【ifルート】ジェイル編
年明けから伯父様にあっちこっちに連れて行かれて、各会の会長や次期会長となる人、顔合わせが必要な人や組織などにひたすら挨拶をする日々が始まった。「はじめまして、九条ロゼリアです~」と言うだけでは終わらないので、会う人に合わせた会話が必要になってくる。そのために詰め込み勉強と礼儀作法などの見直しが強制的に行われることになった。
それはいい。
必要なのは理解してるし、伯父様のメンツもかかってるから全力で取り組む。あたしのせいで伯父様に迷惑はかけられない。
何に困ってるかって……挨拶回りの時、四六時中ジェイルと一緒なのよね。
本人はしれっとした顔してるけど、こいつ何考えてるの? こっちはなんだかすっごい気まずいのよ。
パーティーの時に無理やり言わせたようなものだし、本人は「墓場まで持っていくつもりだった」って言ってるけど、……あたしが好きなのよね? しかもあの感じだと結構前から、よね? そういう気持ちを抑えて、これからも傍にいるつもりだったんだ? って、すごく驚いている。
ジェイルがあの時言わなかったら、絶対に気付かなかったと思うわ。
あたしに同行するのはこれまでと変わらない。スタンスは変わったけど、伯父様の意向や命令で動いているのも変わらない。
ふとした時に傍にいるジェイルを見て考えてしまう。
……ジェイルって、今後どうしたいとか、あたしとどうなりたいとか、そういうことは考えていたのかしら?
でも、好きってことは……当然、ねぇ?
◇ ◇ ◇
「自分が全てに同行、ですか?」
「そうです」
ロゼリアのスケジュールを渡されながら、ガロの秘書である式見が頷く。冗談の通じなさそうな雰囲気である。
そのスケジュールは第一領から第八領を訪問する日程だった。先方の都合をメインに作られているので、効率などは一切考えられていない。一月中に何としてでも全ての挨拶回りを済ませると言う強い意志を感じるものだった。
それら全てにジェイルが同行しろ、と伝えられたのだ。
「同行は承知しました。自分以外は連れて行かなくてよろしいのでしょうか?」
「君以外、というと?」
「花嵜に真瀬、そして白雪です」
これまでロゼリアの傍で色々と動いてきたメンツの名前を挙げる。式見は「ふう」と息をつき、どこか疲れた様子で眼鏡を押し上げた。
「メロは論外、ユウリは受験勉強優先、アリスのことはまだ信用していません」
きっぱり言われてしまい、ジェイルはすぐ反応できなかった。
式見が言わんとすることはよく分かる。メロは余計なことを言って空気を悪くしそうだし、ユウリは受験合格を最優先させるべきだ。アリスは──ジェイルとしては信用してもいいと思っているが、式見の目にはまだそう映らないらしい。
ガロの専属秘書という立場であり、ガロ本人と周囲からの信頼も篤く、影響力が強い。式見がそう決めてガロに許可を得ているなら覆しようがないだろう。
「君しかいない──と言うとやや大袈裟ですが、ロゼリア様も普段関わりのない人間ばかりに囲まれているよりは良いでしょう。君にはロゼリア様のフォローをお願いします。もちろん私も気にかけます」
「はい、承知しました」
式見は満足気に頷き、「では、よろしく頼みます」と言ってジェイルの前から去っていった。
スケジュールを見つめて目を細める。
かなり過密なスケジュールだ。挨拶回りだけでなく、勉強や礼儀作法にあてる日もある。これまでのロゼリアの生活にスケジュールなどなかったのでかなり心配である。急激に日常生活が変化することになり、体調はもちろん精神面も不安だった。一月のことだけだと思えば乗り切れるとは思うが、少し前まで滾々と眠り続けていたのだ。体力が持つかどうかも不安である。
「……そのために俺がいる、ということなのだろうが……しかし……」
口元を手で覆い、顰めっ面をしてしまった。
これまでずっと傍にいて、ある程度ロゼリアのことはわかったつもりだ。ただ、それはあくまでも仕事面の話であって、それ以外のところに自分の気が回るかと思うとかなり不安だった。
メロやユウリ、キキのように細かいところまでは気付けないかもしれない。
──あの夜。
ジェイルがメロとユウリに部屋を追い出された夜のことを思い出していた。
あの時のように見当違いのことを言って間違えてしまうかもしれない。あの時よりは今の方がマシだと思っているものの、ロゼリアの性格まできちんと把握しているかと聞かれればNoだ。多分、あの三人の足元にも及ばない。
そういう意味でとても不安だった。
しかし、こんな心境でロゼリアに付いていくのも失礼な話だ。できる限りはしなければ、と自分に言い聞かせて、ゆっくりと深呼吸をした。
挨拶回りがはじまり──ロゼリアは目に見えて疲れていった。
これまでと全く違うことをしているのだから当然だ。
常に笑顔を貼り付け、指先まで神経を使い、穏やかな口調で会話を心がけている。ジェイルの知っているロゼリアとは全く違う様子に驚きもしたが、こういう『外面』もちゃんと身に着けているのかと無駄に感心した。
基本的に卒なくこなしていた。
必要な情報を自身の引き出しから出し入れし、その場にあった会話をできる。先方の好みを把握した上で不快させない言動をしていた。
無論、それは相手も同じこと。対象は隣にいるガロではあるが、そのガロが溺愛している姪っ子を『後継者候補』として紹介しに来たともなれば相応のもてなしをしてくれていた。が、中には当然ロゼリアに対して懐疑的な目を向ける者もいる。こればかりは以前の悪評もせいでもあるので仕方がない。本人もそれをわかっている。
だからこそ歯痒いと思うところもあるのだ。
本人が自分の置かれた状況をわかっているからこそ、ジェイルはそれを信じて控えていなければいけない。
傍にいてロゼリアの一挙手一投足を心配しているようでは、『主』を信頼していないのと同義だ。
(……難しいな。決して子供だと思っているわけではないが、ガロ様の傍にいるような安心感はない。ガロ様と違うのは当然だ。知識も経験も何もかもが違う……)
その日はホテルだった。
第九領に帰れないこともあり、その際にはホテルを取っているのだ。先方が用意してくれることもあった。当然、そこにもジェイルが同行することになる。何かあった時のためにロゼリアの部屋の傍の部屋になっていた。朝から次の朝まで一緒にいることなどなかったので無駄に緊張している。
「お嬢様、荷物はこちらでよろしいでしょうか?」
「ええ、そのへんに適当に置いておいて」
「承知しました」
ロゼリアはふらふらとベッドに向かい、そのまま倒れ込んでしまった。
昨日から第九領に戻れずにホテルを転々としているので流石に疲れるのだろう。普段とは違うことをしているので余計に。
