2.婚約者の幼馴染
幼馴染のラリーとの初対面の話です。
リンカがウィラードと話をし、今後の予定を全てキャンセルしてから数日後。リンカはウィラードと約束していた舞台をリンカの友人である令嬢を誘って観に行った。
「リンカ!」
「…ウィラード?」
予想以上に舞台を楽しみ、友人とお互いに感想を言い合い満足したリンカはそのまま手を振って友人と別れた。その直後、リンカが1人になるのを待っていたかのようにウィラードがリンカの前に現れた。
何故此処に居るのか、と言うように不審そうな顔をするリンカに、ウィラードは心外だと言わんばかりに少し不満そうな顔をした。
「元々、僕とリンカで舞台を観に行くと約束していただろう。だから舞台が終わる時間を知ってるし、リンカは誰かを誘って観に行くと言ったのも聞いていたからね。」
「…そうでしたね。」
ウィラードの主張にリンカは納得する。ウィラードは舞台が終わる頃を見計らってこの場に来たのだろう。
「では、どうして私を待っていたのですか?」
「…っ。」
後は、どうしてウィラードがリンカが来るのを待ち伏せしていたのかという疑問だけだ。ウィラードは少し緊張したような面持ちを見せた。
「…リンカ、明日の昼に一緒に食事をしないか?」
「…はい?」
ウィラードはリンカに食事の誘いを、白紙にした筈の今後の予定に予定を組み込もうとしてきた。リンカは思わず眉を顰めた。
「…約束をしたところで駄目になるかもしれないから、今後の予定はなしにするべきだと言った事をお忘れですか? 新しい予定なら大丈夫という訳では無いのですよ。ウィラード、そこはちゃんと理解しているのですか?」
「わ、分かってるさ! リンカの言いたかった事の意味は分かってる! …俺がラリーの所に行って、リンカとの予定をキャンセルする可能性がある限りは駄目なんだって分かってるさ…。」
リンカの態度に慌てた様子でウィラードは首を振り、リンカの意図を理解している事を話す。
「けど、今後は絶対にリンカを優先する。だからどうか頼むよ!」
「…ホワイト男爵令嬢の事は良いのですか? 貴女の大切な幼馴染が体調を崩されても、駆け付けないという事になりますよ?」
眉を下げて懇願してくるウィラードに、確認するようにリンカは質問した。
「あぁ、そうだ。」
「…!」
すぐに頷いたウィラードに、リンカは驚いてしまった。態々こんな話をしてきた以上、ウィラードがラリーよりリンカを優先する答えを出すとは思っていたが、迷う事なく頷くとは思っていなかった。
「今後は絶対にラリーの体調が悪くなっても、リンカとの約束を優先する。」
「…あの、急にどうされたのですか?」
何時もラリーを優先してきたウィラードの変わりようにリンカは戸惑う。今までのウィラードの態度から完全に信用する気はないリンカだが、ウィラードが嘘を言っているようにも思えなかった。
「…。」
ウィラードの言う事が本当なら、婚約者として定期的に会う事を断る理由はもうない。けれど、リンカの心の中で思うところがあって頷く事が出来ない。
「だからリンカ、頼むよ。どうか赦して貰えないだろうか?」
「…え?」
どう返答しようか考え込むリンカは、ウィラードの言葉に驚いてしまった。
「あの…」
「ま、待って下さいっ!!」
突如、リンカの言葉を遮るようなタイミングで大きな声が聞こえてきた。
リンカが声のした方向に振り向くと、使用人らしき人物に支えられながら此方を涙目で見てくる令嬢らしき女が居た。
「なっ、ラリー!? どうしてこんな所に居るんだ…。」
「ホワイト、男爵令嬢…?。」
ウィラードの驚く声に、リンカは彼女があのラリー・ホワイト男爵令嬢なのだと理解した。
「ノアール子爵令嬢! どうかウィルを…ウィラードの事をお赦し下さいっ!!」
「…はい?」
