表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の知識の管理者(旦那様)でした。追放された没落天才令嬢の私は最強の娘たちと「世界」を再構築!―合計10KPV  作者: ざつ
第4章:カ越境編:シルクロードの轍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
109/128

第97話:【航海】五感のエネルギー・ストーム

 ウクライナ平原を抜け、カルパティア山脈へと差し掛かった頃、空の色は不気味な鉛色へと変わっていた。


「……ピッコ、これ。ただの嵐じゃないわね」


 アークの操縦席で、私は狂ったように踊る計器類を睨みつけた。


「警告ですわ、母様。……いえ、警告すら不可能です。世界の再定義リブートに伴う超巨大磁気嵐――『エネルギー・ストーム』が発生しています。あらゆる魔法回路、電子機器が、この虚無に呑み込まれますわ!」


 ピッコが叫ぶと同時に、アークのメインモニターが火花を散らしてブラックアウトした。


「Admin権限が……弾かれる!? くそ、システムが外部入力を一切拒絶している!」


 リュウガがコンソールを叩くが、彼の持つ管理者の力さえ、このホワイトアウトの中では無力だった。



 窓の外は、音も光も通じない純白の地獄。10台の随伴車両を率いる騎士団が、霧の中で散り散りになりかける。


「全車両、エンジンを何としても停止するな! 前方の熱源を見失うな!」


 通信機が死ぬ直前、カイルの咆哮が響いた。だが、その熱源さえも磁気嵐にかき消されていく。


「リュウガ、カイル! 完璧な道なんて、システムに探してもらうもんじゃないわ!」


 私はアークの床に散らばっていたジャンク品――磁鉄鉱の欠片と、細い針、および油を引いた皿を引っ張り出した。


「何をしている、エリー様!?」

 カイルが私の腰を支えながら、鋭い声で問う。彼は女王セーラの家人として、彼女が「姉」のように慕う私のことを、常に敬意を持って護ろうとしてくれていた。


「アナログ方位磁石よ! 電子も魔法も通じないなら、この星が持ってる原始的な『磁気』に訊くしかないわ! どんなに高度なシステムも、ただの『鉄と磁石』の引力ルールは騙せないわよ!」


 私が即興で作ったガラクタの磁石。それは震えながらも、確かに一定の方向を指し示した。


「カイル、後方の車両に信号を! ……って、通信が死んでるわね。ヴォルフ! リディア! そっちはどうなってるの!?」


 最後尾の車両では、ヴォルフが愛用の巨大スパナを叩きつけながら絶叫していた。声は何とか届くようだ。


「クソっ、電子制御が全部イカれてやがる! リディア、ドローンもい今飛ばしたら全機お釈迦だ! あと。これじゃ車両そのものがバラバラになっちまうぞ!」

「言われなくても分かってるわよ! ヴォルフ、あなたはエンジンの火を絶やさないことだけ考えて! 騎士の皆様、計器が死んでも腕はあるでしょう? 私の合図に合わせて、手動のアンカーワイヤーを射出して! 物理的な『鎖』で全車両を繋ぎ止めるわよ、離脱は一両たりとも許さないわ!」