「……お嬢様、お茶でもご用意しましょうか?」
反応がない。疲れて眠ってしまったのだろうかと思い、ベッドに静かに近付いていく。目を閉じているのを見てどうすべきかと悩んでしまった。しかし、このままにしておくわけにもいかずそっと肩に触れた。
思いの外細い肩だった。体つきは女性らしい。以前は悪魔のように見えていたのに、たかだか半年でこんなにも見え方が変わるとは思わなかった。
「そのまま眠ってしまうと体調を崩されますよ」
邪念を振り払いながら肩を揺する。
ロゼリアはすぐに目を開けて、どこか微睡んだ様子でジェイルを見上げた。そんな無防備な目で見ないで欲しいと思いながら起きたのを見て手を離す。
「……寝る支度が面倒だわ」
「そう仰られても自分ではお手伝いできませんので」
「……キキかアリスを連れてくるんだった」
言いながら、ロゼリアが気怠げに起き上がってぐっと両腕を伸ばしていた。
その姿にすらうっかり魅入ってしまって慌てて視線を逸らす。頼まれてはないが、お茶の容易をするためにロゼリアに背を向けてしまった。
「ジェイル、明日の朝は七時に起こしに来て頂戴」
「……明日はチェックアウトギリギリまでで大丈夫ですが……」
「何もしないでいるとお昼まで寝ちゃいそうなのよ。外に出る準備や朝食もあるから、七時に起こして」
「承知しました。……お茶をご準備しましたので、よろしければ……」
ベッド傍のテーブルに置いておくと、すぐにロゼリアが手を伸ばした。疲労感に満ちた顔でカップを持つ様子を見つめる。
「何か、他に必要はものはございますか?」
「大丈夫よ。あんたも疲れたでしょうしもう部屋で休んだら?」
恐らくジェイルを気遣ってのセリフなのだろう。しかし、ジェイルはガロとロゼリアの二人にずっと付き添っていただけで二人のように緊張する相手と対峙して会食はしていない。もちろん、それなりの緊張感はあったし、今もそれなりに披露しているが、二人ほどではないのだ。特にこういったことに慣れているガロはともかくとして、ロゼリアは不慣れで特に疲れているのは見ていればわかった。
一か月弱のスケジュールは余裕があるようでなかった。
一月の上旬は大概各会パーティーやら親戚の集まりやらで予定が埋まっており、スケジュール調整可能なのは大体どこも十日以降である。ガロの意向として一月中に挨拶をしておきたいというのがあったらしく、一月にその挨拶が全て詰め込まれているのだ。ロゼリアは年明けからほぼ勉強漬けなので、それもあって疲れているように見える。
相手方が「折角だしホテルを用意するから泊まっていきなさい」と言うものだから、こうして宿泊まで世話をされている始末だ。おかげで夜までがっつり酒に付き合わされ、酒の入った状態で麻雀にまで付き合わされたと言うのだから本当にご苦労なことである。
今後はこんなことも増えるのだろうか。そんなことをぼんやりと考えてしまった。
「……? どうしたの? 出てって良いわよ」
ロゼリアはベッドをのんびりと降りながら言う。
寝る支度をするようだし、このまま部屋にいても邪魔なだけである。というかジェイルがいたら着替えも何もできない。そのことに遅れて気付いたところでそそくさと出入り口へと向かった。
宿泊が続くのは第四領、第三領、第二領という順番で訪問する期間だけだ。とは言え期間中は普段とは違う場所で寝食をすることになるので気疲れもするだろう。
「では、失礼します。おやすみなさいませ」と告げて部屋を出る。
奥から「おやすみ」と聞こえてきた。
かぁ、と頬が赤くなる。
そんな自分の変化を自覚してブンブンと首を振った。深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
(いちいち意識してどうするんだ。お嬢様に失礼だろう……!)
「ジェイル、ロゼリア様は?」
自分を叱咤したところで奥から式見が現れた。しかもガロも一緒である。
予想していなかった人物の登場にドッと心臓が脈打った。妙なことを口にしていなくて良かったと思い、普段通りの顔を作りながら式見に向き合う。
「もうお休みになられるとのことでした」
「なるほど。──だそうです、ガロ様。これからバーに誘うのは無理でしょう。帰りの車でもほとんど寝てましたし」
式見は頷いてからどこか咎めるようにガロを見る。ガロは後ろ頭をかきながら「そうかぁ」と言っていた。ロゼリアの疲れ具合を見るとここから更に酒を飲むなんて無理に決まっている。対してガロは、かなり酒を飲んだにも関わらず顔色一つ変わってない。式見とジェイルはただ傍にいただけなので、食事はしたが酒は一滴も飲んでなかった。
式見に宥められているガロの視線がジェイルに向く。
「ジェイル、お前飲んでねぇだろ? 一杯くらい付き合え」
「やめておきなさい、ジェイル。一杯だけじゃ済まないですよ」
「お気持ちだけ頂いておきます。……明日、お嬢様に起こして欲しいと言われているので」
付き合いたい気持ちもあったが、式見の言う通り絶対に一杯では済まない。ガロ本人が酒にかなり強いため、付き合っているとついつい飲みすぎてしまうのだ。この感じだと恐らく式見はこの後付き合うのだろう。
ロゼリアのことを出すとガロがつまらなさそうな顔をした。
「あいつだってガキじゃねぇんだ。自分で目覚ましかけて起きるだろ」
「……ガロ様はご自分で目覚ましをかけても起きられないじゃないですか」
「ありゃ目覚ましが悪いんだ」
「ジェイル、君はもう寝なさい。……ああ、明日の朝、ロゼリア様が起きないようなら私のところに来るように。一応スペアキーをホテルから預かっています」
本来はNGですが。と言いながら式見が眼鏡を押し上げる。
九龍会のあれこれを使ってスペアキーを特別に貸し出してもらったのだろう。そういうある種のルール違反は『会』においてはつきものである。咎めようなどという気は一切ないが、使わないでいる方がありがたい。
現在、ロゼリアの寝室に入っていけるのはキキ、アリス、そして墨谷の三人くらいだ。だからキキかアリスが付いてきてれば、起こす役割は二人のうちのどちらかだったはず。何となく気まずい。
とにかく、明日はロゼリアを起こすために少なくともロゼリアよりは早く起きてなければいけない。
「では、自分はこれで失礼します。おやすみなさいませ」
「おう、おやすみ。式見、行くぞ」
「おやすみなさい。──ガロ様、逆方向です」
二人がバーに行くのを見送ってから、ジェイルは割り当てられたホテルの部屋に移動した。
シャワーを浴びて着替え、ベッドに腰掛ける。
