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事件と推理と青春と  作者: a.m.t.o3
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第1話 一日目と

 転勤族の父を持つ僕はその都合で高校二年生の春に転校することになった。

 それは青春という荒波の中で高校という船から別の船へ移動するという事で、それはとても危険な事だ。また移動先の船員達にも歓迎されているかも分からないことである。


 まあ、そんな引越し転校のコンボは何回か体験しているのでいい。

 しかしだ、その転勤族に付いて行ったのに一人暮らしというのはどういうことだろうか。

 母さんが妊娠したから久しぶりに二人でラブラブしたいという父の弁はどういうことだろうか、と先ほどのふざけたことをぬかした父へ声を大にして抗議をしたいが生憎抗議する相手は目の前にはおらず。

 なおかつ場所も新幹線の中なので周りの迷惑を考えて当たり前だが出来ない。常識人の弊害である。

 しかしそうなると発散方法が無いため不満が刻一刻と胸のうちに溜まっていくのだ。

 そして、おいふざけんなよ今まで親に頼っていた17歳の僕が家事なんて出来るわけがないじゃないか、という文句に変わる。

 錬成陣を使わず不満で文句を錬成する姿はまるでどこぞの金髪兄弟の様ではなかろうか。

 

「不満35リットル、怒り20kg、涙4リットル、イライラ1.5kg、悲しみ800g、元気250g、思春期100g、楽観80g、喜び7.5g、声5g、我慢3g、その他少量の15の感情。標準的な17歳一人分として計算した場合の文句の構成物質なんだ」


 はたから見たらグリーン席に座り窓を見ながら一人ブツブツと呟いている高校生、我ながら厨二病としか言えない。

 いや、厨二病ではない。そんな暗黒時代はとうの昔に卒業したのである。

 ちなみに今の暗黒時代って言うのは別に暗黒とか邪悪とか、そんなのに憧れがあって言ったのではなく。あくまで例えとして出しただけであり、要はなんだ。とりあえず厨二病じゃないということだ。


「そうなんですか」

「ええ、そうなんですよ。って、ん?」


 もしかして心を読まれた?

 というかこの子は誰だ、この状況は何だ。僕の隣の席には何時から人が居たんだ。


 しかも艶のある長く黒い髪、白魚のような肌ではっきりとした目は知的という印象を与え視線引きつけるものがあり、簡単に言えば黒髪ロングの清楚系の美人に気づかないなんて、今の説明口調も相まって僕はどうかしてしまったのだろうか。


「あ、急に話しかけてごめんね。私は照門てるかど 由佳ゆかと申します 」


「これはご丁寧に、僕の名前は桐島きりしま れいと申します」


 隣の少女もとい照門さんが頭を下げたので慌ててこちらも頭を下げる。二人して頭を下げたことによって出来た不思議な空気に笑いが込み上げてきて、二人で笑い合う。


 ははは、うふふふ。


 じゃない。美人のオーラに流されたわ。

 それにしてもこの女、美人だからといって容赦はしない。

 転校を繰り返している僕は自分の暗黒時代もとい中二病が広まることは無かったから安心していた。

 だが今回心を読める者とりあえず今はサトリとでも命名しようか、そしてそのサトリの登場で僕の暗黒時代が外に漏れだしてしまう可能性ができた。


 そうなる前に、殺るしかない。


「でも文句に構成があるなんて考えもしなかったよ」

「え、急に何の話? 」

「さっき言ってたからそうなんですかって聞いたじゃない」

「あれ、そういうことなのか? 暗黒時代のことではなく?」

「暗黒時代?」

「いえいえ、お気になさらず。しかしなるほどね」


 そっちの話だったか。いや、薄々感づいはいたよ。

 暗黒時代? さとり? 何のことだろうか、記憶がないな。

 記憶がないのはそうだな、きっと美人と話せて慌ててしまったのだろう。うん、きっとそうに違いない。


「なるほどってなんのこと?」

「こっちの話だよ。それよりさ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「いいよいいよ、何でも聞いて」


