二人の旅行2 (ランカ/ファルト)
続きです。
「わー!いい部屋だね!こんなの初めて!」
ホテルマンに案内された部屋は海が一望できる部屋だった。ランカはたまらず大きな窓に駆け寄ると、外を眺めた。今日は雲ひとつない真っ青な空が一面に広がっているため、窓枠の中はまるで一つの切り取った絵のように見えた。
「確かにすごいな」
遅れて側に来たファルトも驚いているようだ。
「早速海行く?」
「俺はいいけど、ランカは疲れてないのか?」
「うん。せっかくだしやっぱり海上都市といえば海でしょ!私あっちで着替えるね」
ランカがカバンから水着を探すのに手間取っている間に、ファルトはさっさと見つけ出したらしく、上の服に手をかけていた。びっくりして慌てて止めようとしたものの間に合わず、さっとシャツを脱いだファルトをみて、ランカは思わず呟いた。
「……、ファルトって、魔法士のくせになんで、そんな体鍛えてるの」
ファルトの上半身をまじまじと見たランカはそう呟いた。ファルトはランカがまたいたことに驚いたのかぎょっとした顔をした。
「ご、ごめん!声かけようと思ったんだけど!つい!」
ついって何ー!
自分で言っても訳がわからず赤くなって焦ったが手で顔を覆いつつ、上半身の服を脱いだファルトをこっそり見る。
だって明らかに鍛えてるよね!?
明らかに思っていたより筋肉質な体にドキドキしてしまう。腹筋も鍛えられているのがわかり、魔法士らしくない体つきに見えた。
「これはヴィザさんのせいで」
「ヴィザさん……、あ、先輩士官の?」
「そう。あの人とてつもなく鍛えてるんだ」
「魔法士なのに?」
「魔法士なのに」
ファルトは喋りながらも上着を羽織ってしまい、あまり見えなくなりランカはちょっと残念に思う。
「ヴィザさんは、士官たる者魔法が使えなくなった時のことも考えろって人なんだ」
「……、魔法が封じられた時の話?」
「そう。魔法が使えなくても相手を倒せるのが士官としての役割を全うする方法だと」
「そう言うものなんだ?」
「いや、ヴィザさんしかそんなこと言わない」
「何それ」
「個人的な信条だろ」
ファルトが肩をすくめてそう言った。
「だからヴィザさんのグループにいると体を鍛えさせられる。中にはうまく逃げているやつもいるけど」
「……、ファルトは真面目だから素直にやりそうだね」
「学生士官の頃から真面目に鍛えてた」
性格を正しく捉えられたせいかファルトが少し気恥ずかしそうに答えた。
「ねぇ、触って良い?」
「え?」
「腹筋」
ランカの言葉にファルトが固まる。どう反応していいかわからなかったのかもしれないが、返事が来ない。
「ダメだった?」
「いや、別にいいけど……」
ファルトがそう言ったため、ランカは遠慮なく前が開いたままの上着の間に手を差し入れる。そこにある素肌に触れる。一瞬ファルトがびくりと体を揺らしたことにはランカは気づかない。
「すごい。固い!いいなー」
ファルトの腹筋をさわさわと触れながら羨ましそうにそれを眺めているランカ。
「私全然筋肉ないからやっぱり鍛えた方がいいかな」
そう口にしながらファルトを見上げると、ファルトがとてつもなく真っ赤になって右手で顔を隠していた。いまだに腹筋に触れたままだった手を、ランカは慌てて離した。
「ご、ごめん!」
「い、や。触って良いって言ったのは俺だから」
よく考えればランカがファルトの素肌に触るのはほぼ初めてで、そのくせ興味本位に触り続けていた。
もしかしなくても、なんか私の触り方いやらしい感じだった⁈
心の中で絶叫していると、不意にファルトが声をかけてくる。
「ところで、俺のは見たのに、ランカは見せてくれないのか?」
まだ少し赤いままの顔で聞いてくるファルトに、ランカは一瞬で真っ赤になり言葉を返した。
「見せる訳ないでしょー!!」
ぷいっと顔を背けて自分の着替えを持って別の部屋に移動したランカだった。
ファルトが「初めてヴィザさんが鍛えてくれたことに感謝した」と呟いた声はランカには聞こえなかった。
