クズには制裁を 二
「恐れるなッ!ヤツの実力はおそらくS級、そして攻撃する際必ず我らに近づくということは近距離戦闘を得意とするタイプだ!だから絶対に近づかれないように戦うんだッ!そうすればいくらS級といえど我々ならば必ず勝てるッ!」
「そ、そうだ……冷静に考えれば鎧を着た人間を一瞬でバラバラになんて出来るはずがないッ!必ず何かトリックがあるはずだ!」
「そうだ、絶対にお前は犯してぶっ殺してやるッ!」
……は?今、奴らはナンテイッタンダ?
近づかせなければ勝てる……?このワシに……?このゴミどもはまだ自分たちには勝機あると思っておるのか?
こやつらはどうしようもないという絶対的な絶望と恐怖の元、残酷に死ななければいけないのに、これでは勝てるという希望を持ったまま『絶望』を知らずして死ぬことになってしまうではないか。
それはダメじゃ……そんなことはあってはならぬ。それではたった1人、自分の身を売る覚悟でここまでやってきたハルに、友を救う為に行動し、たった1人で自分よりも強い者達に抵抗したそこの少女に示しがつかない。
あぁ、そうか。奴らはこうも言っていたな、ワシが……ワシの実力が『S級』だ……と。……舐めているのか?挑発しているつもりか?
いや、ワシが力を抑えすぎておったのか。そうかそうか、そうであれば奴らの発言は見当違いどころかむしろ正しいじゃろう。そうだ、もし相対する者がたかがS級だとすればその戦い方は正しい。それが1対7となればよくてA級の者どもは尚更勝機があると思い込むじゃろうな……。
「よしッ!ヤツはたった1人。それにこっちには茂雄様が従えたトロールがまだ2体いるんだッ!」
「いけ!行くんだトロール共ッ!ヤツを捕えろ!」
グォォォォ——
そうして護衛らはワシから距離を取る。反対に無駄にデカいトロールがワシに近づいてきて、今にもその棍棒を振り下ろそうとする。
「今のうちに隊列を調えろッ!魔法班はヤツの動きを封じる魔法の準備をッ!」
横からはモンスターの雄叫び、そして前からはゴミ共の声がする。
はぁ、五月蝿のぉ……。本当に不愉快じゃ。ん?なんじゃ?身体が少し重くなった?……あぁそうか、ワシに近づかせぬよう、動きを封じる魔法をかけたのか。
「よしッ!トロールよそのまま潰してしまえッ!」
グォォォォォォ——
苛々する……。このワシをこんな稚拙な魔法で捕え、そしてこんなカスの攻撃で殺せると思われていることが本当にムカつく……。
だから、
「……邪魔じゃ」
ドパァァァン——
その棍棒を片手で止めた刹那、ワシは小さな魔力の塊をトロールにぶつけた。
「……は?」
まったく、たかだかB級程度のモンスターを跡形もなく破裂させただけでここまで驚かれるとはの……。いや、やはりそんなことすらできないと舐められておるのか。どうやってワシを絶対に敵わない存在と認識させようかのぅ。
……あぁ、そうか。わざわざゴミを殺す必要はないのか。ワシの力を小細工だと勘違いしているのなら……小細工と思いたくても思えないよう、純粋な魔力を解放すればいいではないか。
そう、奴らが潰れてグシャグシャになる寸前まで魔力で押し潰せばいいではないか。あぁ、そうすれば動けなくなったとこを1人ずつじっくり殺せばいいではないか。
そうじゃそうじゃ、簡単なことじゃ。
そして
そして、
ワシは少しだけ魔力を解放する。
♢♢♢
クソッ、クソッ!ただただ女をボコボコにして殺すだけの楽な仕事だと聞いていたのにッ……。チッ、ただ、トロールが近づいた瞬間爆発して死んだということはやはり『近づいてはいけない何か』があるのだろう。そしてそれはきっとなんらかのダンジョンアイテムだろう。でなければトロールを、それどころかドラゴンを一瞬で殺すなんていくらS級でも出来るはずがない……。
こちらはまだ7人いる。それに魔法で動きも封じた。ククク、所詮は女だ。少し痛めつければそこのチビの女みたいに動かなくなるだろう。
しかも良く見ればかなりの美人ときた。チビの女は茂雄様の命令のせいで犯すことは出来なかったが……フフフ、今回は楽しい思いが出来そうだなぁ。
ヤツは動くそぶりを見せない。よし、一気に攻撃を撃ち込んでやろう。俺達の仲間を殺した罪を思い知らせてやるッ!
そうして魔力を練り、攻撃を放とうとした刹那、
————ッ!?
なんだ……これ……ッ!?
突然ありえない量の魔力によって押しつぶされる。
「あ……が……」
意味がわからない。こんな魔力は感じたことがない。S級のモンスターに遭遇した時も、S 級の探索者に会った時も……。まるで俺が追いつくのは諦めたあいつら人外共のレベルが赤子同然だと言われているような……ありえない。これは人間が……生物が有して良い魔力量じゃない……。
視界が歪む……いや、これは空間が歪んでるんだ。自分の手の輪郭がわからなくなる。
苦しい……息が出来ない……。
ナンナンダコレハ……
S級モンスターに遭遇した時でさえ感じなかった圧倒的恐怖。絶対に勝てない、死ぬしかない絶望。喉元だけじゃない、全身に無数のナイフが向けられているかのような……。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い——
ヒュ——
その風を切るような音は小さく、されどはっきりと俺の耳に聞こえた。
「そうじゃ、その表情が見たかったのじゃ……」
「ヒッ!?」
見上げるとそこにはヤツがいた。どうして動ける?このありえない魔力量はなんだ?
俺の中でそんな疑問が駆け巡る。だが、次の瞬間俺の思考は全て消え去り、何もかもが恐怖で染まる。
「のうおぬし、今おぬしの目にワシはどう映っておるかの?」
「あ……」
目の前で彼女を見た瞬間、理解した。
あぁ、これはダメだ。俺のことを見る目は到底生き物を見る目じゃない。
ハエを殺すように、息をするように……本当は最初から存在を認知させることなく俺らを殺すことだって出来たんだ。なのにそうしなかった。
彼女は俺達と戦う気なんてないんだ。これは戦いなんて高尚なものじゃない、圧倒的な蹂躙だ。恐怖をこれ以上ないほどに植え付け、そして何も出来ずに俺たちは死ぬのだ。
あぁ、そうか、……俺たちは絶対に喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ったのだのだ……。




