二人の旅行1(ファルト/ランカ/レモレ)
海上都市への旅行です。
「ねぇ。今度、レモレのいる海上都市に行こうと思うんだけど、一緒にいかない?」
いつものファルトの部屋で二人はソファに座ってそれぞれ別の本を読んでいた。ランカはファルトの肩にもたれ掛かりながら本を読んでいたはずなのだが、急に振り返り声を上げたのだ。
唐突なランカの提案に、ファルトは頭にいろんな疑問が浮かび上がった。
海上都市とは、王都から北西にある、海に浮かぶ島のことで一大観光都市である。王都からも、当然ランカの住む礎都市からも随分距離がある。とても日帰りで帰って来れる場所ではないということは、必然的に泊まりである。
レモレが海上都市に住んでいることは以前も聞いたことがあった。ランカもたまにそこへいくらしいということも聞いていたから、そこには驚きはない。
「俺が一緒に行ったら邪魔じゃないか?」
おそらくランカはレモレに会いにいくのだろう。普段は基本的に通信機でしか話をしないと言っていた。滅多に会わない友達に会いに行くのに、ファルトがいたら過ごしにくそうだ。
そう思い口にした答えはどうやらランカのお気に召す答えではなかったらしい。
「レモレにも会いたいけど、ファルトと行きたいと思ったの!」
じゃあ、単純に旅行の誘いなのか?
ランカと付き合うようになって3ヶ月。だいたいが王都と<魔女の森>のどちらかで会う事が多い。または間をとって復元都市なわけだが。
海上都市は初めてな選択肢の上、泊まりが確定の場所である。
じっとランカを見てみるか、いつもと変わらない様子でファルトを見返している。
「ランカがいいなら、一緒に行きたい」
「ホント?良かった!」
普通に嬉しそうに喜ばれて、ファルトはなんとも言えない気分になる。
きっとまた、ランカにはなんの意図もない。勝手に期待してしまう自分が悪いのだ。そう思いながらも二人で旅行に行けるのはいいなと思う。
「ファルトのお休みは週末でよかった?」
「あ、いや、来月から他の士官との交代で中日二日の休みになるんだ」
「そうなんだ?じゃあまた詳しいお休みの日、教えてね」
嬉しそうにそう言うと、ランカはまた持っていた本に視線を落とし、またファルトにもたれ掛かりながら本を読み始める。
多分、触れること自体は嫌がられてはいない。むしろ抱きしめたりするのは、ランカからも返してくれるので安心する。
ただ、どこまで許されるのかが正直わからない。
キスが早すぎた自覚があるため、慎重にいきたいと思いつつ、そんなことばかり心配していると何も進まない。
こっそりランカを見るが、彼女の方は鼻歌でも歌いそうなご機嫌な様子で本を読んでいる。確かタイトルは「古語の形から読み解く、古代魔法陣の本当の意味」だったはず。
ファルトも手に本を持ってはいるものの、そんなに進みはよくない。先程から同じページの同じ行を何度も読み直している気がする。内容も全く頭に入らない。
うっかりため息をついてしまい、それに気づいたランカが振り返った。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと集中できなくて」
「……もしかして、海上都市行くの嫌だった?」
「え?」
それを聞かれるとは思わず慌てて否定する。
「それはない。ランカと旅行に行けるのは嬉しい」
そして、ランカがハッとした顔をしてパッとファルトから離れて、こちらを見た。
「ファルトって、海上都市行ったことある?」
「いや、ないな」
仕事で色んな場所に行ってはいるが、海上都市だけは仕事でも行ったことがない。完全に観光都市であり、それ以外は何もないと言っても過言ではない。
「じゃあ私が全部決めていい?」
「全部?」
「うん。出掛ける場所とか、……泊まる場所とか」
少し視線を外してそう言うランカに、ファルトは一瞬どきりどする。しかし、返す言葉は至って冷静なものだ。
「ランカが大変じゃなければ、俺は構わない」
「ホント?じゃあ私が決めるね」
嬉しそうに笑ったランカにファルトは頷いた。
***
この国は北に行くほど気温が高くなる。王都から北西に位置する海の上にある島は、海上都市と呼ばれる観光都市であり、年中暑い場所である。特有の木が生えたり、カラフルな色の花が咲いたり、やはり本土と比べると少し違う特色がある。
今日も日差しが強く、カラリと空気が乾いている。
「レモレー!」
ランカは久しぶりに会う友人に思わず駆け寄ると、褐色の肌に黒髪、濃い緑の瞳をもつ友人にそのまま抱きく。レモレはランカより一回り背が高く、抱きついて来たランカを仕方なく受け止める。
しかし、後ろにいたファルトと目が合うとニヤリと笑って、ぎゅっとランカを抱きしめて見せる。明らかに見せつけるように抱きしめるため、ファルトは内心イラっとした。
レモレが珍しく(?)抱きしめ返してくれるのが嬉しいのが、ランカがレモレにすりすりして抱きついているのをファルトは後ろからどうしたものかと眺めた。