はあ。、とやけに大きな溜息が出てしまう。ロゼリアから与えられた携帯を手にし、それを眺めながらある番号を呼び出した。多少遅い時間だが彼ならまだ起きているだろう。
少々躊躇ってからボタンを押す。
数コール後に通話モードになった。
『はい、ユキヤです。……どうしたんですか? こんな時間に』
「……いや。どうした、というわけじゃないんだが……」
電話越しのユキヤは不思議そうだった。あまり仕事以外で使って来なかったので、こうやって電話するのも変な感じだ。
『……君、今は別の領にいるんでしょう? いいんですか、遅くに電話していて』
「今日の仕事は終わったからいいんだ」
『そうですか。そろそろ寝ようと思っていたところなので、あまり長電話には付き合えませんよ』
「ああ。──ユキヤ、お前は……俺の立場と代われるとしたら、代わりたいか?」
突然の質問に、向こう側のユキヤの「?」が聞こえてくるようだった。聡いユキヤはすぐさまジェイルの言わんとすることに気付いたらしく、少しおかしそうに笑う。笑い声が聞こえてきそうだ。
『ええ、もちろん。君ほど恵まれた立場はないでしょう。ロゼリア様の一番傍にいられるんですからね。嫉妬と羨望の的ですよ』
笑いながら当たり前だと言いたげな口調で返事があった。決してジェイルの葛藤を察したわけではない。ユキヤの本心なのだろう。
しかし、一方でジェイルは「本当にそうだろうか?」と懐疑的になってしまう。
おはようからおやすみまで、と言ってしまうのは少々大袈裟だが、それこそ今のような朝から夜まで仕事とは言え同行する立場というのはなかなかにしんどいものがある。──メロやユウリがロゼリアに対して恋情を抱いていたのはいつからなのか知らないが、それでよく同じ建物で暮らせたと感心するほどだった。
「……俺もそう思っていたが、現実は厳しいな」
『おや、早速ガロ様に怒られましたか』
「そういう意味じゃない」
流石にそこまで馬鹿じゃないし、そう簡単に悟らせられるような真似はしてない、つもりだ。
「今ついているのが俺一人だからか……お嬢様をきちんとサポートできるのか自信がない」
『? 他にも九龍会の方々がいるんじゃないですか? 流石に君の肩にロゼリア様の全てが乗っているわけではないでしょう』
「……だが、花嵜や真瀬、小山内のようにお嬢様のことをわかっているわけじゃない……」
傍にいるのはたかだか三年。ロゼリアが変わったのはここ半年ほどのことだ。
戸惑いながらもロゼリアの変化に順応したつもりだが、今日に至るまで足らないところがあると知るばかりだ。これまではメロたちの存在もあったからこそロゼリアのフォローができていたのだと自覚した。
そんなジェイルの思いとは裏腹に、電話の向こうからはポカンとした空気が伝わってくる。
「……ユキヤ?」
『あ、いや……君、案外変なところで自信がなかったんですね。まぁ、俺は君が足を滑らせて崖から転がり落ちるが如くロゼリア様に恋をしてしまったのだと知っているので、想定外の事態に全くついて行けてないという状況は想像できるのですが、』
「おい」
なんという言い分だろうか。思わず低い声でツッコみたくもなってしまう。
確かにあれほど嫌っていたロゼリアに恋をしてしまうなど、過去の自分からは絶対に考えられなかった。そういう意味では崖から転がり落ちるという表現はあながち間違いではない。が、ユキヤから見て自分がそう見えていたというのは少々心外だった。しかも、ユキヤはまるで最初から最後まで見てきたかのように言う。
電話の向こうでまた笑われてしまい、居心地が悪くなる。
ユキヤとは幼馴染で昔は一歳の差が大きかった。しかし、そういった年齢差は徐々になくなっていき、今ではたまにどちらが年上なのかわからなくなることがある。
わざとらしい咳払いの後で、ユキヤが続ける。
『一連のセリフは、花嵜さんやハルヒトさんあたりが聞いたら怒りそうですね』
「怒る……?」
『君は実質立場は変わってないんですよね。俺とハルヒトさんは都合上変えなければいけなくなりましたし、花嵜さんと真瀬さんは自分の意志とガロ様の命令で変えざるを得なくなったでしょう。……君だけですよ、立場が一貫してるのは。それは、君にその意志がなかったし、周りも変える必要がないと判断したからじゃないですか? ガロ様も、ロゼリア様も』
わかるような、わからないような。わざと遠回しな言い方をしているような気もして黙り込んでしまった。
ユキヤは最後に長めの溜息をつく。
『あまり敵に塩を送るような真似はしたくないんですが……君がしっかり仕事をしなくてロゼリア様にご迷惑をかけるようなことになって欲しくないのではっきり言いますね。
──君は君のままでいて欲しい、と周囲は思ってるんですよ。そのままの君で、十分な信頼を得ています』
お嬢様からもか。と、変なことを口走りそうになったところでぐっと奥歯を噛み締めた。
こんな女々しいことを一々聞くような性格でもなかったのに、どうにもロゼリアに対してだけ気弱になってしまう。彼女はジェイルの人生の中でかなりイレギュラーな人種であったので、これまでの知識と経験だけでは判断しきれないのだ。
「……そうか」
『とは言え、君の立場がきついのも理解しますよ。ガロ様を始めとする九龍会中枢の方々が常に傍にいるのですから、ロゼリア様の側近として傍にいる君に厳しい目が向けられるのはある種当然です。下手な行動が一番許されない立場でもあります』
それは本当にそうだ──。さっきも突然式見に話しかけられてびっくりした。自分の内心が悟られてやしないかと。
何気ない言動からロゼリアへの恋心などを悟られると一気に面倒なことになる。そういう意味で周囲の目が煩わしいのは確かで、以前は程よい緊張感だったものが一気に警戒対象に変わっている。それはそれ、これはこれと分けて行動できるようにならなければと自身に言い聞かせてみても難しいの実情だ。普段の仏頂面が幸いである。
そういう意味ではユキヤの方が上手くやるだろうなと自嘲した。
『ジェイル、もし本当に代わりたいならいつでも言ってください。喜んで交代します。──君よりも上手くやりますよ』
穏やかなのにどこか挑発的な口調だった。わざとそうしているのだとわかるくらいの付き合いはある。
ここまでさせるのは流石に申し訳ないと思い、小さく溜息をついた。
「……断る。お嬢様の口から、代われと言われない限りは代わらない。お前の方に適正があってもだ」
『良かった。その気概なら大丈夫そうですね。……俺をがっかりさせないでくださいね、ジェイル』
「つまらない愚痴を聞かせて悪かった。もう切る」
『ええ、ほどほどに頑張ってください。では、おやすみなさい』
「おやすみ」
