃあお手並み拝見と行こうか。すいませ~ん!!」


 エリザが店員を呼ぶと、この酒場の看板娘らしきお姉さんがやってきた。胸元の大きく開いたドレスは、元の世界のニュースで見た、EUのビール祭りのウエイトレスを思い出させる。


「じゃあこの鴨の燻製とビール、あとはサラダと白パン……あとこれとこれもください」

「は~い。沢山頼んでくれてありがとうございます。お客さん達お金持ちなんですね~」

「……ギャンブルで勝ったんだ!今日だけさ」


 その文言を言おうと待っていたようにエリザがその定型文を言うが、ハイハイとそのセリフを適当に流しながら、看板娘は厨房へ行ってしまう。


「あれがそのカモにされない為の常套句か?ギャンブルで買ったなんてエリザらしくないぞ?」

「ウルサイ。あれが一番いいって前の旅で分かったんだよ。そう聞いたんだ」


 そう言ってエリザは二杯めのエールを半分ほど飲むと、ナッツをつまみ始める。

 この分だとエリザが酔っぱらうのも時間の問題で、素面に近い内に話を進めなければならない。


「それで、これからお前たち二人はどうしたい?今の所はメンシアからの追手は来てないが、どのタイミングで俺たちの正体がばれるか分からない。だから俺はまず、この金と能力で地位を手に入れたいと思う」


 俺は急いで本題に入った。エリザはもう少しゆっくり行こうと言いたげだったが、自分の頬を叩いて気分を切り替えようとした。


「私もその意見に賛同するが、私自身は商人が中心の国で貴族の称号などいらないぞ?お前が金持ちの役回りを演じるならば、その金で私を雇ってくれ。金持ちの用心棒など騎士としては下の下以下だが、それでもお前が貴族にでもなれば、面目躍如だ」

「私もエリザと同じ意見ね。私も貴族にはなってみたとか思ったけど、良く考えたら面倒よね。それにハルキをご主人様として奴隷契約モドキをしてしまったし、今のレベルの生活をさせてくれるなら高望みはしないわ」


 そう言ってメルラはカモ肉の燻製を自分の皿に大きく取り分けて、普段は食べた事も無い白パンに乗せると、嬉しそうに頬張る。

 俺もそれにならったが、この世界の食品は全てオーガニックだ。その上酒場とはいえまともなコックの作った料理は、良く考えたらこの世界に来て初めてである。 それを一言で言うと、美味しい。


「じゃあ当面の課題は貴族になる事。この国でいうとつまりは更なる金儲けか。まあそれは良いとして、まずは貴族になる方法とかそう言ったこの国の諸々のルールを知るべきだよな?」

「そんなこと私達に向かって言わないでくれ。私は他国の騎士だったから市井の事なんぞさっぱりだし、メルラはただの寒村の村娘だぞ?」

「寒村で悪かっらわね」


 エリザを睨み付けるメルラだが、彼女も慣れないお酒が体に回り、いい感じに酔っぱらっているらしく、呂律が回ていない。


「まあとにかく明日はそう言った諸々のルールを知っている人間を雇いにでも行こう。まあそう言った人間を雇う場所すら明日から探すんだがな」

「そうだな。それがいい。そうと決まれば乾杯だ~!」

「いいぇえい!!乾杯~!!」


 そういった所で、メルラが頼んだその他の料理達が大量にやってくる。はっきり言ってこれ以降はまともな話しは出来なかったが、それでもこの美味しい料理で取り敢えずの癒しは得る事は出来たらしく、二人とも寝顔は健やかなだった。

 ちなみに俺がどうしてそれを見たかと言うと、酒場の二階は連れ込み宿と相場が決まっているらしく、そして幸いな事に部屋が一つしか余っていなかった。俺は危険な感じに絡まり合いながら、早々に寝入った二人の代わりに見張り番をする為、マリア―ジュの生成した薬を飲んで徹夜する事になったからである。