 話を逸らすため、という意味もあるが実際に知りたいこともあるから断られなくてよかった。

 決して美人と話せて嬉しいとか決してそんなのでは、あります。

 

「実は親の都合でこっちに来ることになったんだけど、転校する高校のこととか何も知らないんだ。私立の新山高校って言うらしいんだけど知ってるか?」

「え、そうなの? じゃあ一緒に通えるかもね。私も新山高校なんだ」

「おお、それは凄い偶然」


 僕が通うことになっている新山高校に照門さんが通うのは偶然だが、隣に座った人にこんなことを聞いたのは打算あってのことで偶然ではない。

 新山高校は有名私立。学費が高いことは勿論のことで特に勉学に置いては力を入れている。そこにだ見た目が同い年の如何にも勉強できますよ感を醸し出してる美人が目の前、いや隣にいるのだ。

 これは新山高校以外ありえるだろうか、いやない。


 あとは年齢さえ、同じであればいいのだ。年齢さえ。


「ちなみに今は何歳なの?」

「今年で17歳だよ」


 ビンゴビンゴのジャストミート。

 どうやら風は確実に僕に向いているようだ。


 だが焦ってはいけない。まだ青春という荒波が落ち着いただけ、そこから如何に処理して飲みやすくするかが恋の鍵なのだ。

 焦って落ち着いた荒波を揺らすことは愚の骨頂。


「それも偶然、俺も17歳なんだ。同じクラスになれたらいいな」

「そうだね」


 次に荒波が落ち着き、学校という川に場所が移った後は同じクラスという浄水場を確保しなければいけない。

 これを確保することによって処理の成功率が高くなるのだ。

 無論、個人でも浄水処理は出来るとはいえ成功率は高い方に越したことは無い。


 それから僕は落ち着いて駅で別れるまで照門さんとの他愛のない会話を楽しんだ。

 まさかのまさかだが、降りる駅まで同じなのは単純に嬉しい。流石にそこからバラバラだったが同じ町にいるという事も幸運である。


 別れたあとは俺は近くのコンビニに入り夕食のカップ麺を買い、スマホの地図アプリを利用し教えられた住所を検索して見知らぬ土地を歩き出した。

 これから住むことになる町を眺めながら足を進めていく。少し寂れているが人も確かにいる商店街を抜け、国道なのか広い道路を進み住宅街に踏み入れる。

 やがて辺りがオレンジ色に染まる頃に地図アプリが目的地だと指し示している場所に辿り着いた。


 それは田舎とも都会とも取れないほのぼのとした住宅街に家と並んでいて、その看板らしき鉄の板には軽じて見える文字で新山荘と書かれていた。

 その看板も赤錆がついていることから年代を感じさせる。

 新山荘も二階建てになっていて階段と落下防止用の柵はこれまた赤錆に覆われている、所謂ボロアパートと呼ばれる場所だった。


 頬が引き攣るのを感じながら僕は敷地内に入る。

 父に予め貰っていた鍵を一階の左端のドア差し込んだ。

 錆びて硬いと思われていた鍵はちゃんと回り音を立てる。

 ドアを開くと少し狭い玄関に奥には和室が見えた。


「これが僕の新しい家か」


 靴を脱いで見えていた和室に入る。

 和室には衣類、食器の貼り紙がされているダンボールが幾つかあり、エアコンやテレビ等の家電はもう既に設置されていた。

 どうやら前日に気の利く父が設置してくれたらしい。

 少し手狭な気がするけど一人で暮らすならこんなものかな。

 和室には父が入れたであろう布団がある押し入れもあり、その他にもトイレと風呂もちゃんと分かれているのも僕的には高評価。


 とりあえず水を出して、蛇口内の錆を取っている間にダンボールを整理するのもいいが今日は疲れた。

 色々と後回しにしても許されるだろうし、とりあえず制服だけ出して後はまた今度でいいか。


 ということで積み上げられた箱の山、その頂点にある衣類の貼り紙がされてある物を開ける。

