17 お出かけで被害を受ける
――翌日
今日から冬休みになる。中学校も今日からだというので、朝から入試の対策を行っている。さすがに、受験シーズンともあり、水奈は勉強をしている。私立高校の入試が近いということで焦っているといった方がいいか。それに対して、俺ら二人はゆっくりとしていた。
――十二月二十二日
今日は午後から東京スカイツリーに行く予定になっている。いつも通り、荒川都市駅から東武スカイツリーラインに乗って、東京スカイツリー駅で降りて、東京ソラマチをまわっていく予定だ。
俺は支度をして駅まで歩いていくことになった。華音と水奈と真司と俺だけで、ほかの連中は予定が入っていていけないらしい。
――なんだよ。麻衣がいないのかよ。
少しばかりがっかりする俺であった。
駅に着いて改札を通り、東武スカイツリーラインのホームで待っていると。
『まもなく、一番線に、区間急行、浅草行が十両編成で参ります。黄色い線の内側でお待ちください。停車駅は、北千住、北千住から浅草まで各駅に止まります』
『まもなく、一番線に、区間急行、浅草行が十両編成で参ります。黄色い線の内側でお待ちください。この電車は、北千住で前六両が浅草行、後ろ四両が回送となります。お乗り間違えがないよう、ご注意ください。駆け込み乗車はやめましょう』
ホーム内には電車が来る前のアナウンスが響いている。これも東武鉄道特有のアナウンスだ。
しばらくすると、電車がホーム内には入ってきた。俺らは欠かさず、すいている車両に乗ることにした。
電車が走りだし、車内アナウンスが流れる。
『お待たせいたしました。東武鉄道をご利用いただきまして、ありがとうございます。この電車は区間急行、浅草行です。
停車駅は、北千住、北千住から浅草まで各駅に止まります。次は北千住、北千住に止まります』
その後、意味の分からない英語が連なって聞こえるなか、俺らはスマホをいじっていた。
「そういえばバズストがレベル百になったよ」
「そうなんだ。俺はやってないからわからないけど、面白いの?」
「うん。おもろいよ。なんか、難しいけど慣れると意外といける」
「そうなんだ」
しょうもない話をしているという目で、華音は見てきている。少しうんざりしているのかもしれない。二人を相手にしないで何をやっているのかと言うことだろう。
「それよりね、東京スカイツリーに行ったら何を見る?」
「そうね、私は風景を見て、写真を撮ったりしたいよね、お兄ちゃん」
――なぜそこを俺に振るんだ? 振る相手が違うのでは?
お構いなしにウインクをしてくるのであった。ある意味、話をつなげてよと言う意味間も知れない。どんなことを。
俺はスカイツリーなんて興味がないし、何かを見たいというわけでもない。でも、華音と水奈がどうしても行きたいという要望にこたえるためについてきたという付属品的な存在。どんな存在なのかは自分でも理解できていない。
華音はスマホをいじりながら、目を輝かせる。
「ここっていいわよね。ソラマチにあるチーズガーデンとかいう場所があるよ。そこってナスで有名なチーズケーキがあるところなんだって」
それを聞いた水奈もまた、目を輝かせた。
「なんていい場所なの。私も食べたいな。買ってね、お兄ちゃん」
「そんなときばかり、俺に頼むな。お小遣いがあるんだから、自分で買うんだよ」
「は~い」
あまりにも俺を頼ろうとしているオーラが漂っていたので、びしっと言ってやったわけだが、効果はあったのかはまだわからない。
あっという間にとうきょうスカイツリー駅までやってきてしまった。駅を降りてから少し歩いたりしていると外に出た。そこからソラマチの中に入ることにする。中は人が多く、冬休みと言うだけあると確信したのだった。とりあえず、チーズガーデンに向かうためにエスカレーターを上っていた。
「それより、人が多くないか。こんなにも人がいるなんてな」
真司は落ち着ていた。初めてではないらしい。
