あるじに暴れてもらえばよくないか?
「配信……ですか?」
「そうじゃ……それもあるじと一緒に、じゃ」
「ッ!……いいんですか?」
そう、ここで大事なのは『ハルが嘘をついた』ことを弁明するのではなく、『葛林サイドがハルの嘘をでっち上げた』という実例を実際に見せつけてしまえば良い。
今ワシらの武器は葛林が全部喋った録画だけじゃ。そして皮肉にもこの現代世界はダンジョン産によるアイテム影響で高度に発展しておるからの。かつてはそんなことはありえないと言われていた事象も今ではあり得る可能性が出てくる。
そしてその分AIの技術も格段に発展しておる……それこそ、人間の目じゃ見わけが付かぬほどに……じゃ。だからそんな『黒幕がなにもかも全部暴露した』という都合のよすぎる映像が作られたものと
真実を知っておるのはワシとハルとひまわり、そして葛林だけじゃ。そしてその中で一番メディアとずぶずぶなのは葛林。きっと今この瞬間テレビ局の連中は血眼になって打開策を探すじゃろうな。
だからこそあやつらがその『映像がAIである』ということにする逃げ道なんて一瞬で思いつくじゃろう……。そしてお得意の印象操作でまたハル達を貶める。この国は良くも悪くも民主主義。『民衆』という物量の暴力で殴れば一事務所なんて一瞬で崩壊する。
あやつら側からしたら簡単な話じゃ。こちら側――ハル達桜花の城側は今すでに『悪である』という印象が根付いておる。その固定観念がある場合たとえ疑惑払拭になる《《かもしれない》》証拠をネットの海に叩きつけたとしてもこやつらの印象は悪から善ではなく、悪から『怪しい状態』に変わるだけじゃ。
SNSが普及しておるこっちの世界で人前に映る仕事をしている人間にとって最も大事なのは《《好感度》》じゃ。そして今、こやつら桜花の城の好感度は何も知らん一般市民からしたら下の下。そんな状況で状況が分かる、しかも発信力のある者がこちら側に助け舟を出すとは思えぬ。だってそうすれば助け舟を出した者も《《こちら側》》ということになってしまう。じゃから合理的に考えて今ワシらの味方をするという選択肢は論外じゃ。
そうなってしまえばあとはマスコミ側がまたありもしない情報を世間に流してしまえば状況は振り出しじゃ。……なんなら『AIを使って嘘をでっち上げた』という偽のアチーブメントを解放してしまったからむしろマイナスじゃろうな。
じゃが、ワシらの打開策として『あるじという存在』は大きな一手となる。
なるほど、そしてその様子からしてハルはその意味を理解しておるようじゃの……。
そもそも極論、ハル達が自作自演していると言われる発端となった原因があるじじゃからの……。いや、逆にハルがあそこで倒さなくてよかったと言えるのかの?
あそこで視聴者、世間の間で疑惑が生まれた――『ハルは本当に自作自演しているのではないか』と。だってあるじを見た者はハル一人しかおらぬから……。
そもそも今世間に『ハルは人々の話題を引き付けるために自作自演した』という情報が根本にあるせいで動きづらくなっておるのじゃ。
じゃが、裏を返せば、その根元の情報が間違っているかも?と少しでも思わせてしまえば状況は一気に変わる。
簡単な話。配信内であるじが暴れまわれば良いだけじゃ。そうすればハルは嘘を《《ついていなかった》》ことになる。それが一手目――だが、もちろんこれだけではダメじゃ。……じゃから、配信が終わった瞬間……世間がハル達に注目しておる瞬間に――
「ハクーーー!!」
ッ!?!?
「今度は何?……ん?この声って……」
今の声……あるじ……?
なんで?なんでなんでなんで!?!?なんであるじが来てるの!?
「……ハク様?」
どうしよ、もしかしなくてもワシ怒られる?前少し帰るのが遅くなった時にあんまり帰るの遅くならないようにしてと言われておったし……どうしよどうしよどうしよ。やばいかな?これワシやばいかな??
いざ怒られるかもとなったら、逃げ道を塞がれたら一気に頭が真っ白になる。あるじが家で待ってるとしたら何とかなる可能性はあったのじゃが……ここまで来られてしまったらどうにも言い訳が出来ない……。
途端に冷や汗が出る。やだ。怒られとうないぞワシ――
瞬間、
「ハクぅーーー!!!」
ドゴォォォン――
何者かに――まぁあるじなのじゃが、あるじに勢いよく突進され、20mくらい後ろに吹っ飛ばされる。
あっ、やっぱり怒ってるかなぁ……?と、思ったのじゃが……
「……へ?」
頭からあるじの手の感触がする。その手は左右に行ったり来たり動き――ワシ、なでなでされてる……?それにこの感じ……ワシ抱きしめられてる?
あれ?あれ?あれ?てっきりチョップされると思っておったのじゃが……あれ?
「……良かった……よがっだよぉハクぅぅぅぅ!!」
「あるじ!?」
え、え、え?情報の処理が追いつかない。急にあるじに突進されたと思ったらがっしり抱きしめられて頭を撫でられる……かと思ったらめっちゃあるじが号泣しておる。
「心配たんだぞぉぉぉぉ!」
「……へ?」
号泣するあるじにさらに強く抱きしめられる。いよいよ身動きが取れない……。それに、
「あれ?もしかしてワシ怒られない……?」
「ぶえっ、うぐっ……ハク……?」
「あの、あるじって怒って……ない……?」
「ハクに何かあったらと思うと心配で心配で……ハクはか弱いヌッコなんだから……外の世界は危険でいっぱいなんだから……っ!」
「ッ!?あるじ……っ!」
瞬間、ワシもあるじを強く抱きしめる。
言われてワシは気づいてしまった、自分の浅はかさに……。あるじはこんな夜遅くなのにも関わらずワシのことを探しに来てくれるほどワシを大切にしてくれておるというのに……ワシは……ワシは……
「うぐっ、あるじ、心配かけてごめん……ごめんなのじゃぁああああ!!」
気づいたらワシもあるじにつられて泣いてしまった。ワシがいくら強いといってもあるじはそれを知らぬ。ワシは自分が大丈夫だからといって何も考えずここまで来てしまった。……あるじの気持ちなんて考えていなかった。ワシは自分のことしか考えておらんかった……。
よく考えたらすぐわかることじゃった。そりゃそうだ。家族が全く帰ってこないってなったら心配するのはあたりまえじゃ……。ワシでもそうする。あるじは優しい……本当びっくりするくらいには優しい。ワシのことを心配しないはずがない。
それなのに……それなのにワシは……っ――
「は、ハク……様?」
「ハクさん……?」
――あっ……
気づいた時にはもう遅い。見上げるとそこには困惑した様子でこちらを見るひまわりと、どう話しかけて良いかわからず戸惑う様子のハルの姿があった。そして二人には目のハイライトが無かった……
そう、今この瞬間ワシの威厳が一瞬にしてなくなったのだった。