 その中には見慣れた私服の上に真新しい制服が一式揃っていて、

 それは白の縁取りの黒ブレザーとスラックス。それが僕の新しい制服だ。


 取り出した後のダンボールは適当に端に寄せておいて改めて制服を見る。うむ、シックな感じでかっこいい。

 とりあえずこれはダンボールの上に置いておくとして、僕はスマホを起動させて時間を見た。


 七時か、少し早いけどご飯もいいでいいか。

 俺は買ってきたカップ麺を取り出し既に流しの近くに設置された『パパッとすぐに沸く』のCMでおなじみの電気ケトルに出しっぱなしになっていた水を入れて起動する。

 蛇口を捻り水を止めるのを確認から、僕は帰ってきてから一度も開けなかった冷蔵庫を開ける。

 やはり気が利く父ならばこの調味料と食材を入れくれていると思っていた。

 冷蔵庫に入れてあった食材はベーコン、ほうれん草、きゅうり、ツナ缶、パックご飯、卵に牛乳とお茶。

 そして調味料は塩胡椒、ゴマ油、タバスコ、ワサビぐらいかな。


 ふむふむ、なら今日僕が使うのはゴマ油とほうれん草そして卵。

 この三つで僕は夜ご飯のボリュームを増やして見せよう。


 まず、まな板と包丁を取り出して軽くゆすいでから水気を取る。

 次にほうれん草もゆすいでから一束切る。

 この時のポイントは一口大に切ることだ。


 ほうれん草を切ってる間に水が沸いたのでカップ麺に入れて三分待つ。

 今回のカップ麺は赤いスープが特徴の激辛ラーメン。

 その味をマイルドにするのに牛乳を入れてもいいが、今はそんな気分ではないので選択からは除外する。


 そうこうして三分経ったカップ麺に液体スープを入れてかき混ぜてからほうれん草を入れる。

 真ん中には生卵を一つ添えて最後にゴマ油をかけて完成。

 ゴマ油をかけることによって辛いだけのラーメンが坦々麺風味になるのだ。


 和室に立てかけられていた足が折りたたみ式の小さなテーブルを設置。そこにカップ麺を置き、コンビニ袋に置き去りにされていた割り箸も割って手を合わせる。


「いただきます」


 まずは麺を味わう。ごま油先輩のおかげか、何処と無く坦々麺風味でこのままでも凄く美味い。

 だが、ここで追い討ち黄身を溢れさせる。

 そうすると麺と黄身が絡まり牛乳を入れた時とは違ったマイルドがひょっこりと顔を見せるのだ。これが美味い。

 そしてスープに浸されて十分に味がついたほうれん草を頬張る。

 味のついたほうれん草は麺やスープとはまた違った味を見せてくれた。

 ほうれん草の本来の味、スープの絡み、ゴマ油、それらを調和させている玉子。美味し美味し。


 僕は余すこと無く全てを食べ尽くした。

 そして腹を満たし動く気力もなく、座りながら一人思う。


 昨今の若者は体に悪いから、太っちゃうからといってラーメンのスープを残す者や寿司のシャリを残す者がいる。

 僕にはそれが許せない。日本本来の考え方はどこへ行ってしまったのだろうか。ごちそうさまの意味とは一体何なのだろうか。


 まず、動植物は人間に食させるために生まれた訳ではない。

 しかしその動植物を殺し自らの糧にとしているのだ。

 弱肉強食は古くからの慣わしである。そこに礼儀という概念、そんなのは人間の生み出した考えに過ぎないのも分かっている。


 だがしかし自らが存在するために奪った命に感謝するのは当たり前なのではなかろうか。

 確かにこれも全て人間の考えそう言われてしまえば何も言えない。その領域を越えない限り正解も不正解もないだろう。


 故に他人に言われるのではなく、奪った命をダイエット等を理由に食べないのか、全てを自らの糧にした上で感謝するのか。

 果たしてどちらが正しく感じるのかを若者達は今一度、自らの心に問いかけてみるべきてまある。


