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勇者ですけど、魔王討伐前にいい宿探します。  作者: あなき


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勇者レイン

アルディア王国、王城――白亜宮。


赤い絨毯が玉座まで真っ直ぐ伸びている。


高い天井。


巨大な柱。


左右には騎士団、貴族、宮廷魔術師たちが並び、

重苦しい空気が広間を包んでいた。


玉座に座るグラン王が、静かに口を開く。


「……レインよ」


「はい」


「そなたを勇者として正式に任命する」


レインは短く頷いた。


黒髪。


無表情。


年齢は若い。


だが不思議と、

広間の誰も彼を軽く見れなかった。


騎士団長が前へ出る。


「そしてこちらが、勇者一行として同行する者たちだ」


銀髪の女騎士が一歩前へ出て礼をする。


「王国騎士、クラリスです。勇者様の補佐兼監視役を務めます」


真面目そうだった。


隙がない。


次に、小柄な少女が前へ出る。


白い法衣。


金髪。


どこか眠そうな目。


「魔法使いのミリアでーす」


軽かった。


貴族たちの空気が少し止まる。


「よろしくお願いしまーす」


クラリスが小声で言う。


「もっと緊張感を持ってください」


「ありまーす」


絶対ない声だった。


グラン王は小さく咳払いした。


「現在、北部を中心に魔物被害が拡大している」


空気が引き締まる。


「魔王ヴァルド率いる魔王軍は勢力を増し続け、このままではアルディア全土が戦場になるだろう」


「はい」


「民は怯えている」


「はい」


「そなたにしか頼めぬ」


「はい」


淡々としていた。


王は少しだけ困ったように笑う。


「……出発は明朝だ」


「はい」


「今日は白亜宮へ泊まっていくといい。この国で最高の部屋を用意させよう」


その言葉に、

周囲の貴族たちが誇らしげに頷いた。


だがレインだけは少し考え込み、


「……ありがとうございます」


とだけ答えた。


その夜。


白亜宮・晩餐室。


長いテーブルに豪華な料理が並ぶ。


焼き立てのパン。


肉料理。


色鮮やかな前菜。


王はワインを揺らしながら言った。


「勇者よ。この国の未来は、そなたにかかっておる」


「はい」


「北では昨日も村が襲われた」


「はい」


「民は安心して眠ることすらできぬ」


「はい」


レインはスープを飲んだ。


少しぬるかった。


王は重々しく続ける。


「魔王軍幹部“黒槍のガルド”は、一人で砦を落としたとも言われている」


「はい」


「恐ろしい相手だ」


「はい」


「……聞いておるか?」


「聞いてます」


レインは頷いた。


「ですがこのスープ、もう少し熱いほうが良いと思います」


沈黙。


給仕の手が止まる。


騎士団長が天を仰ぐ。


クラリスはゆっくり俯いた。


ミリアはパンを食べながら言った。


「確かにぬるいですねー」


「お前までなんなんですか!?」


クラリスの声が響く。


数秒。


静寂。


やがてグラン王はゆっくり額を押さえた。


「……レインよ」


「はい」


「話は聞いておったな?」


「聞いてました」


「北部被害も」


「はい」


「魔王軍の脅威も」


「はい」


「民が苦しんでいることも」


「はい」


全部ちゃんと聞いていた。


だからこそ余計に困る。


グラン王は深く息を吐き、

疲れたように椅子へ背を預けた。


「……もうよい」


王は静かに手を振る。


「細かいことはよい。あとは任せた」


「はい」


レインは短く頷いた。


王はもう一度だけ額を押さえた。


騎士団長が小声で呟く。


「陛下、頭痛薬を」


「持ってこい……」


その夜。


白亜宮・客室。


広い。


豪華な天蓋付きベッド。


柔らかな照明。


窓の外には王都の夜景が広がっていた。


レインは窓辺にも行かず、

机に向かっている。


羊皮紙。


インク。


羽ペン。


真剣な顔で何かを書いていた。


コンコン。


「失礼しまーす」


ミリアだった。


後ろからクラリスも入ってくる。


「明日の出発前確認を――」


クラリスは机を見て止まった。


《白亜宮 宿泊評価》


・立地 ★★★★★

 王都中心部。移動しやすい。


・接客 ★★★★☆

 全体的に丁寧。

 ただし一部騎士が威圧的。


・食事 ★★★☆☆

 スープがぬるい。

 パンがやや硬い。


・風呂 ★★★★★

 広い。


・寝具 ★★☆☆☆

 枕が高い。


ミリアが覗き込む。


「……何してるんですかー?」


「レビューです」


「レビュー?」


「宿泊評価を書いてます」


ミリアは数秒黙った。


「……それ面白いんですかー?」


「あとで見返せます」


「へぇー」


まだあまり興味なさそうだった。


クラリスが頭を押さえる。


「本当に何なんですかこれ……」


レインは気にせず書き続ける。


《総評》

設備水準は高い。

ただし長期滞在にはやや不向き。


「長期滞在する気だったんですか?」


「できれば数日」


「明日出発ですよ!?」


するとその時だった。


ズン――。


遠くで低い振動音が響く。


クラリスが顔を上げる。


「……外?」


次の瞬間。


「魔物襲撃!!」


城の外から叫び声が響いた。


騎士たちの怒号。


足音。


クラリスは即座に剣を抜く。


「レイン様、下がって――」


だが。


レインは窓の外を一度だけ見た。


「……うるさいですね」


その瞬間。


窓の外で、一瞬だけ光が走った。


巨大な魔法陣のようなものが、

夜空に浮かんだ気がした。


直後。


ドゴォンッ!!


轟音。


城が揺れる。


数秒後。


静寂。


あまりにも急だった。


クラリスが固まる。


「……え?」


外を見る。


北門近くにいた巨大な魔物が、

地面に沈んでいた。


騎士たちも呆然としている。


何が起きたのかわからない顔だった。


レインは何事もなかったように席へ戻り、

羽ペンを取る。


《追記》

夜間騒音あり。

防音性に難あり。


クラリスは数秒沈黙した後、


「レビューしてる場合ですかぁ!!?」


と、王城中に響く声で叫んだ。


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