挨拶もなく、さらに初対面であるにも関わらずウィラードを赦せと言ってきたラリーの態度に驚きと呆れをリンカは感じてしまう。
「ノアール子爵令嬢、どうか、お願いします!」
「ラ、ラリー! 急に何を言い出すんだ!?」
ウィラードはラリーに戸惑い、焦る様子を見せつつもラリーの傍に行こうとしない。ただどうすれば良いのか分からないといった様子でオロオロしているだけだ。
「…ホワイト男爵令嬢。」
そんな2人の様子を見た後、リンカはラリーを真っ直ぐに見た。
「お話はまた後日聞かせて下さい。今は一刻も早く、男爵家にお帰り下さい。」
「へっ?」
リンカの言葉にラリーは驚いた様子で固まってしまった。そんなラリーにリンカは内心で溜息を吐いた。
通行人の中には此方の様子を窺ってくる者が何人かいる事に、ラリーは気が付いていないのだろう。それか、気が付いていても気にしていないのかもしれない。
リンカは見世物になるつもりはないし、そんなのは御免だ。大事な話があるというのならばこんな公の場ではなく、移動して人気の少ない場所を選ぶのが当然と言える。逆に言えば場所を移動さえすればこのまま話の続きをして貰っても構わなかった。
「今この場で体調を崩されては困ります。ホワイト男爵令嬢の都合の良い日をまた私に教えて下さいませ。」
だが、ラリーは病弱だ。リンカはラリーと初対面でどれだけ身体が弱いのか分からないが知っている事もある。
ラリーは不定期に体調不良となってしまう事と、ウィラードに傍に居て貰わないと不安で堪らなくなってしまう…それほど大変な事になってしまうのだろうという事だ。
ラリーの事を理解しているであろう人物は今、ラリーの傍にいる使用人と思わしき人物が1人と、ラリーの幼馴染であるウィラードしか居ない。もしもの事があった時に、この街中では無事では済まないかもしれない…。
それならば、ラリーが住んでいるホワイト男爵家で話をした方が環境として一番最善だとリンカは判断したまでだ。
「えっ、あ、あの…。」
リンカとしては至極当然の事を言ったつもりだが、ラリーは戸惑った様子で何かを言おうとしている。
「それでは失礼しますね。」
「っ、お、おい待ってくれリンカ!」
礼をしてその場を後にしようとしたリンカは、自分を呼び止めるウィラードを見た。
「ウィラード、明日の昼の予定ですがすぐにはお返事は出来ません。確認でき次第連絡しますね。」
「え…、あっ。」
「まっ、待って下さい、ノアール子爵令嬢!」
「…申し訳ありませんが、この後用事があるのです。すぐに帰らなければなりません。」
ラリーは恐らく、このままリンカと話をしたいと思っているのだろうとリンカは察した。けれどラリーに何かあって巻き込まれる事を懸念し、用事があると嘘をついた。
「それでは、今度こそ失礼しますね。ホワイト男爵令嬢、日程のご連絡をお待ちしておりますね。」
この場に留まった所で碌な事にはならないだろう。そう判断したリンカは、今度こそ帰宅する為の道を歩き出した…。
◆◇◆
「…明日のお昼に、ね。」
リンカが帰宅して数時間後、ラリーからリンカ宛に手紙が届いた。ラリーの都合の良い日は明日、ウィラードが誘ってきた日と時間だった。
「では、こちらを優先しなければね。」
ウィラードの誘いに応じるとは言ってないが、ラリーの話には応じると本人に言ってしまったリンカにとって、優先するべきなのは考えるまでもなくラリーとの予定だった。
「ウィラードには断りの連絡をしておかなくてはね。」
連絡は使用人に伝言で伝えて貰う事にしたリンカは、ラリーが話したい事は何だろうかと考えながら明日の準備を始めるのだった。
次回は幼馴染と話をします! 実はまだ結末が決まっておりません 笑 書きながら考えていこうと思っております。