そう言って通話を切った。
自分のままでいい──。と言うのは、決して変わらずにいろというわけではない。ロゼリアが『後継者候補』として成長中なのだから、自分もそれに合わせて成長していく必要がある。ただ、これまでの自分のやり方は間違ってはなかった、ということだ。
そのことに安堵し、とにかくロゼリアへの気持ちを殺しながらこれまで通りにフォローしていくのが最善だろう。
自分の気持ちなど隠しておくに越したことはない。
周囲に知られるのはあまりにリスキーだ。ガロや式見ならジェイルを外しかねない。
そう自分に戒めながらベッドに横になって眠りにつくのだった。
翌朝。
ロゼリアを七時に起こすため、自身の準備もあったので六時には起床していた。ロゼリアの部屋のチャイムを鳴らして中に声をかけて、ロゼリアから返事があればそれでいい。しかし、返事がなかった場合は式見に鍵を借りにいかなければいけないのだ。寝起きの姿を見ても良いのかという葛藤があった。
仕事だ仕事、と自分に言い聞かせて七時を少し過ぎたところでロゼリアの部屋に前でチャイムに指を当てた。ガロとロゼリアの部屋は無駄に広いのでノックだけでは聞こえないだろう。チャイムであれば部屋中に聞こえる。
僅かな躊躇いの後にチャイムを押す。
リンゴーンと重めのチャイムの音が中から聞こえてきて、待つことしばし。
中からは何の反応もない。
昨日のロゼリアの様子からすれば十分に予想できていたことだった。しぶとく五分はチャイムを鳴らし続けたが、部屋の中からロゼリアが出てくる気配はない。
チャイムから指を離し、眉間を軽く揉んでからその場を離れ、式見の部屋へと向かった。
式見の部屋を訪れると既に起床しており、優雅に朝のコーヒーを飲んでいる。ジェイルが何のために来訪したのかを察し、スペアキーを差し出してきた。
「どうぞ。……ジェイル、君に限って有り得ないでしょうが間違いなど起こさぬように」
「間違いとは……いえ、ただお嬢様を起こしに行くだけですので……」
「そうですか。ロゼリア様が起きられたら、念の為朝食の時間は九時で良いか確認してください」
「はい、承知しました」
そう言って式見の部屋を去る。
邪念を振り払いながらロゼリアの部屋に戻った。もう一度チャイムを押してみるが、さっきと同じで何の反応もない。
覚悟を決めてスペアキーを使って鍵を開け、ゆっくりと扉を開けた。
部屋の中では目覚ましが控えめに鳴り続けている。ホテルという特性上あまり大きな音のするものは設置できないのだろう。こればかりは仕方がないと溜息をつき、ロゼリアが眠っているであろうベッドへと向かった。
大きなベッドで横向きになり、すうすうと眠っているロゼリアがいる。
カーテンのせいで室内が薄暗いのも起きられない要因だろうと思い、まずはカーテンを開け放った。
ぱ、と朝の日差しが差し込み、ロゼリアが寝づらそうに寝返りを打つ。
時折うるさそうにするが、目覚ましがいつものところになたいためにすぐに諦めて布団を被ってしまっていた。先に目覚ましを止めてから、ジェイルにしてはおっかなびっくりという手付きでロゼリアの肩に触れる。
「お嬢様、朝です。起きてください」
「……ん、ん~……」
眠りが深いのか、すぐに起きる様子がない。ジェイルの手を鬱陶しげに振り払ってしまった。
しかし、これで諦めるわけにはいかない。起こさなかった時の方が怒るに決まっているからだ。
もう一度肩に手を起き、さっきよりも乱暴に揺する。
「もう七時ですよ。今日のご準備と、朝食を取られるんでしょう?」
「あと十分……」
「駄目です。早く起きてください」
ベッドの中でぐずるロゼリアがやけに可愛く見えてしまう。そう言えば、こんな姿は見たことがなかった。何も予定がないのであればこのまま寝かせておいてあげたいが、そうも言ってられないのだ。
やがて、ジェイルに揺すられ続けて睡眠どころではなくなったらしく、ロゼリアが薄っすらと目を開けた。
何度か瞬きをして、目を擦ってから、ぼんやりと周囲を見る。
寝ぼけた様子は無防備で、どこか幼さがあって、やはり可愛い。
「……ジェイル」
「おはようございます」
「……今何時……?」
「七時十五分過ぎです」
「……あー……起きられなかったのね……」
ロゼリアが溜息をつきながらゆっくりと起き上がり、額を押さえる。
長い髪の毛がはらりと落ち、肩にかかっていたパジャマワンピースがずるりと落ちてしまった。
慌てて目を逸らしたところでロゼリアが視界の端で伸びをしつつベッドから降りたのを見てホッとする。寝起きは悪くないようだ。
が。
右肩と胸元が晒されてしまっており、無防備すぎる姿に慌てた。
「お、お嬢様!」
「え? 何?」
「な、に……と、言われても……!」
ジェイルはベッドから降りたロゼリアを直視できない。
前にボタンがあるパジャマワンピースだったのだが、寝る時に適当にしたのだろう、ボタンがズレているのだ。そのせいで右肩はずり落ち、ブラジャーも胸の谷間も見えてしまっていた。流石に好きな相手のそんな姿を見て落ち着いていられる神経は持ち合わせていない。
ロゼリアは何が何だかわからないという顔をしてジェイルを見つめていた。寝ぼけているわけではなさそうだ。
「──? ……ああ、」
やがて自分の格好に気付いたロゼリアがずり下がった右肩を持ち上げつつ胸元を隠した。
「悪いわね。もう大丈夫よ」
「……いえ、起きられたようですので、これで失礼します」
このままだと普段通りの顔ができない。そう判断して、くるりと背を向けた。
一歩踏み出そうとしたところで式見からの伝言を思い出して足を止める。
「……朝食は九時でよろしいでしょうか?」
「ええ、それまでには支度をしておくわ」
「承知いたしました。それでは、ごゆっくりなさっていてください」
「あ、ジェイル」
さっさと部屋を出ようと思ったところでロゼリアに呼び止められて足を止めた。
肩越しに振り返ると、ロゼリアは何とも言えずに怪訝な顔をしている。
「あんたって……いえ、何でもないわ。手間かけさせて悪かったわね。あんたも出発まではゆっくりしていて」
「……はい。失礼します」
何を言いたかったのだろうか。聞く勇気もなかったのでそのままロゼリアの部屋を後にした。
式見にスペアキーを返しながら「ちょっと一時間ほど走ってきます。少し体が鈍っているようなので……」と告げると、ホテル近くにある公園を教えてくれた。
着替えてから無心で一時間走り続けたのだった。
◇ ◇ ◇
……ジェイル、あんなに初心な感じだったっけ……?
いや……? いや! レドロマでのルートの時は年上の余裕みたいなものがあったはずだけど?! 相手があたしだから?
