18 青春は突然やってくる
仲よくソフトクリームを買ってきた二人はとてもうれしそうであった。何かと、水奈は機嫌がいい。それに、水奈がうれしそうなのが目に入ってしまった。水奈は俺に自慢をしたいというような目でこちらをにらんでいた。
「やっぱり、お兄ちゃんとは大違いな人だった。普通にやさしいし、それなのに持てないのかな? 彼女とかいつもいないからさぁ」
「それは、そのなぁ。真司はいつも女子に告られるけど、振っちゃうんだよ。あまり興味ないとかいう理由とかで」
「意外とひどい人なんですかね」
なぜか、一瞬だけ水奈は敬語になった。何かを考えているのだろう。普通にいると悪い感じはしないのだか、恋愛に興味ないというか、あまりタイプの子がいないらしい。でも、今はどうなのかはわからない。親友でもわからないことはいろいろとあるだろう。
「それで、今はどうなんですか? 真司さん?」
「なんか、『さん』付けは困るな。和孝の友達なんだから、普通にため口でいいんだよ」
「でも、なんかあなたにはこの方がいいかと思ったものですから」
「そうか、意外と俺もダメな人間だよ。振ってばかりの最低な男かもしれない」
珍しいことに、水奈が慰めに入った。
「そんなことを言われないで。真司は全然、大丈夫だって」
「そうかな。ありがとう。元気が出たよ。それで本題に入ってもいいかな?」
水奈は頭をかしげながら、頭の上にはてなマークを浮かべていた。
「なんでしょうか?」
「俺ね、水奈のことが魅力的に感じるなぁ。もしかしたら好きなのかもね」
いきなりの告白に水奈の頭の中の処理が追いつかなくって、動かなくなってしまっている。それを見ていた俺たち二人は意外だと思ってしまった。
「どうしたんだろうか。真司が水奈のことが好きだなんてな」
「私だって、びっくりしてるわよ。まさか、私の妹に恋をしてるなんて。じゃあ、もしかして年下が好きってことなのかしらね?」
「それはあり得るかもしれない。年上には興味がないとか言ったように感じる」
「もしかして、真司ってロリコンなのかしら。ものすごくモテそうな顔をしてるのに、年下が好きなんて」
長く友達の俺と華音は真司が年下が好きだなんて、初めて知った瞬間だった。普通に考えて、同級生あたりがいいじゃないかと思いきや、年下だということはとても驚きのことなのだ。
「だから、告られても断ってたのかもしれない。年下じゃなくって、同級生ばかりだったから」
「それはあり得る。じゃあ、年下の子が告って来ていたら、『OK』してたかもしれないということなのかしらね」
「あり得るじゃないか。それはさぁ」
「そうかもね」
真司と水奈のことを見ながら話している華音と俺であった。そして、水奈は少し戸惑っていた。
「どうしましょうか。私にも好きな人がいるんです。でも、あなたも魅力的なんです。少し考えされてくれませんか?」
「別にかまわないよ。返事はすぐとは言わないから、いくらでも考えてくれてもいいから。それまでまっているからさぁ」
「ありがとうございます」
完全なるドラマチックな場面であったと思っていたときに、ある人物がやってきていた。
「みなさんおそろいでどうされましたか?」
目の前にいたのは来るはずのない麻衣であった。
「どうしたの。今日は来るわけじゃなかったのかよ」
「それがねぇ、用事が意外と早く終わっちゃって、つまらないから電車に乗って、ここまで来ちゃったというわけなのですよ。驚いた和孝君」
「それは驚くでしょうよ。いきなりこの場にいるからさ。それより、よくこの場所が分かったな」
「それは、少し散策してたら四人が見えたから近づいてみたら、真司君が魅力的なことを言っていたから様子見て、出てきたというわけなの」
真司がいきなり、顔を真っ赤に染めていた。俺たち二人に聞かれていてもよかったが、麻衣に聞かれるの恥ずかしいというわけか。俺と華音は幼なじみだからと言うことか。意外なところが見れたように感じた。
「それよりも、和孝君少しいいですか?」
「いいけど」
「ありがとう。すぐに終わるからね」
そして、俺は華音から離れて、麻衣に連れてかれるのだった。
少し走って屋外に出て、そこで聞かれた。
「和孝君って、私のことをどう思ってるの?」
「…………」
いきなりの質問で何も答えられなくなってしまった。まさか、単刀直入に聞いてくるなんて予想もつかなかったからだ。意外と大胆な女なのかもしれない。
「どうなの? 私のことをどう思ってるの」
「それは、一目ぼれをしたよ」
