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先輩の話(ファルト/ヴィザ)

いちゃいちゃが書けなかったのでいつか書きたいなと思っていたファルトとヴィザの出会いなどです。

 出会いは学生士官になると決めてからすぐのことだった。王宮の士官用の執務室の一角で、教育担当として紹介されたのがヴィザだった。

 真っ赤な髪が印象的なヴィザは士官の中でもとても目立つので、探すには苦労しない。


「ファルトと言います。よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げてから顔を上げると腕を組んだままのヴィザがファルトをじっと見ていた。

「細すぎる。体力もなさそうだな。それじゃあ士官としてやっていけないぞ」

「え?」


 ラエティア王国の士官は、ほぼ魔法士のみで構成されている。まさかそれで体力や体格について指摘されるとは思わなかった。


「体力作るためのトレーニングも用意するから、自宅でやるように」

「あ、はい」

 最初に指摘されるのがまさかのそんなところで、他に返す返事が思いつかず、ファルトは頷くしかなかった。


「オレは、青系統の魔法士のヴィザ。これから一年間は君の教育担当として指導することになる。よろしく」

 この頃のヴィザはまだグループのリーダーでもなかった。だからこそ新人の学生士官の教育担当もやっている。


「士官が二人一組で行動する時は大抵違う系統同士でペアを組む。どうしてだと思う?」

「それぞれない属性を補うために?」

「その通り。ファルトは赤系統だろう?」

「はい」

「だからオレが教育担当に選ばれた」

 ヴィザは最初に名乗った時に系統も教えてくれた。真っ赤な髪なのに青系統なのかと思った気がする。

「士官同士で初めて挨拶する時は忘れずに系統も名乗ってくれ。いざという時に相手の系統を理解していることが重要になる時もある。いつも一人で仕事をするわけでもないからな」

「わかりました」

 その後は王宮内を案内されたり、王宮内の士官の寮を見学したりした。


「まだ学校の寮にいるのか?」

「はい。でも、王宮に来るには時間も掛かるのでこちらの寮に移動したいと思ってます」

「その方がいいな。来週はオレの仕事のサポートに入ってもらうから出張も増えるぞ」


 そんな風にヴィザとの教育期間が始まった。ほぼ学校に行く時間はなくなり、色んな場所に飛び回ることになるとはこの時のファルトは思ってもいなかった。



 一年間きっちりトレーニングされたファルトは細身のままだがしっかり筋肉のついた体に変わった。

「……、いや、やる意味あったか?」

 コートの下に着ていたシャツを捲り自分の腹筋を見る。確かに腹筋は割れたが、魔法士として、必要かと言われると首を傾げるところだ。

 そんな様子を見ていたヴィザがファルトの腹筋を見て感想を漏らす。

「まだまだだな」

「……、これ意味あります?」

「魔法使えなくなったときどうするつもりだ?」

「使えなくなった時?」

「魔法士の最大の弱点は、魔法が使えなくなることだ。そんなのは誰が見ても明白だろう?」

 

 それは当然その通りだ。魔法士が魔法が使えないなど、ただの人間である。攻撃も防御も何も出来ないと言うことだ。

「オレたちは士官だ。今はたまたま魔法士が多いが、国を守るのがオレたちの本質だ。それは別に魔法にこだわる必要はない。常に自分が不利になる状況を想定しろ。それが自分を助けるから」


 ヴィザは常に危機感を意識している士官の一人だった。一年の間にたくさんの他の士官とも話す機会があった。中には当然不真面目なタイプの士官もいた。

 ファルトの教育担当は、明らかに真面目だ。且つとてもストイックだ。

「今は平時だから良いが、いつどうなるかなんて誰もわからない。そのために備えろ」

 今の士官は誰も戦争が起こるなんて考えていない。この国は長く戦争もしていない。特に争う国もないはずだ。

「まぁ、何もないことが一番だけどな」

 適当そうな話し方をするのに、ヴィザは芯が通っている。だから、ファルトは一年間真面目にヴィザの言うことを聞いてきた。


「お前、何もなしで空飛べるか?」

「はい?」

 空を飛ぶ。それは魔法士なら大体できる。ただし条件としては自分を支える道具が必要である。


 突然何もないところでヴィザが飛び上がる。何もない道具も使わない状態で空間にとどまっている。驚いて目を見開くファルトにヴィザが笑う。

「もう少し体幹も鍛えれば飛べるようになるぞ」

 そう言って笑ったが常識外れなのは間違いない。

 

