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可笑しなお菓子合戦と大臣の陰。

「帰って来てたのか。それならそうと言え」


フェラルドは幽霊のごとくふっ、と現れたシエルに思わず声をかけた。


「かけたよ。かけたけど、気づかなかったから、おもしろい話もしてるし暫く見学しようと思ってさ。でもあきてきたから声かけてみた」


ケロリと笑顔で答えるシエルに、二人の美青年達は、こいつ一体いつからいたんだ。と毎回沸き起こる詮無い疑問をついまた沸かしてしまった。


「で、どうだった?」


フェラルドは表情を改めて座り直すと、ちらりと上目遣いでシエルを見た。零隊長シエルは先日エール街道でフェラルド達が遭遇した、行商人の一行を秘かにしらべていた。


「う~ん残念、ビンゴ。中身はやっぱり黒銀星石の原石だったよ。おかしいよねぇ〜あんな小さな商隊が黒銀星石みたいな高価なもの荷馬車いっぱいに買付けれるなんて」


小首をかしげてシエルはう~んと唸った。そんなシエルから視線を外したフェラルド達も懸念が的中し、自然難しい表情になる。フェラルドとイーゼルトはチラリと視線を交わした。


「金だけの問題じゃない。黒銀星石はその希少性から高価で取引されている。そしてこの辺りで唯一黒銀星石が採れるのが我が国だ。が、その希少性を守るためにいくらまだ採れるからといって、我が国とて大量に輸出はしていないんだ。そして取引している相手はそれなりに名のある大手の貿易商ばかりで、小さな個人の小隊に買い付けれるはずが無い」


「じゃあ、やっぱり残念な事になってるねぇ。ぷんぷん悪巧みの臭いがするよ」


フェラルドの説明に、うんうんとシエルは大きく頷いていると、ふいにイーゼルトに声をかけられた。


「シエル、それであの小隊は黒銀星石を積んで何処へ向かったんだい?」


「そうだな。それが一番重要だ。あんな大量な黒銀星石をこそこそと一小隊だけでどうにか出来るはずが無い。裏に必ず誰か力のある奴が糸を引いて協力しているに違いないからな」


再び二人から熱い視線を受けながら、シエルは先程見てきた事を話す。


「うん。陛下の言うとおり、でっかいお屋敷に運ばれてったよ。豪華絢爛あれはだいぶ金と権力を持ってますって感じだったね」


「やはりな。誰の家だかわかったのかシエル?」


フェラルドが鋭い視線で先を促すも、シエルはにっこりと天使の微笑みを浮かべてねだる。


「知りたい?じゃあまず僕におかしをちょうだい。話はその後でね」


ぶちっ。と鈍い音がなったのを、シエルより近くに控えているイーゼルトは聞いてしまった。


心中であ~あ。懲りない奴だな。と実際は自身より余程凄腕である闇の隊長にあきれ顔で嘆息した。

イーゼルトは国軍一の剣豪と名高いが、ただの零隊員ならともかく、さすがに闇の精鋭部隊である零隊を率いている隊長のシエルには適わない。


勿論イーゼルトが他と抜きん出て剣が立つのは事実だが。

可愛い美少年の微笑みは大天使の御使いと見まごうばかりだが、騙されてはいけない。その実、天使の仮面を被った悪のかぎりを尽くす大魔王の化身ではないかという事をイーゼルト達は疑わない。


そして一見無邪気に見えるシエルが無類のお菓子好きだということも彼らは知っている。

空気は読めるくせに全く気にしないで、人の神経逆撫でするのに懲りないところも、だ。決して頭は悪くない。むしろ回る方だが…………やはり懲りずに怒られる。


「痛った~いっ!僕殴るのは慣れてるけど殴られるのは苦手なのにぃ~っ!ヒドイ~!」


フェラルドから容赦ないげんこつを頭頂部にもらい、シエルは頭を両手で押さえ涙目でぴょんぴょん跳ねた。

勿論避けることは簡単だが、主であるフェラルドからの制裁は避ける事が出来ないので、甘んじて受けねばならない。


「うるさいっ!!戯けたことぬかしたお前が悪い!」


「なにそれ!一生懸命お仕事してきたんだからお菓子くらいくれてもいいじゃんか~!!ケチィ~!」


「何がケチだっ!報告が先に決まってるだろう!!そこまでして初めて仕事した。と言えっ!大体お前はお菓子お菓子と子供かっ!任務のたびに報酬でお菓子を強請るな!!働いて当然だし、それがお前の仕事だろうが!」


