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女子校に青年が!

 類は四朝学園最上階の生徒会室へと、ついさっき出会ったばかりの少女―翼と足を運んでいた。


「郊外にある都市だからもっと小規模の学園だと思ってたんだけど、かなり広い学園だなんだね。ダダナからの襲撃も都心とまでは行かないけど結構あるんじゃない?」


「あぁ!ここは疎開先というより、軍備施設だからな!」


 敬語を使わなくていいと言われた翼は言葉を崩し、なんとか場を持たせようとする類の質問に答えた。


 学園内はほとんどがガラス張りで、四朝学園の寮や体育館、都市の飲食街なども見渡せる。学園の中枢部は円柱状になっており、真ん中のエレベーターで生徒が移動する形だ。類が通った1階部分には保健室や職員室などの、教務員用の教室が用意されている、そこら辺の学校と同じ作りであった。


「お帰りなさいませ、会長。…お初お目にかかります。研究専門員、雨宮類先生。」


 黒髪のポニーテールをした類と同じくらいの身長の少女が、生徒会室前で微動だにせず、立っていた。制服を正しい形で 着こなしている。翼とは違い、活動用具のようなものを何一つ持っていない。


「うむ。こちらが、雨宮教諭だ。」


 そう言うと、翼は少女に開けてもらった両開きの木製扉から礼を述べながら教室に入っていった。


「えっと…明日から配属される雨宮類です。…えっと、扉開けてくれてありがとう。名前は…。」


「3年、木々河白夜です。」


 そう言うと、類が教室に入ったことを確認して白夜は入室せず扉を閉めた。


「私があらかじめ言っておいたんだ。2人で話したかったからね。」


 そう言う彼女はさっきとは打って変わって、声のトーンも表情も少し落ち着いて見えた。


 生徒会室の中は本棚やデスク、ありとあらゆるものが木製でシックにまとめられており、今の翼の様子と馴染んでいた。


 赤いカーペットの上をゆっくりと歩き、翼はデスク前の接待用の革ソファに座った。類も翼に目配せをされ、正面に座った。


「ここの学園の大半のことは聞かされてると思うが、ここにいる少女たちも徴兵されている立場だ。一応この学園は志願者しか集まっていないため、不適切な態度を取られたりしたら指導してやってほしい。」


 その他もろもろ説明を受け、昼頃に着いたが、いつの間にか日が沈みかけていた。生徒会室が真っ赤に染まる。


「うむ。こんなに長ったらしく話をする気ではなかったのだがな、すまない。今日は白夜に研究用の教室を教えてもらいそのまま教員寮に案内してもらってくれ。」


 そう言い終わると重苦しい扉が開き、白夜が一礼をして歩き始めた。類がついてきているのを確認するとそのまま何も言わず前だけを見て歩き続けた。


「…木々河さんは何も持ってないんだね。スピーカーとか戦闘用の武器とか!」


 類は後ろにつきながら会話を試みる。が、返事はない。類はあきらめとぼとぼと後ろをついていき、エレベーターに乗り込んだ。


「私たちは生徒ですので、会長のように資機材は持ち歩けません。」


「………。八乙女さんって生徒じゃないの?」


「この学園には司令部 、看護部 、戦闘部、支援部があります。それぞれの部に部長という代表がいるのですが司令部だけは例外で学生たちをまとめる軍の幹部、軍に入るための採用試験に受かり、軍によってここへ派遣された者が司令部長になれるんです。会長が来るまでは都心から派遣された大人が指揮官としての役割を担っていました。ですがここ3年、司令部長は私と同い年の会長が行っています。」


「えと…つまり?」


「会長はこの学園の兵、並びに学生の代表であり、軍から派遣されて勝手に授業を受けてる先生のような立場のお方です。」


「奇人変人!!!」


 思わず口走った類のほうを見る殺意しかない視線が、エレベーターを降り、夕日に照らされた廊下側から伸びる。


「ご、ごめんなさい。…でもたくさんの疑問が残るよね。なんで生徒じゃないのに生徒会長なのか。とか、君と同い年だから…少なくとも14,15歳のとき以前にどうやって軍の採用試験に受かったのかとか。」