今朝のアレ、変な感じになってないかしら。肩とか胸とか見せたくて見せたわけじゃないのよ。寝る前もかなりうとうとしててパジャマがちゃんと着れなかったのよね。って言うと子供みたいだわ。一瞬あのまま押し倒して来ないかなとか思っちゃったけど、ま、まぁジェイルがそんなことするわけないわよね……。
って、こういう考えはジェイルに失礼だわ。
ジェイルはあくまでも仕事を全うしようとしているんだから、あたしが変に邪魔しちゃいけない。
よくよく考えるとあたしが何も行動起こさなかったらジェイルはずっとあのままよね。
あたしの立場が危うくなるようなことは良しとしないだろうから、これからずっと何食わぬ顔をして仕事に付き合う気に決まってる。それはそれで有り難いことだし、その姿勢はあたしも見習わないといけない、と思う。
でも、この半年でジェイルが隣にいるのが随分当たり前になっちゃったわ。
名前を呼べばすぐに返事があるくらい近くにいる。困ったことはジェイルに振れば何らか答えが返ってくる。
最初の頃に警戒してたのが嘘みたい。
伯父様とか式見にバレて変なことにはなって欲しくないし、あたしだって余裕があるわけじゃないからお互いに『現状維持』がベストなんだと思う。
けど、残念ながらあたしはそんなに物わかりが良い人間じゃないのよ……。
あいつがずっとあたしのことを好きな保証だってないんだから、せめて他を見ないように釘を刺しておきたい。
どうしようかしら。
◇ ◇ ◇
ユキヤとの会話で多少自信回復をしたつもりだったのだが、全くだった。
これまでロゼリアはあんなに無防備な姿を晒すことはなかったし、そもそもそういう『隙』を嫌っているとすら思っていた。事実、「可愛い」という褒め言葉はお気に召さないようで、言われて嬉しいのは「美しい」「綺麗」「華やか」「気品がある」等の大人の女性としての褒め言葉だとメロたちが言っていた。下手に「可愛い」などと言おうものなら殴られるかもしれないとも。
だから、思っても決して口には出さずに来た。
疲れているせいもあっただろうが、今後あんなシーンに何度も遭遇するようなら早急にアリスについて来てもらえるように式見に進言しなければいけない。
理性が持つかどうか不安という要素もあるが、ロゼリアがああいう姿を見せて平気なくらいに──ジェイルのことを男として見ていない可能性と考えると流石に凹む。
遠巻きの牽制なのではないかとすら思ってしまうのだ。
肌を見られても平気=男として意識してない=ジェイルの気持ちには答えられない、という風に考えがどんどん嫌な方に行ってしまう。
(馬鹿馬鹿しい。元々お嬢様とどうこうなりたいなんて考えたことはなかっただろう)
そう、ジェイルは元々ロゼリアとどうにかなりたいとは考えてなかった。それよりも気持ちを押し隠したまま、傍で役に立てる方が有意義だと考えていたのだ。だから、あのパーティーの場で口を噤んでいた。アリスの余計な一言もあって隠しきれなくなってしまったが。
そういう意味ではロゼリアの態度はある意味清々しく、ジェイルにとって良いことのはずなのに──そう思えない自分に愕然としている。
(……期待をしてしまっているということか。お嬢様にご迷惑をかけないためにも、一層気を引き締める必要がある)
ジェイルは自分にそう言い聞かせた。
無論、ロゼリアの心境など知る由もない。
翌日から引き続き素知らぬ顔をしてロゼリアの傍にいた。
ロゼリアは朝のことなどなかったかのような態度でジェイルに接してくる。やはり多少肌を見られても大丈夫な相手だと思っているのだろう。考えようによってはジェイルの希望通り信頼されているということだと思い直し、あまり気にしないようにした。
そして、第四領から第二領までの訪問、もとい連泊が終わり第九領へと戻ってきた。
流石にロゼリアにも疲れが見えている。宿泊を前提にしていたので、そこまできついスケジュールではなかったはずだが如何せん各会の会長への挨拶が連続するということで、気疲れの方が大きいように感じた。
「……お嬢様、大丈夫ですか?」
「え? ……ええ、まぁ。無事に終わってホッとしてるわ」
「どの会食もスムーズに進められていたかと思います。本当にお疲れさまでした」
ガロは本邸に戻り、ロゼリアは椿邸へと向かう。ガロはこの後も仕事があるのだそうだ。通常の仕事を放りだして連日外に出ていたのだから滞っていてもしょうがないだろう。
ロゼリアの荷物を持って一緒に椿邸に向かい、その道中で椿邸周りに咲く見事な椿に気付いた。
赤、白、ピンクの椿が所狭しと咲いている。
ロゼリアの母であるクレアが椿を大層気に入っていて、本人が持っている九条印にも椿があしらわれていたという話だ。クレアが事故で亡くなってからもこの椿はずっと綺麗に維持されたままである。それはガロやロゼリアの意向もあっただろうし、庭の管理をしている関係者たちの想いもあったことだろう。
そんな椿を見て、思わず足を止めてしまった。
「……ジェイル?」
「え。ああ、椿が、見事に咲いていたので……」
「──そうね。今年も綺麗だわ」
ロゼリアも足を止めて、椿の方へと視線を向けて目を細めた。
その表情を盗み見たところでハッとあることに気付く。
「申し訳ございません」
「え?」
「お疲れのところに、その、あまり思い出したくないことを思い出させてしまったのでは、と……」
何となく表情が沈んでいるように見えたので亡くなった両親のことを思い出したのかと慌てたのだ。もう十年も前の話ではあるが、両親を一度に亡くした悲しみは計り知れない。かなり仲の良い家族だったと聞いているし、両親の事故をきっかけにロゼリアが変わったとも聞いていたので。
ロゼリアは一瞬きょとんとした後、軽く笑ってひらひらと手を振った。
「別にそんなんじゃないのよ。そういえば毎年この時期になるとここから椿をいくつか部屋に持って行ってたなと思っただけ。今年はバタバタしててそんな暇なかったから……後で取りに来ようと思って」
去年のことを思い出してみるがよく思い出せない。そもそも椿邸であまり長く時間を過ごすこともなかったので椿が飾られていかどうかの記憶が曖昧だった。
しかも去年の今頃と言えば、ロゼリアは新年会だの何だのと言って外出しては朝帰りを繰り返していたはずだ。椿に関心があったなんて本当に知らなかった。
「……お嬢様は椿がお好きなのですね」
「そうね。お母様がすごく好きだったから、その影響かしら。……まぁ、だからって自分で世話はしないんだけど」
どこか決まり悪そうに言うのがおかしい。ロゼリアが花の世話をするシーンなんて考えたことがないし、そういうものなのだとわかっている。
ロゼリアがそっと椿に手を伸ばして花の輪郭をなぞる。
「そちらの椿を持っていかれますか?」
「今度ゆっくり選ぶわ。……あら……」
不意に傍にあった赤い椿の花が落ちた。少し花弁が痛んでいたので、もう散る間際だったのかもしれない。椿は花首から落ちてしまうのでその様子が首が落ちるようで不吉だと言われているが、実際目の当たりにしても驚く程度だった。花弁がはらはらと散る様子の方が綺麗だと言われればその通りではある。
ロゼリアは落ちた椿に手を伸ばして、そのまま拾い上げた。
以前なら絶対にそんなことはしなかっただろうが、ロゼリアは椿の花を耳の上あたりに当てる。花飾りのようだ。
「どう?」
「お嬢様の前では椿の方が霞んでしまいますね。……お嬢様、そちらは痛んでおりますのでお預かります」