番犬とその飼い主、二人の毎度のじゃれ合いをあきあきするのを通り越し微笑ましく見学しながら、イーゼルトは確かに。その通りだな。とおもった。


お菓子が好きすぎて後でたくさんお菓子をやる。と言われれば乗り気のしない時でもシエルは素直に仕事する。単純で扱いやすいといえばそうだが、それだけの可愛い奴じゃないのも皆承知している。


「子供でいいもんね!おじさんにはお菓子の素晴らしさはもう分かんないんだよ。あ~かわいそう。僕子供で良かったぁ。ほんっと、おじさんにはなりたくないよねぇ~」


プ~ン!とそっぽを向き視線だけちらりとおじさん。もといフェラルドに流した。


「なっ誰がおじさんだっ!俺はまだ27だっ!若くてぴちぴちだ!失礼な事をぬかすな!」


驚愕から憤怒へと瞬時に移行し、フェラルドは顔を赤くし、眉間の皺を深く刻む。


「27?もう十分おじさんでしょ?大体陛下、言っちゃ悪いけど27には見えないよ。33くらいに見えるんですけどぉ」


シエルの遠慮のない言葉を聞いていたイーゼルトは、ふと、自身はどうなんだろう?と本気でひやりとした。

27のフェラルドがおじさんと言われるなら、そのたった二歳下の自分もシエルから見たらおじさんなのだろうか?


そしてそれは、他の人間から見てもそうなのだろうか?

突然顔を青くしたイーゼルトに気づくことなく、フェラルド達の可笑しなお菓子合戦も収束にむかっていく。



「お前という奴はっ、国の頂きに立つ至高な主によくもそんなセリフがはけたものだな!わかった。どうやらお前には少し躾けが足りないらしいな。後でやるつもりだったが、もうやらん。今後お前へのお菓子の褒美は一切無しだ。甘やかしてばかりだったから、つけあがって主を33のおっさんなどと呼ぶようになるんだ」



先程の衝撃的おじさん疑惑の件からやや浮上したイーゼルトだったが、フェラルドの声音が一段低くなった事に気づいて違う意味でまたひやりとした。さすがのシエルもあ、やばい少しおこらせ過ぎたかも。とお菓子が貰えなくなる事に焦りと危機を感じ必死になだめにかかる。


「それはダメだよっ!ほらリーナさまにお菓子の一つもあげない狭量な旦那様だと思われちゃうでしょ?そうしたらリーナさまに幻滅されちゃうかもしれないよ?」


「安心しろ。リーナとて職務怠慢でやむおえずした処置だと言えば分かってくれる」


ふん!と尊大に顎をそらしたフェラルドは、大魔王の生まれ変わりもかくやという闇の刺客に、どちらが本物の悪の化身か分からせるかのように艶然と微笑んでみせた。それを盗み見たイーゼルトがゾクリと寒気を感じたのは室内温度のせいじゃない。



「ああ~んもうっ!!わかったよ!僕が悪かったよぅ!だからお菓子は無しにしないでよぉ~」


シエルはついに降参した。悔しそうに拗ねながらも涙目で懇願して訴える。

イーゼルトはシエルのお菓子にかけるなみなみならぬ執念と、フェラルドの闇の刺客すらねじ伏せる大魔王の生まれ変わりではなく、真の大魔王を目の当りにして、どちらもスゴイなと何故か冷静に可笑しな関心をしてしまった。


