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ソニアの思う事

「姉さん」

 弟のニールが、嬉しそうに何度も私のことを呼ぶんだ。

 私、ソニアは……お母さんが病に倒れてから、しばらくたってからの記憶がない。私はまだ子供な感覚なのに、私は確かに大人で。何だかよくわからなかった。お母さんがもう亡くなってしまったこと、そして私の意識がない間に、私の体を使ってた人がいたってこと。

 私のお父さん、らしい人たち。私は記憶になかったけど、私の体を使っていた人のことを大切に思っていたみたいだった。

 私はお父さんらしい人たちも、私の体を使っていた女の子を大切に思っていた男の人たちも、私は何も分からない。私には記憶がない間の出来事のことを話されても分からない。ニールは、その私の体を使っていた女の子に良い印象を持っていないようだった。―――私にもう会えないと思っていたと泣きそうな顔をしていた。だからニールは私に会いたかったから、その女の子のことを最初から嫌っていたのかもしれない。

 でも、その女の子を大切に思っていた人が少なからずいるということ、私が意識がある時よりも長い間私としってあった女の子。―――お母さんに酷いこと言ったのは聞いているけれど、そのことは悲しい気持ちで仕方がないけど、でもその子自身を否定しようとは思わない。だからこそ、その女の子を否定することなくお父さんや男の人たちと仲良く話そうと思った。ニールはそのことに何とも言えない顔をしていた。ニールは、お父さんのこともあまり好きではないみたいだった。――私はニールのところで、ニールのお嫁さんとニールにお世話になっている。女の子は、カーヴァンクル公爵家の娘として生きていたらしいけど、私はただのソニアとして、ニールの姉として今、前を向いて生きている。

 気づいたら体が大きくて、大きくなるまでの記憶が一切なくて、不安は大きかった。でもニールがいてくれた。私が今前向きでいられるのは、弟のニールが、姿を変えてもいてくれたから。だから私は安心できる。私の弟が、弟としてそこにいてくれる。それだけでもこんなに安心した。

 私には十年近くの記憶がなくて、私の感覚はまだ子供のままで。だけど、私の体は確かに大人で。戸惑いと、怖さと、不安がとても強くて。でも———ニールが居てくれた。意識がない前と、意識が目覚めた後で変わらないものがあった。ニールは私にもう会えないかと思ってた。私はもしかしたら、目覚めなかった可能性もある。だったら悲しいなんて思えない。寧ろ、私は目覚めたことをよかったって思う。

 お母さんがいってた。悲しいばかり考えてもどうしようもないって。悲しいって思った時、前を向いた方がいいって。お母さん、私とニールを一人で育てるの凄く大変だったと思う。だけど悲しむこともなく、笑っていた。いつも前向きで、私たちに笑いかけてくれて。私もニールもそんなお母さんの笑顔が好きだった。お母さんがいつも笑ってくれて、ニールも笑ってて。だから私は家族がいれば、貧しくても、生活が苦しくても幸せだったんだ。家族がいればそれでよかったんだ。お母さんはいないけど、ニールがいる。そしてお母さんから少しだけ話を聞いていたお父さんと会えた。新しい出会いもあった。新しい出会いを運んでくれたのは、その私の体を使っていた女の子で、ならそのことは感謝しているとさえ思える。

「―――姉さんは、あの女を憎まないの?」

「うん。だって、その子が居たからこそ出会えた出会いもあるもの。今のニールがいるのも、その子がいて、私が意識を失っていたからこそでしょう。もし何かが違えば、ニールはまた違ったニールになっていたと思うもん。ルンガーラちゃんと結婚するまで至ったのってだからなのでしょう? それにニール、もしあの女の子がいなければそのまま死んでいたかもしれないっていってたでしょ。私、ニールが生きていて嬉しい。その子は私の体を使ってたかもしれない。でもその子のおかげで、ニールは今生きているんだもん」

 私はニールが、その女の子への許せないという気持ちがなければ死んでいたかもしれないと聞いて怖くなった。私の十年以上は失われてしまったけれど、私は生きている。そしてニールの命も存在している。二人とも生きていて、ここにいる。そして笑い合うことが出来ている。それだけでも私は幸せだと思っている。

「姉さん……」

「ね、だからその女の子に悪い感情持つより、今のこと喜ぼうよ。私はニールにあえて嬉しいの。ニールも嬉しいでしょ?」

「うん……、嬉しい。会いたかったから」

「なら、喜ぼうね」

 ニールは優しい子だった。そんなニールが、私の体を使った女の子にとても悪い感情を持っている。私が意識がなかった間に、ニールは苦労してしまったんだと思う。私が想像も出来ないような思いを抱えていたんだと思う。そんなニールが笑ってくれるように私は頑張りたいと思う。

「ね、笑おう。楽しいことしよう、ニール」

「うん」

 可愛い弟に笑って欲しい。私のそんな思いからの言葉に、ニールは頷いてくれた。



 私の人生の一部は知らない間に失われていたけど、これからがあるから問題がない。私はこれからの私の幸せを、大切な人と共に考えて、作っていけたらいいなって思うんだ。




追加の番外編もこれで終わりです。中途半端かもしれませんが、意識の戻ったソニアの視点から書こうと思って書きました。あとはソニアの体を使っていた女の子視点も書きました。難産だったのですが、何かしら読んで何かを感じていただければ嬉しいです。

では、ここまで読んでくださりありがとうございます。


2018年4月15日 池中織奈



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