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悪役令嬢二人・4

今回から過去編、あと一話で終わる予定。

アリアドネ達の親世代の話になります。

 それは、今から十数年前の話である。

 この国は周辺の友好国の間で戦争が行われており、とある事情から「基本的」に今と変わることはないとでも言うかの様に歴史書に描かれる事は無かったが、ある家では事情が少しばかり切羽詰っていた。

 侯爵家である。

 幼い頃に婚約をしていた侯爵家では、あと数年で婚姻を調うと言う矢先に事故で婚約者の令嬢が亡くなってしまったのだ。婚姻にはまだ間があるので良い事は良いのだが、かと言って地位も顔も王家の覚えも目出度い優良物件である侯爵家の子息が夜会に出る様になると。こぞってあちこちのご令嬢からのお誘いが頻繁(ひんぱん)にある様になった。

 立場的に「そんなものあしらえよ」と言われそうだが、少し会話をしただけで貴族の子女たちは大騒ぎだ。

 やれ、次期侯爵様とお話をしたのだと声高に自慢をする令嬢があれば、その令嬢は友達を全て無くし。

 やれ、次期侯爵様と夜会で踊ったのだと言えば、その令嬢は嫌がらせを受ける。

 何より、相手の定まらない状態のままでいると自分にも可能性があるのではないかと思い込む女性達が後を絶たない。ついでとばかりに、ちょっと侍女に世話を焼かれただけで何人もの侍女が「入れ替わった」時には夜眠る事さえ難しくなったくらいだ。

 勿論、侯爵子息の顔の良さや家の位の高さだけが理由ではなく。当事者本人以外の思惑が絡みまくっていた事や対応策を出すにしても「調度良かった」部分があって事実上の静観していた事も問題を拡大していた理由になるだろう。

 下手をすれば、侯爵子息だけではなく一族全員を含む使用人までもが女性不信と言うより対人によるコミュニケーション恐怖症になる。


 所で、当時の侯爵には古くからの親友がいた。

 侯爵が若かりし頃に城で勤めていた頃に散々世話になった、元上司の伯爵である。当時は二人とも若かった。

 どれくらい若いかと言えば、地位はあるが新参者で居丈高で慇懃無礼(いんぎんぶれい)な侯爵に対して、堅実に着実に周辺の地盤固めに努めていた人望高い伯爵と言うくらいの若さだった……侯爵が伯爵の下に着けられたのは、単なるお目付け役と言う思惑程度だったりする。

 しかし、地位や爵位だけで全てを勝手に動かせると思い込んでいた当時の侯爵は。見事に鼻っ柱を当時の伯爵にぽっきんと折られる事になる……ある種のつり橋効果と言えなくもない。

 何があったのか厳密(げんみつ)には判らないが、最終的には二人して仕事が終わった後に平民が着る様な服に着替えて下町で朝まで飲んだくれる様な仲になって一時期はあまりの仲の良さに同性愛者と思われるくらいで中々に城内が腐った趣味で溢れたものだが……当然の事ながら、二人とも下町で見知らぬ平民のお姉ちゃんに声をかけて朝まで過ごし、自宅に帰っては侍従や母親に怒られると言う別の意味で腐った青春時代を送っていたのだから似た者同士に爵位は関係ないものである。


「うちの子が女性不信になりそうで困るんだよなあ……あいつが結婚してくれないと侯爵家は親戚に渡すのは良いけど老後が心配だ」

「自分の老後が心配なのかよ……」

「どうせ親戚に渡したら、幾ら養子縁組しても実の親を優遇するだろう? まあ、その時にはある程度の手は打つ予定だけどさ。せめて孫の顔くらい見たいじゃないか?」


 同じような時期に同じ様な結婚をして、侯爵家には男子が一人。伯爵家には女子が二人生まれた所で酒に酔っぱらっていた伯爵は、思わず口走ってしまう事になる。


「じゃあ、うちの長女なんてどうだ?」


 ある意味に置いて、これが全ての終わりの始まりだったのだろう。

 やはり酒に酔っていた侯爵はあっさりと承諾し、気が変わっても困ると言う事から二人は婚約の書類を作成。朝一番で城に届け出を出す様に命じた後で久しぶりに楽しいお酒が飲めた侯爵は元より、巻き込まれた伯爵も含めて翌日夕刻まで撃沈。