「ああ、そういえばおれの歳はいくつに見えるんだっけかなシエル?たしか~」


「23くらいだよっ!!めっちゃくちゃ若くてカッコイイ美貌の王様だよ!頭もすごくきれて素敵な主を持って僕は幸せだなぁ~」


先程の評価から何故か十歳も若くなった。

フェラルドの言葉にシエルは素早く被せた。それを見てフェラルドは満足気ににこりと芝居がかった美麗な笑みをおくる。


「そうか。それは嬉しいことだな。ああ、だが俺はたしかケチだったっけなシエル?」


「誰がそんなひどいこと言ったのっ!?そんなわけ無いじゃないっ!!陛下はいつも僕にたぁっくさんお菓子をくれる優しい方なのにっ!何処の誰が言ったかしらないけど、今度僕がこらしめてきてあげるからねっ!だからお菓子をまたくれるよね?」



「「…………………。」」


あまりの鮮やかな変わり身の早さにフェラルドもイーゼルトも二の句を告げれない。だが、はぁ~と一際大きなため息をついたフェラルドがその短い沈黙を破った。


「全くっお前は!もういい。そんな事より早く報告しろ!お前のおかげで無駄な時間を食ってしまったんだからな」


リーナにあう時間が減ったじゃないかと、ぼそぼそとひとりごちていたフェラルドに、シエルは捨て犬のように上目使いで見上げる。


「お菓子はまたくれる?」


「ああ。もう勝手に好きなだけくって虫歯だらけになってろ!だが仕事の後で食えよ」


「わぁ~いっ!!やったぁ~!じゃあ後でいっぱい食べよ~っと。えっとぉ報告の続きだけど、お屋敷の持ち主はなんとこの国メイスィルの外務大臣だったんだよね」


やっと脱線した可笑しなお菓子合戦が終わってほっと息をついていたイーゼルトだが、シエルのその一言に驚愕した。

フェラルドもそれは同様だった。


二人ともまさか国政を担う外務大臣ほどの大物が絡んでいるとは思わなかったが、暫くしてああ、まあそれもそうかと納得した。


「確かに。あんな大量な黒銀星石を密かに動かすほどの力と、そのコネを持つ立場を考えると、貿易を担う外務大臣なら適役だし楽勝だろうからな…………」



眉根をきつく顰めたフェラルドは、腕を組み顎に指をひっかけるようにして思案する。イーゼルトも柔らかな曲線を描く眉を軽く顰めた。


「しかしそうなると、外交問題ですよね?一国の大臣が闇で法を侵し、うちからおそらく密輸をしているなんて」


「そうだ、大問題だ。だがその密輸の荷をどう確保していると思う?通常ならありえない筈の中身の密輸だ。俺が仮定した推理がもし当たっているなら最悪だな。自分の愚かさを呪い殺したくなるっ!」



ギリっと奥歯を鳴らすと、フェラルドは真正面の空間をぎろりと睨み据えた。その様子を見ていた二人は反射的にぎくりと肝を冷やす。

フェラルドはその激しい怒りをやり過ごすように漆黒の双眸をきつく閉じて再び開くと、静かに声を出した。



「まだ何の確証も無い。とりあえず調べろ。外務省のクラーデル外務大臣の周囲を徹底的に洗え。屋敷は特にだ。出入りの業者も全てチェックしろ。もし本当に彼がうちから密輸をしていたとして、どれだけの量を密輸しているのかも確かめねばならないからな。シエル零隊を率いて今すぐ行ってくれるか?お菓子は悪いがもう少し後だ。その変わり倍にしとく」


「うん。分かったよ。楽しみにしてるからね」



流石に主の本気の命にシエルが逆らう事は無い。表情の色を全て削ぎ落とし、生気まで闇の気配に溶かしたかと思ったら、次の瞬間ふっとシエルは消えた。



もうすぐシルジェスもこちらに到着する。そうすれば例の採掘量の減少と何らかの関係性があるかどうかも明らかになるはずだ。



フェラルドはとりあえず午後から行われる茶会に夫婦で参加するため、部屋でくつろいでいるだろうリーナの様子を見に行くことにした。













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