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2.一人称・三人称

○一人称のルール


 一人称は、主人公の目がカメラになったものと理解してください。なので、色々と面倒くさい制限が付きます。

 1.このカメラは主人公の目なので、他人に移し替えないでください。

 2.カメラがないので、主人公の居ない場面は映りません。書かないでください。

 3.カメラは主人公ですから、主人公の心は筒抜けです。意図的に隠さないでください。

 4.けれど主人公以外の人の心はまったく見えません。書かないでください。

 5.他人が何か言いたそうでも、鈍感な主人公なら気付きません。何か言いたそうという素振りに気付きません。

 6.バカが主人公だとむつかしい事は何も書けません。何も気付かないので、陰謀は結果しか書けません。


 箇条書きにするとこんなところです。また、このルールは絶対ではありません。小説界全体で、理屈もまだ完全に出来上がったものではないんです。文法学者が頭を抱えているのが現状の日本語研究ですので。ここに書いているモノは私の見解に過ぎないということをまずはご了承いただきまして。本題。


 一人称というのは、主人公の目というカメラを通した場面描写しか出来ないというルールを持つ書き方です。厳密には、このカメラを他の人に変えてはいけません。また、主人公の居ない場面もカメラがないので書いてはいけません。主人公の内面しか書いてはいけないし、他人の心情などは主人公が「そう思ってんじゃないかなー?」という疑問形でしか書けません。主人公が意識しない時は、それすら書いてはいけないってことです。必然で、鈍感とかバカは一人称主人公に相応しくありません。

 これが、一人称における注意点、"地の文のレベルは主人公の知識レベルに縛られる"です。つまり、一人称では、主人公が知っている単語や知識しか描きだすことは出来ないってことです。主人公が疑問を感じるだけの頭の良さがない場合は、どれほど重要であろうが「気付いちゃ駄目」なんです。つまり、一人称とは、主人公が意識するものしか書いてはいけないってことなんです。

 これについては"厳密には"という注釈が付きます。厳密に主人公の意識に昇る事柄のみで構成して作品を書いたところ、逆に人格が薄っぺらく見えてしまう、という状態になりましたからね。構成が、計算ミスで思いがけない効果を生んでしまったんですね、悪い方へ。議論に熱中していたら、他の一切合財など頭にないはずだ、という計算で書いた作品だったのですが、失敗でした。なかなか難しいものです。設定のミスです。

 リライト時には企画変更で、煩悩だらけの状態からスタートさせることでなんとか挽回しました。これ、勘違いされる方が多いですが、現場の状況設定を変えることで主人公の内面を変えたんであって、現場は前のままの企画設定ではないんです。意味が解らないかも知れませんが、キモですんで自力で到達してください。説明は難しいです。

 更に、意識レベルの前には"普遍"という価値観が存在しています。ここにも留意しなくてはいけません。世間一般の価値観や常識というものを、登場人物たちは自身の価値観の基準として持っているんです。順守にせよ違反にせよ。見えているものは主人公の目をカメラにした視界ですが、そこにあるモノは決して主人公の価値観に沿って存在するわけではない、という事です。


○三人称の種類とルール


 三人称というのには種類があります。

「三人称神視点」……これは、誰の心情にも入らない、文字通り天にカメラがある書き方。逆に全員の心情に入り込む書き方ってのも聞きますが、たぶん勘違いで言われてるだけでそんなモンは存在しないでしょう。

「三人称一元視点」……これは、主人公の後ろにカメラがあります。一人称とは違って主人公がカメラそのものではないんで、主人公の居ない場面も描けます。その代り、地の文で主観描写出来ません。カメラは主人公じゃないという名目からです。主人公の心理だけは書けます。

「三人称多元視点」……これは、一元視点よりさらに自由度が高まったカメラワークです。誰の背後にも回っていいし、誰の心理描写もして構いません。誰も居ない場所も書けます。が、地の文での主観描写は出来ません。

「一人称」は、地の文でも主観描写をしていいけれど、カメラが移動してはいけない縛りになっています。注意すべきは視点の違いによる"地の文の描写"です。一人称では主人公の主観以外のいかなる人物の価値観も、地の文の描写に混ざってはいけません。神視点では誰の主観も心理描写も混じりません。一元視点ではカメラが寄りかかっている人物の心理描写のみが混ぜられます。多元視点は誰の心理描写でも混ぜて構いません。