 リディアは、自慢のドローン部隊が沈黙したことを微塵も動じず、即座にアナログな力技を指示した。その苛烈な号令が、パニックになりかけた騎士団を再び繋ぎ止めていた。


 だが、嵐の虚無から忍び寄る「影」は、私たちの命を直接狙っていた。


「……来ましたわ。視覚も聴覚も奪われたこの闇で、音もなく忍び寄る影の軍勢。および、その中心に嵐の核――『特異点』を検知しました」


 セフィラが低く告げた。


「目が見えないなら、耳で殺すまでだお!」


 ボーンが叫び、シスターズたちが楽器を取り出した。チェロが弦を弾き、テューバが地を揺らす低音を鳴らす。


反響定位戦闘ソナー・コンバット――開始ですわ」


 クララが指揮を執り、音の反響だけで敵の位置を特定。


「ヴィオラ、クララ! 嵐の核が見える!? 物理法則が捻じ曲がってるあの中心よ!」


 私の叫びに、二人の狙撃手が同時にバイザーを跳ね上げた。


「お任せになって! ……風の音、マナの波、および母様の指針。……計算完了」


 ヴィオラが電磁加速砲を構える。


「……誤差0.001。姉様、合わせますわ!」


 クララがライフルを固定する。


 音も光も通じない絶望のホワイトアウトの中。

 二人が放った弾丸は、マナのネットワークを介した「絆」という名の不可視の線に乗り、嵐の核へと吸い込まれていった。


「「二重スナイプ(デュアル・パージ)!!」」



 凄まじい衝撃波と共に、嵐の核が物理的に粉砕された。


 エネルギーの奔流が急速に霧散し、荒れ狂っていた風は一気に凪いだ。舞い上がっていた土砂がゆっくりと地面に落ちていく。





 静寂が戻る。



 その瞬間、キャラバン全体がまるで精密機械のように動き出した。


「総員、現状報告! 損耗状況を即座に確認せよ!」


 カイルがアークのステップから飛び降り、まだ砂塵の舞う中、部下たちへ鋭い指示を飛ばす。


「第一、第二小隊は車両の外装チェック! 第三小隊は負傷者の有無を確認! 急げ!」

「了解!」


 騎士たちがテキパキと各車両へ散っていく。


 アークの内部では、シスターズたちが動いていた。


「オーボエ、内部回路の汚染チェックをお願い。私はみんなのマナバイタルを確認するわ」

「了解。……物理干渉によるショート、なし。メインOS、復旧します」


 チェロとオーボエが瞬時に情報の整理を行い、不測の事態に備える。


 外ではヴォルフがアークの足回りに潜り込み、巨大なスパナを振るっていた。


「おいリュウガ、こっちのサスペンションが歪んでやがる。物理的な衝撃は磁気防壁じゃ防げねぇからな。すぐに叩き直す!」

「助かる、ヴォルフ。……リディア、周囲は?」

「ドローンを数機、手動制御で再起動させたわ。索敵範囲を半径3キロに拡張中よ。残党の気配はないわ、安心して頂戴」


 リディアが端末を軽やかに操作し、再び空を舞うドローンたちが私たちの周囲に不可視の警戒網を張り巡らせていく。


 プロフェッショナルな連携。それが一段落したところで、私はアークのハッチから外の空気を吸った。


「……ふぅ。一時はどうなることかと思ったぜ、エリー様。あんたのあの磁石、家宝にするわ」


 一人の若い騎士――以前スーパーで、カイルの目を盗んで私にコーラを一本分けてくれた気のいい彼が、煤だらけの顔で笑いかけた。


「……ニコル。よかった、無事だったのね」


「えっと。あのコーラの刺激が残ってたおかげで、眠くならずにハンドルを握り続けられましたよ。……でも、さっきの狙撃には参ったな。空気が震えるのを感じた。セーラ様が『あの人たちを信じなさい』って言った意味が、ようやく分かった気がする」


 彼は腰のホルダーに差した、あの日私がメンテしてやった古い剣の柄をポンと叩いた。


「失礼ね、ニコル。ガラクタじゃなくて『科学』と『絆』の結晶よ。……でも、あんたの運転も相当なもんだったわ。一瞬も列を乱さなかったもの」


 私が答えると、周囲の騎士たちからもどっと笑いが起きた。





「おーーい。エリー様、あそこを見てください!」


 カイルが再び、威厳を持って地平線を指差した。

 嵐の向こう側――。そこには、どこまでも平坦で豊かな、旧ドイツ圏平原の影が青白く輝いていた。


「……着いたな。アリスが目を目指した場所、および俺たちが定義する『新しい世界』の入り口だ」


 リュウガが私の肩を抱き寄せる。


 アリスが完璧さを求めて切り捨てた「不純な愛」と、不器用な「アナログの知恵」。

 私たちはそれらを誇らしげに掲げ、大陸横断の真の強さを得た。

 地平線の向こうに待つ最後の真実へ向けて、私たちのキャラバンは再びエンジンを吹かした。


 西の果てまで、あと少し。

 私たちの旅は、最高の「バグ」を抱えたまま、クライマックスへと突っ込んでいく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の姫たちと世界を変える戦いへ!
《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は、六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~(代表作)
《重厚ファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン 外伝:断罪の前奏曲 ~処刑寸前の軍師を竜姫が略奪!十二年待った『我の夫となれ』の言葉。亡国の逆境を焼き尽くし覇道を往く~
《王宮裏方奮闘記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン:奉仕の練習曲(プレリュード)~商家の娘は皿洗いの先に王の盾を見る。伝説のメイド長に叩き込まれる覚悟と作法で王宮の誇りを守る~外伝②
(あらすじ)
元・天才軍師候補のヒカルは、仇敵カインの謀略と人類の憎悪により「裏切り者」の濡れ衣を着せられ、処刑寸前にまで追い込まれる。人間社会に絶望した彼の前に炎の竜姫レヴィアが降臨し、救われた彼は、六人の竜姫(六龍姫)の感情をリアルタイムで把握する「絆の共感者」の異能に目覚めさせられる。
ヒカルの義務は、レヴィアの激情的な愛や、アクアの理性的な愛といった、制御不能な竜姫たちの愛の感情を音楽の和音(ユニゾン)として調律し、軍団の戦闘力へと変えること 。彼は裏切りのトラウマを抱えながら、まず古王軍(闇の竜族)との絶望的な劣勢を覆す内戦に勝利し、六龍盟約軍を完成させ、竜の世界の新たな王になることを誓うのだった。

こちらも超オススメ!!

《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―



その他の作品もぜひ!

《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~
《純SFハイファンタジー》星を穿つ槍と、黄金のオムライス――放浪の戦術師とポンコツ戦闘メイド――
メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~
軌道エレベーターの管理人たち〜地上コンシェルジュは、宇宙(そら)の英雄に恋をする
スローライフを目指したい鈍感勇者のラブコメは、天《災》賢者の意のままに!!〜システィナ様の暴走ラブコメ劇場〜
桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討子、愛しき仲間たちと世界を救う~
異世界グルメ革命! ~魔力ゼロの聖女が、通販チートでB級グルメを振る舞ったら、王宮も民もメロメロになりました~(週間ランクイン)
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
【ライトミステリー?】没落お嬢様の路地裏探偵事務所~「お嬢様、危険です!」過保護なメイドと学者と妖精に囲まれて、共感力と絆で紡ぐ、ほのぼの事件簿
ニャンてこった!異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