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悪役令嬢二人・3

長男ファーガスさん、次男デュオニュソスさん、三男サーディンさん。

これは数字の1、2、3がモチーフです。

デュオニュソスさんは音楽の二人で演奏するデュオの方が正しいです。

「ああ、いらっしゃいましたね」


 サーディンの言葉に視線を向けると、そこにはシンプルだが美しい(よそお)いの薄い空色のドレスの人物……王妃と、その後ろを華奢(きゃしゃ)な体つきの、明らかに人の目に慣れていない様子の若い娘の姿があった。

 どうやら、王妃の後ろから現れたパステルピンクのプリンセスラインのドレスを来た彼女がサーディンの画策した娘と言う事なのだろう。


「お待たせしてしまい、お詫びしますわ」

「王妃様、御足労をいただきありがとうございます」


 楚々とした王妃の姿は、取り立てて派手な衣装でも無ければ皮膚を出す様なデザインでもないのに見せ方の問題なのか昼間だと言うのに(なま)めかしく見える……普段は王妃の姿など見ないのだろうか、下位の方から何人かがごくりと飲み込む声が聞こえた様な気がしないでもない。

 たおやかに微笑みを浮かべる王妃は、何を考えているのか少しばかり面白そうな顔をしている。


「サーディン殿下、貴方の兄思いのお気持ちに心を動かされました。

 ですので、王太子殿下もどうか御心を静めていただきたく思います」


 王妃は、この国の特色として王の妃にはなれても女王になる事は出来ない。

 それは女性は男性の添え物としての扱いになるからだ、それでも「女性から人が生まれる」と言う事実を変える事は出来ないので流石に上級貴族以上になると「ある程度」の立場は保証される。血に(こだわ)る貴族には、その傾向がとても強い。

 なので、王妃は王太子と立場的には同等だ。故に、王太子を含めた殿下以下の立場の者達は王妃に頭を下げる。


「王妃様のお言葉でありますれば……『今回に』つきましては下がりましょう。

 ですが……」

「ええ、王太子殿下がお気に召さないと言う事であれば当然の事です」

「それは……!」

「サーディン殿下、わたくしは兄を思う貴方のお気持ちに心を動かしました。

 ですが、王太子殿下のお立場を考えれば憂慮ゆうりょするべき問題である事も事実です……王太子たるファーガス殿下の隣に立つと言うのは、御自身の判断だけで許される事ではないのです。側室であろうと、それは同じ事。

 中には、御自身が王家に入り込む為に手段を選ばれなくなる方もおいでになります……こちらも大きな問題です」


 溜息をついた王妃は、心の底から悩んでいる様に見える。

 デュオニュソスは、最初はアリアドネにしっかりと手を握られて動けなかったが。今は逆にアリアドネの手をしっかりと握るのが忙しいらしく、王妃の美しさも王太子の苦悩も第三王子の心痛も目に入っていない様だ……が、脳筋ではない筈である。


「ですが、サーディン殿下のお言葉も間違いではありません」

「ええ、ですので今回に限り王妃様の顔を立ててサーディンは不問と致します……何やら、それ以上に(たくら)んでいる様ですが?」

「申し訳ございません……先走ってしまった様です……」

「サーディン殿下も、何やら御心にとめたお嬢様がおいでになるのでしょう。

 王太子殿下が婚姻を定める事がなければ、サーディン殿下も婚姻が調(ととの)う事が難しいと言う事です。デュオニュソス殿下の様な素晴らしいお相手に、しかも素早く調うなどと言う事は大変珍しい事ですものね」

「恐れ入ります」


 言葉少なに言うデュオニュソスに、側室を勧める声はない。

 これから何年もたって、もし侯爵家に跡継ぎが生まれなければ話は代わるかも知れないが。現在の所は何を言った所でデュオニュソスの怒りを買うか耳を貸さないかのどちらかだろう……王家から出て侯爵家へ臣籍降下すると言いだして、まだ一年もたっていない。公的に認められてからではあるが、婚姻は公的に認められてから一年もたたない予定だ。

 通常、上級貴族では婚約は最低でも2年。場合によっては5年くらい平気でかかる……生まれる前から婚約している場合もあるのだから、1年もたたずに婚姻と言うのは本当に短い期間なのだ。


「アラクネ、こちらへ」

「ふふ……可愛らしいお嬢さんを着飾らせるのは、久しぶりに楽しい時間でしたわ」

「王妃様が自ら、支度を整えていただいたのですか?」

「王太子殿下のお相手候補であり、第三王子御推薦のお嬢さんですもの。当然でしょう?」


 招かれた貴族達やサーディンは気がつかなかった様だが……ファーガスとアリアドネは内心でたらりと汗を流す。

 デュオニュソスは、まったく気にしていない様だが。


「さあ、自己紹介してください」

「……はい。皆さま、アラクネと申します」

「アラクネは男爵家の令嬢で、私の静養先の領地で大変世話になりました。

 未だ側室の一人も迎え入れる事もない我が長兄を(うれ)いて、私が独断ではありますが側室にいかがかと思いお呼びした次第です」


 可愛らしい外見に合わせて、王妃が自ら整えたと言う衣装は招かれた貴族達に持て(はや)されている……持ち上げられたアラクネ本人もまんざらではないらしく、頬を染めている……体に力が入りすぎて目が回っているのではないかと思われる様に見えるが。