***
着替えて出てきたランカは、水着の上に薄手の白い半袖シャツを来ており、思っていたより露出が少なめだ。安心したような残念なような、ファルトとしては複雑な気分になった。
シャツの下から見えている水着も、膝丈ほどのスカートがついており、少なくとも他の人に彼女の太腿が見られる事はないのだと思うとホッとした。別に自分がそんなに見たことがあるわけでもないが。
水着は明るい青色に花のような模様のついたものでランカによく似合っていた。そしていつもと違い髪を纏めて結い上げており、雰囲気が異なる。
目が合うと少し照れたようにランカが笑う。
「……似合ってる」
「ありがと」
ふふふと笑うランカが眩しすぎてファルトは思わず手を翳した。
悩ましいぐらい可愛い。
「行こっか?」
「あぁ」
内心どきどきしながらランカの横に立つ。明らかにいつもと違う彼女の姿に、ファルトの方が緊張する。ランカはとくに思うところはないのか、先ほど思う存分触ったためもう興味はないのか、目の前の海に心を奪われているようだった。
「やっぱり海上都市の海は違うね!」
ランカの言葉通り、目の前の海は透き通っていてとても綺麗だった。やはり人気の観光都市ということもあり、人の数は多い。恋人同士も多いが、友達グループのような人の姿も多い。
若い男のグループがランカの側を通った時に、明らかに彼女を見ていたことに気づき、思わずランカの腰を引き寄せる。
「ど、どうしたの?」
「なんでもない」
なんでもないと言いながら離さないファルトにランカが少し困ったように首を傾げる。しかしもう海が目の前に見えてくるとそれどころではなくなったようだ。
「ファルトは泳げるって言ってたもんね」
「一応」
これはまた当然ヴィザの方針を受けいれた結果である。正直やる必要性あるか?と思ったが、結果的には正解だった気がする。
まぁ、仕事で必要だったことは今までないけど。
「私泳げないんだよね」
そう言うとランカはつけていた魔法道具のブレスレットから大きな浮き輪を取り出した。準備が良いようだ。
「入ろ?」
嬉しそうに微笑むランカにファルトは頷く以外の行動ができそうになかった。
いつの間にか丸い浮き輪の上にのったランカは幸せそうに腕の足も伸ばして、ぷかぷかと浮いているが、それを側で見ているファルトは気が気じゃない。ランカが海に入った瞬間、彼女の着ていた白いシャツは透け、下に着ている水着が透けて見える。ランカが気づいているのかいないのかもわからないが、胸の谷間もしっかり透けて見えてしまい、ファルトは目を逸らすしかない。
しかも浮き輪に掴まって泳いでいた時まではよかったが、浮き輪に乗ってしまうとランカの白い足が目の前に見え、健全な男のファルトには目の毒もいいところだ。
そんなファルトの苦悩を知ってか知らずにか、ランカは心配そうに覗き込んでくる。
「もしかして、もっと泳ぎたい感じだったりする?私が泳げないから、つまらないよね」
「違う。そういうわけじゃなくて」
「遠慮なく泳いできてもいいよ!」
行ってきて!と簡単に言われるがこんな無防備なランカを一人で置いていけるはずがない。確かに一心不乱に泳いだら邪念が消えそうな気もするが、そう言う問題でもない。
「ランカを一人にしたりはしない」
「待ってられるよ?」
「俺が離れたくない」
ファルトがはっきりそういうと「そっか」と少し恥ずかしいようなうれしいような表情でランカが頷いた。
のんびり綺麗な海を堪能しつつ、ランカの海上都市での思い出話を聞いた。ランカはレモレと友達になってから、しばしば長期休暇のタイミングでここに来ていたらしい。
だからずいぶん慣れてるんだな。
そう納得しつつも、こんな無防備な姿のランカを他の男が見ていたのだろうと言う事実にとても心が苛立つ。どれだけ心が狭いのかと自分でも思う。
「そろそろ戻ろっか?」
「あぁ」
鍛えてるネタはどこかでだしたかった…!




