第1話
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七歳の子供が屋敷の中で十人の鑑定士に囲まれていた。
子供の名はレオン・イナヴァ。イナヴァ男爵家の跡取り息子だ。
椅子に座り足をぶらぶらさせる姿を見て、ひとりの鑑定士が声をかけた。
部屋にはリラックスさせる香が焚かれていたし、そこら中におもちゃも用意されていた。
「坊ちゃん、退屈ですかな?」
「う、うん。でも、がまんするよ」
「ほっほっほ、坊ちゃんはお利口さんですな。どれ、今日もお話をさせていただきますぞ」
鑑定士たちは皆優しくしてくれた。退屈を少しでも紛れさせようとしてくれていることは幼いレオンにも伝わっていた。
だが、その裏では――
「なんで出ないんだ!?」
「もう七日……」
「古代の美術品じゃないんだぞ。このままでは信用に――」
進まない鑑定。
鑑定士たちは焦っていた。
スキルの詳細だけが何日かけても出てこなかったのだ。
今日も、レオンは退屈そうに家の中。
「お外は、こんなにいい天気なのに」
遊びに行けないと窓から降り注ぐ日差しも少し恨めしく感じる。せめて窓が開いていれば、春の匂いも感じられただろうに。
「ねえ――」
「うわっ、びっくりした!」
気が付くと、自分と同じ歳くらいの女の子が後ろにいた。
鑑定士たちと一緒に来た子で、この子も鑑定のスキルを持っているらしい。
でも見習いだから、もっぱら遊び相手をしていることが多い。毎日顔を合わせていたので、二人はすっかり仲良しになっていた。
「レオン、今日はなにするの?」
「それ、いつもぼくが考えてるよね」
「レオンが考えてくれた方が楽しいよ」
「そ、そうかな、えへへ……」
レオンは単純なので、少し褒められるだけで多少の面倒ごとは引き受けてしまう。うーん、うーんと小さな頭をひねって、一生懸命考えるのだ。
「ちょろい」
「うーん……って何か言った?」
「ううん」
レオンとしても同年代の子供と遊ぶのは楽しかった。本当ならこの子と一緒に外で遊びたかったが、外に出ると鑑定が途切れてしまうらしいので仕方が無かった。
「ねえ」
その日も普通に家の中で遊んでいた。
鑑定士たちは別の部屋で会議中、そのわずかなタイミングの事だった。
「きみのそのスキル――」
「――いったい、どこからつながってるの?」
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「ガチャを引くなら100連以外は許されないと思う」
煌びやかな夜会の一角に響く、意味の全く分からない言葉。何言ってんだコイツ、という視線が発言の主に降り注ぐ。周囲の空気が生温かさに包まれた気がした。
この発言をしたのは、レオン・イナヴァ。
今回初めて夜会に参加し、父アルベルトと共に他の貴族へ顔を売っているところであった。たしかに顔は売れただろう。それが良い意味でと言ってよいかは分からないが……
「君はイナヴァ男爵のご子息であったな。何か言いたいことが……? 白目をむいて気絶している!?」
「ああ、なんと不躾な言葉だろうかと言いたいところだが、大丈夫かね? 一体何が……?」
「意味はわからないが、その言葉には不思議と感じ入る所があるねえ」
「あー、イナヴァ家といえば確か聞いたことがありますな、長男はスキルをお持ちとかどうとか――」
レオンには生まれ持った≪スキル≫が備わっていた。
スキルの名は≪天啓≫。
名前だけ見るとたいそうなモノのように見えるが、その実態は、たまに口から謎の言葉が飛び出すという、ある意味呪いのようなスキルである。
今までもこのようなことはあったが今回はタイミングが悪かった。貴族の集まるこの場で、このような失言は致命的なことだ。周りの人々もひそひそと様子を伺い始めている。
「も、申し訳ございません。これが以前お話しした息子のスキルでして――」
レオンの父親であるアルベルト・イナヴァ男爵はどうにかこの場を収めようと必死に頭を働かせていた。もとよりスキルのことは想定内ではあった。しかし今回の≪天啓≫は想定よりおしゃべりであった。
「――このことを肝に銘じるのだ。さすればイナヴァ家に利益をもたらすであろう」
レオンはそう言い終わると白目をむいて床に倒れ込んだ。あまりの失言に気を失ったわけではなく、スキル発動後はしばらく意識が飛ぶことがあるのだ。しかし、倒れ込むようなことは稀だ。
人が倒れたことで会場は騒然となった。楽団の演奏も中断され、辺りが慌ただしく動き始めていた。
「――つ、つまりは、我が家で鑑定士を100人雇い入れることが神のご意思ということでございます!」
そんなタイミングで、イナヴァ男爵の声が辺りに響いた。
少し吹かし過ぎたかもしれない。
イナヴァ男爵は少しだけ後悔したが、ここはもう勢いで突っ切るしかない。
「鑑定士を一人二人雇おうかという話に、それでは足りぬという天啓があったのです。…………おそらく」
「ほおスキルと、なるほど、これがイナヴァ家の財力、その源泉ということですかな」
「くく……、そうですな、イナヴァ男爵のお言葉とつなげてみれば、そのような意味で通りますな」
「100人とは! これはまた大きく張りましたなあ!」
「いやはや、素晴らしい決意のあらわれだと受け取りましたぞ!」
感心するもの、そう見せかけて心では嘲笑するもの、ただのギャンブル好き、素直な良い人、貴族にも色々だ。だが、この場にいた貴族は、比較的イナヴァ家とも友好的な家が多かったこともあり、追及もなく丸く収まったようだ。
しかし、長くとどまればボロが出る。
なにより、息子は白目をむいたまま、まだ気絶をしている。
「息子がこのようになってしまいましたのも、スキルの副作用でして……。少々失礼させていただきますぞ」
イナヴァ男爵はレオンを連れて、そそくさとこの場から離れる選択をした。
レオンを連れて部屋から出ると、遠くでざわざわとした人の声と、それを落ち着かせるような曲調の演奏が聞こえ始めた。そこでようやく、イナヴァ男爵は一息付けた。
レオンには話していなかったが、イナヴァ男爵は息子のスキルについて少々見栄を張って伝えていた。スキル≪天啓≫は、その名の通り、神がイナヴァ家に利益をもたらす言葉を伝えるものであると。もしかしたら、天がイナヴァ家に味方している証であると。
商家あがりの貴族であるイナヴァ家の箔をつけるために利用したのだが、それがこのような形で返って来てしまうとは……
イナヴァ男爵は少々後悔したが、まあこの程度で済んで良かったと思いなおした。
我がイナヴァ家は、鑑定士が100人乗っても大丈夫。
それだけ財力には自信があったからだ。