「できる気がしません」

 真面目でストイックで器用な人だなと言うのがヴィザの全体的な感想だ。

 


***



 結局教育担当の着く期間が終わっても、グループ編成が大きく変わり、ヴィザはリーダーに昇格した。そのグループの編成でもファルトはヴィザのグループの所属となったため、ヴィザとの関係はあまり変わらなかった。


 ヴィザは適当な態度を取っていることが多いが、メンバーの状況や体調もよく把握している。それに応じて仕事内容や量も細かく調節しているのだ。だから皆ヴィザには正しい情報を上げようとする。そうすればヴィザが的確な判断をするから。



 ファルトが体調を崩した時もヴィザはすぐに気づく。放っておくこともせず必ず声をかけられる。

 隣国から王女が視察に来た時もそうだった。元々ヴィザがかなり細やかに決めていた担当を崩されて、思うように他の仕事が進まず、ファルトは通常の時間より一日の仕事時間が増えていた。どうしても夜8時には抜けたい理由があったため、その時間だけは休憩と称して1時間ほど離れてはいたものの、それが終わったらまた仕事を再開していた。

 そんな生活をしていたらすぐに体調を崩した。

 

「おい、顔色悪いぞ」

「大丈夫です」

 そう答えたがすぐにヴィザは眉を寄せてため息をついた。

「見ればわかるようなことに対して嘘をつくな。今日はお前は休め」

「でも、王女の護衛が」

「オレが代わりに行くからいい」

 あっさりそんな返事を返してくるが、ヴィザも仕事が手一杯になっていることはファルトも知っている。

「ヴィザさんもかなり無理してるのに」

「護衛の件はオレが責任者だ、それにお前の仕事に関してもオレが責任者だ。さっさと休んで体調を治してくれ。その方が仕事を振れるから」

 そう言われてファルトは頷くしかなかった。しかも帰った後に熱が上がり、寮のベッドからまともに動けないほどになったため、ヴィザの判断が正しかったと言える。



***



 それは突然の報告だった。

 いや、報告というか、招待というべきか。あまりに驚きすぎてファルトは言葉を失った。

「……、何かの冗談ですか」

「いや、至って真面目に言っている」

 腕を組んで立つヴィザに、ファルトは開いた口が塞がらない。


「いや、だって」

 ファルトの手の中には質のいい封筒に包まれた招待状があった。金色の箔押しがされていたり、かなり上質なものだ。


「プランドールで結婚式って、意味がわからないんですけど⁉︎」


 プランドールといえば、つい最近そこの王女が視察にきてとんでもない目にあったばかりだ。ファルトもヴィザも王女の我儘に付き合わされ、仕事がうまく進まず、ファルトは体調を崩したし、ヴィザも明らかに疲労していた。


「しかも、相手はあの我儘王女って!」

 中の招待状に書かれているのは、ヴィザとプランドールの王女の結婚式についてだった。あれだけ大変な思いをしたのに、ヴィザがその王女と結婚するなど到底理解できないし、納得もできない。


