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泥まみれの英雄たち  作者: 時雨
第一部 神童と喪失/第二章 家の序列と白百合の庭
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第24話 古い記録

 帝都の選別について調べたくて、僕は書庫で古い本を探した。

 始祖のことが書かれた本は、思っていたより少なかった。帝国ができる前の時代の話は、どれも難しい言葉ばかりだった。


 歴史の先生が教えてくれたのは、昔、強い魔術師が人々の暮らしを支えたということ。

 でも、その魔術師がどんな人だったのか、本によって少しずつ違っていた。

 ある本には、始祖が大地のマナを鎮めたと書いてあった。


 別の本には、世界中の術者を一つに結んだとある。

 その頁の挿絵には、街道の分かれ道に石柱がいくつも描かれていた。小さな字で、離れた村へ危険を知らせるためのものだと説明されている。魔術師の伝記なのに、道の話が出てくるのが不思議だった。


「同じ人の話なのに、違うね」


 僕が言うと、兄さんは本を受け取り、頁をめくった。


「書いた人が違うからだろう」

「本当のことは誰が知ってるの?」

「古すぎると、誰にも分からないことがある」


 兄さんはその本を元の棚へ戻そうとして、急に手を止めた。

 僕が見ていると、背表紙の破れを確かめ、静かに置いた。


「どうしたの?」

「傷んでた。落としたら破れそうだから」


 そう言われると、確かに紙は古かった。

 僕はまた別の本を開いた。

 儀式について説明している頁の端に、小さな円が描かれていた。円から細い線がたくさん伸び、線の先には小さな点が一つずつ置かれている。


「これ、何だろう」


 兄さんが近づいてきた。

 兄さんは図を少し眺めて、それから本を僕の方へ戻した。


「昔の魔術陣じゃないか」

「知ってるの?」

「見たことはある」

「どこで?」


 兄さんは曖昧に笑った。


「もう遅い。今日はそこまでにしろ」


 僕は不満だった。でも古い本の頁が傷みそうだったので、今日はそこで閉じることにした。

 書庫を出るとき、僕は円の図をもう一度見た。

 特別な模様には見えない。

 兄さんはどこであの図を見たことがあるのだろう、と僕はしばらく考えた。


 ◇


 昼過ぎに中庭を覗くと、兄さんが年上の兵士と木剣を合わせていた。相手の動きを先回りしているのに、最後は身体の大きさで押し切られてしまう。


「今日も負けたの?」

「見てたのか。次は勝つよ」


 兄さんは笑い、赤くなった手のひらを隠した。

 僕は火の調律なら兄さんより上手にできる。でも木剣では一度も勝てない。僕らは同じ家で育ったのに、得意なものが違った。

 夕方、ゴードン爺さんが古い橋の補修図を見せてくれた。荷車が増え、冬の前に直しておきたいという。


「石を魔術で動かせば簡単かな」

「置く場所を間違えたら、余計に危なくなりますぞ」


 兄さんは図面をのぞき込んだ。


「兵舎の荷馬車が通る道だな。俺も覚えておく」


 僕が水路の向きを尋ねると、兄さんは荷車の積み方を爺さんに聞いた。同じ図を見ても、気にするところが違う。

 夜、帝都へ行く話になると、兄さんは道中の宿場を地図で教えてくれた。


「向こうの大きな橋、帰ったらどんなだったか教えてくれ」

「お土産は橋の絵でいい?」

「できれば上手に描いてくれ」


 兄さんは笑った。僕も、帝都へ行くのが少し楽しみになった。

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