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≪13≫行商、エリザの嘘語りと村娘Aの巻②

「居心地悪かったでしょ?私はメルラっていうの。よろしく」


 そう言って裏口に出た僕を歓迎した村娘改め、メルラ。彼女は短く切った髪が表すように活発そうな声が心地よい。


「よろしくメルラ。助かったよ」

「いえいえ。父の元にはたまに行商の人が来るけど、お弟子さんは皆以後ごち悪そうだからさ~」


 実をいうと逆にピンチだったが、僕は無理をして笑う。ぼろを出すわけにはいかない。これはある種のテストなのだ。此処でぼろを出せば、きっと更に同じような鍛錬が続くだろう。

 さすがにここは上手くパスして、何とか次に進みたい。


「あ~でももうすぐに戻らないといけないかも。いつまでもサボってたら後が怖いし」

「そんなこと言わないで、私の話を聞いてよ。おねが~い」

「そんなこと言っても、僕も仕事だから」

「なによ。どうせ君たちお忍びのお金持ちかなにかなんでしょ。お父様は分からなくても、私には分かってるわよ?」


 僕はその場で固まる。


「え!?なんで?」


 そう言うと、メルラは顎に手をやって、名探偵よろしく推理を開始する。


「何故ってあなた達二人とも言葉に訛りがなさすぎ。外国人ってのも信じれないくらい」

「そっそうかな?」

「うん。お金持ちっぽい話方なのよね。それに、あなたのお姉さん?あの人のあんな長くてきれいな髪の毛。行商人の下っ端風情じゃあんなの綺麗な髪でいるなんて無理なの。っていうか~、あなたずいぶん世間知らずよね?」


 全部当てられてしまった。しかし僕ばかりが悪いのではない。エリザも問題らしい。僕は余り気にならなかったけれど、このファンタジーな世界では、長い髪を維持するのは大変らしい。実際に思い出してみると、道中あったこの村の女性たちに髪の長い女性はいなかった。