「まさか、国同士の取引ですか⁉︎ヴィザさん無理に結婚させられるんですか⁉︎」

 この国はそんなことに応じる必要がある国だとは思っていなかったが、もしかしたら何か裏があるのかもしれないと思い思わず尋ねる。しかし、ヴィザは首を横に振る。

「じゃあ、どうして!」

 ファルトの言葉にヴィザが少し困ったように笑う。

「単純に、オレが惚れたからだよ」


 思わず何言ってんだという顔をしたら、軽く叩かれた。

 するとヴィザがわざとらしく咳払いして、説明をしてくれる。

「彼女のあの我儘な態度は作り物だったんだ」

 理解できず怪訝そうな目を向けてしまうのは、あれだけ苦労したのだから仕方ない。

「本当はとても良い子で、まぁ、なんというか、オレは望んで結婚するんだ」


 そう言ったヴィザにファルトは納得ができずじっとヴィザを見る。

「それ、いつからわかってたんですか」

「え?」

「王女殿下が帰る前にはわかっていたってことですよね。確か、俺が倒れた後から、ヴィザさんほとんど毎日のように王女殿下の護衛に出てましたよね。その辺りからオレへの指名も減って、ヴィザさんがなんか言ってくれたのかなと思ってましたけど」

 ヴィザがぎくりと肩を揺らしたのをファルトは見逃さなかった。そんな動きをするヴィザが珍しすぎて気づかないはずがない。


 ファルトは以前洗いざらい話をさせられたことを思い出して、仕返しとばかりにヴィザに詰め寄った。

「当然、ちゃんと教えてくれますよね?」

 美人枠に入るファルトが凄んで微笑むと迫力が違うようで、ヴィザも諦めたように頷いた。



 ヴィザの説明を全て聞いたファルトは胡乱な目を向けた。

「へー、ヴィザさん随分楽しんでたみたいですね」

「いや、楽しんでいたというか」

「確かに休み前とかずっと残業とかしてませんでしたもんね。なにかあったのかなとは思ってましたが、わざわざ隣国まで通ってたんですね。ずっと黙って」


 ファルトは後輩ではあるがヴィザとは他の士官に比べると随分仲が良かった方だった。自分の恋愛話はほぼ筒抜けと言っていいほどなのに、自分は知らされてなかったという事実が少し、いや、結構寂しく感じてしまう。


「悪かったって。普通じゃなかったから、婚約についても国王と士官長ぐらいにしか言わないようにしていたから。悪かったよ。だけど、これは最初にお前に持ってきたんだから」

 そう言って招待状を指差すヴィザに、ファルトはため息をついた。

「……、まぁ、いいですよ。無理に結婚させられるとかじゃないなら良かったです」

 ただ、一抹の不安が過ぎる。プランドールの王女と結婚するということがどういうことなのか。

「ヴィザさん、……プランドールに行くってことですか?」

 これまで士官として仕事をしている時は、必ず近くにヴィザがいた。そんなずっと世話になってきた先輩がいなくなるのかと思うと、不安に感じずにはいられなかった。

「いや、王女殿下がこっちにくる」

「……、え?」

 その展開は想像できておらず、ファルトは瞬きを繰り返す。

「王女が、こっちへ?でも、そうすると」

「あぁ、彼女はここでは一般市民になるな。あ、ドミエの魔女殿は年が近いだろ。今度会わせてもいいか?友達もいない状態になるから、女性の知り合いが一人ぐらいいた方がいいと思ってるんだが」


 あぁ、なんだいなくなるわけじゃないのか。


 ファルトはホッとしてしまう自分が士官としてダメだなとは思いつつ、つい頼り甲斐のある先輩がいることに安心してしまうのは仕方ないなと思う。自分より器用に魔法を使いこなし、その癖嫌味もなく、世話好きなこの先輩がファルトは思いの外好きなようだと改めて思った。


「それはいいですけど、本当に王女殿下は我儘じゃないんですか?ランカが困るのはやめてほしいです」

「まぁ、会ったらわかるさ」

 そう言って笑ったヴィザに、ファルトは仕方なく笑って頷いた。

ファルトは結構ヴィザが好きだと思うんですよ。

ヴィザもまた然り。ちょっと離れているけど良い先輩後輩関係だと思ってます。


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