「おはようございます。昨晩はオタノシミでしたね」


 酒場の看板娘の朝は早いらしく、俺にそんな言葉をかけると、せっせと酒場を掃除していた。部屋に入る状況だけ見れば、エリザもメルラも俺の女っという事なのだろう。


「あの二人は違うんですよ。家族みたいなものなんです」

「うっそだ~。あんなにお料理頼んでくれるお金持ちなのに、こんな居酒屋の二階で、しかも一つの部屋なんて~」

「それは部屋が余ってないってあなたが言ったからでしょ?」


 確かそのはずだった。酒交じりの昨晩の記憶ではそうだったはずだ。


「あれはあなたに気を利かせたんですよ。女性を二人同時に連れ込み宿に入れるなんて大胆な事するには、それなりの大義名分が必要でしょ?」


 そう言って看板娘は大きな声で笑う。まったく余計なお世話だったが、それでも彼女のような底抜けに明るい性格の人間は嫌いに離れなかった。


「そのおかげでこっちは寝不足ですよ。無論そういう意味でなくね」

「そんな勿体ない。お兄さんの相手が空いてるなら、私が相手をしても良かったのに~?」


 冗談だ。そうは解っていても俺はついつい赤くなって口ごもる。こういう部分は「俺」になってもすぐには変われないようで、俺は久しぶりに「僕」のように後手に回る。


「冗談ですよ。酒場の女はこういって男を誑かすんです。注意してくださいね」

「わっわかてます。大丈夫です。ハニートラップになんて引っかかりません」

「ハニートラップ?面白い造語ですね。甘い罠。正しく女の武器を言葉にしたよう。詩的な物言いをするんですね。もしかしてどこかの貴族様ですか?言葉づかいも綺麗ですし」


 そう言って看板娘は俺のを覗き込む。その服の構成上、俺の視線は見事に谷間に誘導された。


「まだ貴族じゃありません。でもいつかなる予定です」

「じゃあ駆け出しの商人さんかな。まあ頑張ってくださいね。貴族になったら、私をお嫁さんにでもしてくださいね~」

「ええ、じゃあ貴族になったら迎えに来ますよ」


 真実などどこにもない、酒場での与太話。彼女はそう思って営業トークをしているようだが、俺の場合は本気だ。もちろん貴族になったら彼女を迎えに行くと言う話ではない。これからの事についてだ。


「じゃあ手始めに誰かこの近くに住んでる貴族の家を教えてくれないか?売りたいものがあるんだ」

「売りたいもの?市場ではなく貴族様に直接ですか?」


 そう、あの本の残りを買ってくれる貴族が必要だった。

 もしくは隠居してるような領主をぶっ殺し、その上で本人を偽って私生児として俺かメルラを紹介させればよかったが、そういうやり方が出来る程悪人にはなれなかった。俺はボルゾイを殺し、メルラの父を殺し、麓の村を危機に陥れたと言うのにだ。


「そうなんだよ。ちょっといい品があってね」

「ふ~ん。そんなにいい品なんですか。じゃあいっそ闇市で売っちゃえばどうですか?そうすれば一晩で一生分稼げるかもですよ??」

「闇市なんてあるのか?夜中に地下とかでやってるあの?」


 看板娘は俺の言葉を聞いて笑う。


「何言ってるんですか。元王族の奴隷から古代王国の至宝まで、この国の闇市で買えない物はないって、その筋では有名ですよ?てっきりお客さんはそっちの人かと思ってました」

「生憎この国そう言う事に無知なんでね。良かったら紹介してほしいくらいだ」


 俺が紹介と言う言葉を吐くと、一気に看板娘の顔が曇る。それは明らかに商人の、あの金を値踏みする悪賢い顔。とてもこの年の娘がして良い顔じゃなかったが、それがお国柄なのだろうか。


「え~なら……今日の夕方、この宿の裏の厩に売りたいものを持って来てくださいよ。あとは私の紹介料で金100です」

「金100だと!?高くないか?」


 これだから田舎者は。そう看板娘の目が言っている。しかし本の値段と比較させても、その値段は高すぎた。


「金100です。言っときますけど、闇市に連れて行ってくれだなんて誰彼構わず軽々しく言わない事ですよ?この町には潔癖派っていう怖~い人たちがいるんですから。そう言う人にそんなこと言ったら、社会的に抹殺されるだけじゃすみませんよ?」

「別に俺はイザとなれば普通に遺族に売ってもいいんだぞ?俺は金を稼ぐ手段には困らないからな」

「へ~大した自身ですね。お偉い貴族様と会ってもその調子で話せると良いですね」


 俺と看板娘の目が合って、そのままジリジリと。


「おいミランダ~こっちを手伝ってくれ~」

「あ!は~いただいま~」


 しかし看板娘は酒場の主人に呼ばれたようで、そのまま建物へ戻ろうとする。


「じゃあ金70で。言っときますけどこれは破格ですからね」

「まあ考えとくよ。ミランダ」


 商談成立を予感したのか、彼女は営業スマイルをふり舞く。


「では縁があれば夕方に。後、私の名前はミランダじゃないんです。それはお仕事用の名前。本当名前はエーリカです」


 そう言うと、彼女は元の看板娘の顔に戻り、そのまま元気よくかけてゆく。俺はメルラ達と話す内容が増えたことについて考えながら、翻る彼女の短いスカートから覗く太ももを見送った。

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