レモレが女性であることは、魔法学校が一緒だったため知っている。しかし、レモレは背も高く顔立ちも凛々しく、一見男性に見えなくもない。今日の格好なども白いシャツにグレーのハーフパンツというどちらにでも見えそうな格好をしているため、嫉妬してしまいそうな光景である。
いや、もう十分に嫉妬している気がする。
目の前で明らかにレモレがファルトに見せつけるようにランカを抱きしめているのは明らかで、ファルトは思わず眉を寄せた。
ようやく満足したらしいランカがレモレから離れる。
「今日はレモレのところのホテルに泊まらせてもらうの」
その言葉にファルトは疑問符が頭の中に浮かぶ。
「レモレのところのホテル?」
「言ってなかったっけ?海上都市を運営しているリゾート会社の会長の孫なんだよ。レモレ自身もいろんな企画とか、グッズとか作ってるの。この間も試作品の魚のクッション貰った」
そういえば通信機で話している時に、ランカがド派手な色の魚のクッションを抱いていたのを見た気がする。
あのよく抱きしめているクッションは、レモレから貰ったものだったのか。
今なら魚のクッションにさえ嫉妬できそうだったが、ひとまず無難な反応を返しておく。
「そうなのか。知らなかった」
実際そうとはしらなかったのだから嘘ではない。
「何度か泊まらせてもらってるから、案内するね」
得意げなランカにファルトも頷いた。それを見ていたレモレが口を開く。
「ファルト氏は泳げるのか?」
「あぁ、困らない程度には」
「なら、最近できたばかりのプールにも行ってみるといい」
その言葉にランカが目を輝かせる。
「もしかして、夜にプールに入れるところ?!」
ファルトにはわからなかったが、ランカは知っているらしく嬉しそうに反応する。ランカの反応が予定通りなのか、レモレはポケットからチケットを2枚取り出すとランカに手渡した。
「まだ結構人気で取れないから、無くさないように」
「嬉しいー!予約しようとしてみたんだけど出来なくて!レモレありがとー!」
レモレの手をぎゅっと握って飛び跳ねるように喜ぶランカに、ファルトはまた眉を寄せてしまう。
完全に負けてる。
それはもちろん相手は長年の友人だ。それに比べてファルトはまだ付き合い始めて3ヵ月ほどの恋人である。彼女の趣味嗜好もレモレの方がよっぽど詳しいだろう。
にやにや笑うレモレと目が合い、げんなりしたがランカが嬉しそうなので何も言えなかった。
「まぁ、ファルト氏で遊ぶのはこれぐらいにして、私は忙しいからまた帰る時ぐらいにでも会おう」
そうレモレが言うと彼女の後ろから声がかかる。
「レモレさーん!」
背の低い濃い緑色の髪をした少年が元気に手を振ってやってきたのだが、どこかで見たことのある顔にファルトは眉を寄せる。ランカも気づいたららしく、「あ」と声をあげる。
「ジノくん?」
「あれ、ランカ先輩いらしてたんですね」
にこっと微笑んだジノにランカが不思議そうにレモレとジノを見比べる。
「ジノくんとレモレはいつの間に知り合いになったの?」
「知り合ったのは随分前ですよ。僕が勉強させてもらってるんです」
「え、そうなの?知らなかった」
「いやー、実はこの前古代復元都市でランカ先輩が男の人といるの見て、慌ててレモレさんに確認しちゃったんですよねー」
聞き捨てならない言葉にランカがジノとレモレを見る。レモレは楽しそうにニヤニヤしているだけで口を挟んでこない。ランカがジノに詰め寄る。
「ジノくんどう言うこと!」
「え、ランカさんいつも大抵一人で来てるのに知らない男の人と一緒にいるから大丈夫なのかな?と思ってレモレさんに慌てて確認したら、その男の人は大丈夫って言われて。どうせならちょっと発破かけるように言われたんですよねー。どうでした?ドーナツ」
ジノはそう言ってファルトを見た。ファルトは何も返せず目を逸らした。
まんまと嫉妬していた自分が辛い。
まさかそこが繋がっていると誰が思うだろうか。いや、思わない。
「まぁ、レモレさんに勉強させてもらってるところもあって僕はレモレさんに逆らえないんですよね」
あははと笑って言ったジノに、ファルトは何も言えなかった。むしろレモレに勝てる人物像を想像できないと思った。
「じゃあ、邪魔者はそろそろ退散するよ。行くぞジノ」
「はーい」
そういうとレモレとジノはさっさとどこかへ消えてしまう。ランカもレモレが行ってしまうのを名残惜しそうにしつつも、案外普通に手を振っていた。
「まさかジノくんがレモレと繋がってるなんてびっくりね。……、ファルト?とりあえずホテルの部屋見に行こっか?」
「あ、あぁ」
正直、もっとレモレが一緒にいる時間の方が長いと思っていたため、この展開は少し予想外だった。
本当に二人での旅行がメインだったのか。
今更そんなことに気づき、ファルトは耳の辺りが熱くなるのを感じた。
レモレ本体登場です。
ファルトは遊ばれてます。