「…私も詳しく知っているわけではありませんが、会長は例外的に生徒会には入っていますし、昔本人に聞いた話によると、とても足と頭の回転が早く、軍のお眼鏡に適ったそうです。」


「八乙女さんって足速いんだね。」


「三日前の新学期運動能力調査では百メートル走を6.73秒で走っていました。」


「それ人間やめてない?」


「会長をあなたたちと同じにしないでください。やろうと思えばこの学園を海の藻屑にすることも可能です。」


「司令部長なのに武闘派なんだ…。」


「いえ、都心にいる軍隊が学園を沈めに来ます。」


「いや俺も軍から派遣された人間だからわかるけどそんな野蛮な人達じゃないから!」


 この学園には同好会しかないようだが、そこら中から楽しそうな少女たちの声が聞こえる。廊下の窓からは大きなガラス温室が見える。外にも植物が植えてあり、春、新学期なためたくさんの花が芽吹いている。夏になれば太陽光を集め青々と輝き、秋になれば色が変わる葉もあるだろう。そんな妄想をしているとついつい目が奪われてしまった。


「あの温室は絶滅危惧植物が保全されているんです。外に置かれてる植物たちは在学生どころか卒業生までもが勝手に置いてそのままにしているものです。あそこの管理は国に派遣されている保護団対の…着きました。」


 その言葉で窓と反対側に目をやると、生徒会室の二分の一くらいの大きさの少しかび臭い教室があった。クモの巣なども張っておらず、普通の教室として使えそうなくらいきれいにはされていたが雰囲気は窓を締め切っているほこりっぽい本屋のようだ。机の上には事前に送っていた 研究道具が入った段ボールが積まれている。


「掃除はしましたので、長年倉庫として使われていたため少し 埃臭いのは我慢してください。」


 短時間話しただけで尊敬する価値はないと思われたのか、少し類がぞんざいに扱われていた。


「この教室は以前、調理室として使われていました。水道も通っていて、ガスも通っているので、ここにある備品は存分に使ってください。」


よく見ると、水場もあり、ガスコンロも机に2つ備え付けられている。調理台 は2つあるため申し分ないほど、設備は整っていた。


「ありがとう、木々河さん。植物を見ながら研究ができるのは都心では考えられないや。」


 都心での日々を振り返る。タビを解剖というか解体し、1 パーツずつ 研究をする。毎日同じパーツだけを解析し、運が悪いと次の日まで同じ作業をすることになり気が狂いそうになっていたのを思い出した。


「…そうですか。続きは明日にしてください、では教員寮へ。」


 白夜は少し考え込むようにしていたがすぐに顔を上げ、廊下を進んでいき、一階を一周するようにしてそのまま昇降口から外に出た。校内は基本土足のため、昇降口には下駄箱などもなくかなり広々としていた。この学園は入り口がここにしかなく、他は図書館から外に出たり、学生寮の出入り口を使ったりするらしく、ここはほぼ正面玄関なのだそうだ。


 昼頃ここに着いた時は船着き場の正面から学園の入り口が見え、繁華街のようになっている大きな道を通ってきたが、白夜は昇降口を出るとそのまま左へと足を進めた。


「あの通り、人気があるんだね。」


「たくさんの娯楽がある都心の人間には到底理解できないとは思いますが、この都市の総人口約600人の半分はあの「表街」に行きます。あそこ以外の娯楽施設は学園の大図書館くらいしかないので。」


 後ろの表街の光をぼんやりと眺めながら歩く類に、白夜は説明をした。


 まだ表街の光が届く位置に大きい校庭が目に入った。砂以外は何もなく、実用性に特化している。奥にある建物は体育館だろうか。体育館の海側にモノカレークラのレールが繋がっており、体育館までもレールが繋がっていることに驚く。


 近くに行くと、中から声が聞こえてきたりキュキュと音を上げる靴、ボールが弾む音なんかが響いていてくる。レールが繋がっていることからも予想するに一般公開をしている体育館 なのだろう。