「あんたもお世辞なんて言えるのね」
言いながら、ロゼリアが椿をジェイルに手渡してくる。
ジェイルがロゼリアのことを褒めないとでも思っているのだろうか。以前はロゼリアのことが気に食わなくて褒めるなんて以ての外だったが今では違うのだ。それが伝わってないのがもどかしい。
特別な関係になれなくていいという気持ちと、自分の気持ちを正しく受け取ってもらえないことは、また違う。
「──お嬢様、さっきのは本心です」
「え?」
「ここにあるどの椿よりも、どんな美しい花よりも……お嬢様の方が美しく見えます」
そう言うとロゼリアは目を丸くしていた。ジェイルがこんなことをはっきり言うなんて想像すらしてなかったと言わんばかりだ。
「え、……あ、そ、そう?」
どこか気まずそうに顔を背けてしまうロゼリア。
流石に気持ち悪がられたかと内省はしつつ、それでも事実だしなという考えは消えない。これまでまともにロゼリアを褒めたことなどなかったのが仇となった結果だろう。しかし、今後はこういうことを言い続けていけば、先日肌を見られてケロッとしていた時のように普通に受け止められる日も来るかもしれない。
そう思ったら少し気が楽になった。自然と気持ちが軽くなる。
「はい、少なくとも自分は心からそう思っています」
「……そ、そう」
ロゼリアはこちらを振り返らなかったが満更でもないように見える。なんだかんだで丁寧な褒め言葉に外れはないのだろう。かなり昔にユキヤがそんなことを言っていた気がする。
短く返事をしたきり、反応を見せないロゼリア。
満更ではなさそうだが──やはりどこか気まずそうに見える。
よくよく考えれば、庭に二人きり。同行した人間は既に本邸に入ったか、帰宅したかでジェイル以外はいない。
客観的に見て、今の状況を第三者がどう判断するかを考えた。
──どう見ても、今のセリフはロゼリアを口説いているようにしか見えない。
つい雰囲気に流されてしまったが、自分が彼女を口説いていい立場ではないことを思い出し、内心慌てつつもそれを外に出さないようにした。
「お嬢様、ご安心ください。他意はありませんので」
「……は? なにそれ。他意はない、って……?」
ロゼリアが驚いて振り返った。またも目を丸くしている。
ジェイルの言わんとすることがわからずに困惑しているようだった。
「はい、ありません。あくまで事実を言ったまでであり、お嬢様を困らせるつもりも何か見返りを求めているわけではないのです。自分はお嬢様にもっと称賛の言葉を送る立場ではないかと思い、今後はそのように行動していきたいと──」
「じゃあ何? 今のはどういうつもりの言葉だったのよ。お世辞じゃないとか言いながら、実際はお世辞だったわけ?」
言い終わらぬうちにロゼリアが言葉を遮り、低い声を出した。
ジェイルを睨みつけ、怒っているように見える。怒る理由がわからずに少し口籠ってしまった。
「え、は? いえ、決してそのような事はありません。本心であり事実ですが、下心は一切ないのでご安心くださいとお伝えしたかったのです。ただ、もっと外に出していこうと──」
瞬間、ジェイルに何かがぶつけられた。
大した勢いもなく鼻の頭のあたりにぶつかったそれは、椿の花だった。
眼前には怒った顔をしたロゼリアがいて、右手を振り下ろした後のような格好を取っている。つまり、今ぶつかった椿はロゼリアが直ぐ側の生け垣から毟ってぶつけたのだ。
驚き、ロゼリアを凝視する。
ロゼリアは忌々しげにジェイルを睨みつけた後、見るのも嫌だと言わんばかりにジェイルに背を向けてしまった。
「……戻るッ!」
それだけ言い捨てるとロゼリアはそのまま椿邸に戻っていってしまった。
呆然とその背中を見つめて立ち尽くす。
ジェイルには自分のミスが全くわからなかった。
気まずそうな様子では合ったが、途中まで満更でもなさそうだったロゼリア。一番傍にいるのだから、見返りを期待せず下心など持ってないと伝えた方が良いと思っていたのに、一体何を間違えたのだろうか。自分が何かを期待することでロゼリアの負担になることだけは避けたかったのに。
全く何にも気付けず、ただただその場で呆然としてしまう。
さっきのロゼリアの怒った顔が頭から離れない。
「ばーか」
身動きが取れずにいると花壇の中に隠れていたらしい誰かがぼそっと呟いた。
当然誰だかわかるが、すぐに反応が返せるほど元気ではない。ただ、そちらに視線を向けるのみだ。
「……花嵜か」
声の持ち主の名を呼ぶと、花壇に隠れていたメロがひょこっと姿を現した。続いてユウリにアリスまで出てくる。どうやらロゼリアの帰宅を聞いて待機していたようだ。何故花壇の中にいたかまでは知る由もない。
メロは呆れたような顔をしてジェイルに近付いてくる。ユウリは慌ててメロを止めようとするが叶わず、アリスは何も言わずに二人の後を追って近付いてきた。
「おまえ、ほんっとお嬢のことわかってねー……」
「……何?」
二度目となる言葉を投げつけられ、眉間に皺が寄った。メロは呆れ顔のままだ。
「なんで口説いてるって言わねぇんだよ。ばっかじゃねぇの」
「ちょ、ちょ、ちょ、メロ!」
「口説く? お嬢様に対して失礼だろう」
「なんで失礼なんだよ。口説かない方が失礼だろ!」
近付いてきたメロを睨みつけると、メロは怯むことなく睨み返してくる。
別にそんなつもりなかったのにじわじわと両者の距離が近付いてしまい、ユウリが慌てているのが見えた。が、それを気にしている余裕などない。
一触即発となったところで、ジェイルとメロは強引に引き離された。
「ストップ! ストップです、二人とも!」
アリスが二人の間に入って力任せに引き剥がしたのた。その力強さにメロが軽く咳き込んだ。ジェイルはアリスはかなり腕が立つということを知っているのでメロほどではなかったのだが、それでも突然のことだったので少しだけ足元がふらついてしまった。不覚である。
二人の間に入ったアリスはジェイルとメロ、それぞれを眺めてから手を下ろした。
そんな四人をユウリがハラハラした様子で見つめている。
「……どうしてお前たちがいるんだ」
「お嬢が帰ってきたと思って出迎えようと思ってきたんだよ。……なのに、お前と話してるじゃん。ムカついたから盗み聞きしてやろって思ってそのへんに隠れてたんだよ。そしたらお前がバカなこと言うからさー……」
そう言ってメロは溜息をついた。一体何が「バカなこと」なのだろうか。悔しいがジェイルは何故ロゼリアが急に怒り出したのかよくわからない。
「下心ないとかぜってー嘘じゃん」
「嘘じゃない」
「好きなんですよね? じゃあ、下心はあって当然じゃないですか?」
「ないと言ったらない」
メロとアリス、それぞれから責めるように言われて居心地が悪くなる。
元々自分の気持ちを外に出すつもりなどなかったので、こうして「ジェイルがロゼリアを好き」という前提で話されると気持ちが悪いものがある。それが事実であってもだ。
「大体俺の気持ちは白雪が勝手に暴いたんだろう」
「う゛っ!?」
「お前があの時あんなことを言わなかったら俺はお嬢様に気持ちを伝えることはなかった」
「そ、それは~……あの~……とても反省して、い、ます」
アリスを見下ろして、今度はこっちが責めるように言えばアリスがしどろもどろになってしまった。あの時アリスは酔っていてかなり口が軽くなっていたのだ。今後、自分のいる場で彼女に酒を飲ませることだけは控えようと思っている。