 メンシアは言わずもがな。ハンナさんも流石宮廷侍女と言うべきか、艶々とした髪に手も綺麗だった気がする。


「う……ばれてたか…」

「ふふん。私勘だけはいいのよ」

「え~と、出来たら黙っててくれない?」


 ダメ元だ。これが無理なら、今すぐ彼女を気絶させて(できるかはわからないけど)さっさと逃げなくてはいけない。


「いいけど?」


 よかった。セーフだ。


「にゃ~」

「にゃ~?」

「いや、良かった。これは本当に秘密なんだ」

「へ~そう。でも代わりになんでそんな変なことしてるのか教えてよ」


 そうきた。これは不味いと僕の脳味噌、マリア―ジュの視線を感じた。


「え~と、僕実は貴族なんだ。それで~ボルゾイ先生の所に修行に来てるんだ」


 これが限界だ。嘘ではないが本当ではない限界点だ。


「ホントに!?ボルゾイ様がお弟子をとるだなんて!!」

「弟子じゃないよ。師匠って呼ばせてもらえないし。短期の修行?っていうか雑用と言うか、まあ色々複雑な事情があってさ」

「じゃあお姉さんって人は何?お目付け役?」

「あの人は僕の剣の師匠なんだ」


 結構なギリギリ。テストん点でいえば欠点ギリギリ30点だ。しかしまあ、守る所は守れた気がする。うん。

 どうしても危ない時はマリア―ジュが出てくる予定だったけど、今だ出て来ていないのがその証拠だ。


「これで全部。もう何も出ないよ」

「まあ信用してあげる。で、これも修行の一環なわけ?」

「まあそんな所。街並みになじむ訓練中」


 そう言った所で、裏口の扉が開く。


「ハ、いや、ジャック!帰るぞ!!」


 そう言ってエリザが出てくる。

 僕は急いでそちらに返事をすると、メルナの方を振り返って挨拶をする。


「じゃあさよなら。くれぐれも正体は秘密にしてね」

「ええ。また会いましょ!」


 また会わない方がいいのではないか。僕はそう思いながらエリザと共に家に帰る事になった。


「商談の方は適当だったが、破格値で魔法付与された商品を少しずつ売ると言ったら喜んでいたよ」

「そっそうですか。あっあの~エリザ、正体がバレマシタ」

「行商人のマネもうまいこと行くものだな。え!?正体がばれただと!!?」


 僕の肩を掴んだエリザは、僕の肩を持ったまま激しく前後させる。


「本当です~!エリザの長い髪や僕たちの訛りのない言葉でばれました~。お上品すぎるって!」

「……私の髪でか……」


 エリザは自分の赤髪を触る。その滑らかさに思う所があったのか、馬車の上でため息が聞こえた。


「これは騎士になる事を反対した母の教えでな……せめて髪はと。そうか、そうだな。市井では長い髪の女は金持ち扱いか……」

「そんな落ち込まないでくださいよ。言葉の問題とか気が付かなかったですし」

「お前は良いよな。どういう造りか呪いかは知らないが、どの言葉も正しい発音で出てくるのだから。私なんぞ主要国家の言語の習得がどんなに厳しかったか。それに加え方言など憶えれるものか」


 そう言えばこの世界で言語の壁を感じた事は無い。


「そんな。じゃあ……そんなことあらへん。わいもくろうしとるんやで?」


 僕は記憶を頼りに、胡散臭い関西弁を話してみる。これならどうだろうか。


「プハハハ!」


 エリザは落ち込みが嘘のように、いきなり噴出した。


「なんだその訛りは!!胡散臭いというか取ってつけた様なベルドラ訛りは~!」

「ベルドラ?」

「祖国の旧首都だ。おまえスッゴイ変な話し方だったぞ!!」

「ばってんそうずら?おらが思うよりうけとるのでびっくりだわさ~」


 ためしに想像する限り変な日本語を話してみると、エリザが笑転げて落馬しそうになる。


「ブハ、ブハハハ!面白い、おまえスッゴイ面白いぃ!!」



 その後僕は、家に帰るまでの間永遠と同じネタをやらされ続けた。もう疲れたったらない。エリザはどうしても僕の方言ネタをボルゾイにやるように命令するのだ。


「そんで~、オラがこういうふうにしゃべるとみんなわらうだす」

「ボバヘッ!!」


 こうして帰ってからも、ボルゾイ先生を盛大に爆笑させ、僕は初めて役に立ったと褒められた。


「お国訛りネタは鉄板よね。まああんたの場合は特別だから、役得だと思っときなさい」

「役得ってこれがですか?」

「そうよ。自動翻訳機能みたいなもんよ?あなたの話す言葉は聞く人にとっての標準語に。貴方が聞いた言葉は聞きやすい日本語に。最高じゃない」


 そう言ってマリア―ジュが自慢げに誇る。


「エッフン。で、今日の課外実習はどうじゃった?上手くいったか?」


 一通り笑った後、わざとらしい咳払いとお供に、ボルゾイ先生が質問すると、エリザは少し赤くなりながら、今日の顛末を話した。


「なるほど、言葉が正確すぎたか……では何人かには怪しまれていると考えるべきじゃろうて。もういっそ村ごと接収するかの」

「接収って何ですか?」

「儂の権力とコネにモノを言わせて、村丸々仲間に引き入れるんじゃ。理由はホレ、魔法道具使い放題の実験村、とかなんとかいっての。効果で高性能の道具を使わせてやる代わり、いう事聞きやがれと言う寸法じゃ」


 そう言って、ボルゾイ先生は笑いながら酒を飲む。だいぶ酔っぱらってるらしい。正しく酔っ払いのたわごと。僕は冗談だと思って適当に合図値を打つと、エリザが真面目にそれに返した。


「それはいい考えですね。村ごと巻き込んで……しかし領主の了承は取れるのですか?そうなれば税の問題も絡んでくるはずです」

「問題ないわ。儂がちょっと言ってやれば、ここの領主は全部了承してくれる。そうでなければここに儂が住んどらんわ」


 そう言うと、エリザは嬉々として自分家に戻る。僕は彼女が何かしようと思っているのは分かっていたけれど、それを聞いても教えってくれるわけもなく、彼女の抱かれるまま、部屋へと押し込まれてしまった。

次回お話が急変します。

このお話はそういうものなので勘弁してください・・・

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