「そうなの。それに、私は和孝君のことが好きなのよ」
俺は目が飛び出そうなくらい意外なことを言われ、驚いてしまった。
「いきなり言われても、何もできないぞ」
「そんなことはわかってるわ。あなたがそんな人ではないということもね。一回のチャンスをものにするために今、告ったというわけなの」
勇気のある麻衣に対して、何もできなかった俺はとても無力に見えてしまった。男なのに情けないと思える瞬間であった。それに、俺は恋愛がばかげているものだと思ってきた。でも本当に恋をしてみて、わかった。
勉強なら答えを導き出すのは簡単なのことであるが、恋愛は違う。そんな簡単には答えは出せないし、その時によって変わってしまう。だから、難しい。俺みたいなやつには無理だと思ってきたのは確かであった。
「そういわれても、確かに勉強のことしか考えていないイメージしかないだろうけど、それを変えるためにも頑張っていることもある」
「どんなことなの?」
「それは、恋愛も悪くないと思ってさぁ。今までふざけているものだとしか見てこなかった。そして、それが勉強を害にするものだと思っていた。
それに、恋愛をすると何もできない状態になるということだとも思っていた。でも、違かった。逆に恋愛をしないと好きな人と会えないととても胸が苦しいともおもった。だから、考えが変わった」
「それで、誰なの? 和孝君が好きな子は?」
「最初は麻衣。君だった。でも、それは最初の時。今は変わってしまった」
麻衣はとてもショックを受けていた。それも、今までないほどの屈辱を味わったというような顔でこちらを見ていた。
「そうか。私はどこかで道を間違えてしまったみたいね。あなたを嫌いにしてしまうなにかをしてしまったのかもしれない。それにしても、最初は思ったんだけど、私のことが好きで、両思いで行ければいいなって思って、近づいたのに。どこかでミスちゃったみたい」
なぜか、麻衣は涙を流していた。自分でも驚いていた。泣きたくって流した涙ではないということだろう。でも、体は正直であった。本当はとても悲しいし、悔しいのだろう。おれにも伝わってくる。今まで大変な思いをしてきて、恋愛できるかと思いきや、振られるというつらい現実を歩んできたのだと。
「何でだろう。私は和孝君の前では涙を流したいなんて思わなかったのに。もしかして、悔しいのかもしれない。
自分が勝つことができなかったという。それに、頑張っても何も起こらないで、こんな運命になるのだということを証明した瞬間でもあったんじゃないかって」
「それは違うと思うぞ。何かを頑張って無意味なことはないと思う。それが、報われなくても、そのうち報われる時が来る。
俺だって、最初から勉強ができたわけじゃないし、中学一・二年の時は荒れた不良ともいわれそうだった程だと、華音と真司に聞けばわかると思うし、悠馬にだって聞けばわかる。
あいつは、中学二年生の時に違う学校に転校した。だから、今の俺が異例だといわれたんだ」
麻衣は俺の話を聞いて、ホッとしたみたいだ。今までの顔とは違う顔で、少し笑っていたように感じた。また、俺の目の前に近づいてきた。
麻衣の体が少し密着すると、あるものが当たった。胸だ。大きいのかはわからないが、密着してみるとわかる大きさだ。それに、髪の毛はシャンプーの程よいにおいが嗅覚を襲う。そして、息の音がまじかで聞こえてしまい、緊張をしてしまう。意外と魅力的な女子だと思ってしまう瞬間であった。そして、麻衣は俺の一言残した。
「和孝君って、本当にいい人ね。励ましてくれありがとう。だけど、一つだけお願いしていいかな?」
「なんだよ」
「一回、強くハグしてくれないかな? そうしてくれると、安心するの」
「わかったよ。それでよければ」
あっさり許可したおれを見て、素敵な笑顔を浮かべながら、俺に抱き着いてきた。それ見ていた周りからは歓声が巻き起こった。
「やっぱり、高校生は青春だねぇ――」
「そうだな。これこそ、青春って感じかな。俺の青春はこんなことは一度もなく、終わった悲しい高校生活だったけど」
あまりにもリアルな声が聞こえて、俺は突っ込んでしまった。
「なんか、おかしいのが一人いたんですけど。青春がなくって悲しい顔をするなァ――」
俺の突っ込んだことが面白かったのか、麻衣は大笑いをしていた。俺は麻衣の素敵な顔をと心の中を見ることができて、幸せだと思ったときであった。大変な思いをしてきたことが分かったし、それが俺の心を強くするものであった。