「てかさー、二人きりになったら絶対気ぃ引きたくなるじゃん。それで下心ねーとか、それこそねーよ」
ジェイルの言動が理解不能かつ馬鹿の所業だとばかりにメロが言う。
メロもアリスも、どうやらジェイルがロゼリアとどうにかなりたいと考えていると思っているらしい。だからこそ、さっきのような二人きりの場面でわざわざ「下心がない」などと言うのは、「嘘だ」と言っているのだ。つまり、自分に正直になってしまえ、と。
しかし、そんな考えはジェイルからしたら的外れも良いところだ。
一々説明をして理解して貰おうとは思ってないものの、こうも見当違いのことを言われると苛立ってしまう。
面倒だが、それを彼らに説明するべきだろうか。だが、そんなことをわざわざ説明するのも癪である。第一、今目の前にいるメロやアリスがジェイルの考えに納得するとは思えないのだ。
「……花嵜、俺とお前は違う。お前はお嬢様との仲を進展させたいんだろうが俺はそうじゃない」
「嘘だね。好きな相手がすぐ傍にいるのに、何の進展も望まないとかありえねーよ」
言下に否定されてしまい、深く溜息をつくしかない。
ジェイルの考えとメロの考えはきっと分かり合えないだろう。分かり合うつもりもないけど。
そして、それまで静かに話を聞いていたユウリがそっと近付いてきた。
「あの、ジェイルさん」
「なんだ?」
「差し出がましいようなのですが、……ジェイルさんが考えていることを一度ロゼリア様にお伝えした方が良いと思います」
「……さっき伝えたと思うが」
「いえ、そうじゃなくて……もっと真面目に、他の話題を抜きにして、です」
眉を潜める。その必要性は全くと言っていいほど感じない。何故なら、そんなことを伝えても何の意味もないからだ。
あの時、成り行きとは言えジェイルの気持ちが露呈することになったが、結局は「論外」「保留」というロゼリアの言葉をもって終わったと思っているのだ。だから蒸し返すようなことはしない方がいい、というのがジェイルの考えである。
ユウリは自信なさそうにしながら続ける。
「僕の憶測ですけど、ロゼリア様もメロと同じで好きならアピールしてくるだろうと考えているはずです。なのに、下心はないだなんて言ってしまうと……あの時の、パーティーの時の言葉は何だったんだ、と感じてもおかしくはないかな、と……」
目を見開く。そんなことなど一切考えなかったのだ。
「ジェイルさんの考えを否定するつもりは全くありません。あの時、ジェイルさんはロゼリア様とどうなりたいのかを伝えてないじゃないですか。僕もですけど。……はっきりさせておかないと、まずい気がします」
以上です。と、ユウリが告げて、一歩下がった。
椿邸のロゼリアの部屋がある方を見上げる。流石にロゼリアの姿は見えなかったが、途端にソワソワしてきた。
決して自分の意思に反した行動はしていないが、ロゼリアにはどう見えていたのだろうか。
居ても立っても居られなくて駆け出す。
「悪い! お嬢様のところに行ってくる!」
ともかくさっきの言動を弁解せねばならない。
メロの怒る声、アリスの呆れ声、それらを宥めるユウリの声を背中に、椿邸へと向かった。
椿邸に入るとキキがいて、驚いた顔をしてジェイルを見る。
「小山内、お嬢様はどちらに?!」
「え? あの、今日はもう気分が悪いから部屋に誰も入れるなと……」
「……そ、そうか……」
がくりと肩を落としてしまった。そこまで言っているのに、無理に部屋に押しかけると逆効果になるだろう。
ジェイル自身、自分の言動を省みる必要がある。一晩くらい頭を冷やした方が良いのかもしれない。
「小山内。悪いが、お嬢様に今日の謝罪のために明日お伺いする、と伝えてくれないか」
「か、かしこまりました」
「頼む」
短く告げ、椿邸を後にする。
外に出てからメロたちがいないかどうか確認したが、もういなかった。下手をすると椿邸に来て入れ違いになるのではないかと器具をしたが、恐らくユウリが一度戻ろうと提案したのだろう。
ユウリに感謝をしつつ庭へと出る。
相変わらず椿が見事で、鮮やかに庭を彩っていた。
翌日の朝。
早すぎない時間を見計らって椿邸を訪れる。本来であれば今日は休みだったのでゆっくりすべきだったが、昨日のことはそのままにしておけなかった。
手には椿。庭師に了解を得て、椿を何本か貰ってきたのだ。ロゼリアが「今度選ぶ」と言っていた手前、余計なことだったかもしれないが手ぶらでも訪れづらかったし、椿以外の花を持参するのも何だか違う気がした。
昨日と同様、キキが出迎え、ロゼリアの自室近くまで案内される。
「……ジェイルさん、何かしたんですか? 会いたくないと言ってましたが……」
「そ、それを謝りに来たんだ……」
「そうですか。えぇと、頑張ってください」
そう言って部屋の前にはジェイル一人になった。
ゆっくりと深呼吸をして部屋の扉をノックする。
「お嬢様、ジェイルです」
返事はない。キキが朝の支度などを手伝ったと言っていたのでいないということはないだろう。単純に無視されているのだ。
すぐに諦めるわけにもいかず、もう一度ノックをする。
「お嬢様……昨日のことを、謝罪させていただけないでしょうか」
引き続き反応はなかった。
めげずにノックをし、反応を待つ。
「──謝罪と、俺があなたのことをどう思っているのか、どうなりたいと思っているのか、お話させていただきたいのです」
「……。……入っていいわよ」
ようやく返事があってホッとする。が、機嫌が悪そうだ。
以前であればロゼリアの機嫌など勝手に悪くさせておけばいいと考えていたのに、今では不機嫌であることに緊張してしまう。こんなに緊張してロゼリアに会うのは、あの夜以来かもしれない。いや、もっと緊張しているのかもしれなかった。
中の様子を伺うようにしながらゆっくりと扉を開ける。
部屋の中ではガウンを羽織ったロゼリアが不機嫌そうな顔をしてソファに腰掛けていた。
「……失礼します」
ロゼリアは答えない。勝手にソファに座るのは憚られたので、彼女の傍に立ち、静かにロゼリアを見つめた。
「お嬢様、昨日、」
「謝罪の前に、あんたがあたしのことをどう思っているのか、どうなりたいと思っているのか聞かせて頂戴」
一層緊張が走った。
先にその話をしなければいけないとは思わなかったのだ。
やはりロゼリアと自分との間に何かしら誤解があるのだろう。しかし、いざ言おうとすると躊躇ってしまう。ロゼリアが何を考えているかわからないから、余計に。
「……。……俺、は……あなたのことが、好きです」
告白というのは、このように”言わされる”ようなものだっただろうか。
思えば、ユキヤは自分の意志で気持ちを伝えていた。メロとハルヒトも、場の雰囲気に流されてではあったが、その場で自分が伝えたいと思ったから伝えたのだろう。
しかし、自分はそうではない。
今更になってそのことがやけに引っ掛かっている。
「好きだからこそ、役に立ちたいと考えています。お嬢様の言うお嬢様だけの味方でありたいです。
……しかし、それだけです。ユキヤやハルヒトさんのように、あなたと結婚したいとか恋人同士になりたいとか、そんな大それた望みは抱いていません」
言い終わった時、ロゼリアは右手で額を押さえて俯いていた。
どんな表情をしているのかジェイルの位置からでは窺い知れない。
「──そう。じゃあ、謝罪はいらないわ。あたしの勘違いだったみたいだから」
「え」
「もういいわ。悪かったわね、見当違いの謝罪なんてさせようとして。……出てって頂戴」