「アラクネ、彼は王太子であるファーガス兄上です」

「初めまして、ファーガス様」

「初めまして」


 ファーガスの見た目は、王族の王太子だけあって少々年齢が上である事を除けば見た目に心が奪われても仕方がないだろう。

 なるほど、呼ばれて来たらしい貴族女性達もすでに侯爵令嬢と言う相手が決まって溺愛していると名高いデュオニュソスよりは相手が決まっていないファーガスの方が気になるのは当然と言うもの。もっとも、そこにはお付き合いしたいとか妻になりたいと言う気持ちよりも高値の花に黄色い声を上げるファン心理に近いものがあると言うのが比率的に高いのではないかと思う者も存在するあたり。ファーガスの今後が心配になるサーディンの気持ちも判らなくはないが……もしかしたら、王妃が言ったように実は思う相手がいて早く手に入れたいが為に兄の身を固めさせようと画策しているのかも知れない。


「こちらは下の兄上でデュオニュソス……隣に居るのは婚約者のアリアドネ侯爵令嬢です」

「初めまして、デュオニュソス様……と、アリアドネ様」

「アリアドネとアラクネは、親しいのでしょう? 久しぶりにお会いするのではありませんか?」

「え……と……、その……」

「どうかしましたか、アラクネ?」


 アリアドネは、悟った。

 まず、王妃は笑っていない。王妃はほとんどの状況を最初にデュオニュソスと婚約を結ぶ際に報告をしているのだから、この件に関して決してアリアドネが笑顔で受け入れると思わない事は先刻承知だろう、味方と言うには立場的に言い切れないが敵になる事は決してない間柄だと言う事は判っているのだから、これは王妃が「心の底から」怒っていると言う事になる。

 似た様な事はファーガスにも言える事で、サーディンは気が付かなかっただろうがファースト・コンタクトは「無礼者」と言う評価につながった筈だ。

 隣のデュオニュソスは、考えるより感じる方が優先されるらしい……握られたアリアドネの手は、今はデュオニュソスのごつごつとした手に優しく包まれて()でられていた。


「も、申し訳ありません……わたし……」

「サーディン殿下、本当に彼女をファーガス王太子殿下のご側室としてお勧めされるのですか?

 彼女が、一体どこの誰なのかを承知の上で?」


 アリアドネ自身が思ったくらいなので、サーディンも馬鹿にされたと感じたのだろう……一気に目つきが厳しいものになった。

 王妃と、ファーガスはにこにことした表情でこの場を見ている。

 どうやら、二人はこの場をアリアドネに譲ってくれるつもりらしい。


「ええ……知っていますよ、私が幼い頃から世話になりましたから」

「そうですか……では、本当に宜しいのですね? 彼女を、貴方の兄君にお勧めすると言う事で?」

「貴方の自領の下級貴族が、貴方より上の立場になるのが面白くない、と言う事ですか?」

「まさか……その程度の事でわたくしが揺らぐと思われておいでになるとは……(なげ)かわしいと申し上げますわ」

「はは……まさか『気狂い侯爵夫人』の娘に言われるとは思いませんでした。

 やはり、それは御母上譲りですか? あの親の子だけはありますね!」


 どこかで、(きし)んだ音が聞こえた様な気がした。

 招かれた貴族達は、勘の良い者の中でそう判断した者達が居て。


「サーディン殿下……どこでその様な言葉を耳にされました?」

「貴方の自領では有名な話でしょう? 侯爵夫人となる為に手段を選ばず、候補者を蹴落(けお)としてのし上がり。その妹と言えばどこの誰とも知れぬ男の子を産みっぱなしで死亡。その話を聞いた侯爵夫人も貴女を産んだ直後に自害されたと言うではありませんか……。

 だからでしょう? 貴女もアラクネ相手に取るに足らない事で幼い頃から彼女を目の敵に……」


 ばきっ!


「あら、失礼しました」


 とても楽しそうな声で語るサーディンの声を遮ったのは、破壊音だった。


「王妃様!」

「御怪我はございませんか!」

「誰か、侍医を呼んできてください!」


 慌てたのは、約二名を除いたほぼ全員だ。

 常に穏やかな笑みを浮かべて一歩を引いた状態で国王陛下の側で国を支える国母と名高い王妃……の手の中から、ばらばらと崩れ落ちる破片は手にしていた扇だ。当の本人は「あら嫌だ、これはお気に入りでしたのに残念ですわ」と言う程度で表情は変わらない。

 そう、変わらない。


「アリアドネ侯爵令嬢、聞きましたね?」

「はい、伺いました。王妃様」

「貴方はそのままでおいでなさい……この様に散らかったままの場所に座るなど淑女のなさる事ではありませんわ」


 アラクネには横目で告げた王妃は、そのまま視線をサーディンに向ける。

 メイド達が慌てて王妃の怪我を心配しているので掃除は後回しになっているが、アラクネにはそれについて何を言う事も出来ない。

 貴族達に紹介する為に立っていたアラクネは、とても困った様に周囲を見ている事しか出来ない。


「サーディン殿下、どうぞ気を静めてお座りなさいな……一体、この場は何の為の場なのでしょう? わたくし、伺っていたのと異なる場所へ案内してしまったのかしら?」


 バタバタと騒がしいのは、国母が怪我をしたかも知れないと言う事情の為。

 侍女は慌てふためき、代わりに護衛騎士は緊張感を上げた様だ。

 サーディンは、王妃の何時にない視線に戸惑い声を上げる事も出来ずに混乱しているようだ。


「アリアドネ侯爵令嬢に王妃の名に置いて許します、(すべか)らく明らかに。

 貴女のご存じの全ての『罪』をこの場に置いて(つまび)らかになさい」

続きます

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