 侯爵家では流石にお酒を抜いて帰って来たので、妻を亡くしてから久しぶりに主の気が晴れた目を見てお小言を控え目にした程度で済んだが。宴会会場となった伯爵家では、奥方が存命な事や侯爵を相手に場末の飲み屋の様な大騒ぎで一晩中騒ぐものだから、使用人達がえらい状態になった事もあって、それはそれはお小言が雷レベルで素晴らしい様子だった……伯爵家の場合、世間一般的における「女性は添え物」と言う扱いは対外的にはともかく内部的には当てはまらないが、それに関しては各家の事情と言う事で深く追及しない方が良い場合も世の中には存在する。


 事態が急変したのは、正式に王家によって侯爵家と伯爵家の婚約認められた書類が届いた時からである。

 酔った勢いで婚約が決まってしまい、侯爵家としては「まあ仕方ないか」と父子ともども諦めが入った程度で済ませた……ちなみに、先代から仕えていると言う侍従が当時の侯爵に切々懇々とお説教をされまくったらしい……相手が親友たる伯爵であると判ったので、ショートコースで済まされたのだが。

 しかし、伯爵家ではそうはいかなくなった。

 爵位と言うのは、明確な身分制度だ。少なくとも、子爵位以下の身分の者が王族に嫁ぐような事は天地がひっくり返るような功績でもない限り養子縁組をしまくっても有りえないし、例えそれで嫁ぐ事が出来たとしても生家の身分が低ければ一生言われ続ける事になる。

 伯爵家から下位の家へ嫁ぐのであればそうでもないが、伯爵家と侯爵家では人の身では越えられぬ程の高い壁と土台の深い溝があるので。当時の伯爵家長女にして後の「気狂い侯爵夫人」と呼ばれた彼女は己の婚約が調ったと聞いた日から血のにじみ眠る時間を削る日々を送る羽目になった。

 なお、長女と言うからには次女も居たりする。

 丈夫に、生まれる時には誰からも「きっと男の子に違いない」と言われて生まれてみれば女子だった時の落胆と言った日には、当時の伯爵は思い出す度に憂鬱になる。だが、それ以上に申し訳なさで泣き叫んだ伯爵夫人を思い出すのでなるべく思い出さない様にしている。

 次こそはと意気込んで出来た二番目は、これまた女の子だった。しかも、次女は生まれた時から体が弱く何度となく寝台に寝込み、ろくに外出も出来ず、何時ぱたんと倒れるか判らない状態なので基本的に己の部屋から出るに出られない日々を送っていた。


◇◇◇


 先に言っておきたいのは、伯爵夫妻は別に悪い人でも無ければ向上心はあっても出世欲も無ければ悪党もでなく、さりとて善人でもない。

 弱者には手を差し伸べ、敵には刃を向ける……そう言う、極ありふれた人達だ。

 だが、丈夫に育った長女と体の弱い次女であれば、自然と次女に意識が向く。幸いだったのは、長女は両親の意図を汲んで己より体の弱い妹を両親が構う事も、将来は婿を取って伯爵家を継ぐ筈だった事も、父親が酔った勢いで将来は侯爵家に嫁ぐ事も不満は口にしなかった。

 ただ「はい、判りました」と言うだけだった。長女は顔の作りこそ平凡と言う程度だったが、聡明だった。

 だからだろう。


 流石に、結婚する相手の妹であり将来の義妹となる相手の顔も知らないと言うのは外聞が悪いのでホームパーティを開いた。

 他に第三者など居ない、伯爵家でのパーティ。家族と家族になる相手しかいない、そんな小さなパーティだ。

 本来ならば嫁ぐ侯爵家で行われるべき事なのだろうが、伯爵家の次女は体が弱い。何日も掛かるような距離ではないが、ちょっと家の庭を散歩しただけで翌日には寝込む事が珍しくない人物に無理はさせられないと言う事で、侯爵父子は伯爵家に訪れたのである。


 伯爵令嬢は、聡明だった。

 聡明で、ありすぎた。


 伯爵令嬢が妹を紹介した際に、違和感を感じたと言う。ただ、それがどんな違和感なのかその時には判らなかった。

 判らないままに、何故か違和感を感じてパーティの途中で不調を訴えて場を辞した。その時、婚約者の目は何の感情も浮かんでいるようには見えなかったと言う。

 伯爵令嬢は、自分の部屋に帰ってから不安定になった。けれど、それは腹心とも乳姉妹とも言える侍女一人だけが令嬢の異変を感じていた。

 両親も、妹にも、その異変は感じられなかった。

 当然、婚約者にも、だ。

続きます


一部文章に指摘がありましたので、書き直しを行いました(2015-09-04)

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