「いや、僕は何を考えているんだ。あほらしい」


 先程の説教じみた考えを振り払う。

 丁度良い食休みにもなったことだし、食べ終わったゴミの片付ける。そこで気づいた。


「あー、しまった」


 ゴミ袋がない。

 そういえば、いつも引っ越した先の消耗品は誰かが用意してくれた物だった。


「そう思うと僕、今一人なんだ」


 そう呟く言葉も誰にも拾われずに溶けて形を失う。

 そして急に僕はこの広い地球の中で一人ぼっちなのかという心細さを、狭いアパートの部屋で感じた。

 恐らく、この部屋の外に出ればまだ人が居るだろう。でもそうじゃない。

 今まで僕はそれこそ小さい頃から転校を繰り返して友人と疎遠となる事は多くかった。

 でもそれはそういうものだと理解していたけれど、家族と離れて暮らすのはこれが初めてで、きっと身体的な話じゃなくてこれは心の繋がりがなくなってしまったことから来る心細さなのだろう。


「一人って怖いなぁ」


 またそうやって誰もいない部屋で呟き、ゴミを一つに纏めてレジ袋に突っ込み、ダンボールから部屋着とバスタオルを取り出して風呂がある扉の隣のドアを開ける。

 そこには蓋の開いたドラム型洗濯機と風呂場へのスリガラスの扉があるのは最初に確認済み。

 僕は服を洗濯機の中に放り込んで蓋を閉じた。

 バスタオルと部屋着は洗濯機の上に置いて、風呂に入る。

 狭いながらも浴槽置かれていてそれ以外のスペースは小さな風呂用の椅子に洗剤がいくつかあった。

 僕は未だ心細さを抱えながら椅子に腰掛けシャワーを浴びる。


「つめた!」


 急いで水を止めようとしていた右手を止める。


「これって時間が経ってお湯になるタイプなのか」


 そのことに気づき僕は少しの間、冷たい水を浴びることにした。


 しかし、一人暮らしになるまで家族に色々なことを支えられていたなんて考えもしなかったな。

 家族の支えは小さい事ものや大きい事もある。例えば小さいもので言えば俺の視界に映るシャンプーやリンスそしてボディソープ果てには洗顔用の石鹸、それら全ては親が用意してくれた物。

 大きいものでいえば家電やこの部屋それに家事とかしてくれて、なにより居てくれるだけで心が満たされた。


 そんなことを考えて涙がほろりと出そうなところでお湯になっていることに気づき、体と頭を洗ってから風呂を出る。

 バスタオルで体を拭いて部屋着に着替え和室に戻り積み上げられたダンボールの一つからドライヤーを取り出し髪を乾かした。

 そしてテーブルを元の位置に戻してから布団を出して部屋に広げて、和室の電気を消しその上に寝転がる。


 暗闇の中、目を閉じて布団の柔らかさを感じる。


 僕が持っているものは全て他人から与えられた物だ。

 布団や電気、カップ麺や割り箸、僕が使っているもので僕が作ったものはない。

 すこし下世話な話、僕自身も親から作られたのだ。


 ということは大きい意味で僕は一人で生きてるわけじゃない。

 さっきは一人になった気がしただけで、まだ僕は誰かに支えられて生きている。


 僕は何かに頼らないと一人では生きられないちっぽけな人間だ。

 地がなくては生きれない。海がなくては生きれない。

 空気がなくては生きれない。食べ物がなくては生きれない。

 でも、それは自分が作ったものじゃない。

 何かを支えにして、何かを頼りにしないと僕は生きられないちっぽけな人間なんだ。


 つまり生きてる僕は一人じゃない。


 なんてセンチメンタルになりながらも僕は一人ぼっちなのかということに自分なりの答えを見つけて、やがてやってくる睡魔に身を任せる。


 家族がいない寂しさから、壮大なことを考え出した僕の夜は呆気なく終わった。


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