ジェイルの顔を見ないまま言い放つロゼリア。
どうしてそういうことになるのかわからず、ジェイルは軽くパニックになってしまった。出て行けと言われても足が動かなかった。
「お嬢様、昨日俺が失礼なことを言ったのは確かで──」
「あんたがあたしとどうにもなりたくないなら失礼でも何でもないわ。昨日あたしが怒ったことは、もう忘れて」
思わぬ拒絶に言葉を失う。うまく考えることができず、ただただ呆然とロゼリアを見つめてしまった。だが、流石にこの場で言われた通りに出ていってしまったら駄目だということだけはわかる。恐らくここで出ていったらロゼリアは自分との間に明確に線を引いてしまう。その線から内側には絶対に近付かせてくれなくなる。
──二人きりになったら絶対気ぃ引きたくなるじゃん。
──好きならアピールしてくるだろうと考えているはずです。
不意に、昨日何となく聞いていた言葉が鮮明になる。
ロゼリアは自分に特別な感情など抱いてないと思っていた。そんなことは万が一にも有り得ないと。
しかし、そうではなかったら? そのことに思い当たり、思わず口元を覆い隠してしまった。
「お嬢様……」
「もういいでしょ。一人になりたいからさっさと出てって」
「そういうわけには行きません」
そう言ってからテーブルの上に椿を置き、ロゼリアの傍に跪く。相変わらずロゼリアは額を押さえて俯いたまま、ジェイルを見ようともしない。それどころか見られるのを嫌がるようにロゼリアから距離を取ろうとする。
そんなロゼリアを追いかけるようにして手を伸ばし、顔を隠す右手首を捕まえた。その手が震える。
「ちょ──!」
「失礼します」
一応断ってから隠された顔が見えるように半ば無理やり手を退かせてしまう。当然抵抗されたが、それでも自分が今しがた抱いた期待とも希望とも言えない予想が合っているかを確かめるためにはこの方法しかないと思ったのだ。
左手でジェイルを払いのけようとしたので、その手も捕まえてしまう。
両手を掴まれて晒されたロゼリアの顔は──真っ赤だった。しかも少し泣きそうに見える。
「あ、んた、ねぇっ……! 出てけって言ったでしょ!? 何のつもりよ!!」
赤い顔のままわなわなと震えるのを見て、さっきの緊張などは吹き飛んでしまった。
意地悪そうな笑みを浮かべていたことにジェイル自身気付いていない。無意識のことだった。
「……いえ、まだお伝えしてないことがありましたので」
ロゼリアはジェイルから視線を逸らし、その顔を見ないようにしていた。
「あなたと特別な関係になりたいなどと大それた望みは抱いてません。
ですが、あなたが俺のことを好きで、あなたが望むなら……その限りではありません」
驚いたように目を見開き、ようやくジェイルを見るロゼリア。
その視線と表情にホッとしてしまった。さっきまでは生きた心地がしなかったからだ。
ゆっくりと顔を近付けて触れ合いそうになるところで止まる。ロゼリアがびくりと震えるのが伝わってきた。
「言ったでしょう? あなたの望みは必ず叶える、と」
ロゼリアが怒ったようにジェイルを睨み、悔しそうな顔をした。
「……一発殴っていいかしら?」
「お叱りは後でいくらでも受けます。ですが、その前に──」
そう言って更に顔を近付けるとロゼリアがゆっくりと目を閉じる。わざわざ確認するのは野暮だろうと思い、そのまま唇を重ねてしまった。
ん。と、ロゼリアの鼻にかかったような吐息が聞こえる。
キスに没頭していると、ロゼリアを押し倒しそうになっているのに気付いた。流石にまずいと思い直し、ゆっくりと唇を離す。離れ難そうにしているのを見て、隣にそっと腰掛ける。
「……あの時、本当は自分の気持ちを伝えるべきではなかったと思っています。白雪の言葉を否定できなかったのと、なんというか……場の雰囲気に流されました。──俺は、あなたの負担にだけはなりたくなかったので」
「何よ、それ。あんたがあたしの負担だったことなんてないわ」
ロゼリアの訝しげな表情がおかしい。彼女からの評価がどれほど自分に影響するかなんて、本人は気付いていなさそうだ。
そっと背中から手を回し、腰を抱き寄せる。
すると、ロゼリアがものすごくジト目で見つめてきた。
「あんた……何なの?」
「何、とは……?」
「ちょっと肌を見せたくらいで狼狽えるくせに、小っ恥ずかしいセリフを言ったり今みたいに手慣れたところを見せたり……」
「いえ、それは……不意打ちと言うか、そういうものに弱いだけで……大体お嬢様の肌を見て平気でいられるわけじゃないでしょう……」
「ふぅん?」
ホテルで起こしに行った時のことを掘り起こされて言葉に詰まる。あの時のことは我ながら不覚だったので持ち出されると少々居心地が悪い。
が、そんなジェイルの態度はロゼリアのお気に召したらしく、楽しげに笑っていた。
「まぁいいわ。──ねぇ、ジェイル」
「はい、お嬢様」
「もう一回ちゃんと聞かせて。あんたがあたしをどう思っていて、あたしとどうなりたいか」
一瞬だけ驚いてしまったが、自然と笑みが漏れる。
許されるなら何度でも伝えたいと思うのだ。部屋に入る前とは全く違う心境に更に笑ってしまいそうだった。
ロゼリアを抱き寄せて、彼女だけに聞かせるように声を潜める。
「俺はお嬢様のことが好きです。これからもあなたの一番傍で、あなただけの味方でいたい。──恋人という立場で」
ロゼリアは非常に満足気に笑った。合格とでも言いたげな表情である。
ゆっくりとロゼリアの手が伸びてきてジェイルの頬を撫でていく。その手に得も言われぬ感覚を覚え、目を細めた。
「昨日のことは許してあげる。……好きよ、ジェイル」
その言葉と頬を撫でる手に誘われてゆっくり顔を近付ける。
ロゼリアが目を閉じるのも待たずに再度唇を重ねるのだった。
◇ ◇ ◇
……恥ずかしさで死ぬかと思った。
好きなら当然恋人関係になりたいはず、と考えていたらとんでもないトラップに引っ掛かってしまった。
本人から他意はないとか下心はないとかはっきり言われてすっごいムカついちゃったわ。じゃあどういうつもりで「花より美しい」とか言ってんのよ、って……。
改めて「好きだけど、特別な関係は望んでない」って言われてもうほんっとうに恥ずかしかった。
あたしの勝手な勘違いで、今後どうやってジェイルとやっていけばいいのよって軽くパニックになったわ。
結果的には、結局ジェイルがあたしの負担にならないようにって考えていたからだけど……あいつ本当に分かりづらい! 普段からずっと仏頂面で以前は表情が全く読めなくて苦労して、最近になってようやくわかってきたと思ったのに……言ってることとやってることが変に一致しないのよね。
それだけジェイルがあたしのことを色々考えてくれるということだから、まぁ、良しとしましょう。
一番傍にいるからこそ『わかってるつもり』にならないで、ちゃんと言葉にして確認していけないといけないわね。
それはそれとして今後は伯父様や式見の目を一層気にして行動しないといけない。……なんかすぐバレそうな気がするけど、努力はしないと……。
ジェイルは不意打ちとかが苦手って言ってたけど、それはあたしも同じと言うか……。
普段あんまり表情が変わらないジェイルが笑うとすごい心臓に悪いのよね。無性に悔しくなっちゃうし、無意識でやってるだろうから余計にむかつく。
今後もちょくちょくホテルの時みたいに肌を見せて煽ってみよう。
いい意趣返しになるでしょ。……見てなさいよ、ジェイル。