 そのまま白夜についていくと奥が見えない程大きなガラスでできた建物が前に立ちふさがった。建物前側の半分は全面ガラス張りで、正面入り口から少し行くと真ん中に大木が植わっている。樹齢100年はとうに超えているだろう。後ろ側には大量の本棚が見える。5階建てになっており、木下のベンチでゆっくり 本を読んでいる人や、本棚の前本を吟味している者もいる。ここがさっき 白夜 が言っていた大図書館というところだろう。


 ここにもモノカレークラが通っているようだが制服の有無関係なく少女が多いことから、あまり民間人は使っていないような印象を受ける。だが、使われていない一番の要因は今民間人は華金のため多くの学生に向けて仕事をしているということなのだろう。


 白夜がそこを素通りすると思っていた類は前へ歩き続けようとしたが、白夜は大図書館の手前で右へ曲がった。あわててついていくと島にある6つの先端部分の1つに来ていたらしい、海を一望できる 監視塔の手前に図書館の半分ほどの大きさの学校や体育館と同じ素材の鉄骨や白コンクリで統一された、外観を損なわない建物が存在していた。


「ここが教員寮です。大図書館をそのまままっすぐ行くと職員室から見られた温室と「裏街」がある四枚地区に、そして学生寮がある五枚地区に、最後に民間人の住宅街がある六枚地区に入り、学園の昇降口があった一枚地区に戻ってきます。」


 睡蓮は六枚の花弁がある花のような形の都市になっており、レールが円状に通っていてハスのように見えるため名付けられた。きっとその花弁が地区の名前の元になっているんだろう。


「この建物の804です。昇降口から通うとここまでに短くとも50分は掛かるので教員寮のモノカレークラを使うのをおすすめします。寮へ入るには教職員証を規定の場所にかざしてください。部屋も同様です。四朝学園の教職員証があれば比較的どこにでも行けるので覚えておいてくださいね。」


「ありがとう。木々河さん。」


 白夜はと軽く会釈をしてもと来た道を戻っていった。大図書館のモノカレークラで帰るのだろう。類は潮風に乗ってきた新鮮な空気を思い切り吸い込み、海を感じる。


 オートロックの自動ドア横の機械に教職員証をかざすと、ドアが開いた。管理人のような人が別室にいたので軽く会釈し、中に入ると真っ白の床のタイルが見え、やはり 学園と一緒で全面ガラス 張りだが、教員のプライバシーのためか、 外に背の高い低木が植えてあり 目隠しのような役割を果たしていた。かなり広く、ローテーブルとソファで構成された 応接セットが二組も置いてある。壁際にはコーヒーメーカーや、電子レンジなどもありまるでちょっとしたホテルのロビーだ。


外から見た半分の大きさほどしかないことと別のフロアへ続く開口部があることから、あそこに都心で説明された寮の風呂やランドリールー厶とやらがあるのだろう。


 奥に進み右端にあったエレベーターの8階を押す。目的階に着くと、すぐに801が見えた。進んでいくと804が見え、後ろに2つの部屋があることから 806までしかないことがわかった。この寮は9階建て だが13階建ての学校より、天井が低めに作られているため かなり低い建物に見える。


 804号室に入ると白いフローリングに白い床と、素材が変わっただけの学園の教室のようだった。間取りは1 K トイレと洗面所と台所に小さい部屋であり、パイプベッドやパイプ棚、デスクしかなく、白とパイプの銀しかないような色味だ。ベランダからは体育館と校庭がそして広大な海が見え、かなりオーシャンビューだ。


 類は昨日からの移動 疲れ なんか もあり、すぐに横になって寝たかったが寝床もないので しぶしぶ荷解きをした。


 シーツやタオルを出したり、歯磨き なんかをトイレ横の洗面台にセットしただけだがすぐに眠たくなってしまい、明日はレンジとカーテン、それと冷蔵庫なんかを買おう。そう決意し、類は10時になる前に寝てしまった。



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