 神様(作者)という他の誰でもない価値観が独立して存在するのが三人称三種ですから、この主観が入るという事は恣意的なカメラワークである事が強調されてしまいます。構成上の矛盾が存在するのと同じです。


○一人称「わたし」は主観、三人称「他人」は客観。


 なぜ三人称で作者の視点が加わるのか、そこを解説したものは見つからなかったので持論ですが。解説します。

 一人称は混乱を防ぐために主人公の目で見た世界を描き、主人公の価値観で描写されます。統一の為です。三人称を考える際には多元視点から考えてみます。Aの視点で見た世界はAの価値観で描写されますが、これはBやCにも移動できます。しかし、いきなりAからB、BからCと価値観が移動する世界というものは統一性が失われてしまいます。同じモノが別の見え方をするのは混乱の元です。世界は登場人物の観念で出来た物質ではありません。

 そこで、共通の基礎となる価値観が必要となり、登場したのが"神"です。これは普遍でもあり、作品世界の創造主の視点ともなります。つまり、作者の価値観が登場するわけです。だから、『作者は恣意的に物事を見てはならない、フェアであれ。』ということになるんです。ジャッジ、公平な目、その意味で"神"なのです。ですから、正しい三人称多元視点とは、地の文の描写における視点は登場人物の誰か(の後ろ)、しかし世界の見え方そのものは"神"の価値観に準拠するという事です。恣意的なモノの見方を避けるために、主観的な描写はしてはならないという事になるのです。一人称は「わたし」つまり主観であり、三人称は「他人」つまり客観である、という意味でしょう。三人称では、視点と価値観とでバラバラに考えねばならない、と思いますね。


○カメラをナレーターという亡霊に置き換える。変形一人称。


 三人称作品での、主人公の後ろのカメラというのはですね、映像作品には監督が居ますね、彼の価値観の反映ってことです。で、三人称神視点は監督の視点のみで撮られた映像、一元視点は監督or主役、多元視点は監督or登場人物、ということです。そして、神視点とは監督の目線で撮った映像+監督の主観さえ抜きにして完全な写実に徹する書き方なんです。セリフと表情だけですべての感情を描き出せ、という事になるわけです。とんでもない縛りです。

 三人称神視点については明確にこれでOKだと思えるのですが、問題は「~のような」という「誰かの主観」が入った表現法の扱いなわけです。神視点は、これさえ使ってはならない、純粋三人称ということです。泣いているかのような雨音、という表現は神視点においては使えません。完全に映像作品の感覚で書くので、降っている雨を見ているカメラに感情はありません。カメラ操作する監督は明確な意図をもって雨を追っていますが、その意図は文章には現れないので、フェアなのです。

 一元視点や多元視点だとどうでしょう。本来は神視点と同様、地の文に主観が混じるものはダメでしょう。しかし、カメラがナレーターという存在に置き換わった場合は地の文の描写がもっと自由になります。「~のような」が使えるようになります。

 これは、登場人物たちには認識されない亡霊が意識だけで登場してくるようなものです。彼は無言であり、自在に誰の背後にも憑りつく事が出来、しかも誰の心も覗くことが出来ます。ただ一人、監督を除いて。地の文で主観描写が為される形態はすべて一人称であり、それが次々と映りこむ人を変える時には、その視点は亡霊なのです。理屈で考えはじめると、主観の入った三人称が異常に気持ち悪い文体と感じる原因です。ナレーターは亡霊なので、監督の意図以外のことは見えるのです。未来も過去も。そして自由自在です。エスパーな亡霊視点の一人称ということです。

 あまり自由自在にやってしまうと、亡霊の存在に読者が気付き、気持ち悪さを助長しますから、存在に気付かれないような工夫が必要になります。縛りがない分で、一番初歩的な、初心者向けの書き方だと思います。


 注意点としては、どの人称にしても『作者の都合のいい恣意的な認識で、物事そのものを判断してはいけない』です。フェアでなければなりません。ミステリーなど、書いたらネタバレだからという理由で"本来は書かねばならない心情や事象をわざと抜く"という事をしてはいけないって事です。後で読者にフルツッコミ食らいますよ?(笑

 具体的には、目の前に死体が転がっていたら、誰だって視界に入れますよね? 常識的に考えた理屈です。それを、視界に入らなかったという理由でトリックにされたら、読者としてはどうですか、て話です。常識的にありえねぇだろ!とか反発しませんか。これを逆手にとった叙述テクというものもありますが、初心者向けではないので割愛。常識、すなわち"読者としては"の点に配慮してください。


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