「それはそうだろうよ。俺だってびっくりしているんだからな。初めて来たからわからなかったけど、すたれていないことも分かったし」
「そうね。私もこんなにも人がいるのに、初めてくるということは迷子になりやすいってことじゃない。水奈と和孝が心配だわ」
なぜか俺が入っている。それに、男の俺が女の華音に心配されるってことは、どんだけ落ち着きがないように見えているんだろうか。
「ふざけんなよ。なんで俺が入ってるんだ? 子供みたいに動き回らないよ」
「そんなわけないでしょ。もともと、うろちょろしてるじゃない」
「してないからな。俺はお前から見てどんなふうに見ているんだよ」
「ただの変態」
「ふ――ざけんな」
「なにもふざけていないわよ。ただ、哀れだと思って」
華音が笑い出し、水奈と真司までもが笑い出す。
「何でそんなに笑っているんだよ」
「わからないの? 和孝が変態だとわかって、女子たちが離れていくから、面白いと思って」
俺は何かと不幸だと思う。なぜ、こいつにバカにされなくちゃいけないんだ。なめてるわぁ。不幸なのは俺だけなのか、わからないまま、チーズガーデンのある店へと急ぐ。
チーズガーデンのある店に来てみるとびっくりするくらい人がいた。そして、目に入ったものに対して思ったことがあった。人をおびき出す方法と言うものであった。
「いらっしゃいませ。どうぞ、店内をご覧くださいませ――」
店員が持っていたのは、試食であった。これを食べていこうという人が多いのか、ヨウジに刺さったおいしそうなチーズケーキをもらっている。
「俺らももらおうぜ」
「やめておこう。俺たちは買わないのだからさぁ」
「でも、俺はいいじゃないかと思うのだけどなぁ~」
「それにしても、和孝は礼儀がなってないわね。悩んでいて、どんな味であるかを確かめて買うためにあるものだと思うけど」
「私も思ったよ。お兄ちゃんがただもらいための変態ドロボーになるんじゃないかと思ったくらいだもの」
「それはどういうことなのかな。わかるように説明してみなよ」
水奈は指をさして一撃をくらわす。
「お兄ちゃんが女子に怒った。大人げない。最低なお兄ちゃんだ」
俺は何かを言って、ふっと思うと周りから人が離れていっていた。
――もうやめてくれよ。二人で俺をいじらないでぇ――――――。
俺の心の中にはこれだけが響いているだけで、ほかには何も思ってはいなかった。
「さすがに俺をいじめるのはよしてくれ」
「いや、もっとやらないと」
いきなり、真司からの不意打ちが来た。急すぎて対応ができない。
「なんかうれしそうな顔をしてるんですけど、やめてくれよ」
「しょうがないわね」
華音はあまりにもいけないものを持っている。俺に何かをしろと言う意味で持っているのだろう。
「これを買ったら許してあげるわよ」
「何で商品を持ってるんだ?」
「だって、ここは店の中なんだから」
あまりにもうるさいやつらのせいで、この場所がチーズガーデンの店の中だということを知らなかった。それに、店内で騒いでいたのは俺らだけだったのでものすごくはずかしいおもいをした。周りの人や店員は少しばかり白い目で見ていた。哀れに感じたときであった。
「それより、早く買っていくぞ」
「どうしたのかな? 和孝。いきなり買う気になったのかな」
華音は疑問な顔でこちらを見ていた。俺が買うといったことについておかしいと思ったらしい。
「そうだよ。そんなもの買ってやるから早くしろ」
「わかったって、水奈の分もお願いね」
さすが、姉の指名だとわかっていらっしゃる。
「了解。一緒に買うからもってこい」
「はい、は~い」
華音が持ってきている間、俺はお札の確認をしていた。財布の中には三枚の野口が入っていた。
――やばいな。四月からバイトはじめないと、参考書が買えなくなるかもしれないな。
金融危機に陥った和孝はやばいことになった。別になっていないのだが。
