寝台列車 黒鋼号
柔らかな揺れ。
ガタン、ゴトン……
窓から、
薄い朝日が差し込んでいた。
レインは先に起きていた。
窓際。
流れていく景色を静かに見ている。
朝焼けの平原。
遠くの森。
線路沿いの小さな村。
昨夜よりも、
列車の音は穏やかに聞こえた。
数秒。
「……静かですね」
小さく呟く。
その時。
後ろで布団が動いた。
ミリアが目を開ける。
「……んぅ」
少しぼんやりしたまま起き上がった。
窓の外を見て止まる。
「おぉー……」
朝日が、
車内を淡く照らしている。
「なんかすごいですねぇ……」
少し遅れて、
クラリスも目を開けた。
「朝ですか……」
昨日までの宿とは違う。
揺れているのに、
妙に寝心地が良かった。
ミリアが笑う。
「めっちゃ寝れました」
「ですね」
クラリスも少し驚いた顔をする。
「もっと揺れると思ってました」
その時。
窓際から声が聞こえた。
「……静かでした」
レインだった。
クラリスが少し笑う。
「かなり気に入りました?」
数秒。
レインは流れる景色を見る。
朝日。
線路。
遠くの町。
そして小さく呟いた。
「……列車、悪くないですね」
かなり珍しく、
素直な感想だった。
食堂車へ向かう頃には、
車内も少し賑わい始めていた。
昨夜より柔らかい空気。
珈琲の香り。
静かな話し声。
窓から差し込む朝日。
ガタン、ゴトン……
列車は穏やかに走っている。
ミリアはまだ少し眠そうだった。
「朝からいい匂いしますね……」
「完全に食堂の匂いにつられてますね」
クラリスが苦笑する。
食堂車へ入る。
昨夜とはまた違う景色だった。
暖かな朝日。
白いテーブルクロス。
窓際で新聞を読む客。
静かに珈琲を飲む商人。
どこかゆったりしている。
レインは少し周囲を見る。
「……朝も静かですね」
「そこ本当に重要なんですね」
案内された席へ座る。
しばらくして。
白い大皿が運ばれてきた。
朝食用のプレートだった。
焼きたてのパン。
半熟のオムレツ。
厚切りベーコン。
小さなソーセージ。
焼かれたトマトと、
香草の乗ったじゃがいも。
朝日が窓から差し込み、
皿の湯気を白く照らしている。
ミリアが完全に止まった。
「……朝からすごいですね」
クラリスも少し驚く。
レインは静かにオムレツを見る。
ナイフを入れる。
中から半熟卵がゆっくり流れた。
バターの香り。
湯気。
ガタン、ゴトン……
静かな列車音だけが響く。
一口。
「……やわらかいですね」
クラリスが少し笑う。
「今のはちゃんと料理の感想ですね」
ミリアはパンをちぎりながら幸せそうだった。
「これ毎朝食べたいですぅ……」
「絶対高いですよ」
クラリスが即答する。
その時だった。
ふと。
窓の外の景色が変わる。
ミリアが止まる。
「……あっ」
遠く。
青が見えた。
朝日を反射して、
揺れている。
クラリスも窓を見る。
「海……?」
列車は高台へ入っていた。
朝焼けの空。
白い波。
遠くに広がる青い海。
そして。
海沿いに広がる巨大な街。
白い建物。
巨大な港。
無数の船。
ミリアが目を輝かせる。
「うわぁぁ!」
クラリスも少し見入っていた。
「すご……」
レインは静かに海を見る。
黒鋼号は、
海沿いを走っていた。
窓の外。
青い海が朝日を反射している。
白い波。
遠くを進む船。
ガタン、ゴトン……
列車は穏やかに揺れていた。
ミリアは完全に窓へ張り付いている。
「海だぁー……!」
クラリスも少し見入っていた。
「セイルって本当に港町なんですね」
「港町ですよ?」
「ここまで大きいとは思ってませんでした」
遠くには、
巨大な港が見えていた。
無数の帆船。
巨大な貨物船。
白い建物が並ぶ街並み。
海沿いへ広がる市場。
朝なのに、
もう街が動いているのが見える。
レインは静かに海を見ていた。
数秒。
「……音が広いですね」
「海の感想それなんですね」
クラリスが少し笑う。
レインは少しだけ目を細めた。
風の音。
波の音。
遠くの汽笛。
全部が広く散っている。
工業都市とは違う音だった。
その時。
車内アナウンスが響く。
『――まもなく、港町セイルへ到着いたします』
ミリアが少しそわそわする。
「着きますねぇ!」
「ですね」
クラリスも荷物へ手を伸ばす。
レインはまだ窓を見ていた。
海沿いを歩く人。
市場。
白いカモメ。
そして。
港の近くに並ぶ宿街。
数秒。
「……宿多いですね」
「そこ見ると思ってました」
クラリスが即答する。
ミリアが笑う。
「レイン様ちょっと元気じゃないです?」
「別に」
否定はした。
だが。
少しだけ楽しそうだった。
黒鋼号はゆっくり速度を落としていく。
ガタン。
ガタン。
ホームが近づく。
駅員たち。
荷運び人。
商人。
潮風が、
窓の隙間から少しだけ入り込んできた。
ミリアが目を輝かせる。
「うわ、海の匂いしますぅ!」
クラリスも少し深呼吸する。
「本当ですね……」
レインは静かに立ち上がった。
数秒。
「……悪くない街かもしれません」
「宿基準ですよね?」
「はい」
即答だった。
列車の扉が開く。
潮風。
人の声。
カモメの鳴き声。
工業都市とは全く違う空気が、
三人を迎えていた。




