第19話 婚約の裏側
エレノアが帰ってから数日後、父さまは僕を執務室へ呼んだ。
机には、ブランドン家の紋章が入った手紙があった。
「エレノア嬢とは話せたか」
「うん。花が好きなんだって」
父さまは少し驚いた顔をした。
「花の話か」
「魔術の話もちょっとしたよ」
「そうか」
父さまは手紙を指先で押さえた。
「彼女の家とは、これからもっと親しく付き合うことになるかもしれん」
「友だちになれるってこと?」
「……それに近いが、家と家の約束だ」
僕には意味が分からなかった。
父さまは椅子から立ち、窓の外に広がる畑を見た。
「ランカスター家は豊かではない。冬に物資が不足することもある。ブランドン家には、南の街道を使う権利と取引先がある」
「じゃあ、冬に食べ物を運んでもらえるの?」
「話がまとまればな」
僕は嬉しくなった。雪で閉ざされた北の村のことを思い出したからだ。
「僕も何かするの?」
「大きくなったら分かる」
父さまはそう言い、話を終わらせた。
廊下で母さまに尋ねると、少し困ったように笑った。
「エレノアさんと将来、家族になるお話が出ているのよ」
「家族?」
「まだ決まったわけではないけれど」
僕はびっくりした。
エレノアとは庭で少し話しただけだ。百合のことと、兄さんのこと。なのに家族になるかもしれないなんて。
「彼女は知ってるの?」
母さまは返事を急がなかった。
「きっとお家で説明されているでしょう。でも、あの子もまだ小さいから」
その晩、兄さんに聞いてみた。
「エレノアと家族になるかもしれないんだって」
兄さんは水を飲む手を止めた。
「……そうか」
「兄さん、知ってた?」
「そういう話が出るかもな、とは」
「なんで教えてくれなかったの」
「俺が話すことじゃないだろ」
兄さんは笑ったが、少しだけ寂しそうに見えた。
「僕、エレノアのこと、まだよく知らない」
「じゃあ、これから知ればいい」
「家のために?」
兄さんは僕の頭を軽く叩いた。
「お前が、話したいと思うなら」
その答えが、父さまのものよりずっと分かりやすかった。




