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転勤族の父を持つ僕はその都合で高校二年生の春に転校することになった。
それは青春という荒波の中で高校という船から別の船へ移動するという事で、それはとても危険な事だ。また移動先の船員達にも歓迎されているかも分からないことである。
まあ、そんな引越し転校のコンボは何回か体験しているのでいい。
しかしだ、その転勤族に付いて行ったのに一人暮らしというのはどういうことだろうか。
母さんが妊娠したから久しぶりに二人でラブラブしたいという父の弁はどういうことだろうか、と先ほどのふざけたことをぬかした父へ声を大にして抗議をしたいが生憎抗議する相手は目の前にはおらず。
なおかつ場所も新幹線の中なので周りの迷惑を考えて当たり前だが出来ない。常識人の弊害である。
しかしそうなると発散方法が無いため不満が刻一刻と胸のうちに溜まっていくのだ。
そして、おいふざけんなよ今まで親に頼っていた17歳の僕が家事なんて出来るわけがないじゃないか、という文句に変わる。
錬成陣を使わず不満で文句を錬成する姿はまるでどこぞの金髪兄弟の様ではなかろうか。
「不満35リットル、怒り20kg、涙4リットル、イライラ1.5kg、悲しみ800g、元気250g、思春期100g、楽観80g、喜び7.5g、声5g、我慢3g、その他少量の15の感情。標準的な17歳一人分として計算した場合の文句の構成物質なんだ」
はたから見たらグリーン席に座り窓を見ながら一人ブツブツと呟いている高校生、我ながら厨二病としか言えない。
いや、厨二病ではない。そんな暗黒時代はとうの昔に卒業したのである。
ちなみに今の暗黒時代って言うのは別に暗黒とか邪悪とか、そんなのに憧れがあって言ったのではなく。あくまで例えとして出しただけであり、要はなんだ。とりあえず厨二病じゃないということだ。
「そうなんですか」
「ええ、そうなんですよ。って、ん?」
もしかして心を読まれた?
というかこの子は誰だ、この状況は何だ。僕の隣の席には何時から人が居たんだ。
しかも艶のある長く黒い髪、白魚のような肌ではっきりとした目は知的という印象を与え視線引きつけるものがあり、簡単に言えば黒髪ロングの清楚系の美人に気づかないなんて、今の説明口調も相まって僕はどうかしてしまったのだろうか。
「あ、急に話しかけてごめんね。私は照門由佳と申します 」
「これはご丁寧に、僕の名前は桐島きりしま玲れいと申します」
隣の少女もとい照門さんが頭を下げたので慌ててこちらも頭を下げる。二人して頭を下げたことによって出来た不思議な空気に笑いが込み上げてきて、二人で笑い合う。
ははは、うふふふ。
じゃない。美人のオーラに流されたわ。
それにしてもこの女、美人だからといって容赦はしない。
転校を繰り返している僕は自分の暗黒時代もとい中二病が広まることは無かったから安心していた。
だが今回心を読める者とりあえず今はサトリとでも命名しようか、そしてそのサトリの登場で僕の暗黒時代が外に漏れだしてしまう可能性ができた。
そうなる前に、殺るしかない。
「でも文句に構成があるなんて考えもしなかったよ」
「え、急に何の話? 」
「さっき言ってたからそうなんですかって聞いたじゃない」
「あれ、そういうことなのか? 暗黒時代のことではなく?」
「暗黒時代?」
「いえいえ、お気になさらず。しかしなるほどね」
そっちの話だったか。いや、薄々感づいはいたよ。
暗黒時代? さとり? 何のことだろうか、記憶がないな。
記憶がないのはそうだな、きっと美人と話せて慌ててしまったのだろう。うん、きっとそうに違いない。
「なるほどってなんのこと?」
「こっちの話だよ。それよりさ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいよいいよ、何でも聞いて」
話を逸らすため、という意味もあるが実際に知りたいこともあるから断られなくてよかった。
決して美人と話せて嬉しいとか決してそんなのでは、あります。
「実は親の都合でこっちに来ることになったんだけど、転校する高校のこととか何も知らないんだ。私立の新山高校って言うらしいんだけど知ってるか?」
「え、そうなの? じゃあ一緒に通えるかもね。私も新山高校なんだ」
「おお、それは凄い偶然」
僕が通うことになっている新山高校に照門さんが通うのは偶然だが、隣に座った人にこんなことを聞いたのは打算あってのことで偶然ではない。
新山高校は有名私立。学費が高いことは勿論のことで特に勉学に置いては力を入れている。そこにだ見た目が同い年の如何にも勉強できますよ感を醸し出してる美人が目の前、いや隣にいるのだ。
これは新山高校以外ありえるだろうか、いやない。
あとは年齢さえ、同じであればいいのだ。年齢さえ。
「ちなみに今は何歳なの?」
「今年で17歳だよ」
ビンゴビンゴのジャストミート。
どうやら風は確実に僕に向いているようだ。
だが焦ってはいけない。まだ青春という荒波が落ち着いただけ、そこから如何に処理して飲みやすくするかが恋の鍵なのだ。
焦って落ち着いた荒波を揺らすことは愚の骨頂。
「それも偶然、俺も17歳なんだ。同じクラスになれたらいいな」
「そうだね」
次に荒波が落ち着き、学校という川に場所が移った後は同じクラスという浄水場を確保しなければいけない。
これを確保することによって処理の成功率が高くなるのだ。
無論、個人でも浄水処理は出来るとはいえ成功率は高い方に越したことは無い。
それから僕は落ち着いて駅で別れるまで照門さんとの他愛のない会話を楽しんだ。
まさかのまさかだが、降りる駅まで同じなのは単純に嬉しい。流石にそこからバラバラだったが同じ町にいるという事も幸運である。




