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-虚蝉-  作者: 微睡みの白
Via vitae ~過去の影を踏みしめながら 未来の光を探す旅路 真理はその途中でふと現れる 風のように~
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斯くしもがも 2

爺ちゃんがまず私にさせたことは

「まずはとにかく文字を読むことに慣れろ。知識はそこから始まる。」

とのことでやたら分厚い本を何冊も持ってくる。

中身は『千夜一夜物語 』とか『海底二万マイル』とか『トム・ソーヤーの冒険』とか当時の私にしては小難しい話ばかりだったが総ルビの振ってある児童書と言うには文字数とと分厚さが可愛くない児童書で意味はわからなくても読めることは読めた。

どうやら本自体はそこそこ古いのモノらしく、男が子供の頃からあるらしい。

色々な話を纏めたシリーズで全20数巻ほどあり絶望した記憶がある。

本の横には同じく総ルビの辞書。爺ちゃんが探して買ってきてくれたらしい。

なにかの意味が調()()()()()()()()調()()()と言われた。

意味が分からなかったらでなく調べたくなったらってのがなんとも爺ちゃんらしい。


本を読むことは楽しかった。

最初はただの文字だったのがとりあえず読み進むとそれが単語にかわり、文章という息遣いをし始める。

それはやがて描写や情景という絵になり、呼吸や会話という音になり、内面やストーリーという生を受ける。

日本語は優秀すぎるほどに優秀で、場所も、時間も、時代も、種族も、思想も、心も、倫理も、摂理も、意味も、真理すらも、すべてを超越出来る本は美しかった。

そうして私は文字を、意味を、知識を覚え、本にのめり込んでいく。


しかし集中力にも限界があり、ずっとは本の世界には居られない。

そんな時は爺ちゃんや婆ちゃんと外に出る。本を読んで固まった身体をバキバキと解しながら身体を動かす。陽が眼を焼く、こういう時だけはabuelo 譲りの色素の薄い眼が辛い。

外に出ると、お金の価値というものを教わる。今、自分が持っているものの価値、値段の価値。

そして公共交通機関の使い方。

これは今後、私が一人でこの家に来るためにも早急に覚えないといけない事柄だった。

難しいお釣りの計算や差額などの計算はすぐにはわからないのでとりあえずはお札出せばなんとかなるのと、お釣りを忘れず取ることだけ一旦覚えておく。

よくわからない難しいことは後から落ち着いてやろうと思い後回し。

「なんでもかんでも後回しにする曲をつけないように。

今必要な事と後でもいい事、後でもいいけど必ずしなきゃならんこと、しなくてもいい事、ひとつひとつ切り分けてしっかりと見極めないと結局何事も成せなくなるぞ。」

と爺ちゃんが釘を刺してくる。

つい後回しにしがちな嫌な事、苦手な事でも逃げずにやっておこうと心に思う。

出かける途中に八百屋と肉屋にも寄って帰る。

店の人達はみんな二人の事を知っていてにこやかに挨拶して声をかけてくる。

abuelo 程じゃないにせよ、やはり二人ともこの地域では顔は広いらしい。

「うちの孫じゃ、どうだ?私に似て賢そうだろ?」

となぜか孫自慢を始める爺ちゃん。

「くだらないことしてないでさっさと買い物終わらせますよ。」

と急かす婆ちゃん。

「確かにきいちさんに似てるかどうかはわからんが確かに賢そうだ。」

と笑う肉屋の店主。

「こりゃあいい男に育つでね。」

という八百屋のヨボヨボのお婆さん。

婆ちゃんは肉の部位や質、どんな料理に使うかとか野菜の良し悪し、収穫時期、美味しい食べ方とかを教えてくれる。

爺ちゃんは

「私の専門は魚だ。魚以外は良うわからん。」

と言って逃げた。

肉屋の店主が言うには婆ちゃんはとても料理上手らしい。

帰ったら料理も教えますよ、ちゃんと覚えるんですよ?と言われ、手を引かれて帰り道を歩く。

爺ちゃんと婆ちゃん、手を引かれて帰る花葉はなば色の帰り道。

その日の紺碧こんぺき空は高く高く澄んでいた。



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