――金融危機はことがでかすぎだよ。あまりにもふざけているだろ。
自分も思ったことについて文句をつけてしまう俺であった。哀れだ。
かわいい水奈や華音に商品を買ってしまう甘い兄であった。情けなく思うが、気が済むのならしょうがないと心に決意した瞬間であった。
チーズガーデンで物を買ってひと段落した俺たちはまた違う場所を散策する。なぜか、男女二人ずつで歩いていると、カップル通しのお買いものみたいな雰囲気が漂っているみたいで、孤独な男子はいいなと言うような目でこちらを見ていたわけだ。
「それよりも、私はアイスが食べたいな。何か買ってよ」
「そういわれてもな。俺はお金がないぞ」
水奈はとても残念そうな顔をしていたのを見たのか、真司が意外なことを言い出す。
「もしかして、東毛酪農とかいう場所のソフトクリームでも食べたいのか?」
水奈は真司が見事当ててしまったので、驚いていた。アイスなんかいっぱいありそうなのに、東毛の物を食べたいのには理由があるだろうと思える。
「なんで、そこがいいんだ?」
「この前、友達が食べてみて、おいしかったって言っていたから」
「そうか、だからか。理由はそれか」
俺が変な反応をしたので、『真面目か』と言うような視線でこちらをにらんでいるのは水奈であった。
そんな空気で歩いていると、目の前に東毛酪農の店が輝いていた。
「やっと着いたね」
「だな」
俺の反応の薄さにみんな、あきれていた。
「和孝は何でそんな反応なんだろうか。もう少し反応の仕方があるじゃねぇ――のか?」
「そういわれてもな。なんか、喜べる要素がない」
「残念な男ね」
「うっせぇ。ほっとけ」
残念ながらこの場の空気は最悪なものになってしまった。俺のせいかもしれない。後悔するのが遅い俺。情けなく感じた。
「それじゃあ、俺は水奈ちゃんの買ってあげないと」
「そういえば、お前って水奈ことを名前で呼ぶのって初めてじゃねぇ――か?」
「言われてみればそうかもな。あまり話す機会がすくなかったから」
「全然話す機会などあったように感じるけど」
「まあ、細かいことはいいだろうよ。それじゃあ、買ってくるからね」
「はいよ」
適当な返事をした俺を置いて、水奈と店のレジに並ぶ真司。
「それじゃあ、買うか。水奈ちゃん」
「そんな『ちゃん』つけなくても、水奈で結構ですので」
なんか水奈が緊張しているように感じた。遠くから見るととてもかわいく見えるが、現実と言うものは不思議で近くなればなるほど、ウザいと感じるものだ。特に華音とかは余計な気がする。あの二人が組むと少しばかり俺の日常は崩れ落ちそうだ。
まじめに並んでいた水奈と真司を見て、華音が一言つぶやく。
「あの子と真司は、仲がいいように感じるのは私の錯覚かな?」
「どうした? いきなり言って」
「だって、あの二人はとても楽しそうなんだもの。カップルみたいで」
俺は一瞬、唾を吐いてしまった。
「汚いわね。和孝って下品だったんだ」
「なんだよ、それ。今のは驚いて出てしまっただけだ」
「そういえば、悠馬君といたときにお茶を吐いたんだって?」
「何でそれを」
あまりに華音ネットワークは恐ろしいものだ。どこから情報を仕入れたのか。俺には到底できないだろう。華音の恥ずかしい一面を情報としてつかむことを……。
「何で知ってるんだよ。それは聞いたからよ。悠馬君と和孝が二人で話しているところ」
あまりにも衝撃的であった。見ていた奴がいたなんて。今頃になって恥ずかしくなってきてしまった。
――何をやってしまったのだろう。あんな人の顔にお茶を。
麻衣とかが知ったら一大事だ。ほかの奴まで変な目で見られる。現実は恐ろしいものだ。そんなことまで広まるなんて。
「なめんな。私の情報網を――」
華音の最後の言葉が響いた。俺はこの後、水奈と真司がいない間ひどいことを祝てつづけただけでなく、殴られたり恥をかいた。それを知っているのは周りの奴らと俺ら二人だけだ。秘密になればいいと願いだけだった。




