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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第四章 スクープを求めてパキスタン辺境州
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償いと赦し1

翌日時計の針が午前九時を指すのを見計らい、蛍はインターネット上に記事を配信した。

タイトルは『償いと赦し』


「 昨年十一月、ネット上に物議を醸し出す書き込みがされた。

『フィトネスクラブ◯◯(原文では現存のフィットネスクラブ)の次期社長、A(原文は実在の人物)は性犯罪者である

一九九X年四月、○○大学(原文では実在の大学名)三年に在学中だったAとB(原文は実在人物)は新宿にて他大の女子大生を睡眠薬などを用いて意識を失わせ、居酒屋の非常階段で猥褻行為に及び、その行為を携帯電話にて撮影。

彼等は七月二日、同大学より退学処分を受けた。理由は強制猥褻事件で検挙されたからである。(同年強制猥褻罪で禁固三年、執行猶予五年の有罪判決をうけた)

そのような性的変質者がフィットネスクラブの経営者としてふさわしいのだろうか?

客相手に猥褻行為や盗撮をする恐れはないのだろうか』

その後A氏は書き込みをした女性(四十歳)に対し、名誉毀損で刑事告発。記者は当該女性と接触を持ち、話を聞くことが出来た。


当該女性妙子さん(仮名)。以下妙子。

『書き込みの内容に嘘はありません。当時大学三年生だった私はサークルの飲み会の名目でAに呼び出されました。親友だった里美さん(仮名)と言う女性とも一緒です。新宿の待ち合わせ場所に着いて、集まったのがA、B、私、里美さんの四人だけで、A達に騙されたような気持ちがしました。

それでもサークル仲間ではあるので、Aの知り合いが働いていると言う近くのお店に着いて行きました。

お店は普通の居酒屋で他のお客さんもいました。

しばらくすると里美さんが座ったまま寝てしまいました。飲み始めて三十分もたっていないと思います。Bが里美さんを外の空気を吸わせると言って連れ出しました。そのうち私も具合が悪くなり、Aが私をトイレに導きました。でもそこはトイレではなく非常階段でした。非常階段では目をつぶったままの里美さんがBに服を脱がされていました。私もその場で気絶してしまいました。

気がついたら終電が終わった高尾駅でした。帰宅後、下着が裏返しになっていて、猥褻な事をされたのだと確信しました』

記者『お酒での酩酊とは違うと?』

妙子『はい、全く違います。私も里美さんも酎ハイをグラスの半分程度しか飲んでいません。明らかに睡眠薬のような薬物を入れられたと思います』

記者『彼らを告発するにいたる過程を教えてください』

妙子『同じサークルの俊一君(仮名)に相談した所、ABが撮影した私達の猥褻な動画を俊一君が入手してくれました。その動画を証拠として警察に被害届を提出しました。彼等は大学を退学になり、執行猶予付きの有罪判決を受けました』

記者『薬物の使用は認められたのでしょうか?』

妙子『残念ながら認められませんでした。彼らは否定していたし証拠がありませんでした』

記者『その後民事訴訟で慰謝料は請求しましたか?』

妙子『いえ、もう彼らとは金輪際関わりを持ちたくなかったので。そうそう、彼等が有罪判決を受ける前に、Aの弁護士と称する男性から電話がかかって来て示談を迫られた事がありましたが、あまりに失礼な事を言われたので示談には応じませんでした』

記者『失礼な事とは?』

妙子『このまま示談にならなかったらずっと裁判が続く。来年はあなたは就職活動するのに検察や裁判所の呼び出しに応じられるのですか、と半ば脅しのような事を言われました』


関わりを持ちたくないという妙子さんの願いも空しく、何という運命のいたずらか妙子さんとA氏は再会してしまった。

妙子『行きつけのフィットネスクラブで、スタッフルームから出てくるAとばったり出くわしました。向こうも私に気づいていました。Aは単なるスタッフではなく、経営者の息子で、いわば次期社長のような立場でした。フロントの方には理由を説明した上でその場でフィットネスクラブの退会を申し入れました』

記者『なぜ二十年前の事件を、今ネットで告発したのでしょうか?』

妙子『許せなかったからです。彼らの事を考えると頭がおかしくなりそうで、何処かに吐き出したかった。 それに、Aの現職が女性を対象にしたフィットネスクラブの経営陣というのもちょっと・・・・・、性犯罪の前科があるのに、相変わらず女性を食い物にしていることが許せませんでした』

記者『A氏から名誉毀損での刑事告発を受けて、どのように感じましたか?』

妙子『私への報復だと思いました。私が彼らを刑事告発したように、今度はAが私を告発したのだと。犯罪者なのに名誉が守られるなんておかしな話だと思いました。犯罪被害に遭った私の名誉は誰も守ってくれなかったのに』

(多香絵を斜め後ろから撮影した写真を掲載)

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